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96.マシュー嘆く(二週間の不在)※書籍化未収録を加筆修正しております。✔
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マシューは商談のため王都へ出かけていたが、無事に契約を締結し、二週間ぶりに帰って来た。もう少しでやり遂げるという時に鳩便が届き、後ろ髪を引かれる思いでハイルーン領を離れていた。
マシューは人生が終わる寸前からの大逆転により、今ではメダリオン王国内で五本の指に入るほどの商会にまでなった。全てアルフレッドのお陰なのだ、この恩に報いるため、今まで蓄えた私財のほとんどを注ぎ込み、開拓から屋敷の整備に至るまで行った。途中で資金が底を突きそうになったが、分かっていたかのようにアルフレッドから資金提供の申し出があった。
正直な所、資金が底を突き、店の運営資金に手を出すか悩んでいたところだった。
資金提供を受けたため、領地の開拓は順調に進めることが可能となった。アルフレッドの屋敷については、マルベリー公爵の城を参考にしており、後は庭園を整備するだけとなっていた
今まで儲けさせていただいたお金を湯水のように惜しげなく投じて開拓を行った。今回の商談も先延ばししたかったのだが、相手がメダリオン城ともなればそうもいかない。
先延ばしになってしまったが、もう少しでやり遂げることができると考えると、楽しみで仕方がなかった。
そのため王都でゆっくりすることもせず、とんぼ返りのように帰ってきた。護衛たちの働きにより大したトラブルもなく戻ってくることができた。
職員に出迎えられ私室へ戻ると、留守中の出来事について報告を受ける。すると、アルフレッドが揺れない馬車や強力な弓を製造したと報告を受けた。いつものように契約を結ばなければ、思い立つと休憩もそこそこにアルフレッドの屋敷に向かう。
敷地内に造られた教会で礼拝も済ませようと、マシューの足取りは軽やかだ。
お屋敷の出来栄えには満足している。いずれ公爵様になられるだろうと、マルベリー公爵の屋敷を参考に造らせた。
残すは庭園ばかりとなっており、王都から職人を呼ぶことも手配している。今回王城の庭園をその目に焼き付けており、それ以上の庭園を造ることがマシューの念願なのだ。
ハイルーン邸の門を抜けると、構想を巡らせていた庭園用地が出迎えて……なんですかこの惨状は?!
そこには無骨な土魔法で造られた建物が点在しており、目眩を起こしそうになった。
アルフレッド様に相応しい王城以上の庭園が……前に住んでおられた敷地の六倍の庭用地を確保していたのだが……
見た目が最悪なのは円状に二重に造られた土塁だろう、他にも倉庫や研究施設らしき建物が点在している。
屋敷を取り囲む壁際には、棒が三本生えており、そのうちの一本には錆が出た穴だらけの鎧を纏っていた。近づいて見るとフルプレートの鎧に大きな穴がいくつも空いていた。職員から見かけたと報告のあった弓の開発に使われていたのではないだろうか。恐ろしい威力だが、射程距離が気になる。
庭園に仕える土地が残っていないではないか……完璧な計画がたったの二週間、王都に行って来ただけでこんなことになるなんて。
これでは王城の庭園というより、騎士団や魔法師団の訓練施設のようではないか。
全てアルフレッド様の物だと言わなければこんなことにはならなかった。今更、庭園を造りたいので撤去してほしいと言える状況にない……大失敗だ。たった二週間だぞ! ほぼ全面が使われており庭園なんて造れそうな土地はどこにも残っていない。
悔やんでいても解決しない、幸い、隣の区画が手付かず、利用申請を出しこの施設を全て、移築してもらえるようお願いするしかない。
あの土塁の中心の建物の中身が気になるが、危険な匂いがプンプンとしている。売れるものだろうか?
