2 / 4
2
しおりを挟む(準備は万端なんだよ)
べ、と心の中で舌を出し顔はにっこりと微笑んで見せる。
「いじめ、といわれましても身に覚えがございませんわ。証拠はございますの?」
「アンジェラがお前にいじめられたと言ってるんだ!!アンジェラを疑うというのか!」
怒鳴る王子にはあ、とため息をつく。ちらりと天井を見ればシャンデリアから野次馬幽霊たちがぶら下がっていた。
「わ、わたし、怖かったの……いつもあなたみたいな身分の低い方は殿下に相応しくないって言われて…!」
(いや、そりゃその通りなんだけど。殿下は国の王子様よ?当然妃は高位の令嬢になるに決まってんじゃん)
正妃なら公爵令嬢か侯爵令嬢、側妃なら伯爵令嬢まで。それ以下でお手付きになるのは侍女もしくはそういう職業の女性だ。
「アンジェラ……たとえ男爵位だとしても俺の愛は君のものだ…!」
「ランディ…!」
再び二人の世界に入り始めた。
「さようですか。ではアンジェラ様はどこか養子にいかれるのですか?」
「何故だ!」
「殿下の婚約者になるなら国法として男爵位は認められません。ならどこか侯爵家か公爵家にでも養子縁組をするしかないと思われますが?それとも私の知らぬ間に法が変わったのでしょうか?」
わざとらしく首を傾げてみせる。
「…!そんな法など無効だ!次期国王の俺が変えてやる…!」
「私のために法までも…!ランディ!ありがとう!」
「いやいや、おいおい……んんっ。それは陛下の許可がいるかと」
思わず素で呟いてしまって咳払いで誤魔化す。
「いやそれより第一王子がいるだろ?」
との声はどこからか。ランドフルが不機嫌そうに目を眇めた。
何故かゲームでは第一王子が出てこない。ランドルフはあくまで第二王子なのだ。なのに未来の国王という空気になっている。
というかすでに騎士団の団長候補なのだが現国王陛下が退位すれば騎士団を辞めて王位につくことになるだろう、と言われている。
何故なのか。
(それは多分ヒロインがランドルフルートに入ったため)
ゲームではハーレムルートを選んでも最終的に誰か一人を選ぶ。
ランドルフを選んだ場合、第一王子には触れずランドルフが国王となりヒロインは王妃となる。
ランドルフはメインヒーローでゲームのパッケージにはヒロインの手をとってエスコートするようなポーズで描かれている。
多分主軸となるシナリオはランドルフルートなのだろう、何しろ王妃になれるのはランドルフルートだけだ。
(だから、現実でも彼が王になるような雰囲気になってる)
エカテリーナの前世のゲームの知識の中では第二王子のランドルフが次期国王という認識だった。
プレイ中もなんでランドルフは第二王子なんだろう?第一王子じゃないのか?と疑問だったしその設定の甘さが炎上に油を注いだ。
その後隠しキャラにいるのではとかとあるキャラの攻略で出てくるとか噂が流れた。
しかし兄弟であるはずのランドルフのルートでは出てこない以上別キャラの攻略で出てくるのはおかしいとなり
隠しキャラ説が濃厚となった。炎上騒ぎでユーザーが少なくまたネタバレになるため情報はあまり回ってこなかった。
エカテリーナも前世でゲームの攻略を数人取りこぼしているので第一王子については謎のままだった。
だがもちろんゲームに出てこないだけで第一王子は実際にいる。ゲーム内でどんなに空気だろうが実際には存在する。ちゃんと王位継承権第一位として。
幼い頃から留学しているという名目だがどこかの国の人質なのかもしれない。王宮に行っても第一王子の話は出ないし聞ける雰囲気ではなかった。
「うるさい!国にいない兄など知るものか!!いいか、俺はこの女と婚約破棄をする!
そして新しい婚約者としてこのアンジェラ・キュロス男爵令嬢を迎える!わかったか!!」
「ちょっと待った!」
芝居がかったランドルフのセリフに被るように声があがった。
「なんだ!?」
じろりとランドルフが声の上がった方を見る。アンジェラは不安そうな表情になった。
「異議を申し立てます!」
さらにもう一人声があがる。
取り囲むようなギャラリーから二人の男子が進み出た。
「まて!俺もだ!」
さらに1人。3名の男子生徒がランドルフとアンジェラの前に立つ。
アンジェラの顔が青ざめているのにエカテリーナは気づき、小さく、かすかに笑う。
「思い通りってわけかぁ」
シャンデリアからぶら下がる幽霊がにや、と笑って言う。それを無視してエカテリーナは男子生徒の後ろ姿にちら りと視線をやった。
シャノン伯爵家長男アレック、ディード子爵家三男レイヤード、大商人ザルックの長男ザカルト。
「なんなんだ、貴様ら」
「アンジェラ、君、僕と一緒になるって言ってたあれは嘘なの?」
「俺にだって言ったよね?あなたと一緒になりたいのって」
「私あなたのお嫁さんになるわって俺に言ってくれたじゃん?」
3人がそうアンジェラに言いつのり、アンジェラはびくりと肩を震わせた。
「アンジェラがそんなこというわけないだろう!アンジェラは未来の王妃だぞ!」
「いや第一王子がいるだろって」
ザカルトが言い返す。ザカルトの家は王家を畏れない。商売なんてどこでもできるという信条なのだ。
「だから兄は……!」
「俺がどうかしたか?」
不意に声が響いた。ずい、と人込みをわけて出てきたのは黒髪黒目の長身の男だった。
エカテリーナの隣に並び立つと前にいた三人の男子生徒が脇によけた。
「な、き、きさま東国の留学生ではないか!!人を馬鹿にするのもたいがいにしろ!」
「それはこっちのセリフだろ。兄の顔をもう忘れちゃったのか?」
「あ、兄の顔など3つに時に見て以来見てないわ!」
エカテリーナの隣に並んだ長身の男。エカテリーナがちらりと見上げるとにこっと子供のように笑う。
「待たせたね、エカテリーナ」
東国からの留学生シン。彼は前世の記憶もゲームの記憶も持つ協力者でこの国の第一王子だったのだ。
91
お気に入りに追加
124
あなたにおすすめの小説
今、婚約破棄宣言した2人に聞きたいことがある!
