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ヒトのキョウカイ4巻(オレいつの間にか子持ちになっていました。)

21 (亜光速レーザーを回避出来るヒト)

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『さぁやって来ました。砦祭1日目の名物…『障害者レース』
 今回はどんなレースが繰り広げられるのか!!
 司会のカワジです。』
 司会が高らかに叫ぶ…。
『今回の見所は 何といっても空間ハッキングの解析が終了した事でオーパーツでは無くなった事です。
 これにより、空間ハッキングを用いたレースが行われる事が期待されます。
 アシスタントのカワヒラです。』
 司会の隣にいるアシスタントが冷静にコメントする。
『さて、続きまして各選手のパーツについての解説です。
 カワヒラさんお願いします。』
『はい…今回は競技用パーツの使用者はゼロ…選手5人とも汎用義体での勝負となります。』
『汎用義体だと最高速度が遅くなるのでは無いのでしょうか?』
『ええ…ですが 日常生活を送るなら 汎用義体の方がメンテナンス性に優れていますし、スポーツ選手は 2本の足で地面を踏みしめる感触を大事にしていますから…。』
『なるほど…効率を突き詰めているのでは無く、走る事を楽しめるパーツという訳ですか…。』
『はい…そのほかに、クオリア選手とナオト選手が、エクスマキナ都市製。
 そのほかの選手は砦研究都市製…。
 それぞれの都市の義体技術も見ものでは無いでしょうか?』

 工業科高等学校のグラウンドに6人が並ぶ…。
 先月のワーム進行事件で DLを強奪した場所だ。
 ルールは『指定コースに従い最速で20kmを走り切る』事。
 元々見世物であり、選手に攻撃を仕掛ける事はダメだが、障害物を用意したりの妨害はありで 観客を楽しませる為なら あらゆる不正が許可されている。
 当然、空間ハッキングも可能だ。
『ナオ…始めに言っておく…。
 私はルールの元、本気で行く。
 ナオも他の選手に気を使わず、全力でこい。』
 隣のクオリアが言う。
『ああ、師匠マスター
 正直、どこまでの力を出していいのか迷っていた…。
 空間ハッキングを使って競争すれば2人の独擅場どくせんじょうになる事は確実だからだ。
 残りの4人には悪いが…今回は 空気になって貰おう。

『それでは…カウント…5…4…3…2…1…start!!』
 3人が人外レベルで足を動かして走り出す。
 時速にして 40kmは出ているだろう。
 ナオとクオリアはその場を動かず、背中が黄緑色に光る。
『おっと早くも空間ハッキングを使うのかぁ!!』
 クオリアは機械の翼を、ナオはX字の翼を持つDL用バックパックを展開する。
 展開に3秒…。
 startから5秒遅れ、2人はスタートした。

 ナオの背中のスラスターから 量子光が勢い良く吹き出し、急加速する。
 量子光自体に推進剤としての意味は無く、後方に何かを推進剤として噴射したいと考えるナオのイメージから再現された演出に過ぎない。
 急加速で砂が巻き上げられ、開始1秒で前方にいた3人を抜き、予想通り2人の独擅場《どくせんじょう》になる。
 まずは グラウンドを1周し、手をあげて観客へのアピールだ。
 地面に足が殆《ほとん》どつかず、前方へのジャンプとスラスターで、時速100km程を叩き出す。
 最初のカーブに差し掛かり、スラスターの向きを変え慣性を無視した形で無理やり曲がる。
 ベクター・スラスターのお陰《かげ》だ。
 ナオの後方から、完璧に足が付いていない無駄の無い超低空飛行で接近するクオリア…。
 音速も出せるはずだと言うのに クオリアはまだ本気を出していない。
 グランドを出てほぼ垂直に曲がり、オレは ひたすら逃げる。
 
 凄い…見事な慣性制御だ。
 グランドを出て減速ぜず曲がり、クオリアは ナオを追う。
 ナオは 路上に出た所でどんどん加速して行き、100…120…今、時速150kmだ。
 100mを2秒足らずで使い切り、一切の減速を無しに曲がり、そしてまた曲がる。
 速度上限を設ける為、交差点でのカーブが多く設定されているが、慣性制御が出来る私達には関係無い。
 1瞬計算が遅れれば、ビルに突っ込むその速度で 減速無しで走り続ける。
 適正速度は時速150km前後か…。
 クオリアは亜光速を出す事も可能だが…視認はまず出来ない為、レースにはならない。
 その為、観客が見える速度まで下げないと行けない。
 
『あ……。』
 司会の口が開いたままで仕事を忘れ、都市中の監視カメラが次々と2人を追うが、リアルタイムでは追えていない。
『あっ今、速度が出ました…150kmです。』
 仕事を思い出し解説を再開する。
『カーブがこれだけあるのに、減速を一切行っておりません。
 あっ…むしろカーブ中に加速しています。』
 アシスタントは ARウィンドウを開いて
 測定された結果を伝える。
『え…こうなると10分以内にゴールしますか?』
 瞬時に計算し、司会がはじき出す。
『レコードが大幅更新されますね…。』
 今までの記録は30分前後で停滞していたが、空間ハッキングにより半分以下のタイムでのゴールが可能になっていた。

