銀河鉄道の夜に優しい君と恋をする

三月菫

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49話 勉強会の終わりに

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 その後も俺と詠の勉強会は続いた。

 俺たちは大体一時間刻みで教科を替えながら、勉強に取り組んだ。
 基本はそれぞれ自分の勉強に黙々と取り組むスタンス。だけど、たまに俺が難問に突っかかったり、分からないところがあったりすると、その様子を察した詠が「大丈夫?」と声をかけてくれる。

 俺と詠の学力差からして悲しいかな、教え合いにはならなかった。ほとんど俺が彼女に質問してしまう格好だ。
 だけど、詠は嫌な顔ひとつせずに、都度つど、親身になって俺の疑問に答えてくれた。

 彼女の説明はとても分かりやすかった。
 参考書に書いてある小難しく長ったらしい解法が、彼女の説明のおかげで、まるで魔法のようにすらっと頭の中に入っていくから不思議なものだ。
 おかげで、俺は普段なら最初から解くことすら諦めるような難問も解くことができた。

 そんなこんなで、あっという間に時間は経過していき、気がつけば時計の針は午後六時を回っていた。

「あー! 死ぬほど勉強した―!」

 キリのいいところまで進めたところで、俺はシャーペンを置いて、大きく伸びをした。
 ずっと前傾姿勢のまま机に向かっていたせいで、肩や背中がバキボキと派手な音を立てる。

 とどこおっていた血の巡りが一気に開放されるような、ジーンとした感覚。
 俺は充実感と疲労感が入り混じった、何とも言えないを味わっていた。

「おつかれ様。頑張ったねー」

 そんな俺に詠がねぎらいの言葉をかけてくれた。
 
「ねえ、これみて! 一日で消しゴムがこんなに小ちゃくなった。あはっ。それに手がノートに擦れて真っ黒だ」

 俺はそう言いながら、両手を広げて見せびらかすように詠の方へ突き出す。
 詠は「頑張った証拠だね」とクスリと笑ってから、懐から取り出したウェットティッシュを差し出してくれた。
 
 お礼を言いつつそれを一枚引き抜き、手のひらについた汚れをフキフキする。
 それから、たった今の自分の振る舞いについて、勉強したことを母親に褒めてもらいたくて、必死にはしゃぐ子供みたいに思えてきて、急に恥ずかしくなってしまった。

「でも、ありがとう。詠のおかげで有意義な時間を送れたよ」

 その恥ずかしさを誤魔化すために、俺は詠に対して今日一日の感謝の言葉を改めて伝えた。
 
「大げさだなぁ。でも、そう言ってくれると嬉しいよ」
「大げさじゃなくて大マジだよ。詠の教え方、すごい上手だったし。メチャクチャわかりやすかった」
「それはきっと夜空くんの理解力が高いからだよー」

 詠は謙遜けんそんするように手を振ってみせる。その謙遜を押しのけるように、俺は感謝の言葉で後押しした。

「いや、間違いなく詠のおかげ。ありがとう。あと、ごめんね? 俺ばっかり何度も教えてもらっちゃって。詠の集中を何度も途切らせちゃってさ」
「そんなことないよ。夜空くんが質問してきたところ、やっぱり難しいところだから、自分の理解の再確認にもなったし。それに誰かに教えることで、自分の知識のアウトプットにもなったから」

 詠が優しい笑顔を浮かべながら、そんなフォローを入れてくれる。

「だから……えっと、どういたしましてってこと。私なんかが夜空くんの役に立てたなら、すっごく嬉しいよ」

 結局、頬を赤く染めて、照れくさそうにはにかむ詠。
 
 何回見ても、詠のこの恥じらうような表情は可愛いくて、その度についつい見惚れてしまう。

 詠と一緒にいるだけで、居心地のよさを感じるのだ。
 彼女と一緒だから、きっと長時間の勉強も苦にならない。
 だから今日の充実した時間は、全部、彼女のおかげなんだろう。

 俺はジッと彼女の顔を見つめながら、しみじみとそんなことに思いを巡らせた。

「……? どうかした?」
 
 俺の視線に気づいた詠が、首を傾げるようにして尋ねてきた。

「ん、ごめん。なんでもないよ」
「そう?」
「それよりさ、今日の勉強はこの辺でお開きでいいかな? 流石に脳みそがパンク気味でさ」
「そうだね。私もクタクタだよ」
「じゃあ、片付けちゃうか」
「うん」

 俺と詠は、それぞれの教科書やノートをしまい込む。
 それから、窓の外に目をやると、すっかり日が傾いて薄暗くなっていた。
 
 さて、今日の目的である勉強会も終わったことだし、あまりダラダラと長居していても悪いだろう。
 そろそろ帰るとしようか。

「それじゃあ、俺はそろそろ……」
「あ、待って」

 立ち上がろうとしたところで、不意に詠が俺を呼び止めた。

「どうしたの?」
「あのね、もしよかったら、晩ごはん食べていかない?」

 詠の提案は予想外なものだった。

「え、いいの?」
「うん。だって夜空くん、これから帰って、家に着いたらご飯の用意をして、食べた後は後片付けしてって、大変でしょ? せっかくだからこっちで食べていきなよ」
「えっと、嬉しい申し出だけど……迷惑じゃない?」
「全然! むしろ大歓迎。ていうか、お母さん、もう夜空くんの分も晩ご飯作っちゃってると思うし……文ももっと夜空くんと話したがってるみたいだから、喜ぶよ」
「そっか……」

 正直、これから自炊は面倒くさかったので、ありがたい提案だった。
 ちなみに、姉さんの分の料理はこの際どうでもいい。家に備蓄しているカップラーメンでもすすってもらえば結構だ。

「そこまで言うなら、お言葉に甘えさせてもらうよ」

 俺は素直に詠の厚意を受け取ることにした。

「やった、決まりだね。じゃあ、お母さんに伝えてくるからちょっとだけ待ってて」

 詠はそう言い残すと、嬉々として部屋を出て行った。

 こうして俺は、優木坂家で晩ご飯までしっかりといただいてしまった。
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