13 / 13
最終話
しおりを挟む
夜。夕食の後父親と兄と一緒にリュカ殿下から婚約の申し込みを受けたことを話した。
父親も陛下から打診を受けたことを打ち明けた。
「リュカ殿下と婚約すればいいじゃないか。なんの不満があるんだ?」
兄のルイはためらうヴィオレットにそう言った。
「陛下もヴィオレットを推しているそうだ。まあお前以外に候補がいないというのもあるが」
「でも国外の王女様でも良いのでしょう?」
「いいがリュカ殿下がそれをお望みでないし、あまりメリットもない」
「隣国には公爵令嬢が嫁ぐし、他国には先代王女が嫁いでいる。婚姻による外交は今は不要だ」
父親についでルイも添えた。フランセスは3方が海に面した細長い土地で隣の国のカリギラを通らないと他の国に行けない。
カリギラには公爵令嬢が嫁ぎ、カリギラの隣の国には前国王の妹が嫁いでいる。
それ以外の国とは海路で貿易をしているが向こうにとってフランセスと婚姻を結ぶようなメリットはなかった。
もともとカリギラから独立した国なので小国なのだ。
「お前はラウルと再度婚約するかリュカ殿下と婚約して王妃を目指すか修道女になるかしか道はないんだよ」
「お兄様ひどくないですか?」
「じゃ平民と結婚するか?うちの伯爵の地位に目が眩んだような下位貴族と結婚するか?」
「いい人がいるかもしれないじゃないですか」
「それを今から探すのか?」
重ねてルイに言われてヴィオレットは黙った。
18歳。貴族の殆どは婚約し、将来を決めている。貴族令嬢にとって婚姻が仕事だからだ。そうでないものは学院に進むなり何かしらの職業につくことを決めている。
サクラだってシジョウ家を継ぐため家の仕事の補佐をしている。
サクラを思い浮かべた時ヴィオレットは閃いた。
「あ、リュカ殿下にはカナ様がいるじゃないですか」
「ダメだ!」
マレビトと王族の婚姻は珍しくない。カナはリュカ殿下よりいくらか年上のようだが問題があるような年齢差ではないだろうし。
しかし兄の思いもよらない強い声に父親ともども首を竦めた。
「……ルイ?」
「お兄様?」
兄は慌てて咳払いすると少しだけ顔をしかめて再びカナ様はダメだ、と呟いた。
「何故ですの?」
問いかけに答えたのは父親だった。
「一応そんな話はあったんだがリュカ殿下もカナ様も嫌がられてな……」
「まあ…」
言葉を濁した父親にルイも頷く。
「別にどっちが悪いというわけではないんだがな、お互いウマが合わないというか」
王宮のパーティーや国の行事で二人がいるところを何度か見たが険悪な様子はなかった。
だが仲睦まじい様子もなかった。本当にただ仕事上の付き合いだけなのだろう。
「リュカ殿下だけの問題ならおそらく婚姻を結んだだろうが、肝心のカナ様が……」
「『リュカ殿下みたいな優男好みじゃない』でしたか」
「そうだ」
なんとも言えない表情の父親にルイ。ヴィオレットもどう反応していいかわからない。
「まあ、でもでしたら候補はもう私しかいないと、ということですのね……」
わかりきったことではあったがついため息と共に呟いてしまった。
「ヴィオレット。リュカ殿下のこと嫌いか?」
「嫌い、とか以前によく知りませんから」
学園では同じ学年だったがクラスは違った。だからろくに話したこともない。
何よりこの外堀を埋められていく感じが気に食わない。
「私のことよりお兄様はどうなっているのです?」
「は?俺か?」
「ルイの婚約についてはまだなんとも……」
「せめてお前だけでも片付いてくれたらよかったんだが」
ルイはまだ婚約者が決まっていない。カリギラの公爵家の令嬢との話があったのだが先方の令嬢が使用人と駆け落ちするという事態になり立ち消えた。
「まあ私たち兄妹はよほど結婚と縁がないのでしょうね」
