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第009話:中級狩人になりました

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 〈明星〉のメンバーたちが野営をしてくれたお陰で、俺はグッスリと眠ることが出来た。その御礼として朝食のお返しをするつもりだ。「朝食」…… それは一日の始まりであり、その日の出来不出来を決める重要な存在である。俺の大好物「コンビーフ・ホットサンド」、気合を入れて作りますか!

 まずキャベツを千切りに、玉葱を薄くスライスする。フライパンで牛脂を溶かし、軽く炒める。塩コショウも軽く振る。次に、ボウルにコンビーフ、マヨネーズ、粒マスターを入れてよく混ぜる。ちなみにマヨネーズはもちろん、キューピットな人形マークのヤツだ。地球で一番旨いマヨネーズである。海外産のような、全卵と酸度の高いビネガーを使ったマヨなど喰えたもんじゃない。当然ながら、この世界の食材でマヨを作るなど言語道断である。
他に人がいるので、フードプロセッサーは使えない。手捏ねでよく混ぜる。コンビーフ&マヨが出来たら、いよいよ食パンの出番だ。
 直火用ホットサンドメーカーに食パンを並べ、スライスチーズを載せる。そこに炒めたキャベツと玉葱、続いてコンビーフを盛り付けていく。最後に食パンを上から挟んで。ホットサンドメーカーの蓋を閉じる。

「この火力なら、表面三分、裏面一分といったところかな?」

 取っ手を持って、焚き火で炙る。三分経ってひっくり返し、一分炙る。パンの芳ばしさの中に、コンビーフやマヨネーズが溶け、ホットサンド独特の美味そうな香りが漂ってくる。明星のメンバーたちは、今か今かと膝を揺すっている。

「よし! 良い感じだ」

 木のまな板にホットサンドを置き、斜めに包丁を入れて三角形にする。それを皿に盛って完成だ。

「ホイッ! カトー特製コンビーフ・ホットサンドです! まだまだ焼きますよ!」






 俺は、湯気を昇らせているパンを手にした。ホットサンドという食べ物らしい。鼻に近づけ匂いをかぐ。上質な白パン特有の、丁寧に発酵させた小麦の香り、肉叩きで細かく潰したような肉からは透明な汁が滲み出ている。酢のような、酸味を感じさせる匂いがするが、肉汁や玉葱の香りと混ざって実に美味そうに感じる。口を開け、角の部分を少し齧ってみる。

 カリリッ

 淵の部分はカリカリに焼かれていた。だが焦げている訳ではない。しっかりとパンの味がする。他のメンバーたちが相好を崩している。気の強いリフィナが頬に手を当て、幸せそうな表情を浮かべている。自分も一気に齧る。三角形の辺の部分はカリカリだが、パンはサクッと舌歯ごたえの後、モッチリとした食感に変わる。それと同時に、口中に肉と野菜の旨味が溢れる。塩味、酸味、甘味のあるソースによって肉と野菜が一体となり、上質な白パンがソレを包み込むことでいつまでも旨味を感じることができる。

「これは……凄い料理だな」

「ウム。人よりも長く生きる儂ですら、これほどの料理は初めてじゃわい」

 夢中になって食べてしまった。だが足りない。カトー氏が追加を焼き始めている。




 全員が夢中になっている。追加を焼きながら、飲み物も用意する。とは言っても、ただのインスタント・コーヒーだ。白いマグカップを人数分用意する。

「うん。やっぱり朝はホットサンドとコーヒーだな。森の中で鳥の啼声や木の葉のせせらぎを聞きながら、鉄鍋で焼くトーストは格別なものがあるな」

 ホットサンド二枚を胃袋に入れた俺達は、もう少し狩りを続け昼過ぎに森を立つことで合意した。




「な、なんだこれは?」

 狩人ギルドの裏手にある買い取り窓口の男が、口をあんぐりとさせている。石畳の床には、獲物が整然と並べられていた。

「一角ウサギ二七羽、突撃猪一九頭、ビッグカウ一七頭、スティングチキン四一羽、そして……」

 ドドンとひときわ大きな獲物が横たわっている。

「エビルベア三頭……有り得んだろ。なんだ、この量は?」

「フフンッ、どう? アタシたちでも、これだけの量は初めてよ?」

「いや、少しは考えて運んでこい。こんな量、いっぺんに捌き切れるわけねぇだろ! おい、大通りの肉屋に行って、人手借りてこい。三人は必要だ!」

 解体所の責任者は、目を怒らせながらも口元に笑みを浮かべ、若い男に指示した。

「どれもしっかり血抜きされてるな。それでいて状態も良い。これだけあれば、肉屋の連中も喜ぶだろ。腕がなるぜぇ……」

「スティングチキンは四一羽で銀貨二〇枚と銅貨五〇枚ね。一角ウサギは一羽で銅貨八〇枚だから、二七羽だと銀貨二一枚と銅貨六〇枚、突撃猪は一頭で銀貨三枚として一九頭で銀貨五七枚、ビッグカウは一頭で金貨一枚だから、一七頭で金貨一七枚。それで問題はエビルベアだけど……」

 鑑定専門の女性が一つずつ確認し、値を付けている。本来、こうした獲物は一頭ずつ値が変わるものだが、細かい計算が苦手な狩人が多いため、一つ幾らで計算するらしい。

「うーん……状態も良いし鮮度も十分だから、肝も売れそうね。金貨五枚、三頭で金貨一五枚。合計で、金貨三二枚と銀貨七九枚、銅貨三〇枚になるわ」

 オイゲンがヒュゥッと口笛を吹いた。フェスティオが俺に声を掛けてきた。

「分前の話なんだが……飯も馳走になったし、アンタが一番獲った。何より、運ぶのに収納袋を使わせてもらった。世話になりっぱなしで申し訳ないんだが……」

「構いませんよ。キッチリ五等分にしましょう」

「へ? いやいや! そりぇ、貰いすぎだ!」

 フェスティオは、パーティー明星と俺とで折半を考えていたようだが、この一日で色々と情報を聞くことが出来たし、気配察知も出来るようになった。何よりリフィナのプルプルで目の保養をさせてもらった。報酬としては十分である。話し合いの末、フェスティオはなんとか了承したが、代替案を示してきた。

「ならせめて、ポイントはアンタが付けてもらってくれ。俺たちは上級狩人だが、アンタは初級だろ? お前らも、ソレで良いな?」

「良いわよ。上級になれば、ポイントなんてあんまり気にしないし……」

「あぁ……そういえばポイント制だったな。幾らになるんだろ?」

 女性に顔を向けると、ニッコリと微笑んだ。

「スティングチキンと一角ウサギで六八ポイント、突撃猪で五七ポイント、ビッグカウで八五ポイント、エビルベアは一頭で二〇ポイントですので、三頭で六〇ポイント……合計二七〇ポイントですね。中級狩人への昇格、おめでとうございます」


 フェスティオは気の良い奴で、分前の端数も渡してくれた。革袋に、金貨六枚と銀貨五六枚を入れる。ギルドを出たときには、もうすっかり日が暮れていた。

「短い間だったが、楽しかったです。狩人のことも色々と学べました。お世話になりました」

 俺はそう言ってフェスティオに手を差し出した。

「俺もだ。おかげで大儲けした。なぁ、俺達のパーティーに入らないか? 今日で中級狩人になったんだし、狩りだけで十分に儲けられるぞ?」

 握手を交わしながら、フェスティオが誘ってくる。少し考えたが、俺は首を振った。

「お誘いは嬉しいのですが、私はこの街にずっと留まる気は無いんです。他の街にも行ってみたいし、冒険もしてみたいと思います。手伝いが必要になったら、声を掛けてください。出来る範囲で、お手伝いしますよ」

「……そうか。残念だ。だがお前なら、超一流の冒険者になれるだろうよ」

 フェスティオは名残惜しそうに手を離した。他のメンバーとも握手を交わし、俺は宿へと歩き始めた。名残惜しいのは自分もそうだ。だが、この世界に来たばかりで「居場所」を決めてしまうのは早いと思ったのだ。

「縁があれば、また会えるだろう。さて、晩飯は何にするかな」

 入り口の前で空を見上げ、そして宿に入った。

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