異世界に転生したけどトラブル体質なので心配です

小鳥遊 ソラ(著者名:小鳥遊渉)

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214.3黒死病3(邪神教衰退)✔ 2024.3.4修正 文字数 前4,034後2,651減1383

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 パズズにある邪神教の拠点で幹部の男は慌てていた。

 建物内に男が倒れており、信者が手当てしていると報告があったからだ。直ぐに確認に向かうと、重篤な症状の男は数日前に送り出した男だった。

「なぜ、こんなことに……」

 一緒に送り出した信者の姿が見えない……何がどうなっているのだ?

 男の肌に黒い痣のようなものが見てとれ、とても話の出来る状態ではない。きっと、黒死病に感染したのだ。

 今回のことは極秘のため、送り出した二人以外には何も伝えていない。

『パズズでは絶対に流行らせるな』と言われておるのに……報告はできんな。

黒死病の研究施設に行けば治療方法が分かるはず、沈静化させてから報告をするしかない。

 これ以上、広がらぬように手を講じなければならん。研究所に使いの者を、いや、あそこを知られるわけにはいかん。わたしが行くしかないか。

 男はここに置いておけん、連れて行くか? 急がねばならん。

「すまぬが幌付きの荷馬車に病人を積んでくれ、病気に詳しい者の所に連れて行き治療してもらう。急いでくれ! 接触した者は消毒するように、部屋や倒れていた場所なども念入りに消毒を頼んだぞ!」

「分かりました。ですが神官様にそのようなことはさせる事などできません。信者たちにやらせます。馬車はすぐ準備させますのでお待ちください!」

 信者はそう言うと、急いで部屋から出て行った。二十分もすると建物の前に幌の付いた荷馬車が到着し、病気の男が担がれて荷台に乗せられた。先程の信者が言う。
 
「神官様、出発の準備が出来ました。どこに向えばよろしいでしょうか? ご指示ください!」

「気持ちはありがたいが、お前たちは消毒を優先してくれ。わたしが行くから気を使うでない!」

 神官は荷馬車の御者台に乗り込み急ぎ出発させた。

 信者たちは見送ると、すぐに消毒作業に取り掛かる。

 神官は何十年ぶりかに手綱を握り、順調に荷馬車を走らせる。途中何度も馬を休憩させながら、先を急いだ。村が見えて来た。馬に水と飼葉を与えるよう依頼すると、やっと食事にありつく。

 一刻も早く到着して、黒死病を終息させるための方法を聞く必要があった。

 幸いなことに、二つの月が出ており月明かりで道がよく見えた。

「お前には申し訳ないがもう少し頑張って走っておくれ」

 神官は馬に話しかけると、夜道を進む。

 馬が疲れてしまいスピードが出なくなっているが、走らせるしかない。通常二日掛かる距離を夜通し走らせて目的の施設に辿り着くことが出来た。

「なんとか辿りつけたな」

 無理に走らせた馬は大きな息をしていたが、バタリとその場に倒れ込んでしまった。

「急病人が出た!」

 施設に駆け込むと状況を伝える。すぐに数人の男たちが防護服に身を固めて現れると、荷台に乗り込んで行った。しかし、二言三言交わすと荷馬車から下り、首を小さく左右に振ってから口を開いた。

「既にこと切れております。この荷馬車は馬と一緒に燃やします。中で詳しくきかせてください」

 馬もぐったりとしてダラダラと泡を吹いていた。防護服で男の表情は分からないが、慌てた様子は微塵も感じられない。

「わかった」

 防護服の男たちは荷馬車をどこかに運んで行く。神官はそれを見送ると、応対した防護服の男について行った。

 今まで通ったことのない、丈夫なドアを二度抜けた先の部屋に案内された。

 神官が部屋に入ると、後ろでドアをロックする音がガチリと響いた。部屋の中には机と椅子が置かれているだけだ。

 椅子に座るように促され、まるで取り調べのような質問が始まった。送り出した男は戻ってきたが信者はみていないこと、消毒の指示をしたことなどを話して聞かせた。

「不味い状況ですな。送り出して八日後ということは、国境で追い返されたのでしょう。途中の施設に信者が担ぎ込まれたか問い合わせはしていますか?」

「いや、すぐに病人を連れ出したからな。帰り次第、探させることにしよう。それよりも治療法を教えてくれ、そのために急いで来たのだ。早くせねば、パズズ国内ではやり病がひろがってしまう!」

 神官は必死に訴えかけた。

「はぁ、ここは病原菌を生かし、感染させる方法を研究する施設……」

 防護服の男は鼻で笑うかの如く言った。
「治療方法は見つけているのであろう、それを教えてくれ! 薬や消毒なども馬車に積んでくれ、急いで帰らねば!」

 神官は食って掛かりそうな勢いだ。

「治療方法など研究していませんよ。一度もね」

 防護服の男は冷たく言い放った。

「そんなバカな! 治療法がないものを世の中にばら撒いたのか?」

 神官の顔には驚きと落胆が現れていた。

 防護服の男が神官を舐めまわすように見てから楽しそうに言う。

「ところで、体に異変は出ていませんか?」

「大丈夫だ。ここに来れば治療方法があると信じていたのだが……」 

「本当に? 痒かったり、熱が出たりしていませんか?」

 神官は自分の体を確認してみる。足に痒みがあることに気が付いた。

「まさか!」

「邪神様が求めておられるのは人の魂なのですよ、なんの問題もない! 急いで帰り、接触のあった信者は、隣国に使いに出された方がいいでしょう。それと、神官様もアスラダ国に向かわれてください。これ以上パズズで流行り病が出るのを防ぎたいのでしょ?」

 防護服の男の声は暗く冷たい。顔は覆われており表情も読み取れない。それだけ言うと神官を追い立てるようにして、馬車に乗せた。

 二日かけて、施設に辿り着いたが、病人で溢れかえっており、野戦病院のような状態だ。

「手遅れか……」 

 神官は司祭に呼び出され、メダリオン王国に向かう街道で黒死病が広がっていると叱責を受けた。神官は叱責を受けたその足で、アスラダ国に向かって最期の旅路につく。

 異神国パズズに流行り病が猛威を振るい始め、城から邪神教に相談があった。だが、なんの手立ても示すことが出来ないままだ。
 
 困り果てたパズズ国は神聖教会に助けを求めた。

 神聖教会から相談を受けたアルフレッドは、病気の対処方法や消毒薬、ポーションなどを国境で引き渡す。

 かなり月日は掛かったが、対処方法が浸透すると新たな感染者の発生は減少に転じ、少しずつではあるが終息に向かっている。

 今回の流行り病により、パズズ国と邪神教は大きな被害を出すこととなった。

 神聖教会により治療された邪神教信者の多くが、神聖教会に感謝することとなった。邪神教はパズズの民からの信頼を完全に失っている。異神国パズズの国教の座が音を立てて崩れていく。

 魔法大国アスラダに向かった神官は、入国は果たしたものの発症し、数日のうちに邪神の元に召されることとなった。
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