上 下
16 / 207
ヒトのキョウカイ1巻(異世界転生したら未来でした)

16 (I’s アイズ 私、達)

しおりを挟む
 午前の講義が始まろうとしている。
 レナとトヨカズは 開始5分前に講義室に来て 準備を始める。
 講義室は 教室での収容人数36人を超える大規模な講義に使われる。
 机にはタッチディスプレイが埋まっており、室内に設置されたカメラから講師を見たり 講師の後ろのディスプレイを写したりなどが出来る…最もARウィンドウで十分 事足りるのだろうけど…。
 レナとトヨカズはそれぞれ、ディスプレイを起こし講師台側に向ける。
 ディスプレイの上部についている複眼カメラと左右についているマイクが周囲の情報を集め始め、レナの隣のディスプレイにはクオリア、トヨカズの隣のディスプレイには ナオの顔が表示され本人と接続される…。
 ナオのディスプレイが動き、トヨカズの方向に向く。
『悪いな…急に頼んじまって』
「そこまで、手間じゃないしいいさ…てかカレン講師はまたボイコット?
 メンテだから仕方ないと言えば仕方が無いか…。」
『その仕方が無いが多いけどな』
「講義を始めるぞ…静かにしろ」
 講義室に入ってきたのはドラムでディスプレイの表示がカレンだ。
 最前列のディスプレイが点灯し、それぞれのリモート講義を受ける生徒の顔が表示される。
「では講義を始める。今日は…」

 クオリアと話した翌日、ナオとクオリアは学校を休み、病院に行く。
 学校は単位制で、それぞれの授業を受け1週間程度でテストを行いクリア出来れば1単位だ。
 なら授業を受けていないと合格させてもらえないかと言うと、それは違う。
 授業内容は学校サーバーに保存される為、好きな時間に見直す事が出来る見逃し配信をやっている。
 だが根が真面目なナオはリアルタイムで参加できるリモート講義を受けていた。
 ナオは、目の前に大型のARディスプレイを表示させ、ベットに横たわっている。
「で?なんで講師がここにいるんだ?」
「いや…だって面倒だろ。
 同じ事を何度も繰り返すのは…。
 だからアタシが立つのは最初の1回だけ…。
 実際アタシの脳みそを有効活用するには、ドラムをリモートで動かすのが一番効率的なんだ」
 とは言え、完全に放置とも行かずARディスプレイをカレンの横に表示させて、モニタリングだけはしている。
 何か問題が起きれば対応出来るようには している見たいだ。

「意外とダメージが少ないな…やっぱり生身に近づけると身体を大切に扱うのか?」
 主治医のカレンが オレの義体のログを取り出してデータを確認する。
「義体ってケガが多いのか?」
「多いね…旧時代だと生身の3倍は事故率が高かったらしいし…。
 身体が頑丈になると危機管理能力が それに比例して落ちる 傾向にあるんだ。
 車にひかれそうなのに、逃げないで車を受け止めたり、高所作業などの危険作業に興味を持って、実際に作業に出ると効率を優先して安全帯を付けないで作業したり…。
 流石に今は限りなく事故が起きないように都市が設計されているんだが、統計では まだ義体を付けている人の方が事故が多い」
 肉体に引っ張られて精神が変わったのか?
「でキミは、全力疾走した時に顔面滑走した位で、その後はその傾向が現れていなって訳…。
 やっぱりサイボーグ的な感じがしないからだろうね。」
「なんで生身にこだわるんだ?
 味覚再生エンジンはあるんだから ARでもVRでもデータで食事すれば困らないだろう?」
 味覚も所詮《しょせん》は電気信号だ。
 AR食のバリエーションは 現実世界のソイフードを遥《はる》かに超える。
 レナの作る料理見たいな汎用性を放棄して、特化型の料理を作れば 簡単で美味い食事も十分に可能だ。
「今の義体メンテナンスは高度な技術に依存しているんだ。
 もしその技術が何らかの方法で失われたらどうする?
 メンテナンスを受けられなくなったサイボーグは、そこで死亡確定さ。
 更に言うなら、メンテナンス用パーツの製造が停止、高度化による規格の変更によってパーツが合わなくなって死ぬケースもある。
 『不老不死』とか呼ばれてはいるが実際、生身の方が身体の寿命は長いんだ…。
 でだ、それを解決するには人のように細胞を自己増殖させ修復する自己修復機能が必須になる」
「それがオレか?」
「そういう事…おまけに生身に比べて身体のメンテナンスがし易い設計にもなっているからな。
 まさにイイトコどりだ。
 はい、これで終了…特に問題は無かったな。
 じゃ次はちょっと期間が開いて1ヵ月後に」
「はいどーも」
 ベットから起き上がり服を着て診察室のドアを開ける。
 ナオはふと思い出したかのように言う。
「なぁ先生、オレは人か?ロボットか?」
 カレンは、少し考え「こんだけ ヒトの境界キョウカイが曖昧になってるんだ、最後は自分の気持ち次第だよ」と答えた。
「我思う、ゆえに我ありか…。」
「なんだそれ?」
「デカルトの言葉だ…知らないのか?」
「知らんよ…2050年以前のデータはネットに ほとんど情報が残って無いしね」
「結構気にっているんだけどな…。」
 そう言い、ナオは診察室を出た。