ほほほ、とわざとらしく笑って見せると父親の冷たい視線が飛んできた。
「笑いごとじゃないぞ、ヴィオレット」
父親の声にヴィオレットは笑みを消した。もう笑うしかないと思ったのだけれど。
「いいじゃないか、お前はリュカ殿下がいるじゃないか」
「……まあそうなのですが」
はあ、とため息をつく。18歳を越えてからの王妃教育はどれほどに大変なのだろうか。
リュカ殿下だけでなく陛下からの打診があったのならもうこれは決定事項なのだ。
ぐずぐずぐだぐだと考えても変わらない。このままリュカ殿下の婚約者となりいずれ王妃となるのだろう。
ラウルと婚約していた頃には思いもよらなかった結末にヴィオレットは再度ため息をついた。
ラウルとの婚約破棄から半年後。フランセス王国に一つの慶事があった。
王太子に第一王子のリュカが正式に決まり、同時にラングレー伯爵家のヴィオレットとの婚約が発表された。
卒業パーティーのやり直しも兼ねた婚約発表の舞踏会は華やかに開催され誰もが二人を祝福した。
ヴィオレットは親友のサクラに言う。『私と殿下の間には恋だの愛だのはないけれど、信頼と誠実はあるわ』
リュカはマレビトのカナに言う。『僕たちの間にあるのは不確かなものではないと思う。言葉にするなら絆かな』
いつの間にそんな絆築いたのよとカナは笑う。悪役令嬢はもういない。いや初めからいなかった。
ただ幸せそうな王太子と未来の王太子妃の姿があった。
========
ひとまずこれにて完結です。読んでくださった方ありがとうございました。
当初13話として投稿していましたが最終話となりました。
父親も陛下から打診を受けたことを打ち明けた。
「リュカ殿下と婚約すればいいじゃないか。なんの不満があるんだ?」
兄のルイはためらうヴィオレットにそう言った。
「陛下もヴィオレットを推しているそうだ。まあお前以外に候補がいないというのもあるが」
「でも国外の王女様でも良いのでしょう?」
「いいがリュカ殿下がそれをお望みでないし、あまりメリットもない」
「隣国には公爵令嬢が嫁ぐし、他国には先代王女が嫁いでいる。婚姻による外交は今は不要だ」
父親についでルイも添えた。フランセスは3方が海に面した細長い土地で隣の国のカリギラを通らないと他の国に行けない。
カリギラには公爵令嬢が嫁ぎ、カリギラの隣の国には前国王の妹が嫁いでいる。
それ以外の国とは海路で貿易をしているが向こうにとってフランセスと婚姻を結ぶようなメリットはなかった。
もともとカリギラから独立した国なので小国なのだ。
「お前はラウルと再度婚約するかリュカ殿下と婚約して王妃を目指すか修道女になるかしか道はないんだよ」
「お兄様ひどくないですか?」
「じゃ平民と結婚するか?うちの伯爵の地位に目が眩んだような下位貴族と結婚するか?」
「いい人がいるかもしれないじゃないですか」
「それを今から探すのか?」
重ねてルイに言われてヴィオレットは黙った。
18歳。貴族の殆どは婚約し、将来を決めている。貴族令嬢にとって婚姻が仕事だからだ。そうでないものは学院に進むなり何かしらの職業につくことを決めている。
サクラだってシジョウ家を継ぐため家の仕事の補佐をしている。
サクラを思い浮かべた時ヴィオレットは閃いた。
「あ、リュカ殿下にはカナ様がいるじゃないですか」
「ダメだ!」
マレビトと王族の婚姻は珍しくない。カナはリュカ殿下よりいくらか年上のようだが問題があるような年齢差ではないだろうし。
しかし兄の思いもよらない強い声に父親ともども首を竦めた。
「……ルイ?」
「お兄様?」
兄は慌てて咳払いすると少しだけ顔をしかめて再びカナ様はダメだ、と呟いた。
「何故ですの?」
問いかけに答えたのは父親だった。
