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第1章
始まりの縁
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今年もこの季節がやってきた。
文化祭だ。
学校全体がお祭りムードとなっていて、
皆、浮かれ気分で、自分たちの企画を作り上げようと躍起になっている。
それもそのはず、今年は学校創立40周年。
学校側も大変に気合いを入れて、生徒達に文化祭を盛り上げるよう踊らせている。
生徒達もそれはそれは面白そうに踊らされている。
くだらないなと思うが、それが人間ってもんだ。
大抵の人は、非日常的な世界には快感を覚えてしまうということだ。
俺はこのクラス、3-4の学級委員をしているが、基本的には冷めているタイプである。
あまり多くの人と深い関係を持たないし、騒いだりするのも好きではない。
だが、周りに上手く話を合わせ、空気を読んで、上手く立ち回って生きてきたため、ヘイトを受けたことはない。いや、むしろ好意的に受け入れられているはずだ。
さて、そろそろ手伝うか。
自分の評価のために。
そう思った矢先、担任の藤崎が、教室に入ってきた。
何気なく藤崎の方を一瞥する。
ん??藤崎の様子がおかしい。
藤崎は、まるで葬式にでも参加するかのような暗い表情をしている。
浮かれる教室と藤崎の対比は、まるで芸術の域に達しているようにも見える。
その表情を見て、おれは笑みを浮かべてしまった。
藤崎は、重く口を開いた。
「おい、みんな、聞いてくれ。」
藤崎は20代の若い男性教師だ。
程よいイケメンで、普段、特に女子生徒達からすごく慕われている。
そのため、藤崎の話には、皆、素直に耳を傾ける。
「先生、どうしたのー?」
ギャル風の容姿で、発言権が大きく、常にクラスの中心にいる人気者、栗田谷美穂が尋ねる。
「みんな、ごめん。
先生、3-4の分の文化祭活動費を無く
しちまった。」
藤崎の、誰も予想だにしない発言にクラス全体が葬式のような雰囲気になる。
お祭りムードがどこかへ消えた。
「先生、どうするの?」
教室の隅で携帯ゲームをしていた、地味なグループの長野葉が発言する。
「いくら無くしたの?」
「ほぼ全額だ。
7万5000」
この学校では文化祭を行う際、始めに、文化祭の準備のためにまずは各クラス一律8万円が配られる。そのため、その8万円を上手く使わないと、企画は成立させることが出来なくなる。
3-4では、ケバブを売ることになっていた。
高校生が考えそうな幼稚な案ではあり、
おれは反対だったが。
だが、ケバブを作るには材料を買う必要があるが、たった5000円の資金では、十分に買うことは不可能である。
委員長である俺はこの状況を打開しなければならない。
「おい、どうすんだよ。」
「なんか言えよ!」
「もう文化祭なんかやめようぜ。」
クラス中から、藤崎に向かって、怒号が飛び交う。
あぁ、金は人を変えるんだなぁ。
まぁおれがこの後ヒーローになるんだけど…
そんなことを思っていると、藤崎から声を掛けられた。
「なぁ、柴田、どうしたらいいかな?」
半泣きで今にも裏返りそうなか細い声で、藤崎は助けを求める。
予想通りだ。
生徒に助けを求める担任教師と、
その担任の窮地を救う生徒。
立場が逆転した。
さぁ、ここで別の企画を持ちかければ良い。
おれには秘策がある。
見てろよ…
「先生、泣かないで下さいよ。」
「そりゃ泣くだろ…
本当に申し訳ない…」
「別の企画をやればいいんですよ。
おれ、いい企画持ってますよ。」
クラスの視線がおれに向く。
そうだ。いいぞ。もっと注目しろ。
「あの企画を復活させればいいんですよ。」
「あの企画…?
まさか…!!」
藤崎は、困惑の表情を見せた。
「そうですよ!
"縁=円ゲーム"ですよ!」
そういうと、クラス中から歓声が上がった。
だが、藤崎だけは、浮かない顔をしていた。
なぜなら、この「縁=円ゲーム」は、いわくつきのゲームだからだ。
昨年の文化祭で、「縁=円ゲーム」は初めて開催された。
ルールは単純なもので、
参加者同士の「縁の深さ」をゲーム内の通貨=縁として使い、1時間耐久するというものだ。
だが、このゲーム参加中は、円は使えず、何か行動を起こすには、必ず「縁」が必要になる。
だが、「縁」の量は、10分に1回の、「縁測定」の結果によって運営クラスサイドから配給されるため、参加者の思ったほどの量にならないことがある。
このゲームにおいて、縁の量が少ない理由は一つ。
お互いの「縁」が薄いということだ。
お互い信頼しあっていると思っていた者同士が、たった1時間のゲームでバラバラになってしまう。
そうなった時、参加者たちの間には不信感が生まれ、人間関係が崩壊していく。
このゲームの面白さはここにあり、だが逆に、この結果が、ゲーム終了後まで響いたため、学校内で問題となり、昨年の文化祭終了後、次回以降は開催不可となったのだ。
だが、その伝説的な企画、「縁=円ゲーム」は、開催すれば必ず企画大賞を取れると言われているほどに人気なのである。
今回、おれは、その企画を行えるよう、
こういう状況を作り出した。
文化祭費を柴崎から奪ったのはおれであり、先生は、学級委員で、信頼の出来る、おれに助けを求めてくるだろう。
そこでおれから、"必ず文化祭企画大賞を受賞できる企画"を、クラス中に聞こえるように提案する。
金を無くした罪悪感から、この提案を断れないはずであり、また、クラス全体としては、企画大賞が取れるならそれでもいい、という空気になるだろう。
そう考えたのだ。
その結果「縁=円ゲーム」を行うことになった。
文化祭だ。
学校全体がお祭りムードとなっていて、
皆、浮かれ気分で、自分たちの企画を作り上げようと躍起になっている。
それもそのはず、今年は学校創立40周年。
学校側も大変に気合いを入れて、生徒達に文化祭を盛り上げるよう踊らせている。
生徒達もそれはそれは面白そうに踊らされている。
くだらないなと思うが、それが人間ってもんだ。
大抵の人は、非日常的な世界には快感を覚えてしまうということだ。
俺はこのクラス、3-4の学級委員をしているが、基本的には冷めているタイプである。
あまり多くの人と深い関係を持たないし、騒いだりするのも好きではない。
だが、周りに上手く話を合わせ、空気を読んで、上手く立ち回って生きてきたため、ヘイトを受けたことはない。いや、むしろ好意的に受け入れられているはずだ。
さて、そろそろ手伝うか。
自分の評価のために。
そう思った矢先、担任の藤崎が、教室に入ってきた。
何気なく藤崎の方を一瞥する。
ん??藤崎の様子がおかしい。
藤崎は、まるで葬式にでも参加するかのような暗い表情をしている。
浮かれる教室と藤崎の対比は、まるで芸術の域に達しているようにも見える。
その表情を見て、おれは笑みを浮かべてしまった。
藤崎は、重く口を開いた。
「おい、みんな、聞いてくれ。」
藤崎は20代の若い男性教師だ。
程よいイケメンで、普段、特に女子生徒達からすごく慕われている。
そのため、藤崎の話には、皆、素直に耳を傾ける。
「先生、どうしたのー?」
ギャル風の容姿で、発言権が大きく、常にクラスの中心にいる人気者、栗田谷美穂が尋ねる。
「みんな、ごめん。
先生、3-4の分の文化祭活動費を無く
しちまった。」
藤崎の、誰も予想だにしない発言にクラス全体が葬式のような雰囲気になる。
お祭りムードがどこかへ消えた。
「先生、どうするの?」
教室の隅で携帯ゲームをしていた、地味なグループの長野葉が発言する。
「いくら無くしたの?」
「ほぼ全額だ。
7万5000」
この学校では文化祭を行う際、始めに、文化祭の準備のためにまずは各クラス一律8万円が配られる。そのため、その8万円を上手く使わないと、企画は成立させることが出来なくなる。
3-4では、ケバブを売ることになっていた。
高校生が考えそうな幼稚な案ではあり、
おれは反対だったが。
だが、ケバブを作るには材料を買う必要があるが、たった5000円の資金では、十分に買うことは不可能である。
委員長である俺はこの状況を打開しなければならない。
「おい、どうすんだよ。」
「なんか言えよ!」
「もう文化祭なんかやめようぜ。」
クラス中から、藤崎に向かって、怒号が飛び交う。
あぁ、金は人を変えるんだなぁ。
まぁおれがこの後ヒーローになるんだけど…
そんなことを思っていると、藤崎から声を掛けられた。
「なぁ、柴田、どうしたらいいかな?」
半泣きで今にも裏返りそうなか細い声で、藤崎は助けを求める。
予想通りだ。
生徒に助けを求める担任教師と、
その担任の窮地を救う生徒。
立場が逆転した。
さぁ、ここで別の企画を持ちかければ良い。
おれには秘策がある。
見てろよ…
「先生、泣かないで下さいよ。」
「そりゃ泣くだろ…
本当に申し訳ない…」
「別の企画をやればいいんですよ。
おれ、いい企画持ってますよ。」
クラスの視線がおれに向く。
そうだ。いいぞ。もっと注目しろ。
「あの企画を復活させればいいんですよ。」
「あの企画…?
まさか…!!」
藤崎は、困惑の表情を見せた。
「そうですよ!
"縁=円ゲーム"ですよ!」
そういうと、クラス中から歓声が上がった。
だが、藤崎だけは、浮かない顔をしていた。
なぜなら、この「縁=円ゲーム」は、いわくつきのゲームだからだ。
昨年の文化祭で、「縁=円ゲーム」は初めて開催された。
ルールは単純なもので、
参加者同士の「縁の深さ」をゲーム内の通貨=縁として使い、1時間耐久するというものだ。
だが、このゲーム参加中は、円は使えず、何か行動を起こすには、必ず「縁」が必要になる。
だが、「縁」の量は、10分に1回の、「縁測定」の結果によって運営クラスサイドから配給されるため、参加者の思ったほどの量にならないことがある。
このゲームにおいて、縁の量が少ない理由は一つ。
お互いの「縁」が薄いということだ。
お互い信頼しあっていると思っていた者同士が、たった1時間のゲームでバラバラになってしまう。
そうなった時、参加者たちの間には不信感が生まれ、人間関係が崩壊していく。
このゲームの面白さはここにあり、だが逆に、この結果が、ゲーム終了後まで響いたため、学校内で問題となり、昨年の文化祭終了後、次回以降は開催不可となったのだ。
だが、その伝説的な企画、「縁=円ゲーム」は、開催すれば必ず企画大賞を取れると言われているほどに人気なのである。
今回、おれは、その企画を行えるよう、
こういう状況を作り出した。
文化祭費を柴崎から奪ったのはおれであり、先生は、学級委員で、信頼の出来る、おれに助けを求めてくるだろう。
そこでおれから、"必ず文化祭企画大賞を受賞できる企画"を、クラス中に聞こえるように提案する。
金を無くした罪悪感から、この提案を断れないはずであり、また、クラス全体としては、企画大賞が取れるならそれでもいい、という空気になるだろう。
そう考えたのだ。
その結果「縁=円ゲーム」を行うことになった。
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