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最終話
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夜。夕食の後父親と兄と一緒にリュカ殿下から婚約の申し込みを受けたことを話した。
父親も陛下から打診を受けたことを打ち明けた。
「リュカ殿下と婚約すればいいじゃないか。なんの不満があるんだ?」
兄のルイはためらうヴィオレットにそう言った。
「陛下もヴィオレットを推しているそうだ。まあお前以外に候補がいないというのもあるが」
「でも国外の王女様でも良いのでしょう?」
「いいがリュカ殿下がそれをお望みでないし、あまりメリットもない」
「隣国には公爵令嬢が嫁ぐし、他国には先代王女が嫁いでいる。婚姻による外交は今は不要だ」
父親についでルイも添えた。フランセスは3方が海に面した細長い土地で隣の国のカリギラを通らないと他の国に行けない。
カリギラには公爵令嬢が嫁ぎ、カリギラの隣の国には前国王の妹が嫁いでいる。
それ以外の国とは海路で貿易をしているが向こうにとってフランセスと婚姻を結ぶようなメリットはなかった。
もともとカリギラから独立した国なので小国なのだ。
「お前はラウルと再度婚約するかリュカ殿下と婚約して王妃を目指すか修道女になるかしか道はないんだよ」
「お兄様ひどくないですか?」
「じゃ平民と結婚するか?うちの伯爵の地位に目が眩んだような下位貴族と結婚するか?」
「いい人がいるかもしれないじゃないですか」
「それを今から探すのか?」
重ねてルイに言われてヴィオレットは黙った。
18歳。貴族の殆どは婚約し、将来を決めている。貴族令嬢にとって婚姻が仕事だからだ。そうでないものは学院に進むなり何かしらの職業につくことを決めている。
サクラだってシジョウ家を継ぐため家の仕事の補佐をしている。
サクラを思い浮かべた時ヴィオレットは閃いた。
「あ、リュカ殿下にはカナ様がいるじゃないですか」
「ダメだ!」
マレビトと王族の婚姻は珍しくない。カナはリュカ殿下よりいくらか年上のようだが問題があるような年齢差ではないだろうし。
しかし兄の思いもよらない強い声に父親ともども首を竦めた。
「……ルイ?」
「お兄様?」
兄は慌てて咳払いすると少しだけ顔をしかめて再びカナ様はダメだ、と呟いた。
「何故ですの?」
問いかけに答えたのは父親だった。
「一応そんな話はあったんだがリュカ殿下もカナ様も嫌がられてな……」
「まあ…」
言葉を濁した父親にルイも頷く。
「別にどっちが悪いというわけではないんだがな、お互いウマが合わないというか」
王宮のパーティーや国の行事で二人がいるところを何度か見たが険悪な様子はなかった。
だが仲睦まじい様子もなかった。本当にただ仕事上の付き合いだけなのだろう。
「リュカ殿下だけの問題ならおそらく婚姻を結んだだろうが、肝心のカナ様が……」
「『リュカ殿下みたいな優男好みじゃない』でしたか」
「そうだ」
なんとも言えない表情の父親にルイ。ヴィオレットもどう反応していいかわからない。
「まあ、でもでしたら候補はもう私しかいないと、ということですのね……」
わかりきったことではあったがついため息と共に呟いてしまった。
「ヴィオレット。リュカ殿下のこと嫌いか?」
「嫌い、とか以前によく知りませんから」
学園では同じ学年だったがクラスは違った。だからろくに話したこともない。
何よりこの外堀を埋められていく感じが気に食わない。
「私のことよりお兄様はどうなっているのです?」
「は?俺か?」
「ルイの婚約についてはまだなんとも……」
「せめてお前だけでも片付いてくれたらよかったんだが」
ルイはまだ婚約者が決まっていない。カリギラの公爵家の令嬢との話があったのだが先方の令嬢が使用人と駆け落ちするという事態になり立ち消えた。
「まあ私たち兄妹はよほど結婚と縁がないのでしょうね」
ほほほ、とわざとらしく笑って見せると父親の冷たい視線が飛んできた。
「笑いごとじゃないぞ、ヴィオレット」
父親の声にヴィオレットは笑みを消した。もう笑うしかないと思ったのだけれど。
「いいじゃないか、お前はリュカ殿下がいるじゃないか」
「……まあそうなのですが」
はあ、とため息をつく。18歳を越えてからの王妃教育はどれほどに大変なのだろうか。
リュカ殿下だけでなく陛下からの打診があったのならもうこれは決定事項なのだ。
ぐずぐずぐだぐだと考えても変わらない。このままリュカ殿下の婚約者となりいずれ王妃となるのだろう。
ラウルと婚約していた頃には思いもよらなかった結末にヴィオレットは再度ため息をついた。
ラウルとの婚約破棄から半年後。フランセス王国に一つの慶事があった。
王太子に第一王子のリュカが正式に決まり、同時にラングレー伯爵家のヴィオレットとの婚約が発表された。
卒業パーティーのやり直しも兼ねた婚約発表の舞踏会は華やかに開催され誰もが二人を祝福した。
ヴィオレットは親友のサクラに言う。『私と殿下の間には恋だの愛だのはないけれど、信頼と誠実はあるわ』
リュカはマレビトのカナに言う。『僕たちの間にあるのは不確かなものではないと思う。言葉にするなら絆かな』
いつの間にそんな絆築いたのよとカナは笑う。悪役令嬢はもういない。いや初めからいなかった。
ただ幸せそうな王太子と未来の王太子妃の姿があった。
========
ひとまずこれにて完結です。読んでくださった方ありがとうございました。
