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第十三章「小牧・長久手の戦い」
第六十九話「鬼武蔵」
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「鬼武蔵」
拙者は、にやりと笑う。
「やはり儂は鬼に縁があるようじゃな」
戦場まで後一丁、拙者はさらに強く馬の腹を叩く。
「はぁ!」
そして、拙者は槍を構え戦場に突撃する。
「うおおおぉぉ!」
勢い良く飛び出した拙者の馬に数名の足軽が吹き飛ばされる。
「ぐあっ!」
拙者は倒れた足軽たちには目もくれず突き進む。目指すは唯一人。そして、拙者の視界にその人物が入り込む。異様な龍の兜をつけた騎馬武者。間違いない。
「鬼武蔵!」
拙者が大声で叫ぶと、鬼武蔵もこちらに気がつく。
「・・・また来たか、朱槍」
拙者は鬼武蔵の前で馬を止める。
「一応、『槍の半蔵』っちゅー字(あざな)があるんだがね」
拙者の言葉に鬼武蔵は鼻で笑う。
「覚えるまでもない。朱槍で十分じゃ」
「ほだら、嫌でも覚えさせたるわ・・・ん?」
そこで拙者は鬼武蔵の姿に違和感を感じる。
以前会った時とは印象が違うな・・・羽織か?
この時、鬼武蔵は真っ白な陣羽織を羽織っておりました。
「洒落た羽織を付けとるの~死に装束のつもりか?」
拙者の言葉に鬼武蔵は答える。
「いかにも。先の羽黒での敗北で、儂の面目は丸潰れじゃ。此度の戦、死してでも我らが勝たせてもらう」
「ほうか、ほだら死んでくれ」
拙者がそう言うと、両者は睨み合い槍を構える。
一瞬の静寂の後、両者は駆け出す。
「いざ、勝負!」
「おう!」
両者の間合いが詰まり、鬼武蔵の大きく振りかぶった一撃が拙者の頭上に迫る。
「がぁ!」
拙者は力強く鬼武蔵の一撃を払いのける。
そして、両者は間合いを取り馬を返す。
「ふぅー」
両者は一度息を整えた後、再度相手に向かって行く。
今度は拙者から仕掛ける。横薙ぎの一撃。それを鬼武蔵はあえて自ら兜を突き出し頭で受け止める。
な!?
驚く拙者を余所に鬼武蔵の強烈な突きが拙者に迫る。
拙者は上体を反らし落馬しそうになりながらも何とかその攻撃を避ける。
「ぐっは!」
拙者は上体を起こすと、馬を進めて再び間合いを取る。
「はぁはぁ」
何ちゅう奴じゃ・・・。
拙者は改めて鬼武蔵の強さに圧倒される。
さて、どうしたもんかの・・・。
拙者が鬼武蔵の攻略に頭を悩ませていると突如一発の銃弾が鬼武蔵をかすめる。
「む!?」
お互いが銃弾の出所に目を向ける。そこには鉄砲足軽の伝蔵の姿がありました。
伝蔵は鬼武蔵を見据えたまま拙者に声をかける。
「お頭、ここは退きましょう」
「しかし・・・」
しかめっ面をする拙者に、伝蔵は視線を横に移し目配せをする。
?
伝蔵の視線の先、そこには永楽通宝の馬印の軍勢がおりました。
あれは、水野の軍か・・・。
拙者がそれを確認すると、伝蔵は頷く。
・・・そういう事か。
拙者は、伝蔵の意図をくみにやりと笑う。
仕方が無い。相手は『鬼』だからな。
拙者は馬を返し鬼武蔵に背を向ける。
「逃げるか、朱槍!」
正に鬼の形相で拙者を睨みつける鬼武蔵を余所に、拙者は馬を走らせる。
「ちっ!」
大きく舌打ちを鳴らす鬼武蔵。案の定、拙者の後を追って来る。
拙者はより一層馬に力を入れる。隣を走る伝蔵も必死で追いすがる。
「伝蔵、はよ走れ!鬼に殺されるぞ」
「わかってますって!」
山裾を駆ける二騎の騎馬武者と一人の足軽。
水野の軍勢まではもう間もなく。拙者は軍勢に向かって大声で叫ぶ。
「惣兵衛殿!」
軍勢の先頭、名前を呼ばれた騎馬武者―水野惣兵衛殿はこちらに顔を向ける。
「ん・・・半蔵殿?」
拙者は目で惣兵衛殿に合図を送る。
「鬼武蔵じゃ!」
「何!?」
拙者の言葉に惣兵衛殿が驚いている間に、拙者と伝蔵は水野の軍勢の中に駆け込む。その直後、惣兵衛殿の掛け声が周囲に轟く。
「て、鉄砲隊、撃てぇ!」
凄まじい銃声と共に馬の鳴き叫ぶ声が聞こえる。
拙者は、すぐさま振り返り鬼武蔵の方に目を向ける。
倒れた馬の近くで横たわる鬼武蔵。小刻みに体を震わせている。
拙者は馬を走らせ鬼武蔵の元へ近づく。
馬上から鬼武蔵を覗くと、見事に眉間に銃弾の穴があいている。
・・・終わった。『鬼』にしては呆気ない最期だったな。
拙者が片手で鬼武蔵を拝んでいると、突如素っ頓狂な声が聞こえて来る。
「お頭~」
拙者は、にやりと笑う。
「やはり儂は鬼に縁があるようじゃな」
戦場まで後一丁、拙者はさらに強く馬の腹を叩く。
「はぁ!」
そして、拙者は槍を構え戦場に突撃する。
「うおおおぉぉ!」
勢い良く飛び出した拙者の馬に数名の足軽が吹き飛ばされる。
「ぐあっ!」
拙者は倒れた足軽たちには目もくれず突き進む。目指すは唯一人。そして、拙者の視界にその人物が入り込む。異様な龍の兜をつけた騎馬武者。間違いない。
「鬼武蔵!」
拙者が大声で叫ぶと、鬼武蔵もこちらに気がつく。
「・・・また来たか、朱槍」
拙者は鬼武蔵の前で馬を止める。
「一応、『槍の半蔵』っちゅー字(あざな)があるんだがね」
拙者の言葉に鬼武蔵は鼻で笑う。
「覚えるまでもない。朱槍で十分じゃ」
「ほだら、嫌でも覚えさせたるわ・・・ん?」
そこで拙者は鬼武蔵の姿に違和感を感じる。
以前会った時とは印象が違うな・・・羽織か?
この時、鬼武蔵は真っ白な陣羽織を羽織っておりました。
「洒落た羽織を付けとるの~死に装束のつもりか?」
拙者の言葉に鬼武蔵は答える。
「いかにも。先の羽黒での敗北で、儂の面目は丸潰れじゃ。此度の戦、死してでも我らが勝たせてもらう」
「ほうか、ほだら死んでくれ」
拙者がそう言うと、両者は睨み合い槍を構える。
一瞬の静寂の後、両者は駆け出す。
「いざ、勝負!」
「おう!」
両者の間合いが詰まり、鬼武蔵の大きく振りかぶった一撃が拙者の頭上に迫る。
「がぁ!」
拙者は力強く鬼武蔵の一撃を払いのける。
そして、両者は間合いを取り馬を返す。
「ふぅー」
両者は一度息を整えた後、再度相手に向かって行く。
今度は拙者から仕掛ける。横薙ぎの一撃。それを鬼武蔵はあえて自ら兜を突き出し頭で受け止める。
な!?
驚く拙者を余所に鬼武蔵の強烈な突きが拙者に迫る。
拙者は上体を反らし落馬しそうになりながらも何とかその攻撃を避ける。
「ぐっは!」
拙者は上体を起こすと、馬を進めて再び間合いを取る。
「はぁはぁ」
何ちゅう奴じゃ・・・。
拙者は改めて鬼武蔵の強さに圧倒される。
さて、どうしたもんかの・・・。
拙者が鬼武蔵の攻略に頭を悩ませていると突如一発の銃弾が鬼武蔵をかすめる。
「む!?」
お互いが銃弾の出所に目を向ける。そこには鉄砲足軽の伝蔵の姿がありました。
伝蔵は鬼武蔵を見据えたまま拙者に声をかける。
「お頭、ここは退きましょう」
「しかし・・・」
しかめっ面をする拙者に、伝蔵は視線を横に移し目配せをする。
?
伝蔵の視線の先、そこには永楽通宝の馬印の軍勢がおりました。
あれは、水野の軍か・・・。
拙者がそれを確認すると、伝蔵は頷く。
・・・そういう事か。
拙者は、伝蔵の意図をくみにやりと笑う。
仕方が無い。相手は『鬼』だからな。
拙者は馬を返し鬼武蔵に背を向ける。
「逃げるか、朱槍!」
正に鬼の形相で拙者を睨みつける鬼武蔵を余所に、拙者は馬を走らせる。
「ちっ!」
大きく舌打ちを鳴らす鬼武蔵。案の定、拙者の後を追って来る。
拙者はより一層馬に力を入れる。隣を走る伝蔵も必死で追いすがる。
「伝蔵、はよ走れ!鬼に殺されるぞ」
「わかってますって!」
山裾を駆ける二騎の騎馬武者と一人の足軽。
水野の軍勢まではもう間もなく。拙者は軍勢に向かって大声で叫ぶ。
「惣兵衛殿!」
軍勢の先頭、名前を呼ばれた騎馬武者―水野惣兵衛殿はこちらに顔を向ける。
「ん・・・半蔵殿?」
拙者は目で惣兵衛殿に合図を送る。
「鬼武蔵じゃ!」
「何!?」
拙者の言葉に惣兵衛殿が驚いている間に、拙者と伝蔵は水野の軍勢の中に駆け込む。その直後、惣兵衛殿の掛け声が周囲に轟く。
「て、鉄砲隊、撃てぇ!」
凄まじい銃声と共に馬の鳴き叫ぶ声が聞こえる。
拙者は、すぐさま振り返り鬼武蔵の方に目を向ける。
倒れた馬の近くで横たわる鬼武蔵。小刻みに体を震わせている。
拙者は馬を走らせ鬼武蔵の元へ近づく。
馬上から鬼武蔵を覗くと、見事に眉間に銃弾の穴があいている。
・・・終わった。『鬼』にしては呆気ない最期だったな。
拙者が片手で鬼武蔵を拝んでいると、突如素っ頓狂な声が聞こえて来る。
「お頭~」
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