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第十三章「小牧・長久手の戦い」
第七十二話「出奔」
しおりを挟む天正十三年十一月 三河国 岡崎城
その知らせは突然告げられました。
「石川伯耆守が出奔した」
家康公の言葉に、その場にいた一同は唖然とする。
「一体、何があったのですか?」
平岩七之助親吉の問いに家康公は首を傾げる。
「儂にもわからん」
家康公の言葉に動揺が広がる中、榊原小平太康政が質問する。
「まだ出奔と決まった訳ではないのでは?」
「伯耆守の屋敷には誰一人いないのじゃ。周囲の者達も何も知らんという」
家康公の答えに小平太は考え込む。
「伯耆殿は羽柴との交渉役。もし伯耆殿が羽柴方に出奔したならば、我が軍の軍法や布陣など全てが羽柴に筒抜けに・・・」
小平太の言葉に一同は黙り込む。皆、改めて事の重大さに気づかされる。一体どういう事なのか。皆が思案する中、家康公が口を開く。
「左衛門殿は何か知らんのか?」
酒井左衛門尉忠次。伯耆殿と左衛門殿は、共に家康公の人質時代からの仲で岡崎での屋敷も隣同士。お二人の間柄は皆の知るところでありました。
家康公の問いに左衛門殿は静かに答える。
「拙者は何も・・・」
友が出奔した事で意気消沈しているのか優れない表情の左衛門殿に、家康公はそれ以上問いかけない。
「・・・そうか」
家康公は俯いて目を瞑り、しばし思案すると顔を上げ皆に目を向ける。
「家族と共に動いているとなれば、そう遠くには行っておらんだろう。まだ近くにいるはずじゃ。皆、急いで探し出すのだ」
家康公の下知に一同は頭を下げる。
「はっ」
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