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第十三章「小牧・長久手の戦い」
第六十七話「白山林」
しおりを挟む羽黒の戦いに敗北した羽柴軍は小牧山城攻撃を諦め、今度は徳川軍の陣地を迂回し本拠地である岡崎城を攻めるべく三河中入りを開始。
羽柴軍の三河中入りを知った我ら徳川軍は、榊原康政・大須賀康高率いる五千の兵を急ぎ出陣させる。そして、徳川家康公率いる一万の本隊も間髪入れずに出陣。三河中入りの途上、徳川方の岩崎城を攻撃中の羽柴軍に背後から襲いかかるのでありました。
天正十二年四月九日寅の刻 尾張国 白山林
「・・・ありゃ~飯食ってんな」
拙者は前方の林から出ている煙を見て呟く。
「呑気なものだ」
拙者の隣にいる武者がそう答える。立派な髭を生やした大柄な男・大須賀五郎左衛門康高殿である。
五郎左殿は、木の隙間から微かに見える敵の陣旗を判別する。
「あれは、三好秀次の軍勢か」
「三好秀次って言うと、羽柴秀吉の甥の」
「うむ。おそらく、この中入りの総大将であろう」
五郎左殿の言葉に拙者は嬉々とした表情を見せる。そして、拙者が何も言わずに馬に飛び乗ると、五郎左殿は拙者を呼び止める。
「こら、抜け駆けは許さんぞ」
ちっ、ばればれか。
拙者が釘を刺されその場で落胆している間に五郎左殿も自身の馬に飛び乗る。
「よし、そろそろ婿殿も背後に回っておる頃だろう」
そう言うと五郎左殿は配下の兵たちに向けて大声を上げる。
「皆の者、行くぞ!」
「おおう!」
五郎左殿の掛け声と共に徳川の兵たちが林の中を駆け抜けて行く。
「うおおお!」
地鳴りのような叫び声で羽柴軍に向かって行く徳川の兵たち。
それに気づいた羽柴軍は、羽黒の戦い同様慌てふためき出す。
まったく、こやつらは毎度毎度反省が足らんな~。
拙者も他の兵たちに遅れをとるまいと馬を走らせる。すると、目の前に怯えて動けない足軽が。拙者は、そやつを容赦なく槍で突く。
「うぐっ!」
一瞬で絶命する足軽。
怖いのであれば是が非でも逃げんか。
拙者は心の中でそう呟くと足軽から槍を引き抜く。そして、そのまま今度は反対側にいた足軽に槍を突き刺す。
これで二人。
拙者は槍を引き抜き、次の相手を探すべく周囲を見渡す。
そろそろ兜首でも・・・おった!
拙者は、数間先にいる後ろ姿の騎馬武者に目をつける。
馬を走らせ騎馬武者に近づくと、相手も拙者に気づき振り返る。
遅い。
拙者は槍で騎馬武者を突こうとしたが、その直前に槍を止める。
なぜなら、その騎馬武者が拙者の見知った人物であったからでございます。
「惣兵衛殿」
拙者がそう口にすると、騎馬武者は苦笑いを浮かべながら答える。
「おいおい、儂を殺そうとしたのか?」
この御方は、水野惣兵衛忠重殿。刈屋城の城主で家康公の叔父にあたる方でございまする。拙者は、惣兵衛殿に頭を下げ謝罪しようとするのですが・・・。
「乱戦故、お許し・・・」
惣兵衛殿は、拙者が謝り終わる前に話を切り出す。
「それよりも半蔵殿、儂の息子の藤十郎を見てはおらんか?」
周囲を見渡しながらそう言う惣兵衛殿に拙者は首を傾げて答える。
「藤十郎?見ていませんな」
「そうか・・・あやつめ、兜も着けずに突っ込んで行きおって」
苛立つ惣兵衛殿。その直後、羽柴軍の後方が突如崩れ始める。
拙者と惣兵衛殿は瞬時に状況を理解する。
「小平太か」
おそらく迂回して敵の背後に回り込んだ榊原小平太の隊が羽柴軍を襲撃しているのでありましょう。後方まで乱れた為、さらに混乱を増す羽柴軍。拙者は、にやりと笑い惣兵衛殿に声をかける。
「この戦、勝ちましたな」
「ああ」
散り散りになり逃げ惑う羽柴軍。その光景に惣兵衛殿は大声を上げる。
「皆の者、追えー追うのだ!」
惣兵衛殿の掛け声に応え羽柴軍を追撃する徳川軍。拙者も透かさず馬を駆ける。
「逃げろ逃げろ~生き延びたい奴は必死で逃げろ!」
拙者は馬上で笑みを浮かべながら槍を振り回す。
これが白山林の戦いでございまする。羽黒の戦い同様、奇襲により羽柴軍を撃退した徳川軍。勢いに乗る我らは、敗走する羽柴軍を尚も追撃するのですが・・・。
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