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第004話:のじゃロリは(一応は)神らしい

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 ホットドッグの屋台を始めてから五日が経った。他の屋台から文句をつけられるのが心配なので、限定二〇〇本だけにしている。一日あたりの売上は金貨一枚、一〇〇〇ルドラだ。商工ギルドに確認したところ、屋台全体の中では中の上程度の売上らしい。ただ時間効率を考えると圧倒的だ。他の屋台が朝夕とやっているのに比べ、俺は朝だけ、それも二時間程度で二〇〇本を売ってしまう。残りの時間は王都見学に充てていた。ちょっとした旅行者気分である。

「ふーん。異世界だから未知の野菜が溢れていると思っていたけど、結構似てるんだなぁ」

 この数日間、俺は異世界の食材を研究していた。人参やトマト、カボチャなどは多少の形に違いはあったが、味はよく似ていた。ニンニクや生姜、ネギなどの香味野菜類もある。もっとも、俺がいた日本のような、ブランド野菜などは存在していないようだ。それに加工食品が壊滅的に少ない。

「ベーコンやソーセージはあったが、味噌や醤油、豆腐は無いな。あとチーズの種類も少ない。それにしても、肉類がやたら豊富なんだよな」

 肉に関しては、完全にお手上げであった。そもそも「魔物の肉」などは元の世界には無かった。少しずつ試してみるが、牛豚鶏のような代表的な肉は、それぞれ「ビッグカウ」「突撃猪」「スティングチキン」として売られている。味としては、スーパーで普通に売られている肉に近いものだった。だが値段を比べると、異世界から取り寄せたほうが安い。ではこの世界の人々は何を食べているかというと、黒パンと野菜、あとは川魚や豆類などである。俺が出しているホットドッグは、この世界では白パンという高級食材だ。庶民は中々、口にできない。

「なるほど。そりゃ俺の屋台が人気になるのも解るわ。もっとも、値上げはしないけどね」

 高級食材を使った最高に美味い一品を庶民のお手軽価格で! キャッチコピーを思い描きながら店を巡っていると、武器屋らしき店についた。

「武器か。狩人ギルドには登録していないが……」

 そもそも日本人である俺は、武器なんて目にすることはまず無い。刃物といえば包丁である。だからこそ、異世界で初めて目にした「武器屋」に興味を持った。




「狩人になるんなら、剣じゃなくて弓を鍛えるべきだぜ?」

 口髭を生やした武器屋の店主の話を聞き、思わず納得してしまった。ファンタジーといえば剣を使って魔物を倒すシーンが多いが、それは非現実的である。人類も、遥か太古から狩りでは弓矢を使っていた。剣で熊を殺すなど、常識で考えて有り得ないだろう。

「まぁ、冒険者の場合は、剣や槍を使う奴も多い。ダンジョンでは、人型の魔物が出たりするからな。だが突撃猪を狩るんなら、はやり弓が一番だ」

 そう言って、店主は一張りを机上に置いた。木製の「ありがちな弓」に見える。結構大きく、俺の腰下から頭を超えるほどに大きい。持ってみると相当な重さであった。

「コイツは初心者用の弓だ。金貨三枚とお得で、ギルドでも推奨している。コイツを持っていけば、ギルドで弓の指導が受けられるぞ。狩人を目指すんなら、コイツから始めると良いだろう」

「こんな重いのか? よくコレで狩りなんて出来るな」

「なに言ってるんだ? これはかなり軽いぞ。コレが重いなんて、ヤワ過ぎるんじゃねぇか?」

 そう言って店主が出てきた。俺の腕や腰、足をパンパンと叩く。そして呆れたように溜息をついて、首を振った。

「狩人は諦めろ。お前さんは弱すぎる。そんな貧弱な筋肉じゃ、弓を引くことさえ出来ねぇよ。どうしても狩人になりてぇんなら、まずは身体を鍛えるんだな」

 ニベもない言い方に少し腹をたてた俺は、ムキになって弓を引こうとした。途中までは引けるが、そこで止まってしまう。どうやら俺は貧弱だったようだ。店主に弓を返し、トボトボと宿場に戻った。

(あの駄女神めぇ~ 何が加護を与えるだ! こんな貧弱な身体にしやがって!)

 文句を言いたくなり、俺はスキルを発動させた。




「努力をせずして結果だけを得ようなどと、そんなモノを神である妾が認めるわけなかろう?」

 スキル「アルティメット・キッチン」を使ってヘスティアを呼び出した俺は、文句どころか説教を受けてしまった。

「汝の肉体は不老であり、鍛えれば鍛えるほどに強くなる。天才的な才能も与えた。常人が十年掛かって修得する技能も、汝であれば数ヶ月で修得できよう。じゃが、それらは全て機会であって結果ではない。どれ程の才能を持とうとも、努力によってそれを磨かねば意味はないのじゃ。神の加護とは〈機会を与える〉ことであり、〈結果を保証する〉ことではないぞ。勘違いするでないわ」

「……そうだな。その通りだ。初めてお前が神らしく見えたよ」

「ウム、妾の偉大さを良く噛みしめるのじゃぞ? それで、今日は何を作るのじゃ?」

「え? いや、特には……」

「ほほう? まさか的外れな文句を言うためだけに、怒鳴り声で妾を呼び出したと言うのではあるまいの? 傲岸不遜も甚だしい。神罰を与えてやろうかの?」

 ヘスティアの目が細まる。ゾクッと背中が震えた。食いしん坊の「のじゃロリ」であっても、相手は「神」なのだ。平頭して然るべき存在である。

「悪かったよ。ちょうど、新しい商品を作ろうと思ってたんだ。ホットドッグだけなら、客も飽きるだろうからな」

 そう言って俺は、新たな食材を取り寄せた。




「中華蒸し麺(細め)、キャベツ、玉ねぎ、豚バラ肉、鰹節粉末、ウスターソース、旨辛ソース、紅生姜、マヨネーズにカラシ…… 青海苔は止めておくか」

 金属製の作業台に食材を次々と置いていく。キャベツはザク切り、玉ねぎは薄めのくし切りにする。豚バラ肉も小さめに切っておく。中華蒸し麺をサッと湯に潜らせ、よく水気を切ってボウルに入れ、ラードを軽く馴染ませる。鉄板に、刷毛でラードを塗り軽く煙がたつくらいまで加熱する。人参、キャベツ、豚バラ肉を炒め、塩コショウを振る。野菜に八分ほど火が通ったら麺を投入し、混ぜる。ウスターソース、旨辛ソース、鰹節粉末を混ぜた調味液を回しかけ、香りを引き出す。

「なにやら良い香りがするのじゃぁ~」

「ソースと脂が混じったこの香りは、食欲増進作用があるからな。よし、コレをバットに移して……」

 ホットドッグ用のバンズを取り出し、切れ込みにソース焼きそばを詰め、刻んだ紅生姜と辛子マヨネーズをかける。

「ホイッ! 焼きそばパンの完成だ。美味いぞ?」

 ヘスティアは出来たての焼きそばパンを手にすると、頭から齧りついた。サクサクに焼かれたパンの香ばしさと、モッチリした麺、ウスターソースの香ばしい匂いとピリッとした辛さ、辛子マヨネーズの酸味と旨味が口の中に弾ける。

「むはぁぁっ! 美味いのじゃぁっ」

 パクパクと食べる少女の姿に思わず笑みが浮かぶ。自分でも試食してみる。うん、上出来だ。だがもう少し改善できるかもしれない。バンズの切り口にマーガリンを軽く塗るか。あと麺も湯通しする前に、半分に切っておこう。そうすると食べやすくなるはずだ。

「原価は、業務用蒸し麺が百人分で三〇〇〇円、キャベツ二玉四〇〇円、玉ねぎはキロ二〇〇円、豚バラ肉がキロ千円だな。バンズ一本で六〇円だから、調味料など諸々込みで一本あたりの原価は一二〇円程度かな。コレも売価は、銅貨五枚といったところか。もう一種類、作っておこうかな」

 残った焼きそばを無断で食べているヘスティアを横目に、俺は新たなメニューを考えていた。






 日雇労働者のジョシュアは、最近お気に入りの屋台へと向かった。高級な白パンに香辛料を使って炒めた葉野菜、腸詰め肉、トマト風味のソースとツンとした辛味のあるソースをかけた「ホットドッグ」という食べ物だ。銅貨五枚だが、手軽に食べれるし腹持ちも良い。労働ギルドの中でも話題になっている。

「しかし、こうも毎日食べていると、さすがに飽きてくるな……」

 するとその屋台に、新しい「ノボリ」が出ていた。「〈焼きそばドッグ〉〈玉子ドッグ〉始めました」と書かれている。

「いらっしゃい、いらっしゃ~い! 新メニューだよぉ!」

 これまでとは違う香りに、思わず鼻をヒクつかせる。列に並んでいると、自分の順になった。

「いつも有難うございます! 新しいメニューですよ!」

 葉野菜や玉ねぎが入った小麦麺パスタのようなものを鉄板で炒め、そこに焦げ茶色のソースを掛けている。ジョシュアは匂いにつられ、一個五ルドラの焼きそばドッグと玉子ドッグを注文した。

「これは、茹でた玉子と酢漬けの胡瓜を混ぜたものか? この酸味のあるソースは……」

 ピクルスの爽やかな酸味と玉子の甘み、そして焼いた白パンの香ばしい味が一体となり、未知の旨味が口内に広がる。どうやらチーズも挟まっていたようで、食べごたえは十分だ。
 続いて焼きそばドッグを食べる。玉子ドッグとは違い、辛味とコクのあるソースが前面に出てくる。薄黄色のピリッとしたソースがアクセントになり、パスタの甘辛さを引き立てる。

「美味いっ! これも毎日食べれそうだ!」

 新たな楽しみにであったジョシュアは、上機嫌で職場に向かった。




〈玉子ドッグ:材料及び原価 一〇〇人分〉
1.鶏卵一五〇個 三五〇〇円
2.マヨネーズ  七〇〇円
3.ピクルス 八〇〇円
4.ナチュラルチーズ 一〇〇〇円
5.バンズ 六〇〇〇円
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