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こうして婚約破棄は成された
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次の日
磨かれ、いつも履かないようなヒールの高い靴とレースをふんだんに使ったドレスを着た。勿論、アザを隠す手袋もしている。
物心着いた時から使ったことの無い立派な馬車に、初めて乗り、着いたのは王宮。
毛の長いカーペットを歩く度に真っ直ぐなストロベリーブロンドの髪がキラキラと輝く。
そして、そのまま1人で言われた通り金と濃い紫の見事な扉から会場となる舞踏会へと入った。
会場には既に国王ならびに重鎮達が席に着き、今まさに国王の言葉の途中であった。
全員の視線がマリーに注がれ、次第に批判の声があちこちで聞こえてくる。
本来、公爵家ともなる家格の家の者は、誰かしらパートナーを連れて行き、家格の低い者から会場入りすることが暗黙の了解である。が、マリーは今まで成人しておらず、舞踏会に出てこない上に教育もされてこなかったため、そういった常識は分からなかった。
「フローラ!貴方はなんて恥ずかしい事を。来るならそう言えばよろしいでしょう!」
扇子で口元を隠しながら、クフィーヌ夫人がマリーの傍にやって来た。
「申し訳ありません。」
いつもの通り反射的に謝ってしまった。
「父上、よろしいでしょうか。」
一言国王に断りを入れて間に入ったのは、国王の第一子であるドナマーニ。
「フローラ。貴方は長女にも関わらず公爵家の仕事をしないどころか予算を食い潰し、挙句に妹のマリーに日常的に折檻や食事の制限をしていたそうだと妹のマリーとクフィーヌ公爵夫人から報告を受けている。なんでも、私の婚約者になりたかったとか。」
「はい、ドナマーニ殿下。私は、毎日朝起きることが一日の中で1番辛い事でした。」
本物のフローラが涙をため、下をむいて扇子で顔を隠す前に涙が1つ零れる。フローラは元々細顔であり、胸もささやかなため、そんな中で細身のドレスを着ると、折れそうなほど細すぎる様に見えた。
そんな様子を慈愛に満ちた眼差しで見つめるドナマーニは、労わるようにフローラの肩をさすった。
「妹にこの様な事を言わせるとは…そして、総合的にみても公爵家を貴殿は扱う事が出来ぬだろう。貴殿を公爵家を名乗ることを禁ずる。」
それは事実上、平民への身分剥奪であった。
一言も発することなく一方的な断罪が終わったところで、ドナマーニは最後と言わんばかりの慈悲をみせた。
「きっと公爵家やここにいる者と言葉を交わすことはこれで最後になるであろう。何か以前の家族に言うことはあるか?一言だけ許す。」
「お姉様、もし今までの事を一言謝ってさえ下さるのであれば、当面の生活費は私のお小遣いから出させて頂きますわ。」
要は、いつもの謝る一言で殿下が許した一言の約束を終わらせようとしていた。
ずっと無言で表情も変えずに一連の流れを見ていたマリーは、静かに国王に体を向けた。
「国王様、発言をお許し頂けますか。」
「うむ、許そう。」
突然話しかけられた国王は慌てることなくゆっくりと、許可を出した。裏を返せば、発言を許された。一言でなくとも良い確約を得たマリーは、ドレスを握っていた手をゆっくり離し、見様見真似でカーテシーをした。
「お目汚しを、失礼致します。」
そう一言言うと、マリーは自身のドレスをその場で脱ぎ始めた。
これには、会場にもどよめきが走り、クフィーヌ夫人は慌てて止めようとするが、もともと肉の着いていない体には、既製品のドレスは大きすぎた。紐を緩めるだけでストンと足元にドレスが落ちた。
そして、下着姿になったマリーに他の夫人達が悲鳴を上げるが、瞬時に息を飲む声に変わった。
そこには、日々耐えてきたマリーの証が、しっかりと体に刻み込まれていた。
「これは…」
国王も眉を顰め、言葉が出てこなかった。
「私は、この体では毎日ベッドからも動かないはずです。他人を折檻する前に体力が持ちませんので。それに、私は本日成人を迎えましたので、公爵家の資金の決定権や、舞踏会に出たことも殿下を一目拝見した事もございませんでした。」
国王や周りの者は、すぐにマリーが本物の妹である事を悟った。国王はしばらく長く重いため息をつくと、息子であるドナマーニに問いかけた。
「ドナマーニ。そなたは調査員を介して得た情報では無かったのか?」
ドナマーニは何も答えなかった、否答えられなかった。国王はかつて戦争の時代を経験していた。その様な人間の目に、平和で過ごしてきた人間がたえられるわけは無かった。
無言を肯定ととった国王はまたひとつため息をし、ドナマーニに向かって宣言した。
「王とは客観的に物事を見る事も備わっていないといけない。そなたは王位継承権の降格を処置に処す。そして、本来のマリー・サンテットとの婚約の破棄を言い渡す。」
そして、マリーに向き合った。
しかし、マリーの姿は無かった。あったのはドレスだけだった。
――――――――――――――――――――
その頃マリーは王宮の出口に向かってゆっくり歩いていた。
「何だか、今の私なら何でも出来そう。庶民のが楽だよね。きっと。」
歩みはゆっくりだったが軽やかに、顔は晴れやかに、カーペットの上を進んでいく。
***************
これにて完結致します!
読んで頂き、ありがとうございました!
磨かれ、いつも履かないようなヒールの高い靴とレースをふんだんに使ったドレスを着た。勿論、アザを隠す手袋もしている。
物心着いた時から使ったことの無い立派な馬車に、初めて乗り、着いたのは王宮。
毛の長いカーペットを歩く度に真っ直ぐなストロベリーブロンドの髪がキラキラと輝く。
そして、そのまま1人で言われた通り金と濃い紫の見事な扉から会場となる舞踏会へと入った。
会場には既に国王ならびに重鎮達が席に着き、今まさに国王の言葉の途中であった。
全員の視線がマリーに注がれ、次第に批判の声があちこちで聞こえてくる。
本来、公爵家ともなる家格の家の者は、誰かしらパートナーを連れて行き、家格の低い者から会場入りすることが暗黙の了解である。が、マリーは今まで成人しておらず、舞踏会に出てこない上に教育もされてこなかったため、そういった常識は分からなかった。
「フローラ!貴方はなんて恥ずかしい事を。来るならそう言えばよろしいでしょう!」
扇子で口元を隠しながら、クフィーヌ夫人がマリーの傍にやって来た。
「申し訳ありません。」
いつもの通り反射的に謝ってしまった。
「父上、よろしいでしょうか。」
一言国王に断りを入れて間に入ったのは、国王の第一子であるドナマーニ。
「フローラ。貴方は長女にも関わらず公爵家の仕事をしないどころか予算を食い潰し、挙句に妹のマリーに日常的に折檻や食事の制限をしていたそうだと妹のマリーとクフィーヌ公爵夫人から報告を受けている。なんでも、私の婚約者になりたかったとか。」
「はい、ドナマーニ殿下。私は、毎日朝起きることが一日の中で1番辛い事でした。」
本物のフローラが涙をため、下をむいて扇子で顔を隠す前に涙が1つ零れる。フローラは元々細顔であり、胸もささやかなため、そんな中で細身のドレスを着ると、折れそうなほど細すぎる様に見えた。
そんな様子を慈愛に満ちた眼差しで見つめるドナマーニは、労わるようにフローラの肩をさすった。
「妹にこの様な事を言わせるとは…そして、総合的にみても公爵家を貴殿は扱う事が出来ぬだろう。貴殿を公爵家を名乗ることを禁ずる。」
それは事実上、平民への身分剥奪であった。
一言も発することなく一方的な断罪が終わったところで、ドナマーニは最後と言わんばかりの慈悲をみせた。
「きっと公爵家やここにいる者と言葉を交わすことはこれで最後になるであろう。何か以前の家族に言うことはあるか?一言だけ許す。」
「お姉様、もし今までの事を一言謝ってさえ下さるのであれば、当面の生活費は私のお小遣いから出させて頂きますわ。」
要は、いつもの謝る一言で殿下が許した一言の約束を終わらせようとしていた。
ずっと無言で表情も変えずに一連の流れを見ていたマリーは、静かに国王に体を向けた。
「国王様、発言をお許し頂けますか。」
「うむ、許そう。」
突然話しかけられた国王は慌てることなくゆっくりと、許可を出した。裏を返せば、発言を許された。一言でなくとも良い確約を得たマリーは、ドレスを握っていた手をゆっくり離し、見様見真似でカーテシーをした。
「お目汚しを、失礼致します。」
そう一言言うと、マリーは自身のドレスをその場で脱ぎ始めた。
これには、会場にもどよめきが走り、クフィーヌ夫人は慌てて止めようとするが、もともと肉の着いていない体には、既製品のドレスは大きすぎた。紐を緩めるだけでストンと足元にドレスが落ちた。
そして、下着姿になったマリーに他の夫人達が悲鳴を上げるが、瞬時に息を飲む声に変わった。
そこには、日々耐えてきたマリーの証が、しっかりと体に刻み込まれていた。
「これは…」
国王も眉を顰め、言葉が出てこなかった。
「私は、この体では毎日ベッドからも動かないはずです。他人を折檻する前に体力が持ちませんので。それに、私は本日成人を迎えましたので、公爵家の資金の決定権や、舞踏会に出たことも殿下を一目拝見した事もございませんでした。」
国王や周りの者は、すぐにマリーが本物の妹である事を悟った。国王はしばらく長く重いため息をつくと、息子であるドナマーニに問いかけた。
「ドナマーニ。そなたは調査員を介して得た情報では無かったのか?」
ドナマーニは何も答えなかった、否答えられなかった。国王はかつて戦争の時代を経験していた。その様な人間の目に、平和で過ごしてきた人間がたえられるわけは無かった。
無言を肯定ととった国王はまたひとつため息をし、ドナマーニに向かって宣言した。
「王とは客観的に物事を見る事も備わっていないといけない。そなたは王位継承権の降格を処置に処す。そして、本来のマリー・サンテットとの婚約の破棄を言い渡す。」
そして、マリーに向き合った。
しかし、マリーの姿は無かった。あったのはドレスだけだった。
――――――――――――――――――――
その頃マリーは王宮の出口に向かってゆっくり歩いていた。
「何だか、今の私なら何でも出来そう。庶民のが楽だよね。きっと。」
歩みはゆっくりだったが軽やかに、顔は晴れやかに、カーペットの上を進んでいく。
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これにて完結致します!
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