 診察室を出て、同じとうの最上階でクオリアと合流する。
「ハナダは ここの一番奥だ。」
「真面《まとも》な人なら良いんだけど…。」
「真面《まとも》じゃない方が分かりやすい…特に今回のような事件ではな。」
 扉の前まで来てクオリアがオレを見る。
「第一印象が重要だ。
 ナオは私の後ろにいて交渉は私に任せて欲しい」
「別に良いけど」
 ノックをし、スライドドアが開き 中に入る。
「失礼します、ハナダさんでしょうか?」
「えっ…はい?」
「私はクオリアと申します。
 こちらはナオト…今回あなたの事件を担当させて頂くことになりました。
 よろしくお願いします。」
 クオリアは手を出し握手を求める。
「はい…こちらこそ」
 ハナダは少し照れ、緊張した表情で恐る恐る握手をする。

 『後ろにいろ』とは こういう事か…確かにこれは顔にでる。
 普段の機械的な声色から、優しさをかもし出す 自然な声色に化けた?
 表情も普段は殆《ほとん》ど動かさないクールなイメージのクオリアが驚くほど自然に笑う。
 見た目130cmの10歳の少女の身体をフル活用して、可愛さをアピールしつつ 口調はとても丁寧ていねい
 ナオは 不自然にならない程度に友好的な顔をキープするが…顔が引きつる。
(営業モジュールでも入れているのか?)
 逆に言えば普段から素を見せてくれていたって事は それなりに信頼してくれていたのだろう。
 クオリアの主導で話がどんどん進んでいく…。

「ではハナダさんの安全の為、私から直通回線で繋がっている『ドラム』を1台非殺傷の警備用装備で扉の前に置いておきます。
 何かあればすぐに分かりますのでご安心を…。
 では『ドラム』の搬送《はんそう》がありますので、今日はこれで失礼いたします。」
「こちらこそ よろしくお願いします。」
 丁寧ていねいなお辞儀をしつつ病室から出る。
 後ろを向いた際には表情は元に戻っていた。

