とある断罪劇の一夜

雪菊

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(準備は万端なんだよ)
 べ、と心の中で舌を出し顔はにっこりと微笑んで見せる。
「いじめ、といわれましても身に覚えがございませんわ。証拠はございますの?」
「アンジェラがお前にいじめられたと言ってるんだ!!アンジェラを疑うというのか!」
 怒鳴る王子にはあ、とため息をつく。ちらりと天井を見ればシャンデリアから野次馬幽霊たちがぶら下がっていた。
「わ、わたし、怖かったの……いつもあなたみたいな身分の低い方は殿下に相応しくないって言われて…!」
(いや、そりゃその通りなんだけど。殿下は国の王子様よ?当然妃は高位の令嬢になるに決まってんじゃん)
 正妃なら公爵令嬢か侯爵令嬢、側妃なら伯爵令嬢まで。それ以下でお手付きになるのは侍女もしくはそういう職業の女性だ。
「アンジェラ……たとえ男爵位だとしても俺の愛は君のものだ…!」
「ランディ…!」
 再び二人の世界に入り始めた。
「さようですか。ではアンジェラ様はどこか養子にいかれるのですか?」
「何故だ!」
「殿下の婚約者になるなら国法として男爵位は認められません。ならどこか侯爵家か公爵家にでも養子縁組をするしかないと思われますが?それとも私の知らぬ間に法が変わったのでしょうか?」
わざとらしく首を傾げてみせる。
「…!そんな法など無効だ!次期国王の俺が変えてやる…!」
「私のために法までも…!ランディ!ありがとう!」
「いやいや、おいおい……んんっ。それは陛下の許可がいるかと」
 思わず素で呟いてしまって咳払いで誤魔化す。
「いやそれより第一王子がいるだろ?」
 との声はどこからか。ランドフルが不機嫌そうに目を眇めた。
 何故かゲームでは第一王子が出てこない。ランドルフはあくまで第二王子なのだ。なのに未来の国王という空気になっている。
 というかすでに騎士団の団長候補なのだが現国王陛下が退位すれば騎士団を辞めて王位につくことになるだろう、と言われている。
 何故なのか。
(それは多分ヒロインがランドルフルートに入ったため)
 ゲームではハーレムルートを選んでも最終的に誰か一人を選ぶ。
 ランドルフを選んだ場合、第一王子には触れずランドルフが国王となりヒロインは王妃となる。
 ランドルフはメインヒーローでゲームのパッケージにはヒロインの手をとってエスコートするようなポーズで描かれている。
 多分主軸となるシナリオはランドルフルートなのだろう、何しろ王妃になれるのはランドルフルートだけだ。
(だから、現実でも彼が王になるような雰囲気になってる)
 エカテリーナの前世のゲームの知識の中では第二王子のランドルフが次期国王という認識だった。
 プレイ中もなんでランドルフは第二王子なんだろう?第一王子じゃないのか?と疑問だったしその設定の甘さが炎上に油を注いだ。
 その後隠しキャラにいるのではとかとあるキャラの攻略で出てくるとか噂が流れた。
 しかし兄弟であるはずのランドルフのルートでは出てこない以上別キャラの攻略で出てくるのはおかしいとなり
隠しキャラ説が濃厚となった。炎上騒ぎでユーザーが少なくまたネタバレになるため情報はあまり回ってこなかった。
 エカテリーナも前世でゲームの攻略を数人取りこぼしているので第一王子については謎のままだった。
 だがもちろんゲームに出てこないだけで第一王子は実際にいる。ゲーム内でどんなに空気だろうが実際には存在する。ちゃんと王位継承権第一位として。
 幼い頃から留学しているという名目だがどこかの国の人質なのかもしれない。王宮に行っても第一王子の話は出ないし聞ける雰囲気ではなかった。
「うるさい!国にいない兄など知るものか!!いいか、俺はこの女と婚約破棄をする!
そして新しい婚約者としてこのアンジェラ・キュロス男爵令嬢を迎える!わかったか!!」
「ちょっと待った!」
 芝居がかったランドルフのセリフに被るように声があがった。
「なんだ!?」
 じろりとランドルフが声の上がった方を見る。アンジェラは不安そうな表情になった。
「異議を申し立てます!」
 さらにもう一人声があがる。
 取り囲むようなギャラリーから二人の男子が進み出た。
「まて!俺もだ!」
 さらに1人。3名の男子生徒がランドルフとアンジェラの前に立つ。
 アンジェラの顔が青ざめているのにエカテリーナは気づき、小さく、かすかに笑う。
「思い通りってわけかぁ」
 シャンデリアからぶら下がる幽霊がにや、と笑って言う。それを無視してエカテリーナは男子生徒の後ろ姿にちら りと視線をやった。
 シャノン伯爵家長男アレック、ディード子爵家三男レイヤード、大商人ザルックの長男ザカルト。
「なんなんだ、貴様ら」
「アンジェラ、君、僕と一緒になるって言ってたあれは嘘なの?」
「俺にだって言ったよね?あなたと一緒になりたいのって」
「私あなたのお嫁さんになるわって俺に言ってくれたじゃん?」
3人がそうアンジェラに言いつのり、アンジェラはびくりと肩を震わせた。
「アンジェラがそんなこというわけないだろう!アンジェラは未来の王妃だぞ!」
「いや第一王子がいるだろって」
 ザカルトが言い返す。ザカルトの家は王家を畏れない。商売なんてどこでもできるという信条なのだ。
「だから兄は……!」
「俺がどうかしたか?」
 不意に声が響いた。ずい、と人込みをわけて出てきたのは黒髪黒目の長身の男だった。
 エカテリーナの隣に並び立つと前にいた三人の男子生徒が脇によけた。
「な、き、きさま東国の留学生ではないか!!人を馬鹿にするのもたいがいにしろ!」
「それはこっちのセリフだろ。兄の顔をもう忘れちゃったのか?」
「あ、兄の顔など3つに時に見て以来見てないわ!」
 エカテリーナの隣に並んだ長身の男。エカテリーナがちらりと見上げるとにこっと子供のように笑う。
「待たせたね、エカテリーナ」
 東国からの留学生シン。彼は前世の記憶もゲームの記憶も持つ協力者でこの国の第一王子だったのだ。
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