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第1章 小さな転生者

1ー3 モードレッドとの生活

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「急に大きな声を上げるなばかもの、びっ、ビックリするではないか」

  モードレッドが俺の大声にマジでビビる。

「それにしてももうはっきり話せるようになるとはのう、これも内蔵魔力が高いおかげなのか」

「内蔵魔力?そう言えば俺と初めてあった時もそんなことを言ってなかったか?」

「お主あの時の記憶があるのか!?なるほどこれは珍しい」

  魔女っ子モードレッドは考え込むようにして腕を組み指を顎に当てている。

  この数年で俺はモードレッドに様々なことを教えて貰った。

  正確にはモードレッドの生活、行動、言動から推測したに過ぎないのだが……

  この世界は俺らの世界ではない。

  まぁ俗にいう異世界とか言うやつだ。

  モードレッドに出会った時はこの幼女がマジで厨二病だと思っていたが、どうもこいつは本当の魔女らしい。

  しかも、この世界には魔女や魔導師に序列が存在し、その中でも実力の高い上位十人はダイヤモンド級と呼ばれ、それぞれが国の大隊規模以上の力を持っていると言われている。

  そしてこのモードレッドは何と序列で言うと四番目。

  すなわちこの世界で四番目にすごい魔導師という訳である。

  本人曰く内蔵魔力はダイヤモンド級の中では一番らしい。

  内蔵魔力とは元々魔導師に備わる魔力の絶対値の事で、訓練などでこれが上昇することもあるらしいが、その量は人によって違うとの事だ。

  先程からモードレッドが、俺に対して言っているのはこの数値が異常らしいということだ。

「ここ数年モードレッドと生活して見たこと、聞いたことはすべて覚えているよ」

「ほほう、これは下手するとわしよりも内蔵魔力が上かもしれんのう……」

  自分よりも内蔵魔力のある人間はこの世界には存在しない。

  モードレッドはずっとそう思っていたが、たまたま拾った赤ん坊にそれを追い抜かれる。

  彼女自身四百年ほど生きているが、こんなに心躍る体験は生まれて初めてなのである。

  魔力が生まれながらに多い子供は幼少期のことをはっきりと記憶しているという特徴がある。

  これはモードレッドの家にある本で読んで知った。

  他にもモードレッドは莫大な量の本を所有しており、彼女が留守にしている間に読んでいた。

「よかろう、今日から主に魔法を教えてやる」

  元々そのつもりだったのだろう。

  初めて会った時から彼女は俺の素養に気づいていた。

「はぁ、じゃあよろしくお願いします」

「なんじゃ!その気の抜けた返事は!」

  まだ幼い俺に向かって言い放つ言葉じゃ無いよねそれ?

「よろしくお願いします!」

  改めてしっかりと挨拶をする。

  社会人の基本だな。

  まぁ俺は5歳児なのだが……

  それからモードレッドとの特訓が始まった。





 時は流れてさらに五年後。

 俺は十歳になっていた。

「師匠、今日の課題終わりました」

  師匠とはもちろんあのロリ魔女の事で、不思議なことに十年経った今でもその容姿が変わることは無い。

  気になってその事を聞いて見たことがあったが、その時は半殺しにされた。

  何で師匠はずっとツルペタ幼女のままなんですか?

  そう聞いた直後に家ごと燃やされた。

  それ以来自然に敬語を使うようになっていた。

  あの時は……うん、思い出さないでおこう。

「そうか、なら今日は自由にしてよいぞ」

「ありがとうございます。師匠は何をしているのですか?」

「うむ、王国から依頼された魔術書の解読に手間取っていての、見たこともない術式で手こずっておる」

  王国とは師匠と俺の住むこの家(立て直し後)がある森に隣接するロードラント王国のことだ。

  師匠はこの王国からの依頼をたまに受けその報酬で生計を立てているようだ。

  もちろん俺を養うためにしている事だから、俺もたまに手伝わされる。

「確かに見たこともない術式ですね」
  
「はぁー、無理じゃ、無理じゃ!珍しくあの国王が報酬に百万ガルド出すと言ってきたから受けた依頼じゃったが、まさかこんな代物を押し付けられるとは思っとらんかったわい」

  ロードラント国王と師匠は古くからの知り合いらしい。

  まぁ魔導師ランク四位なら国王の一人や二人と知り合いだったところで不思議はないのだが。

「わしは街に出て買出しに行ってくる、なにか必要なものはあるか?」

「いえ、特に無いです」

  そうか、と後ろ手を振り小さな師匠は家を出ていった。

  なんかサラリーマンみたいだな。

「さてと、何をするかな」

  最近は師匠からの課題が早く終わるようになっていた。

  成長しているのだろう。

  俺は選択肢を頭の中に巡らせる。

  その一、師匠のパンツを漁る。

  いや、ダメだ見つかったら殺される。

  昔はなんとも思わなかったが、十代に入った頃から俺の性欲はバーストし始めた。

  よく考えてみたら幼女と二人っきりの生活だ。

  我慢出来ない方がおかしい。

  ……一応言っとくけど、ロリコンじゃないからね。

  その二、俺も街に繰り出す。

  でもそれなら師匠も買出しに行った時に一緒に付いて行ったら良かったと後悔。

  何となく行く気を無くす。

  じゃあその三。

  暇つぶしに師匠が残した魔術書を読んでみる。

  まぁすることもないからな、いいだろう。

  改めて例の魔術書を手に取る。

  見たこともない術式が何ページにも渡って綴られている。

  ん?

  なんだかこれ見たことあるぞ?

  見たことは無いはずだった。

  少なくともこの世界ではー

  だが俺には元いた世界でプログラミングという技術を習得していた。

  自分で言うのもなんだが、元エリートだ。

  この術式はまさにそれに似通ったものがある。

「なるほど、なるほど。これが起動シークエンスになるのか、そしてここが発動シークエンス……」

  構造は大方理解出来た。

  俺はおもむろに外に飛び出し試しに術式を地面に書き出す。

  なるほど、普段から師匠の魔術を見てきて、仕組みが分からなかったが、ようやく今それが理解出来た。

「これで完成か!」

  と、同時に魔法陣が輝き出した。

「おお!初めて自分で、それも一人で魔法陣を書けるようになったぞ、俺やれば出来る子」

  あとはこれを発動させるだけだな。

  せっかくなので魔力を注いで発動させてみるか。

  俺は魔法陣の中心に魔力をつぎ込む。

  魔法陣はさらなる輝きを放ち発動シークエンスに入る。

  俺はドキドキしていた。

  初めての魔法だ。

  どんなものなのだろう。

  ーしかしこの時やめれば良かったと思い知る。

  魔法陣は正しく正確にその魔術を発動させた。

  その瞬間見たこともない光が辺りを包む。

  かなりの熱量が魔法陣から放出された。

  ー気がつくと俺は荒地に一人たっていた。

「ん?俺は確か師匠の家の前で……」

  俺はここで全てを悟る。

  のだ。

「あれ……。やっちまった感じ?」

  様々な感情が渦巻く中、俺はしばらくそこから動けなかった。
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