 病院を出て大通りに出、ハシゴを上ってローラーコンベアの『動脈』に乗る。
 ひと段落付き、会話に困ったので、何気なく聞いてみた。
「凄かったな…あれって『営業モジュール』とか入れてるの?」
 クオリアの表情が一瞬変わる…気にさわったのか?
「特にそう言ったモジュールではない…『猫を被った』が正しい表現か?
 好条件を得る為に相手の印象を操作する方法だ。
 だけど あまり使いたくない方法でもある。」
「なんでだ?
 顔を使い分けるのは人としては よくある事だと思うんだが…。」
 他人に気に入られたい…だから人は愛想よく仮面を被《かぶ》る。
 それは集団で生活する生物の人には必須のスキルのはずだ。
「私の構成要素が無くなる気がするんだ。」
「ん?分からないな。」
 また哲学的な事か?
「私は身体も変えられるし、プログラムゆえに性格も変えようと思えば…変えられる。
 しかもコピーも出来るから個体自体にあまり価値がないんだ。
 ハチやアリなんかの社会性昆虫に近い…。
 だから『個体のクオリア』と言う定義が かなり難しくなる。」
 かなり難しい…ナオはゆっくりと整理するように話す。
「ん~今のクオリアハチが死んでも大して困らない。
 なぜならバックアップ別のハチがあるから?
 ならクオリアの本体はそれを繋ぐネットワークハチのコミュニティに…なるの…か?」
「そうだ、これが『エレクトロンの基本』。
 で 私は単体のハチに価値を見出そうとして、その個体にキャラクター付けをしたんだ。」
「また分からなくなった。」
「単体の私は、この身体、この顔、この声、そして行動傾向などの性格、これを他のヒトに認識され、ヒトの頭の中で『クオリア』とタグ付けされたものだ。
 だから私の構成要素の大半は私の周囲の認識に頼ることになる。」
「あ~分かった…なるほどチューリングテストの応用か…。
 『猫かぶり』のクオリアが皆に定着してしまったら、それはもうクオリアじゃない別個体になっちまうのか…。」
 難問を苦労して解けたような高揚感を感じながらナオが答えた。
「そういう事になる。
 実際 私は製造から13年目のこの前、義体のリサイズがあったんだが、断って このサイズのまま行くことにした。」
「それもイメージを壊したくないからか?」
「そうなる」
「身体が多少変わった所でクオリアはクオリアじゃないのか?
 人だってデカくなる訳だし…可愛いんだから もっと着飾れば良いのに勿体もったいないな~」
 ナオは軽い口調で言う。
「悪いが諦めてくれ」

 そうして話をしていると寮が見えてきた。
「ドラムはクオリアの部屋だっけ?行っても?」
「?むしろ来て貰うつもりだったんだが…何か不都合でも?」
 なるほど常に仮面を付けてないからプライベートエリアが汚染されるとは思わないのか。
「いや無いな…じゃあ、お邪魔させて頂《いただ》きますか…。」
 ナオがそう言い、2人はクオリアの部屋に向かって行った。
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

異世界転生した俺は平和に暮らしたいと願ったのだが

倉田 フラト
ファンタジー
「異世界に転生か再び地球に転生、  どちらが良い?……ですか。」 「異世界転生で。」  即答。  転生の際に何か能力を上げると提案された彼。強大な力を手に入れ英雄になるのも可能、勇者や英雄、ハーレムなんだって可能だったが、彼は「平和に暮らしたい」と言った。何の力も欲しない彼に神様は『コール』と言った念話の様な能力を授け、彼の願いの通り平和に生活が出来る様に転生をしたのだが……そんな彼の願いとは裏腹に家庭の事情で知らぬ間に最強になり……そんなファンタジー大好きな少年が異世界で平和に暮らして――行けたらいいな。ブラコンの姉をもったり、神様に気に入られたりして今日も一日頑張って生きていく物語です。基本的に主人公は強いです、それよりも姉の方が強いです。難しい話は書けないので書きません。軽い気持ちで呼んでくれたら幸いです。  なろうにも数話遅れてますが投稿しております。 誤字脱字など多いと思うので指摘してくれれば即直します。 自分でも見直しますが、ご協力お願いします。 感想の返信はあまりできませんが、しっかりと目を通してます。

【ブルー・ウィッチ・シリーズ】灼熱の戦場

椎名 将也
SF
テア=スクルトが、ブルー・ウィッチと呼ばれるようになるまでの話です。 16歳のテアが、何故<銀河系最強の魔女>と呼ばれるようになったのか。 その凄まじい経験をお楽しみください。

【THE TRANSCEND-MEN】 ー超越せし者達ー

タツマゲドン
SF
約138億年前、宇宙が生まれた。 約38億年前、地球で「生物」が誕生し長い年月を掛けて「進化」し始めた。 約600万年前、「知識」と「感情」を持つ「人類」が誕生した。 人類は更にそれらを磨いた。 だが人類には別の「変化」が起こっていた。 新素粒子「エネリオン」「インフォーミオン」 新物質「ユニバーシウム」 新兵器「トランセンド・マン」 21世紀、これらの発見は人類史に革命を起こし、科学技術を大いに発展させた。 「それ」は「見え」ない、「聞こえ」ない、「嗅げ」ない、「味わえ」ない、「触れ」られない。 しかし確実に「そこ」にあり「感じる」事が出来る。 時は「地球暦」0017年、前世紀の「第三次世界大戦」により人類の総人口は10億人にまで激減し、「地球管理組織」なる組織が荒廃した世界の実権を握っていた。 だがそれに反抗する者達も現れた。 「管理」か「自由」か、2つに分かれた人類はまたしても戦いを繰り広げていた。 戦争の最中、1人の少年が居た。 彼には一切の記憶が無かった。 彼には人類を超える「力」があった。 彼には人類にある筈の「感情」が無かった。 「地球管理組織」も、反抗する者達も、彼を巡って動き出す。 しかし誰も知らない。 正体を、目的を、世界を変える力がある事も。 「超越」せよ。 その先に「真実」がある。

[完結]異世界転生したら幼女になったが 速攻で村を追い出された件について ~そしていずれ最強になる幼女~

k33
ファンタジー
初めての小説です..! ある日 主人公 マサヤがトラックに引かれ幼女で異世界転生するのだが その先には 転生者は嫌われていると知る そして別の転生者と出会い この世界はゲームの世界と知る そして、そこから 魔法専門学校に入り Aまで目指すが 果たして上がれるのか!? そして 魔王城には立ち寄った者は一人もいないと別の転生者は言うが 果たして マサヤは 魔王城に入り 魔王を倒し無事に日本に帰れるのか!?

蒼穹の裏方

Flight_kj
SF
日本海軍のエンジンを中心とする航空技術開発のやり直し 未来の知識を有する主人公が、海軍機の開発のメッカ、空技廠でエンジンを中心として、武装や防弾にも口出しして航空機の開発をやり直す。性能の良いエンジンができれば、必然的に航空機も優れた機体となる。加えて、日本が遅れていた電子機器も知識を生かして開発を加速してゆく。それらを利用して如何に海軍は戦ってゆくのか?未来の知識を基にして、どのような戦いが可能になるのか?航空機に関連する開発を中心とした物語。カクヨムにも投稿しています。

神樹のアンバーニオン (3) 絢爛! 思いの丈!

芋多可 石行
SF
 主人公 須舞 宇留は、琥珀の巨神アンバーニオンと琥珀の中の小人、ヒメナと共にアルオスゴロノ帝国の野望を食い止めるべく、日々奮闘していた。  最凶の敵、ガルンシュタエンとの死闘の最中、皇帝エグジガンの軍団に敗れたアンバーニオンは、ガルンシュタエンと共に太陽へと向かい消息を絶った。  一方、帝国の戦士として覚醒した椎山と宇留達の行方を探す藍罠は、訪ねた恩師の居る村で奇妙な兄弟、そして琥珀の闘神ゼレクトロンの化身、ヴァエトに出会う。  度重なる戦いの中で交錯する縁。そして心という琥珀の中に閉じ込めた真実が明らかになる時、宇留の旅は、一つの終着駅に辿り着く。  神樹のアンバーニオン 3  絢爛!思いの丈    今、少年の非日常が、琥珀色に輝き始める。

一基当千ゴーレムライダー ~十年かけても動かせないので自分で操縦します~

葵東
ファンタジー
巨大ゴーレムが戦場の主役となったゴーレム大戦後、各国はゴーレムの増産と武装強化を競っていた。 小国に住む重度のゴーレムオタクのルークスはゴーレムマスターになるのが夢である。 しかしゴーレムを操る土の精霊ノームに嫌われているため、契約を結ぶ事ができないでいた。 「なら、ゴーレムに乗ってしまえば良いんだ」 ルークスはゴーレムの内部に乗り込み、自ら操るゴーレムライダーになった。 侵略してきた敵部隊を向かえ撃ち、幼なじみが考案した新兵器により一撃で敵ゴーレムを倒す。 ゴーレムライダーが戦場で無双する。 ※毎週更新→不定期更新に変更いたします。

V/R

三宅 大和
SF
昨日見た夢、 今見ている現実。 昨日までの現実、 今見ているのは夢? 考えてみれば、今現実だと思っている生活が現実である保証なんてないし、 昨日の夢が本当に夢だったのかなんて知る術がない。 ただ、いつもそこには何かを感じる自分がいる。

処理中です...