屋敷のドアノッカーをコンコンと二度叩く。
「マシュ―です。アルフレッド様は居られますか!」
「マシューさんお元気そうでなによりです。アルは、その辺で何かしていると思いますよ。今、手が離せないのでご自分で探してもらえますか」
「分かりました、奥様。そうさせてもらいます」
音がする方へ向かうとアルフレッド様は簡単に見つかった。
毛の生えた棘のある黒い棒を魔法で器用に切断している。
「アルフレッド様。ご無沙汰しております!」
「マシューさん、二週間ぶりですね。お元気そうで何よりです。この屋敷は広くて助かります。いろんな施設が作れました!」
アルフレッドがニコニコしながら話しかけてきた。
「……」
「そ、それは、ようございました。よ、喜んでもらえて嬉しゅうございます」
「どうされたんですか? 元気がないですね、旅で疲れが出ていますか?」
アルフレッドは言いながらマシューに癒しの魔法を行使する。温かな光が両手から溢れ出すとマシューの体に吸い込まれていく。
「ありがとうございます、体が楽になりました。ところで揺れない馬車や強力な弓を作られたとお聞きしまして、何時ものようにご契約のお願いに参った次第です」
「それなんですが、お爺様達に釘を刺されまして、一般には渡せないんです。あっ! 今の説明は間違っていました。魔蟻迷宮から出た物なので数が無いのです」
「そうですか……揺れない馬車に興味があったのですが残念です」
「マシューさんの馬車だけは改造出来るので、後で馬車を工房に移動させてください!」
「え! 一般に渡せないのでは……貴重なので売ればけっこうなお値段になりますよ!」
アルフレッドの説明にマシューが驚いている。
「僕はマシューさんの馬車に取り付けたいのでお願いしますね。馬車!」
アルフレッドはマシューの反応に楽しくて仕方ないようだ。
「分かりました。後で、持って来させていただきます。弓なのですが魔蟻迷宮の魔道具なのでしょうか?」
「ええ、慎重な取り扱いが必要だとお爺様に注意されてしまいました」
「それ程の魔道具なのですね」
「見ますか?」
「是非お願いします!」
アルフレッドは説明と実演すると言う。ロングボウは曲射なら九百メートルも飛ぶ。クロスボウ(ボウガン)は強力だがそこまでは飛ばないようだ。
「……と言うことで、今説明しましたこの武器と防具ですが、マシューさんに永久貸与します。これならお爺様達に叱られないですよね。人目に触れない方向でお願いしますね……危険な時は遠慮なく使うようにしてください!」
「お預かりします。護衛に訓練させたいのですがこちらを使わせて頂いてよろしいでしょうか?」
「どうぞ、自由に使ってください」
マシューは馬車と護衛と再び訪れ、数時間、あれこれと試した。
アルフレッドは馬車の採寸を行い、リーフ式サスペンションとショックアブソーバーを製造して取り付けた。
マシューは不具合が無いか馬車の試走を行う。
「アルフレッド様、これは素晴らしいですね。今までの皮ベルトの振動軽減とは、全く別次元の性能です。揺れがほとんどないのは素晴らしいです。これが売り出せたなら、莫大な儲けになるのですが惜しゅうございます」
「お爺様達の許可が出たら販売できるのですが、今の所、難しいかもしれませんね」
「あの? あそこに積まれているのは魔蟻の脚でしょうか?」
アルフレッドの反応がおかしい。
「……言い忘れていましたが、同じものがガルトレイク公爵、ハイランド子爵に取り付け済みで、国王様とマルベリー公爵も予定しています」
マシューは無理やり話題を変えたアルフレッドにおかしくて仕方がなかった。
マシューは人生が終わる寸前からの大逆転により、今ではメダリオン王国内で五本の指に入るほどの商会にまでなった。全てアルフレッドのお陰なのだ、この恩に報いるため、今まで蓄えた私財のほとんどを注ぎ込み、開拓から屋敷の整備に至るまで行った。途中で資金が底を突きそうになったが、分かっていたかのようにアルフレッドから資金提供の申し出があった。
正直な所、資金が底を突き、店の運営資金に手を出すか悩んでいたところだった。
資金提供を受けたため、領地の開拓は順調に進めることが可能となった。アルフレッドの屋敷については、マルベリー公爵の城を参考にしており、後は庭園を整備するだけとなっていた
今まで儲けさせていただいたお金を湯水のように惜しげなく投じて開拓を行った。今回の商談も先延ばししたかったのだが、相手がメダリオン城ともなればそうもいかない。
先延ばしになってしまったが、もう少しでやり遂げることができると考えると、楽しみで仕方がなかった。
そのため王都でゆっくりすることもせず、とんぼ返りのように帰ってきた。護衛たちの働きにより大したトラブルもなく戻ってくることができた。
職員に出迎えられ私室へ戻ると、留守中の出来事について報告を受ける。すると、アルフレッドが揺れない馬車や強力な弓を製造したと報告を受けた。いつものように契約を結ばなければ、思い立つと休憩もそこそこにアルフレッドの屋敷に向かう。
敷地内に造られた教会で礼拝も済ませようと、マシューの足取りは軽やかだ。
お屋敷の出来栄えには満足している。いずれ公爵様になられるだろうと、マルベリー公爵の屋敷を参考に造らせた。
残すは庭園ばかりとなっており、王都から職人を呼ぶことも手配している。今回王城の庭園をその目に焼き付けており、それ以上の庭園を造ることがマシューの念願なのだ。
ハイルーン邸の門を抜けると、構想を巡らせていた庭園用地が出迎えて……なんですかこの惨状は?!
