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第四章「三河平定」

第十六話「本多佐渡」

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慶長二十年五月 大坂

「以上が、三河一向一揆の顛末(てんまつ)でございまする。大御所様も生涯において、この時が一番御身(おんみ)の危険を感じたと仰っておられました」
老将が語り終わるや否や、陣中に一人の武者が駆け寄り跪(ひざまず)く。
「如何(いかが)致した?」
若武者が問いかける。
「はっ!本多佐渡守(さどのかみ)様よりご連絡。此度の戦、徳川の勝利はほぼ確実。尾張中将様は安全を期し後方より動かれないようにとのご指図」
その言葉に若武者の眉がつり上がる。
「何?」
「はっはっは。若、あやつなりの気遣いでございまする。ご容赦下さりませ」
老将が若武者をなだめると、若武者は渋々と引き下がる。
「・・・わかった。下がってよいぞ」
「はっ」
伝令の武者がその場を後にすると、若武者は一息ついて老将に問いかける。
「それにしても・・・お主のその口振り、佐渡守とは仲がよいのか?」
その問いに老将は苦笑いを浮かべながら答える。
「ええ。嫌々ながら彼此(かれこれ)もう数十年の付き合いですかな、弥八郎とは・・・」
「弥八郎?先ほどの一向一揆の話で出て来た・・・」
「本多弥八郎正信。一向一揆の後、三河を離れておりましたが、十数年後に再び徳川に戻って参りました」
「ほお~」
若武者は目を丸くする。
「お主といい佐渡守といい、父上に刃を向けたにも関わらず大出世じゃな」
若武者の言葉に老将は笑みを浮かべる。
「ええ。そこが大御所様の懐の大きさでございまする。寛容の御心があったからこそ、三河の一向一揆は半年で終結致したのでございます。一方で、かの織田信長は一向一揆を鎮圧するのに約十年の歳月を費やしましたからな」
「慈悲深い寛大な心こそ、民を導く君主の器か」
「左様でございまする」
若武者はしばらく虚空を見詰め感慨に浸っていたが、ふと何かを思い出したのか急に老将の方に振り向いた。
「そういえばお主の親友、蜂屋半之丞と言ったか。聞かん名ではあるが、大名になっていても不足ない器と感じた。今、そやつはどうしておるのじゃ?」
若武者の急な質問に老将は顔を伏せる。
「半之丞は・・・」
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