 うぐっ…。
 ナオは 空間ハッキングのコード『マリオネット』を使い…姿勢を制御する。
 前方に時速150kmで進んでいる情報を曲がる際に右、もしくは左へと方向へ運動情報を書き換える事で殆《ほとん》ど垂直のカーブが実現出来る。
 最低限の慣性制御はやっているが、とうとう姿勢制御に回らなくなり、姿勢や向きが完全に固定され、ゲームでバグったように慣性ドリフトをし始める…。
 見た目、走っているように取り繕つりつくろっていたが、もう走っているようには、映っていない。
 
 回避、回避、回避…。
 バスタクが 路肩では無く 障害物のように前方に置かれている。
 クオリアは 横にスライドする事で楽々と回避し、進む。
 前方には、真横に配置されているバスタクが出始め、減速をしないと確実にぶつかる…。
 前方のナオは 高く飛んで一瞬滑空し、バスタクを飛び越える事で回避する。
 なら…私は…。
 減速しないと通れない隙間を自力で通る。
 障害物を抜ける為の最適コースを検索…完了。
 コースに従い、運動情報の書き換えスケジュールを事前に組み立てる。
 この間0.1秒…。
 後はプログラムを実行すれば良い…。

『はいい?』
 あまりの事にアシスタントが声を上げる。
 大量のバスタクで出来た障害物をクオリアは、身体を高速でスライドし回避する。
 減速はしてない…。
 いや、検出が出来ないだけだろう。
 展開が変わりすぎて解説がもう出来ない。
 解説は2人がゴールした後で良いとアシスタントは諦め、今はARウィンドウに映る2人を必死に見ている。

 前半戦…の終わり…最大の時間のロス場所…。
 2層への階段…。
 柱ビルの前で初めて急減速し、ナオは足をつき走る。
 自動で開閉するスライドドアが遅く感じる。
 オレは 中に入ると階段に向かう。
 柱ビルは中心に4基のエレベーターがあり、それを囲うように、階段が引かれている。
 オレは 階段を5m程降り…むき出しの4つの縦穴…エレベーターの侵入経路を見つける…。
 オレは すぐさま 飛び降り、下に向けて最大加速した。
 1…2…3…エレベータのゴンドラを回避しつつ下降する。
 4基目…オレは地面ギリギリで階段に戻り、スライドドアを抜け2層を走る。

 ナオはエレベーターシャフトから降りた見たいだ。
 スライドドアは ナオが開けてまだ閉まっていない…。
 柱ビルの構造データから、階段のサイズを抜き出し 飛行プログラムに反映させる。
 ナオは縦穴シャフトを降りたみたいだが、規格で決まっている階段は自動プログラムで降りる事が出来る。
 飛んでいるクオリアは身体を縦にして横のスペースを減らし、閉まりかけるスライドドアに時速150kmで突っ込んだ…勿論センサーは感知出来るはずも無く…そのまま閉じる。
 クオリアは まるで円を描くかのように時速150kmの減速無しで階段を降りる。
 通過する風で物が吹き飛び、気流が乱れるが…問題無い。
 最短距離を取ってシャフトで止まり、再加速したナオに対して 走行距離は伸びるが減速を一切しない…クオリアの動き…。。
 またナオは1階のスライドドアでロスし、クオリアはタイミングまで計算し減速ぜず開いたスライドドアを通過…。

 柱ビルを抜け、2層のビルの中には多くの観客が集まり、こちらを見ている…。
 が、人を識別出来るような余裕は無い…。
 オレはすぐにまた柱ビルに入り、縦穴から急上昇する。

 ナオが開けてくれたスライドドアに入り、シャフトからに上がる…。
 前方を見るとナオが エレベーターのゴンドラを回避するが…慣れない飛行で処理が間に合わなかったのか若干の減速が入った…。
 クオリアは減速せず、難なく回避してのける。
 この程度で回避出来ないならラプラスが放つ亜光速のレーザーを避ける事は出来ない。

 何でオレに追いつかない…。
 ラストスパートでの力の温存か?
 遅いスライドドアを待つ時間でナオは考える。
 再び最大加速の150kmで街中を疾走し、後は大通りを曲がりグランドを1周を周るのみ…。
 視界にゴールテープを持つ顔が引きつった教師が見える…。
 パアアアアアア…後方からクオリアが音速を超えた音がする…。
 知覚した時点でこちらも音速に行くが…もう遅い…横に並ばれた…。

 終始時速150kmを維持していた2人が音速を超えソニックブームがグラウンドに広がる。
 150kmを維持していたのは 周りの被害を防ぐためだったのか…。
 解説がそう思うが、砂が舞い…校舎の壁紙ディスプレイの窓が揺さぶられ、ゴールテープを持っていた教師は拭き飛ばされる。
 結果は…見えない。

 ゴールテープはオレの物だ…。
 空中に投げ出され、必死に掴《つか》んでいる教師のゴールテープをナオは真ん中から掴《つか》み…2人を抱え…減速着地…教師は泡を吹いて倒れたている。
「私が1位だ…ナオも早くゴールしたらどうだ?」
「え?」
「ゴールテープが動いたがゴールは本来ここだ…」
 クオリアが足でゴールを踏みつける。
「マジかぁあああ」
 ナオは1分遅れてゴールした。
 ただ…周りが砂だらけでそれを観測出来る人は泡を吹いている。
「順当に引き分けでしょ…。」
 そうナオが言った。

 結果はゴールテープとゴール位置に到着したのがハイスピードカメラ上で同じだったので異例の同着になった。
 ナオとクオリアの賭け倍率は半分になり、ナオが1.5倍、クオリアが1.005倍となった。
 レース終了後、表彰で学者人に囲まれ あれこれ聞かれると言う事態になり、相当に疲れた。
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