「一応そんな話はあったんだがリュカ殿下もカナ様も嫌がられてな……」
「まあ…」
言葉を濁した父親にルイも頷く。
「別にどっちが悪いというわけではないんだがな、お互いウマが合わないというか」
王宮のパーティーや国の行事で二人がいるところを何度か見たが険悪な様子はなかった。
だが仲睦まじい様子もなかった。本当にただ仕事上の付き合いだけなのだろう。
「リュカ殿下だけの問題ならおそらく婚姻を結んだだろうが、肝心のカナ様が……」
「『リュカ殿下みたいな優男好みじゃない』でしたか」
「そうだ」
なんとも言えない表情の父親にルイ。ヴィオレットもどう反応していいかわからない。
「まあ、でもでしたら候補はもう私しかいないと、ということですのね……」
わかりきったことではあったがついため息と共に呟いてしまった。
「ヴィオレット。リュカ殿下のこと嫌いか?」
「嫌い、とか以前によく知りませんから」
学園では同じ学年だったがクラスは違った。だからろくに話したこともない。
何よりこの外堀を埋められていく感じが気に食わない。
「私のことよりお兄様はどうなっているのです?」
「は?俺か?」
「ルイの婚約についてはまだなんとも……」
「せめてお前だけでも片付いてくれたらよかったんだが」
ルイはまだ婚約者が決まっていない。カリギラの公爵家の令嬢との話があったのだが先方の令嬢が使用人と駆け落ちするという事態になり立ち消えた。
「まあ私たち兄妹はよほど結婚と縁がないのでしょうね」
ほほほ、とわざとらしく笑って見せると父親の冷たい視線が飛んできた。
「笑いごとじゃないぞ、ヴィオレット」
父親の声にヴィオレットは笑みを消した。もう笑うしかないと思ったのだけれど。
「いいじゃないか、お前はリュカ殿下がいるじゃないか」
「……まあそうなのですが」
はあ、とため息をつく。18歳を越えてからの王妃教育はどれほどに大変なのだろうか。
リュカ殿下だけでなく陛下からの打診があったのならもうこれは決定事項なのだ。
ぐずぐずぐだぐだと考えても変わらない。このままリュカ殿下の婚約者となりいずれ王妃となるのだろう。
ラウルと婚約していた頃には思いもよらなかった結末にヴィオレットは再度ため息をついた。
ラウルとの婚約破棄から半年後。フランセス王国に一つの慶事があった。
王太子に第一王子のリュカが正式に決まり、同時にラングレー伯爵家のヴィオレットとの婚約が発表された。
卒業パーティーのやり直しも兼ねた婚約発表の舞踏会は華やかに開催され誰もが二人を祝福した。
ヴィオレットは親友のサクラに言う。『私と殿下の間には恋だの愛だのはないけれど、信頼と誠実はあるわ』
リュカはマレビトのカナに言う。『僕たちの間にあるのは不確かなものではないと思う。言葉にするなら絆かな』
いつの間にそんな絆築いたのよとカナは笑う。悪役令嬢はもういない。いや初めからいなかった。
ただ幸せそうな王太子と未来の王太子妃の姿があった。
========
ひとまずこれにて完結です。読んでくださった方ありがとうございました。
当初13話として投稿していましたが最終話となりました。
12
お気に入りに追加
67
この作品の感想を投稿する
あなたにおすすめの小説
婚約破棄されたから、とりあえず逃げた!
志位斗 茂家波
恋愛
「マテラ・ディア公爵令嬢!!この第1王子ヒース・カックの名において婚約破棄をここに宣言する!!」
私、マテラ・ディアはどうやら婚約破棄を言い渡されたようです。
見れば、王子の隣にいる方にいじめたとかで、冤罪なのに捕まえる気のようですが‥‥‥よし、とりあえず逃げますか。私、転生者でもありますのでこの際この知識も活かしますかね。
マイペースなマテラは国を見捨てて逃げた!!