白雪なこ
恋愛
学園の卒業と成人を祝うパーティ会場に響く、婚約破棄宣言。
婚約破棄された貴族令嬢は現れないが、代わりにパーティの主催者が、婚約破棄を宣言した貴族令息とその恋人という当事者の2名と話をし出した。
婚約破棄で見限られたもの
志位斗 茂家波
恋愛
‥‥‥ミアス・フォン・レーラ侯爵令嬢は、パスタリアン王国の王子から婚約破棄を言い渡され、ありもしない冤罪を言われ、彼女は国外へ追放されてしまう。
すでにその国を見限っていた彼女は、これ幸いとばかりに別の国でやりたかったことを始めるのだが‥‥‥
よくある婚約破棄ざまぁもの?思い付きと勢いだけでなぜか出来上がってしまった。
どうでもいいですけどね
志位斗 茂家波
恋愛
「ミラージュ令嬢!!貴女との婚約を破棄する!!」
‥‥と、かつての婚約者に婚約破棄されてから数年が経ちました。
まぁ、あの方がどうなったのかは別にどうでもいいですけれどね。過去は過去ですから、変えようがないです。
思いついたよくある婚約破棄テンプレ(?)もの。気になる方は是非どうぞ。
婚約破棄されたから、とりあえず逃げた!
志位斗 茂家波
恋愛
「マテラ・ディア公爵令嬢!!この第1王子ヒース・カックの名において婚約破棄をここに宣言する!!」
私、マテラ・ディアはどうやら婚約破棄を言い渡されたようです。
見れば、王子の隣にいる方にいじめたとかで、冤罪なのに捕まえる気のようですが‥‥‥よし、とりあえず逃げますか。私、転生者でもありますのでこの際この知識も活かしますかね。
マイペースなマテラは国を見捨てて逃げた!!
思い付きであり、1日にまとめて5話だして終了です。テンプレのざまぁのような気もしますが、あっさりとした気持ちでどうぞ読んでみてください。
ちょっと書いてみたくなった婚約破棄物語である。
内容を進めることを重視。誤字指摘があれば報告してくださり次第修正いたします。どうぞ温かい目で見てください。(テンプレもあるけど、斜め上の事も入れてみたい)
婚約破棄の場で攫われました!?
志位斗 茂家波
恋愛
「ミディ公爵令嬢!!お前との婚約破棄し、このわたしは別の愛する者と改めて婚約をさせてもらう!!」
皆がワイワイと話し合いながら、最後の学生生活としての卒業記念式典に、突如として王子からいい渡された婚約破棄。
何やら身に覚えのないことで断罪されそうになり、兵士たちに取り押さえられそうになったとたん‥‥‥攫われました!?
R15かR18を入れようか検討中。とりあえず明るく楽しくやっていくミディの物語である。
あなたを愛するなんて……もう無理です。
水垣するめ
恋愛
主人公エミリア・パーカーは王子のウィリアム・ワトソンと婚約していた。
当初、婚約した時は二人で国を将来支えていこう、と誓いあったほど関係は良好だった。
しかし、学園に通うようになってからウィリアムは豹変する。
度重なる女遊び。
エミリアが幾度注意しても聞き入れる様子はなく、逆にエミリアを侮るようになった。
そして、金遣いが荒くなったウィリアムはついにエミリアの私物に手を付けるようになった。
勝手に鞄の中を漁っては金品を持ち出し、自分の物にしていた。
そしてついにウィリアムはエミリアの大切なものを盗み出した。
エミリアがウィリアムを激しく非難すると、ウィリアムは逆ギレをしてエミリアに暴力を振るった。
エミリアはついにウィリアムに愛想を尽かし、婚約の解消を国王へ申し出る。
するとウィリアムを取り巻く状況はどんどんと変わっていき……?
そんなに優しいメイドが恋しいなら、どうぞ彼女の元に行ってください。私は、弟達と幸せに暮らしますので。
木山楽斗
恋愛
アルムナ・メルスードは、レバデイン王国に暮らす公爵令嬢である。
彼女は、王国の第三王子であるスルーガと婚約していた。しかし、彼は自身に仕えているメイドに思いを寄せていた。
スルーガは、ことあるごとにメイドと比較して、アルムナを罵倒してくる。そんな日々に耐えられなくなったアルムナは、彼と婚約破棄することにした。
婚約破棄したアルムナは、義弟達の誰かと婚約することになった。新しい婚約者が見つからなかったため、身内と結ばれることになったのである。
父親の計らいで、選択権はアルムナに与えられた。こうして、アルムナは弟の内誰と婚約するか、悩むことになるのだった。
※下記の関連作品を読むと、より楽しめると思います。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる