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告白
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ジリリリリ.......
目覚ましがなる。僕はカチッと勢いよく目覚まし時計のスイッチを押した。僕の顔は真剣そのもので、その勢いは決意の表れだった。ささっと支度を済ませると僕はいってきます、とだけ言って家を出た。
今日、僕は同じクラスの女の子、『沢城雪』に告白する。彼女は、喉に病気があるらしく喋ることができない所謂聾唖者というものだった。しかし、当の本人は誰にでも優しく、明るく振る舞っていた。コミュニケーションにも前向きで、話せないからとスケッチブックに文字を書いて会話しようとしている姿はなんとも健気で可愛かった。僕はそんな彼女とずっと一緒にいたい、守ってあげたい、とそう思った。
学校に着く。彼女の靴箱を確認すると、まだ学校に着いていないことがわかった。僕は『放課後、体育館裏に来てください。』と、それだけ書かれたメモを折りたたむと、彼女の靴箱に入れた。僕は彼女が来る前に、と早足で階段を駆け上がった。
クラスにつくと僕はそわそわとしながら自分の席に座った。クラスメイトはまだ誰も来ていなかった。早く来すぎただろうか。
.....ん、待てよ....?
僕は自分の犯した重大なミスに気がついた。メモには名前を書いていない。もし書いてしまうと放課後までの間彼女とどう接していいかわからなくなって気まずくなってしまうからだ。そうなっては成功する告白も成功しない。しかし、クラスに僕しかいないんじゃあ、誰がメモを入れたのか丸わかりだ。
僕は急いでクラスから飛び出した。階段を全速力で駆け下りていると、下からカタッという音がした。音がした方、下駄箱の方に目をやるとそこには彼女の姿があった。その手には、僕が入れたメモが握られていた。
「あっ....!」
つい、声が漏れ出てしまう。 彼女は僕の声に驚いてビクッと体を跳ねさせた後、キョロキョロとあたりを見回した。幸いすぐに手すりの裏に体を隠したので見つかることはなかった。
彼女はあたりに誰もいない(厳密には僕がいるが)事がわかるとコクンと首をかしげた後、手元のメモに視線を落とした。メモは折りたたまれたままの状態で、中身はまだ読まれていないようだった。
彼女はゆっくりとメモを開いた。その様子を僕は手すりの隙間から眺めた。
彼女はわぁ、と口を開けて驚いたような表情をした後、再びキョロキョロとあたりを見回した。やっぱり誰もいないこと(僕はいるけど)を確認すると彼女は、再び視線をメモに落として、顔を赤らめた。そんな初な姿がどうにも愛おしくてつい、笑みが溢れる。
いや、待て待て。こんなことしている場合ではない。僕は我に返ると、音を立てないように階段を上がりトイレに身を隠して彼女が通り過ぎるのを待った。
数分ほどスマホを眺めて時間をつぶすと、教室に戻った。中には数人の男子生徒と彼女がいた。男子生徒は一つの席の周りに集まって、ガヤガヤと話に花を咲かせていた。彼女はというと、窓を見つめ、ぼうっと外を眺めていた。その頬にはまだ赤みが残っていて、窓から入ってくる風が彼女の焦げ味がかった茶髪をさらさらと揺らした。不意に見えた項に心臓の跳ねる音が聞こえた。
僕はおそらく自身も赤くなっているであろう顔を俯けながら自分の席についた。
その日の授業は全く頭に入らなかった。微分・積分も、どんな数列も、今の僕にはどうでも良かった。
放課後、トイレの鏡で髪と息、鼓動を整えると、僕は早歩きで体育館裏に向かった。体育館裏というのは定番だったかなと今になって思った。
目的地に着くと、そこにはすでに彼女がいた。僕に気づくと、彼女は目を大きく開いて驚いていた。
「好きです、僕と付き合ってください!」
