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戯れ始まり

どんどん近付いて来る彼

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 仕事を始めて二日目の帰りの駅のホーム。
 昨日、三両目ぐらいだった富塚さんが二両目の所に居る。私が居るのは一両目だから平気……と思っていたのに、三日目の仕事帰りの駅のホームでは同じ所に並んでいた。
 何これ……、私、仕事場で一度もこの富塚さんと話したことないのに。
 何かした? だから、ここに居るの? それともただの気分でこっちに来ちゃったの?
 別の所に行くべき? でも私の方が早く来てたし、ここのドアから出るのが一番改札出るのに便利だ。動けない……これ以上。じゃあ、どうするべきか。私は横に並ぶ富塚さんに仕方なく声を掛けることにした。
「富塚さん、お疲れ様です」
「お疲れ……、あのさ、その『富塚さん』って呼び方止めてくれない? 今は。俺ら、同じ高校で三年間同じクラスだったんだし」
「え?」
 驚愕だ。今日一番の絶句だ。
「そんなに驚く? 日下って、あれでしょ、ヒソヒソコソコソの三人組だったオタク女子のグループに入ってたガリガリチビ……いや、大人しい女子生徒だった、よね?」
「え……そうですけど……」
 事実を知ってらしたぁ!!
「あ、タメ口で良いでしょ? 同い年なんだし。何か太った理由あるの?」
「え……」
 それ聞きたさにここまで来たの? この人。
「いや……日下って、あのオタク女子達もそうだけど、同窓会とか来ないから」
「行けませんよ! そんなのっ!」
 強く主張したくなかったのに……。声に出てしまった。
「大きい声出るんだね……驚いた」
 家に帰ったら、高校のアルバム絶対見る! そして富塚何たら……の名前探す! 絶対に。こんな普通の感じの人、高校に居たか? 顔を確かめる為にもう一度ちらっと見ようとすると彼の口が開いた。
「あ、梧豊あおとだから」
「え?」
「その顔じゃ、全然俺のこと、覚えてなさそうだし。一応、言っとく。俺の名前、富塚梧豊とみづかあおとだから」
「ご親切にどうもありがとうございます」
「いや、太ると日下さん、普通になるんだね。確か、高校の頃ってそんなに胸なかったような……」
 は! この流れはいけない! と一瞬で思った。オフィスカジュアルの服装でブラウス着てるから平気だと思っていたけれど、これだとこの人、私のお腹の方も見てるんじゃ……。
「あ、別に深い意味はないよ。体型ぐらいしか日下さん変わってないからすぐに分かっただけだし。化粧とかもしないんだ」
「あ、それは……化粧すると痒くって。肌が弱いというか……」
「ふーん、大変なんだ」
 こんな人だっけか、富塚さん……、富塚君の方が良いのか。分からない! 全然、この人の扱い方まで教わってない!
「あー、日下さんってさ、旧姓のままだけど、結婚とか」
「してないっ!!」
 強く言ってしまう。だって、本当だし……。
「そっか……、俺もそう。前の彼女がヤバイ考えの持ち主でさ、それで結婚とか考えられなくなった。子供もいなくて良いかなって」
 どんな過去があったのだろう、この人に。
「あ、電車来ちゃったね。それじゃあ、また明日」
「って、同じ電車に乗るんですよね?」
「うーん、そうなんだけど、電車の中では静かにしてたいじゃん?」
「え、まあ、良いんですけど」
「明日もこの時間にここで」
 はい……としか言えない。
 そのまま電車に乗り込んで、同じホームで降りるから開く方のドアの前を二人して陣取ったけど、一人分空いてる。何でこっち見てんの? 私みたいにドアの方、向けば良いのに……そんな不満との戦いが始まってしまった。
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