本能寺の変 Z

八ケ代大輔

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第二幕「安土」

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 ○家康の夢 清洲城
 
 信長と家康
 信長「のう、元康」
 家康「はっ」
 信長「儂と賭けをせぬか?」
 家康「賭け、ですか?」
 信長「そうじゃ。天下を賭けた大博打じゃ」
 家康「と、言いますと?」
 信長「儂がもし天下を取ったならばお主が儂の家臣となる。逆に、
    もしお主が天下を取ったならば、儂がお主の家臣となる」
 家康「なんと!」
 信長「どうじゃ元康。面白い賭けであろう」
 家康「・・・信長殿、いいでしょう。その賭け、乗りましょう」
 信長「うははは。そうこなくてはな!」
 家康「はっ」
 信長「では元康、うぬは東に進め。儂は西に進む。どちらが先に
    天下を取るか競おうではないか?」
 家康「はっ」
 信長「ふはははははは、面白い。面白くなってきたぞ、元康」
 家康「ですな」
 信長「天下は我らどちらかが取る!さて、天は儂とお主、
    どちらに味方するかのう?ふははは、ふははははははは!」
  そこで信長の動きが止まる。
 家康「あれから約二十年。信長殿の想いは変わられたのだろうか」
  信康、登場。
 信康「父上、そんなものはまやかしでござる」
 家康「信康!」
 信康「この男は、己の事しか考えておりませぬ。己に従わぬ者は
    容赦なく殺される・・・私のように」
 家康「信康・・・」
 信康「父上、いつまでこのような男に付き従うのですか?
   今こそ、この男から離れる時ですぞ!」
  信康、信長を斬り倒す。
 家康「信康!」
 信康「父上も、この男に従うというのであれば」
  信康、家康に近づく
 家康「止めろ、信康。止めろ!」
  信康、家康を斬り倒す。
  暗転
 目を覚ます家康。
家康「・・・夢、か」
酒井「悪夢ですかな?」
家康「う、うむ」
酒井「大丈夫でござるか?」
家康「構わん。して、何用か?」
酒井「殿にお目通りしたいという者が」
家康「通せ」
酒井「はっ」
 おます、おかめ登場
 家康「お主たちは・・・」
 おます「おますと申します」
 おかめ「おかめと申します」
 おます「家康様には、伊賀者である我らをお救い下さり、
     誠に感謝致しております」
家康「うむ。そんなお主たちが儂に何の用じゃ?」
おかめ「家康様。此度は畿内へ行かれるという事で、
    どうか我らも共にお連れ下さいませ」
家康「何じゃと?」
おます「我らは女子とて伊賀者。いざという時には、
    お役に立てまする」
酒井「殿、如何致しますか?」
家康「・・・よかろう、共に参れ」
おます、おかめ「ありがとうございます!」
家康「さて、この旅、どうなる事か・・・」
  暗転
 
 歌(安土への旅)
 
○ 安土城城下 
 
 徳川勢、登場。
半蔵「おお~これが安土城でございまするか~」
酒井「信長殿が造った安土城、いつ見ても圧倒される」
石川「嫌みな城じゃ。この城からは織田の高慢さを感じる」
酒井「数正」
 穴山勢、登場。
穴山「ほほ~これが安土城か。我らはこんな大それた城を
   造った者と戦っておったのか。負けた理由も頷ける」
酒井「これはこれは梅雪殿。梅雪殿も今こちらへ?」
穴山「・・・」
酒井「梅雪殿?」
穴山「ん、三河の田舎侍が何か言うておるな」
榊原「何じゃと!」
 榊原を抑える本多。
本多「康政、落ち着け」
穴山「名門の儂がこのような三河の田舎侍と同じ扱いとは
   情けない」
榊原「その名門の武田家はお主の裏切りによって滅びたであろう」
穴山「儂は裏切ったのではない。名門の血を後世に残す為じゃ」
榊原「ふん、御託を」
 光秀、登場。
光秀「家康殿、梅雪殿。よくぞお越し下さった」
穴山「おお~光秀殿がお出迎えとは光栄でござる」
光秀「信長様の命で拙者が皆様の接待役となりました」
穴山「信長様の懐刀と言ってもいい明智光秀殿がわざわざ、
   恐悦至極にござる」
光秀「ささ、皆様どうぞこちらへ」
 全員、光秀について行く。
 
○ 安土城 歓待の間  
 
 大宴会 歌や踊りなど
 武将たちは三々五々酒を飲んでいる。話し声などのBGM
  斉藤、石川に酒を注ぎに行く。
斉藤「石川殿、どうぞ」
石川「これはかたじけない・・・貴殿は?」
斉藤「明智家筆頭家老の斉藤利三と申しまする」
石川「これは明智家の家老の方に申し訳ない」
斉藤「いえいえ構いませぬ」
石川「よく拙者をご存知で」
斉藤「西三河の旗頭である石川数正殿は有名でございまする」
石川「いやいや、そんな・・・そうじゃ、斉藤殿に、
   ちと聞きたい事が」
斉藤「何でしょうか?」
石川「本日、織田の重臣の方々が見えんのだが?」
斉藤「ああ。皆、各地で戦っておりまする。羽柴秀吉様は、中国
   の毛利攻め。柴田勝家様は北陸征伐。滝川一益様は、上州
   で北条の抑えを。丹羽長秀様もこれから四国遠征の準備で
   大坂に」
石川「なるほど」
斉藤「なので、今この近辺におるのは我らの軍勢くらいですかな」
石川「領地が広いと大変でござるな」
斉藤「まったくでございます」
 織田家の家臣が登場し、光秀に書状を渡す。
光秀「?」
 書状を読む光秀。すぐさま信長に渡す。
光秀「殿、これを」
信長「ん?」
 書状を読む信長。
信長「光秀、すまぬがお主の接待の任を解く。坂本に戻り
   軍を整えよ」
光秀「はっ」
家康「信長殿、如何致しました?」
信長「いや何、中国の猿からじゃ。毛利攻めに苦戦しておるので
   援軍を送ってほしいとな」
家康「東側が落ち着いたと思ったら次は西側ですか」
信長「毛利勢自ら備中にまで軍を進めてきたそうじゃ。
   ちょうど良い、儂自ら出向いて毛利を滅ぼしてくれよう」
穴山「信長様自らが出向けば毛利もすぐさま頭を下げるでしょう」
  外で騒がしい物音
光秀「如何した?」
  光秀、家臣から耳打ちされる。
光秀「何?」
  光秀はそれを信長に伝える。
信長「・・・またか」
家康「次は一体どうなされました?」
  光秀、信長の目配せし
信長「構わん」
光秀「・・・実は、ここ最近安土城下で不穏な話が」
家康「不穏な話?」
光秀「ええ。話によると、夜な夜な安土城下に死人《しびと》が歩き回って
   いると」
家康「何と!」
信長「ふん、死人など」
光秀「困った話でござる。動く死人などどう対処すればよいのか」
酒井「光秀殿、そのお話本当なのですか?」
光秀「さあ、拙者も実際に見た訳ではありませんので」
酒井「左様でござるか」
信長「・・・興ざめじゃ。すまぬが儂は先に失礼する」
家康「はっ」
  織田勢、退場。
 半蔵「死人が動き出すなど、そんなおかしな話」
 酒井「のう」
 穴山「ふん、馬鹿馬鹿しい。そんなものおる訳がなかろう」
 家康「梅雪殿」
 穴山「ふん、三河の田舎侍どもは幽霊に怖がっておればよかろう」
 榊原「何を!」
 穴山「儂も興ざめじゃ。先に帰る」
  穴山、退場。徳川勢のみ残される。
 酒井「儂らだけ残ってもの~」
 半蔵「あんな話の後、どう楽しめと・・・」
 本多「しかし、ちと気にはなりますな」
 家康「うむ」
 石川「我らを陥れる噓かもしれませんぞ」
 酒井「数正、織田の者が聞いておるかもしれんぞ」
 榊原「織田の者たちは、死人でそれどころではなさそうですがね」
 半蔵「ですな」
 酒井「織田が我らをはめるという事はなさそうか」
 榊原「これといって他に不穏な動きもありませんし」
 石川「織田の軍勢も各地に散っておるようだしな」
 本多「しかし、用心に越した事はありますまい」
 家康「そうじゃな」
 半蔵「素直に楽しめんな~」
 家康「しばらくは様子見としよう」
 一同「はっ」
 暗転
 
○ 安土城外 
 
穴山、散歩
 穴山「ふん、死人など馬鹿馬鹿しい。そんなものおる訳がない」
  穴山、立ち小便をしようとすると目の前に倒れた人と、
  その前にしゃがみこんでいる人が
 穴山「ん~どうしたお主たち?酔いつぶれておるのか?」
  穴山が肩に手を乗せると噛まれる。
 穴山「痛ったい!何すんじゃお主!」
  倒れた人を食べる死人、穴山に振り向く。
 穴山「うひゃ!」
  驚き遠のく穴山
 穴山「し、しししし、しび、死人じゃと!?」
  穴山に向かって行く死人。
 穴山「く、来るな。来るではない!」
  穴山、急いで逃げ出す
 穴山「う、うひゃあああああーーー!」
  穴山、退場。死人、ふらふらと歩いて客席から退場。
  暗転
 
○幕間 
 
  泣きわめく子供
 子供「え~んえ~ん、じぃじ怖いよ~」
 茶屋「お話は、ここで止めておくか?」
 子供「ううん、聞く」
 茶屋「そうかそうか」
 子供「ねぇねぇ、じぃじはいつ出て来るの~?」
 茶屋「もうすぐ出て来るのでまっておれよ~」
 子供「うん」
 茶屋「さて、そんな訳で明智光秀殿は自身の居城である坂本城
    へと戻られた。そして、家康様一行は依然安土城にて
    信長殿からのもてなしをうけるのであった」
  暗転
 
 
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