当初13話として投稿していましたが最終話となりました。
父親も陛下から打診を受けたことを打ち明けた。
「リュカ殿下と婚約すればいいじゃないか。なんの不満があるんだ?」
兄のルイはためらうヴィオレットにそう言った。
「陛下もヴィオレットを推しているそうだ。まあお前以外に候補がいないというのもあるが」
「でも国外の王女様でも良いのでしょう?」
「いいがリュカ殿下がそれをお望みでないし、あまりメリットもない」
「隣国には公爵令嬢が嫁ぐし、他国には先代王女が嫁いでいる。婚姻による外交は今は不要だ」
父親についでルイも添えた。フランセスは3方が海に面した細長い土地で隣の国のカリギラを通らないと他の国に行けない。
カリギラには公爵令嬢が嫁ぎ、カリギラの隣の国には前国王の妹が嫁いでいる。
それ以外の国とは海路で貿易をしているが向こうにとってフランセスと婚姻を結ぶようなメリットはなかった。
もともとカリギラから独立した国なので小国なのだ。
「お前はラウルと再度婚約するかリュカ殿下と婚約して王妃を目指すか修道女になるかしか道はないんだよ」
「お兄様ひどくないですか?」
「じゃ平民と結婚するか?うちの伯爵の地位に目が眩んだような下位貴族と結婚するか?」
「いい人がいるかもしれないじゃないですか」
「それを今から探すのか?」
重ねてルイに言われてヴィオレットは黙った。
18歳。貴族の殆どは婚約し、将来を決めている。貴族令嬢にとって婚姻が仕事だからだ。そうでないものは学院に進むなり何かしらの職業につくことを決めている。
サクラだってシジョウ家を継ぐため家の仕事の補佐をしている。
サクラを思い浮かべた時ヴィオレットは閃いた。
「あ、リュカ殿下にはカナ様がいるじゃないですか」
「ダメだ!」
マレビトと王族の婚姻は珍しくない。カナはリュカ殿下よりいくらか年上のようだが問題があるような年齢差ではないだろうし。
しかし兄の思いもよらない強い声に父親ともども首を竦めた。
「……ルイ?」
「お兄様?」
兄は慌てて咳払いすると少しだけ顔をしかめて再びカナ様はダメだ、と呟いた。
「何故ですの?」
問いかけに答えたのは父親だった。
「一応そんな話はあったんだがリュカ殿下もカナ様も嫌がられてな……」
「まあ…」
言葉を濁した父親にルイも頷く。
「別にどっちが悪いというわけではないんだがな、お互いウマが合わないというか」
王宮のパーティーや国の行事で二人がいるところを何度か見たが険悪な様子はなかった。
だが仲睦まじい様子もなかった。本当にただ仕事上の付き合いだけなのだろう。
「リュカ殿下だけの問題ならおそらく婚姻を結んだだろうが、肝心のカナ様が……」
「『リュカ殿下みたいな優男好みじゃない』でしたか」
「そうだ」
なんとも言えない表情の父親にルイ。ヴィオレットもどう反応していいかわからない。
「まあ、でもでしたら候補はもう私しかいないと、ということですのね……」
わかりきったことではあったがついため息と共に呟いてしまった。
「ヴィオレット。リュカ殿下のこと嫌いか?」
「嫌い、とか以前によく知りませんから」
学園では同じ学年だったがクラスは違った。だからろくに話したこともない。
何よりこの外堀を埋められていく感じが気に食わない。
「私のことよりお兄様はどうなっているのです?」
「は?俺か?」
「ルイの婚約についてはまだなんとも……」
「せめてお前だけでも片付いてくれたらよかったんだが」
ルイはまだ婚約者が決まっていない。カリギラの公爵家の令嬢との話があったのだが先方の令嬢が使用人と駆け落ちするという事態になり立ち消えた。
「まあ私たち兄妹はよほど結婚と縁がないのでしょうね」
ほほほ、とわざとらしく笑って見せると父親の冷たい視線が飛んできた。
「笑いごとじゃないぞ、ヴィオレット」
父親の声にヴィオレットは笑みを消した。もう笑うしかないと思ったのだけれど。
「いいじゃないか、お前はリュカ殿下がいるじゃないか」
「……まあそうなのですが」
はあ、とため息をつく。18歳を越えてからの王妃教育はどれほどに大変なのだろうか。
リュカ殿下だけでなく陛下からの打診があったのならもうこれは決定事項なのだ。
ぐずぐずぐだぐだと考えても変わらない。このままリュカ殿下の婚約者となりいずれ王妃となるのだろう。
ラウルと婚約していた頃には思いもよらなかった結末にヴィオレットは再度ため息をついた。
ラウルとの婚約破棄から半年後。フランセス王国に一つの慶事があった。
王太子に第一王子のリュカが正式に決まり、同時にラングレー伯爵家のヴィオレットとの婚約が発表された。
卒業パーティーのやり直しも兼ねた婚約発表の舞踏会は華やかに開催され誰もが二人を祝福した。
ヴィオレットは親友のサクラに言う。『私と殿下の間には恋だの愛だのはないけれど、信頼と誠実はあるわ』
リュカはマレビトのカナに言う。『僕たちの間にあるのは不確かなものではないと思う。言葉にするなら絆かな』
いつの間にそんな絆築いたのよとカナは笑う。悪役令嬢はもういない。いや初めからいなかった。
ただ幸せそうな王太子と未来の王太子妃の姿があった。
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ひとまずこれにて完結です。読んでくださった方ありがとうございました。
当初13話として投稿していましたが最終話となりました。
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