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第五章「掛川城攻め」
第二十二話「鷲津砦」
しおりを挟む永禄三年五月 尾張国 鷲津砦
「くっ!」
降りしきる雨の中、拙者の槍がぬかるんだ地面に落ちる。
拙者は直ぐさま刀を抜こうとするが、相手の槍がすぐ目の前に迫って来る。
間に合うか!?
拙者の心配を余所に拙者の刀は空を斬る。
!?
直後、相手の武者が前のめりに倒れ込んだ。
「大丈夫か、童(わっぱ)?」
声と共に武者の背後から一騎の騎馬武者が現れる。
拙者の知らない顔。どうやら、この騎馬武者が倒したようだ。
「・・・誰が童じゃ!」
騎馬武者の見下したような態度に、拙者は思わず助けられた事も忘れ反論する。
「どう見ても童じゃろう?」
騎馬武者は尚も拙者を嘲笑(あざわら)う。
「儂は、もうすぐ二十じゃぞ!」
「やはり童ではないか」
「何!?」
拙者は、騎馬武者を睨みつける。
「童ほど、自分の年齢を気にかける」
そう言うと、騎馬武者は高笑いを上げる。
「くっ・・・」
なまじ当たっておるので何とも言えない拙者。
そんな拙者を騎馬武者は凝視する。
「お主、三河衆か・・・道理で生意気な訳じゃ」
拙者は眉を吊り上げる。
ということは、この騎馬武者は今川の武将か・・・道理で高飛車な訳じゃ。
「此度の戦は、今川の戦。三河衆が出しゃばっても得はないぞ」
騎馬武者の高圧的な態度に、拙者もいい加減腹が立って来る。
「三河衆だろうが、今川だろうが関係ない!儂は、儂が戦いたいから戦っておるんじゃ!」
拙者を見据え、にやりと笑う騎馬武者。
「若いな・・・やはり、童じゃ」
「やかましい!」
すると騎馬武者は、表情を一変させ真剣な面持ちで拙者に向け槍を突きつける。
「儂は、儂が戦いたいから戦っておるのではない。今川が戦うから、儂は戦っておるのじゃ。儂は、今川のためならば何でもする・・・家族だろうが仲間だろうが、儂は容赦なく殺す」
騎馬武者は、拙者をじっと見据える。
「お主には、そのような決意はあるか?」
冷や汗をかく拙者。騎馬武者のあまりの迫力に拙者は気圧されておりました。
すると、そこへ騎馬武者がもう一騎こちらへ駆けて参りました。
「備中守様!」
そう呼ばれた騎馬武者は、拙者からそちらに視線を移す。
「どうした?」
「はっ、馬上から失礼致しまする。井伊信濃守様が・・・討ち死にされました」
その言葉に驚きの表情を見せる騎馬武者。
「何!?わかった、すぐに行く」
「はっ」
その使者は頭を下げると、急ぎ来た道を戻って行く。
井伊信濃守・・・確か、此度の戦で先鋒を任された今川の大将ではなかったか?
「おい、童」
!
急に呼ばれて驚く拙者。
「名は何と申す?」
騎馬武者の問いに、拙者は素直に答える。
「渡辺、渡辺半蔵守綱」
「渡辺守綱か・・・儂は、朝比奈備中守泰朝(やすとも)。機会があらば、また戦場で見(まみ)えようぞ」
そう言うと、その武者は拙者に背を向けて去って行きました。
「朝比奈、泰朝・・・」
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