思い付きであり、1日にまとめて5話だして終了です。テンプレのざまぁのような気もしますが、あっさりとした気持ちでどうぞ読んでみてください。
ちょっと書いてみたくなった婚約破棄物語である。
内容を進めることを重視。誤字指摘があれば報告してくださり次第修正いたします。どうぞ温かい目で見てください。(テンプレもあるけど、斜め上の事も入れてみたい)
当て馬令息の婚約者になったので美味しいお菓子を食べながら聖女との恋を応援しようと思います!
朱音ゆうひ
恋愛
「わたくし、当て馬令息の婚約者では?」
伯爵令嬢コーデリアは家同士が決めた婚約者ジャスティンと出会った瞬間、前世の記憶を思い出した。
ここは小説に出てくる世界で、当て馬令息ジャスティンは聖女に片思いするキャラ。婚約者に遠慮してアプローチできないまま失恋する優しいお兄様系キャラで、前世での推しだったのだ。
「わたくし、ジャスティン様の恋を応援しますわ」
推しの幸せが自分の幸せ! あとお菓子が美味しい!
特に小説では出番がなく悪役令嬢でもなんでもない脇役以前のモブキャラ(?)コーデリアは、全力でジャスティンを応援することにした!
※ゆるゆるほんわかハートフルラブコメ。
サブキャラに軽く百合カップルが出てきたりします
他サイトにも掲載しています( https://ncode.syosetu.com/n5753hy/ )
婚約破棄でも構いませんが国が滅びますよ?
亜綺羅もも
恋愛
シルビア・マックイーナは神によって選ばれた聖女であった。
ソルディッチという国は、代々国王が聖女を娶ることによって存続を約束された国だ。
だがシェイク・ソルディッチはシルビアという婚約者を捨て、ヒメラルダという美女と結婚すると言い出した。
シルビアは別段気にするような素振りも見せず、シェイクの婚約破棄を受け入れる。
それはソルディッチの終わりの始まりであった。
それを知っているシルビアはソルディッチを離れ、アールモンドという国に流れ着く。
そこで出会った、アレン・アールモンドと恋に落ちる。
※完結保証
【完結】やり直そうですって?もちろん……お断りします!
凛 伊緒
恋愛
ラージエルス王国の第二王子、ゼルディア・フォン・ラージエルス。
彼は貴族達が多く集まる舞踏会にて、言い放った。
「エリス・ヘーレイシア。貴様との婚約を破棄する!」
「……え…?」
突然の婚約破棄宣言。
公爵令嬢エリス・ヘーレイシアは驚いたが、少し笑みを浮かべかける──
山に捨てられた令嬢! 私のスキルは結界なのに、王都がどうなっても、もう知りません!
甘い秋空
恋愛
婚約を破棄されて、山に捨てられました! 私のスキルは結界なので、私を王都の外に出せば、王都は結界が無くなりますよ? もう、どうなっても知りませんから! え? 助けに来たのは・・・
出来損ないと言われて、国を追い出されました。魔物避けの効果も失われるので、魔物が押し寄せてきますが、頑張って倒してくださいね
猿喰 森繁
恋愛
「婚約破棄だ!」
広間に高らかに響く声。
私の婚約者であり、この国の王子である。
「そうですか」
「貴様は、魔法の一つもろくに使えないと聞く。そんな出来損ないは、俺にふさわしくない」
「… … …」
「よって、婚約は破棄だ!」
私は、周りを見渡す。
私を見下し、気持ち悪そうに見ているもの、冷ややかな笑いを浮かべているもの、私を守ってくれそうな人は、いないようだ。
「王様も同じ意見ということで、よろしいでしょうか?」
私のその言葉に王は言葉を返すでもなく、ただ一つ頷いた。それを確認して、私はため息をついた。たしかに私は魔法を使えない。魔力というものを持っていないからだ。
なにやら勘違いしているようだが、聖女は魔法なんて使えませんよ。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる