上 下
8 / 11

6   カヤバセ村

しおりを挟む
馬車に少し大きな振動に揺られて、カヤバセ村に向かって暫くした頃。

「お母様。」

「ん?なあに、リーチェ。あら、」

リーチェが何かの変化に気がつき、続いてエレナが気づいた。

「空気が…。」

「重い。」

二人にだけ重力が増したように感じられた。お互い頷き合って、一層気を引き締めて村へと向かった。

カヤバセ村は山の中にぽっかり空いた空間に作られた村だ。入るためには、山道を歩いて進まなくてはいけない。

御者とはここで別れ、二人は山の中に入っていった。

歩いているベアトリーチェの後ろで、草の擦れる音がした。ベアトリーチェは振り返ると、白い兎がこちらの様子をうかがっていた。

ベアトリーチェが側に寄ってじっと見つめ、白い毛に手を伸ばすと、兎はいきなりの事でベアトリーチェの指を噛もうとした。

しかし、兎の歯が到達する前に精霊達が兎の動きを止めた。

「だーめ。」

精霊は、ぺちんと兎を叩いた。怒られた兎は一瞬ポカンとして、精霊達を見返した。

「叩いては駄目。ごめんね、うさぎちゃんはびっくりしちゃったんだよね?」

兎は鼻をひくひく動かしてから、ベアトリーチェにすり寄った。兎特有の柔らかな毛が心地よい。

「リーチェ?早く行きましょう。」

少し先に進んだエレナが声をかける。

「はーい。じゃあね、うさぎちゃん。」

兎に手を振って、その場から離れた。兎は、去っていく後ろ姿をじっと見ていた。




やっとカヤバセ村に到着した二人は、村の入り口から辺りを見回した。

先ずは病人が運ばれているであろう奥の広めの建物に向かって行く。

念のためノックをし、ドアを開けてみた……

集められて横になっている人に、赤いアザのようなモノがあり、熱があるのであろう息が荒かった。

「そらそうよね、病だって言ってるのだから。」

ベアトリーチェは、村長らしき人がこちらに向かって来ているなか、扉を閉めた。

「ではお母様、私はその辺を調査してきます。一緒に行きますか?」

「そうねぇ、私は村を調査してみようと思うわ。」

二人は素早くその場を離れ、各自で動き出した。

扉を開けた村長が、

「はれ?確かに誰かそこにいたような。」

しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

なんども濡れ衣で責められるので、いい加減諦めて崖から身を投げてみた

下菊みこと
恋愛
悪役令嬢の最後の抵抗は吉と出るか凶と出るか。 ご都合主義のハッピーエンドのSSです。 でも周りは全くハッピーじゃないです。 小説家になろう様でも投稿しています。

白い結婚三年目。つまり離縁できるまで、あと七日ですわ旦那様。

あさぎかな@電子書籍二作目発売中
恋愛
異世界に転生したフランカは公爵夫人として暮らしてきたが、前世から叶えたい夢があった。パティシエールになる。その夢を叶えようと夫である王国財務総括大臣ドミニクに相談するも答えはノー。夫婦らしい交流も、信頼もない中、三年の月日が近づき──フランカは賭に出る。白い結婚三年目で離縁できる条件を満たしていると迫り、夢を叶えられないのなら離縁すると宣言。そこから公爵家一同でフランカに考え直すように動き、ドミニクと話し合いの機会を得るのだがこの夫、山のように隠し事はあった。  無言で睨む夫だが、心の中は──。 【詰んだああああああああああ! もうチェックメイトじゃないか!? 情状酌量の余地はないと!? ああ、どうにかして侍女の準備を阻まなければ! いやそれでは根本的な解決にならない! だいたいなぜ後妻? そんな者はいないのに……。ど、どどどどどうしよう。いなくなるって聞いただけで悲しい。死にたい……うう】 4万文字ぐらいの中編になります。 ※小説なろう、エブリスタに記載してます

断罪

宮下里緒
ファンタジー
三丸町、のどかでなんの変哲もない少し寂れた街。 それ以外の特徴なんてこれといってないはずだった。 街の一角にある時実養護施設、身寄りのない子供たちを預かるその施設の院長が死んだ。 それを皮切りにしたかのように次々と起きる凶悪な事件。 呪われたように街に惨劇が降り注ぐ。 そして少年少女は真実にたどり着く。 『罪には罰を』 誰かがそう言った。

無自覚な少女は、今日も華麗に周りを振り回す。

ユズ
ファンタジー
15歳の誕生日を迎えた愛菜に待っていたのは、アイシャーナ・ウィステリアという異世界の公爵令嬢の赤ちゃんになるというものだった。けれど前向きな愛菜は「あ、例の異世界転生!え?私死んだっけ?ま、いっか!ふふっ、人生楽しまなき損なんだから!!」と、あっさり受け入れてしまう。 こんな女の子でも案外役に立つ…? これは無自覚才女で天然でチートな愛され少女が楽に生きるために頑張り(しかし斜め上へ行く)、周りを振り回すお話。 *小説家になろう様にも投稿しています

今日も聖女は拳をふるう

こう7
ファンタジー
この世界オーロラルでは、12歳になると各国の各町にある教会で洗礼式が行われる。 その際、神様から聖女の称号を承ると、どんな傷も病気もあっという間に直す回復魔法を習得出来る。 そんな称号を手に入れたのは、小さな小さな村に住んでいる1人の女の子だった。 女の子はふと思う、「どんだけ怪我しても治るなら、いくらでも強い敵に突貫出来る!」。 これは、男勝りの脳筋少女アリスの物語。

【完結】本当に愛していました。さようなら

梅干しおにぎり
恋愛
本当に愛していた彼の隣には、彼女がいました。 2話完結です。よろしくお願いします。

婚約破棄ですか???実家からちょうど帰ってこいと言われたので好都合です!!!これからは復讐をします!!!~どこにでもある普通の令嬢物語~

tartan321
恋愛
婚約破棄とはなかなか考えたものでございますね。しかしながら、私はもう帰って来いと言われてしまいました。ですから、帰ることにします。これで、あなた様の口うるさい両親や、その他の家族の皆様とも顔を合わせることがないのですね。ラッキーです!!! 壮大なストーリーで奏でる、感動的なファンタジーアドベンチャーです!!!!!最後の涙の理由とは??? 一度完結といたしました。続編は引き続き書きたいと思いますので、よろしくお願いいたします。

孫のいじめを無視した学園にぶちキレた元最凶魔女。今ふたたび大暴れする!

とうちゃんすらいむ
ファンタジー
「伝統を重んずる我が学園に於いて、いじめなどあるはずがありません」 「我が学園の優秀な生徒が、個人授業という稽古をつけた事が原因かと考えられます」 「今回、お孫さんのいじめについての相談ということでございますが、あくまで友人同士の稽古の延長上で起こってしまったことでございますので、いじめと言うものはそもそも無かったと、当学園は判断いたしました」 「ただ、お孫様のように偶然が生んでしまった事故により、怪我をさせてしまったこと、大変申し訳なく思います。教師一同、管理不行き届きがありました事、誠に申し訳ありません」 そう言うバーコードハゲ教頭と、イケメソ三十代校長に軽く頭を下げられながらも、目では早く帰れ!モンペが!と言われたアタクシ80代元魔女。 そっちがその気なら… わかった。 コンナバショ、マゴニハイラナイ… コワソウ… コロソウ… ナクシテシマオウ… 理不尽な理由でいじめを受けた孫を気にして、学園に事実確認したものの、ぞんざいな扱いを受け、血気盛んな若かりし頃を思い出してしまったお婆さんは、今再び、その力を取り戻すのでありました。 思いつきのショートショートから始めたこちらの作品ですが、思った以上に反応があったため、長編として物語を書き直しています。 あちらこちらを少しずつ直していますので、見苦しい点が多々あるかと思いますが、よろしくお願いいたします。 とうちゃんすらいむ

処理中です...