僕は一息でそう告げると、彼女の反応を待った。彼女はゴソゴソと鞄の中を漁っていた。どうやら彼女がいつも使っているスケッチブックを探しているようだった。
しばらくすると、彼女は僕に視線を向け、手でジェスチャーのようなものをし始めた。手話だ。おそらくスケッチブックが見つからなかったのだろう。しばらく手を様々な形に動かした後、彼女はスタスタと早足でその場を去っていった。その目にはうっすらと涙が浮かんでいた。まるで私なんかとは付き合わないほうがいいよ、と言わんばかりに。
普段、彼女は明るかった。障害を感じさせないほどに。そんな彼女をからかったりする者は誰もいなかった。しかし、昔からそうだったのだろうか。僕は中学の頃からの彼女しか知らない。もしかしたら、それよりも前に彼女は誰かにいじめられていたのではないだろうか。だからこそ今、彼女は明るく振る舞っているのではないか。もし、そうならば――
僕は家に帰るとリュックから本を取り出した。表紙には、『手話入門編!』と書かれていた。学校の帰り道、古本屋に寄り道して買ったものだ。表紙の下には『これで君も手話マスター!』という安っぽい煽り文句とともに、キザな顔をした天使が親指を立てていた。普段ならなんだこいつ、と思うようなその見た目も今の僕には恋のキューピットの様にさえ思えた。
僕はそれから手話の勉強を始めた。彼女と同じ方法で話してみたかった。彼女が僕達に合わせるのではなく、僕が彼女に目線を合わせたかった。
僕は必死に勉強した。何年もかかるかと思っていたが、僕は思ったより早く一ヶ月ほどで手話を習得できた。試しに検定を受けてみたら軽く一級を取れた。驚いた、そして嬉しかった。自分がここまで何かに夢中になれると思わなかったから。あの時の記憶を頭の中で蘇らせようとしたが、彼女の手に靄がかかったように思い出すことは出来なかった。
それからしばらくして僕は前と同じ方法で再び彼女を体育館裏に呼び出した。あの時彼女は何を伝えたかったのだろうと、僕は考えた。しかしそれもすぐに分かる。僕は拳にギュッと力を力を込めながら、彼女を待った。
少し待つと、彼女が来た。僕はまっすぐに、そして今度は彼女と同じ方法で「好きです。」と伝えた。彼女は僕が手話をできることに驚いていたようで、それが僕にはどうにも誇らしく感じた。
彼女は少し困惑しながら、手話で僕の告白に返答した。今度は彼女の伝えたいことがしっかりと分かった。
――無理です、近づかないでください。
僕は、家に帰るとムカつく顔面をしたクソ堕天使を窓から放り投げると、「二度と俺の前に姿を表すな」という脅し文句とともに、窓を勢い良く締めた。部屋の机の側の壁には皮肉なことに『合格おめでとう!』という文字が添えられた手話検定の証書が額縁に入れて飾ってあった。それが僕が初めて無機物に殺意を抱いた瞬間だった。
目覚ましがなる。僕はカチッと勢いよく目覚まし時計のスイッチを押した。僕の顔は真剣そのもので、その勢いは決意の表れだった。ささっと支度を済ませると僕はいってきます、とだけ言って家を出た。
今日、僕は同じクラスの女の子、『沢城雪』に告白する。彼女は、喉に病気があるらしく喋ることができない所謂聾唖者というものだった。しかし、当の本人は誰にでも優しく、明るく振る舞っていた。コミュニケーションにも前向きで、話せないからとスケッチブックに文字を書いて会話しようとしている姿はなんとも健気で可愛かった。僕はそんな彼女とずっと一緒にいたい、守ってあげたい、とそう思った。
学校に着く。彼女の靴箱を確認すると、まだ学校に着いていないことがわかった。僕は『放課後、体育館裏に来てください。』と、それだけ書かれたメモを折りたたむと、彼女の靴箱に入れた。僕は彼女が来る前に、と早足で階段を駆け上がった。
クラスにつくと僕はそわそわとしながら自分の席に座った。クラスメイトはまだ誰も来ていなかった。早く来すぎただろうか。
.....ん、待てよ....?
僕は自分の犯した重大なミスに気がついた。メモには名前を書いていない。もし書いてしまうと放課後までの間彼女とどう接していいかわからなくなって気まずくなってしまうからだ。そうなっては成功する告白も成功しない。しかし、クラスに僕しかいないんじゃあ、誰がメモを入れたのか丸わかりだ。
僕は急いでクラスから飛び出した。階段を全速力で駆け下りていると、下からカタッという音がした。音がした方、下駄箱の方に目をやるとそこには彼女の姿があった。その手には、僕が入れたメモが握られていた。
「あっ....!」
つい、声が漏れ出てしまう。 彼女は僕の声に驚いてビクッと体を跳ねさせた後、キョロキョロとあたりを見回した。幸いすぐに手すりの裏に体を隠したので見つかることはなかった。
彼女はあたりに誰もいない(厳密には僕がいるが)事がわかるとコクンと首をかしげた後、手元のメモに視線を落とした。メモは折りたたまれたままの状態で、中身はまだ読まれていないようだった。
彼女はゆっくりとメモを開いた。その様子を僕は手すりの隙間から眺めた。
彼女はわぁ、と口を開けて驚いたような表情をした後、再びキョロキョロとあたりを見回した。やっぱり誰もいないこと(僕はいるけど)を確認すると彼女は、再び視線をメモに落として、顔を赤らめた。そんな初な姿がどうにも愛おしくてつい、笑みが溢れる。
いや、待て待て。こんなことしている場合ではない。僕は我に返ると、音を立てないように階段を上がりトイレに身を隠して彼女が通り過ぎるのを待った。
数分ほどスマホを眺めて時間をつぶすと、教室に戻った。中には数人の男子生徒と彼女がいた。男子生徒は一つの席の周りに集まって、ガヤガヤと話に花を咲かせていた。彼女はというと、窓を見つめ、ぼうっと外を眺めていた。その頬にはまだ赤みが残っていて、窓から入ってくる風が彼女の焦げ味がかった茶髪をさらさらと揺らした。不意に見えた項に心臓の跳ねる音が聞こえた。
僕はおそらく自身も赤くなっているであろう顔を俯けながら自分の席についた。
その日の授業は全く頭に入らなかった。微分・積分も、どんな数列も、今の僕にはどうでも良かった。
放課後、トイレの鏡で髪と息、鼓動を整えると、僕は早歩きで体育館裏に向かった。体育館裏というのは定番だったかなと今になって思った。
目的地に着くと、そこにはすでに彼女がいた。僕に気づくと、彼女は目を大きく開いて驚いていた。
「好きです、僕と付き合ってください!」
僕は一息でそう告げると、彼女の反応を待った。彼女はゴソゴソと鞄の中を漁っていた。どうやら彼女がいつも使っているスケッチブックを探しているようだった。
しばらくすると、彼女は僕に視線を向け、手でジェスチャーのようなものをし始めた。手話だ。おそらくスケッチブックが見つからなかったのだろう。しばらく手を様々な形に動かした後、彼女はスタスタと早足でその場を去っていった。その目にはうっすらと涙が浮かんでいた。まるで私なんかとは付き合わないほうがいいよ、と言わんばかりに。
普段、彼女は明るかった。障害を感じさせないほどに。そんな彼女をからかったりする者は誰もいなかった。しかし、昔からそうだったのだろうか。僕は中学の頃からの彼女しか知らない。もしかしたら、それよりも前に彼女は誰かにいじめられていたのではないだろうか。だからこそ今、彼女は明るく振る舞っているのではないか。もし、そうならば――
僕は家に帰るとリュックから本を取り出した。表紙には、『手話入門編!』と書かれていた。学校の帰り道、古本屋に寄り道して買ったものだ。表紙の下には『これで君も手話マスター!』という安っぽい煽り文句とともに、キザな顔をした天使が親指を立てていた。普段ならなんだこいつ、と思うようなその見た目も今の僕には恋のキューピットの様にさえ思えた。
僕はそれから手話の勉強を始めた。彼女と同じ方法で話してみたかった。彼女が僕達に合わせるのではなく、僕が彼女に目線を合わせたかった。
僕は必死に勉強した。何年もかかるかと思っていたが、僕は思ったより早く一ヶ月ほどで手話を習得できた。試しに検定を受けてみたら軽く一級を取れた。驚いた、そして嬉しかった。自分がここまで何かに夢中になれると思わなかったから。あの時の記憶を頭の中で蘇らせようとしたが、彼女の手に靄がかかったように思い出すことは出来なかった。
それからしばらくして僕は前と同じ方法で再び彼女を体育館裏に呼び出した。あの時彼女は何を伝えたかったのだろうと、僕は考えた。しかしそれもすぐに分かる。僕は拳にギュッと力を力を込めながら、彼女を待った。
少し待つと、彼女が来た。僕はまっすぐに、そして今度は彼女と同じ方法で「好きです。」と伝えた。彼女は僕が手話をできることに驚いていたようで、それが僕にはどうにも誇らしく感じた。
彼女は少し困惑しながら、手話で僕の告白に返答した。今度は彼女の伝えたいことがしっかりと分かった。
――無理です、近づかないでください。
僕は、家に帰るとムカつく顔面をしたクソ堕天使を窓から放り投げると、「二度と俺の前に姿を表すな」という脅し文句とともに、窓を勢い良く締めた。部屋の机の側の壁には皮肉なことに『合格おめでとう!』という文字が添えられた手話検定の証書が額縁に入れて飾ってあった。それが僕が初めて無機物に殺意を抱いた瞬間だった。
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