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第四章「三河平定」
十八話「妙春尼」
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慶長二十年五月 大坂
「二十六か、若いな・・・」
若武者の呟きに老将が静かに頷く。
「ええ・・・拙者にとって、この永禄七年という年はとても辛い年でございました。春に父を失い・・・そして、夏に親友を失う。戦国の世の定めとはいえ、当時まだ二十三の若輩者だった拙者にはとても堪えましたな」
老将の言葉に若武者はぽつりと呟く。
「戦国の世の定め、か」
老将は、さらに話を続ける。
「しかし、拙者だけでなく一向宗徒たちも一揆の後は辛い日々を送っておりました。三河での一向宗は禁止とされてしまい、さらには一向宗の寺も焼き払われ・・・」
老将がそこまで言うと若武者は驚く。
「なんと、寺を元のままにしておくことも和睦条件の一つではなかったのか?」
若武者の質問に老将は苦笑いを浮かべる。
「そうなのですが、寺を元のままにする・・・つまり、元の更地に戻すという理屈で寺は焼き払われてしまいました」
老将の話に若武者は溜め息をつく。
「方広寺の鐘銘といい、今も昔もそう変わらんな」
若武者の言葉に老将も同意する。
「左様でございますな。しかし、その後、大御所様の御母上・於大の方様の姉で石川日向守家成殿の母・妙春尼(みょうしゅんに)様のご尽力により徐々にではありましたが、三河の一向宗の寺も次第に復興されていきました・・・若?」
老将がふと横を見ると、若武者は呆然とただ前を見詰めていた。
「・・・忠右衛門。父上は、本当に寛大な心をお持ちなのだろうか?」
若武者の問いに老将は笑みを浮かべる。
「お持ちでございますとも」
「何故言い切れる?」
若武者は老将の方に向き直り、じっと見詰める。
その真剣な眼差しに対し、老将はゆっくりと口を開く。
「あれは、東三河を平定した後のことでございました・・・」
「二十六か、若いな・・・」
若武者の呟きに老将が静かに頷く。
「ええ・・・拙者にとって、この永禄七年という年はとても辛い年でございました。春に父を失い・・・そして、夏に親友を失う。戦国の世の定めとはいえ、当時まだ二十三の若輩者だった拙者にはとても堪えましたな」
老将の言葉に若武者はぽつりと呟く。
「戦国の世の定め、か」
老将は、さらに話を続ける。
「しかし、拙者だけでなく一向宗徒たちも一揆の後は辛い日々を送っておりました。三河での一向宗は禁止とされてしまい、さらには一向宗の寺も焼き払われ・・・」
老将がそこまで言うと若武者は驚く。
「なんと、寺を元のままにしておくことも和睦条件の一つではなかったのか?」
若武者の質問に老将は苦笑いを浮かべる。
「そうなのですが、寺を元のままにする・・・つまり、元の更地に戻すという理屈で寺は焼き払われてしまいました」
老将の話に若武者は溜め息をつく。
「方広寺の鐘銘といい、今も昔もそう変わらんな」
若武者の言葉に老将も同意する。
「左様でございますな。しかし、その後、大御所様の御母上・於大の方様の姉で石川日向守家成殿の母・妙春尼(みょうしゅんに)様のご尽力により徐々にではありましたが、三河の一向宗の寺も次第に復興されていきました・・・若?」
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「・・・忠右衛門。父上は、本当に寛大な心をお持ちなのだろうか?」
若武者の問いに老将は笑みを浮かべる。
「お持ちでございますとも」
「何故言い切れる?」
若武者は老将の方に向き直り、じっと見詰める。
その真剣な眼差しに対し、老将はゆっくりと口を開く。
「あれは、東三河を平定した後のことでございました・・・」
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