異世界に転生したけどトラブル体質なので心配です

小鳥遊 ソラ(著者名:小鳥遊渉)

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213.異神国パズズ(最悪の研究)✔ 2024.3.1修正 文字数 前2,725後2,018減707

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 メダリオン王国が邪神教の施設の取り締まりを行ってから十日が経過していた。 

 異神国パズズに今日も手紙が届く、受け取ったのは邪神教の幹部の男だ。すぐに中身を確認すると、男は小さくため息をついた。幹部の男は、ここ数日毎日のように届く手紙の対応に追われて疲弊しきっていた。

「あそこもやられたのか、これで七カ所目だ……」

 ボソリと呟くと、小走りに司祭の部屋に向かった。廊下ですれ違う者達が軽く会釈をしてくるも、その表情はどこか暗い。メダリオン王国内がどのような状況なのか耳にしているからだろう。幹部の男は真っ黒なドアをノックすると室内に足を進めた。

 部屋は薄暗く、ムッとするほどの香の匂いが立ち込めている。薄暗い室内と同化するように、真っ黒な司祭服にフードを被った男が立っていた。

「司祭様、本日も報告が届いております。これで七ヶ所目、メダリオン王国内の我が施設は壊滅状態です。施設の監視を行っていた者からの報告のため、間違いないかと」

「自爆テロでは数名止まりですし、ここまで大規模に潰されては、……派手にやり過ぎましたね」

 司祭の怪しく低い声が部屋の中に反響した。

「ここまで増やすために十五年、取り締まりも厳しくなっており、同規模に戻すには倍の三十年はかかるでしょう。任せてくだされば必ずやり遂げます」

 幹部の男は司祭の顔色を窺う。

「三十年ですか!? 邪神様は人の魂を所望されているのですよ!」

 お腹の底に届きそうなほどの圧が幹部の男に襲い掛かる。

「となりますと、グラン帝国に使用したあれなどはどうですか?」

 幹部の男は額から流れる汗を拭いながら、やっとの思いで言った。

「あれは十年前にもメダリオン王国で使っています。あれであれば、神聖教会も防ぎようなどありません! 大量の魂が邪神様の元へ旅立つことになるでしょうね!」

 提案した計画に好感触な司祭の様子に、幹部の男は少し安堵した。しかし、司祭はギョッとするほどの不気味な笑みを浮かべる。

「研究中の病原菌がありましたね。あれを使いましょう!」

「あれをですか? 蚤を使うため、外に出ればコントロールはできませんがよろしいのですか? 邪神教の信者や協力者にも多くの死者が出るのでは?」

 幹部の男は怯えるように言った。

 司祭が幹部の男を睨みつける。

「いつからあなたは、司祭の私に意見できるほど偉くなったのですか?」

 部屋の温度が急に下がり始めたのか、吐き出す息が白い。

「も、申し訳ございません。し、司祭様の御命令に逆らうなんて……一週間で準備します!」

 幹部の男はガクガクと震えている。

「一週間で準備できるのですね? 直ぐに準備しなさい! いいですか、パズズで流行り病にならぬように十分に注意するのですよ! わかっていますね!」

「お任せください。研究施設に指示を出しに直ちに参ります!」

 幹部の男が部屋から慌てて出て行こうとする。

「頼みましたよ! メダリオン王国に十年前を超える地獄を見せてあげなさい!」

 司祭は人が出せるのかと疑いたくなるほどの怪しい声で言った。

 幹部の男は山の中にある研究施設に向けて馬車を急がせている。

 邪神教の研究施設は大きく分けると三つに分かれており、向かっているのは病原菌の研究施設だ。

 その他にも魔石や宝玉を利用した、魔道具の研究を行っている施設。魔石や宝玉を利用して人工的に魔物を造り出す研究や、魔物を凶暴化させる研究をおこなう施設があった。

 三つの研究施設はどれも危険な研究のため、人里から離れた森の中に点在している。

 自爆テロに使用している爆弾だが、実は結界の魔道具を作成している際の失敗から生まれた偶然の産物なのだ。その日からは爆発力を向上させる研究が加わり、多くの爆弾を生み出すことに成功していた。

 訪れている病原菌の研究の主な物は二つある。メダリオン王国やグラン帝国で使用したコレラ菌と研究中のペスト菌だ。

 どちらも直接接触しなければ感染はほぼ起きない。そのため、大規模なテロのために研究を続けている。ごく稀に研究員が感染する事故が起こってしまうが、発症状況の観察対象として利用され、最後は焼却されていた。治療する方法が見つかっていないからだ。

 今回の作戦だが、人を雇いメダリオン王国の王都まで毛皮を運ばせる計画になっている。パズズ国内では積み荷を絶対に開封しないように、説明することも忘れてはいけない。

 この毛皮にはペスト菌に感染させた蚤を大量に住まわせている。メダリオン王国で開封されることで、蚤が人や動物に移り病原菌が広がっていく計画だ。

 メダリオン王国の街町に病原菌をばら撒く必要がある。そのため、メダリオン王国内の毛皮の売買価格の調査だと説明し、毛皮を五枚ずつ売却しながら王都に向わせる手はずになっている。

 幹部の男は研究施設に着くと直ぐに準備するように指示を出した。すると研究者の男は一瞬驚いた表情を見せたが、作業に取り掛かる。忙しそうに動き回る研究員たちの邪魔にならないよう、早々に幹部の男は研究施設を後にした。
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