そこには無骨な土魔法で造られた建物が点在しており、目眩を起こしそうになった。
アルフレッド様に相応しい王城以上の庭園が……前に住んでおられた敷地の六倍の庭用地を確保していたのだが……
見た目が最悪なのは円状に二重に造られた土塁だろう、他にも倉庫や研究施設らしき建物が点在している。
屋敷を取り囲む壁際には、棒が三本生えており、そのうちの一本には錆が出た穴だらけの鎧を纏っていた。近づいて見るとフルプレートの鎧に大きな穴がいくつも空いていた。職員から見かけたと報告のあった弓の開発に使われていたのではないだろうか。恐ろしい威力だが、射程距離が気になる。
庭園に仕える土地が残っていないではないか……完璧な計画がたったの二週間、王都に行って来ただけでこんなことになるなんて。
これでは王城の庭園というより、騎士団や魔法師団の訓練施設のようではないか。
全てアルフレッド様の物だと言わなければこんなことにはならなかった。今更、庭園を造りたいので撤去してほしいと言える状況にない……大失敗だ。たった二週間だぞ! ほぼ全面が使われており庭園なんて造れそうな土地はどこにも残っていない。
悔やんでいても解決しない、幸い、隣の区画が手付かず、利用申請を出しこの施設を全て、移築してもらえるようお願いするしかない。
あの土塁の中心の建物の中身が気になるが、危険な匂いがプンプンとしている。売れるものだろうか?
屋敷のドアノッカーをコンコンと二度叩く。
「マシュ―です。アルフレッド様は居られますか!」
「マシューさんお元気そうでなによりです。アルは、その辺で何かしていると思いますよ。今、手が離せないのでご自分で探してもらえますか」
「分かりました、奥様。そうさせてもらいます」
音がする方へ向かうとアルフレッド様は簡単に見つかった。
毛の生えた棘のある黒い棒を魔法で器用に切断している。
「アルフレッド様。ご無沙汰しております!」
「マシューさん、二週間ぶりですね。お元気そうで何よりです。この屋敷は広くて助かります。いろんな施設が作れました!」
アルフレッドがニコニコしながら話しかけてきた。
「……」
「そ、それは、ようございました。よ、喜んでもらえて嬉しゅうございます」
「どうされたんですか? 元気がないですね、旅で疲れが出ていますか?」
アルフレッドは言いながらマシューに癒しの魔法を行使する。温かな光が両手から溢れ出すとマシューの体に吸い込まれていく。
「ありがとうございます、体が楽になりました。ところで揺れない馬車や強力な弓を作られたとお聞きしまして、何時ものようにご契約のお願いに参った次第です」
「それなんですが、お爺様達に釘を刺されまして、一般には渡せないんです。あっ! 今の説明は間違っていました。魔蟻迷宮から出た物なので数が無いのです」
「そうですか……揺れない馬車に興味があったのですが残念です」
「マシューさんの馬車だけは改造出来るので、後で馬車を工房に移動させてください!」
「え! 一般に渡せないのでは……貴重なので売ればけっこうなお値段になりますよ!」
アルフレッドの説明にマシューが驚いている。
「僕はマシューさんの馬車に取り付けたいのでお願いしますね。馬車!」
アルフレッドはマシューの反応に楽しくて仕方ないようだ。
「分かりました。後で、持って来させていただきます。弓なのですが魔蟻迷宮の魔道具なのでしょうか?」
「ええ、慎重な取り扱いが必要だとお爺様に注意されてしまいました」
「それ程の魔道具なのですね」
「見ますか?」
「是非お願いします!」
アルフレッドは説明と実演すると言う。ロングボウは曲射なら九百メートルも飛ぶ。クロスボウ(ボウガン)は強力だがそこまでは飛ばないようだ。
「……と言うことで、今説明しましたこの武器と防具ですが、マシューさんに永久貸与します。これならお爺様達に叱られないですよね。人目に触れない方向でお願いしますね……危険な時は遠慮なく使うようにしてください!」
「お預かりします。護衛に訓練させたいのですがこちらを使わせて頂いてよろしいでしょうか?」
「どうぞ、自由に使ってください」
マシューは馬車と護衛と再び訪れ、数時間、あれこれと試した。
アルフレッドは馬車の採寸を行い、リーフ式サスペンションとショックアブソーバーを製造して取り付けた。
マシューは不具合が無いか馬車の試走を行う。
「アルフレッド様、これは素晴らしいですね。今までの皮ベルトの振動軽減とは、全く別次元の性能です。揺れがほとんどないのは素晴らしいです。これが売り出せたなら、莫大な儲けになるのですが惜しゅうございます」
「お爺様達の許可が出たら販売できるのですが、今の所、難しいかもしれませんね」
「あの? あそこに積まれているのは魔蟻の脚でしょうか?」
アルフレッドの反応がおかしい。
「……言い忘れていましたが、同じものがガルトレイク公爵、ハイランド子爵に取り付け済みで、国王様とマルベリー公爵も予定しています」
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