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夏季休暇

早々

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 時々、女湯と男湯が時間になると変わるなんて所があるけれど、この旅館はそれがない。
 女湯の方に入って、服を脱ぎ、適当に空いているロッカーに持って来た物を全て入れ、裸になった。
 少し恥ずかしい……から体洗う用に持って来た部屋にあったフェイスタオルを全部広げて体の前にやり、いざ内風呂へ。
 はあ……となった。誰も居ない。
 使われているロッカーの数を見るに今、この女湯に居るのは私以外に二人のはずだけど露天風呂かな……。
 その間にさっさと体洗っちゃおう……なんて思ったけれども、洗おうとした手が止まった。
 もしも……がある可能性……いや、ない! と思って、しっかりガシガシと洗う。このシャンプー良い匂い? 大丈夫? 私……。
 全てを洗い終え、檜風呂に入る。
「ハア……」
 思わず言ってしまった声。
 そして、露天風呂から出て来る二人。
 まさか、聞かれた? いやいや、このお二人、何か親しそうに話してるし、聞かれてないよね……。私より若いし、スタイル良い。
 私もこんな時期があった……太る前。ガリガリだった頃。でも、その頃は今よりも体調が優れない時が多くて困って、暴飲暴食……。親に止められても止められなかった。自分の意思の弱さが今の私を作ってる。
 じろじろと他の所を見るのはいけないと彼女達が出て行くのを待って、露天風呂に行く。
 あんまり自分の家で見るのと変わらない空。でも、空気がちょっと田舎感ある。それだけ自然が多いってこと。
 あ、月出てる……でも、変な細い形のやつ。
「はあ……」
 こじんまりとした露天風呂を出て、檜風呂にもう一度入って、誰も来ないうちに……と温泉を出て、体をタオルで拭き、下着と浴衣を着る。
 どっちが前だっけ、確かこう? と不安になり、スマホで確認する。
 たぶん、これで合ってる。
 洗面台の所に行き、ドライヤーで肩ぐらいまでの髪を乾かす。
 そして、そこにあった無料の冷水を紙コップ一杯、ごくごくっと飲む。
 これが堪らない!!
 そして、やっと部屋に戻ると浴衣姿の富塚君が二つあるうちの広縁《ひろえん》の方の布団の上でごろんとしてスマホのゲームをして遊んでいた。
 こちらが声を掛ける前に富塚君が。
「あ、おかえり」
「ただいまー……」
 なんて普通に挨拶しちゃったけど、あれ? 何か自然過ぎて調子狂いそう。
 それに富塚君の……浴衣が開《はだ》けて直接肌に着ているようで、あの雨の日に見た肌が鮮明に蘇って来て、また少し見えてしまっている。
 たぶん、ゴロゴロとゲームやってて気付いてないのかもだけど、自然とごくっとなる、生唾を呑み込んでる場合じゃないのに。
 何でこんなに富塚君の肌に惹かれてるの……私……。あの日よりも。
「どうした?」
 そう言って、富塚君がゲームを終わらせて起き上がる。
「あっ、良いのに、起き上がらなくても」
「え? 何で?」
「い、いや! じゃあ、私、もう寝ます」
「え?」
 そう言って、私は逃げるように布団の中に入る。
 このままだと絶対ダメになる! それが分かってしまった。
「日下ぁー」
 呼ばれても言わない。
「日下さーん!」
 もう無言だ。背中向けて寝てるの分かってるじゃない。
「本当に寝んの?」
 うん! とかも言わない。時間がまだ夜の九時にもなってなくても、布団を頭から被って全てを見せないようにする。
「……分かったよ、おやすみ」
 そう言われると、言わないといけない気がして来る。
「おやすみ、なさい……」
 起きてること分かってしまったけど、これは大人としての常識だしな……と思って、言ってみたけど。
 これが原因でお前、明日一人で帰れよ? 車でなんて送ってやらないからな! なんてなったら、どうしよー!!
 もうやっちゃった後だし! どうにもなんないじゃん! これ!
 と、悩んでいたら、富塚君が。
「起きてたらで良いんだけど、一つ聞いて良い?」
「何?」
「あそこの窓のカーテン、開けといて良い?」
 え、窓? 一つしかないよね……この部屋。外が見える広縁の所の窓のことだろう……と言う。
「良いけど。電気、寝る時、全部消してね。暗い方が良く寝れるから」
「はいはい……」
 そういう理由で私はエアコンの効いた部屋でいつもより早い時間に、富塚君より早く寝た。
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