異世界に転生したけどトラブル体質なので心配です

小鳥遊 ソラ(著者名:小鳥遊渉)

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204.1サーシャの夢を叶えよう1(試験飛行)✔ 2024.2.13修正 文字数 前3,195後2,940減255

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 シルクスパイダーの一番小さな帆を使って、新しくウイングスーツを作ってみた。翼竜の飛膜と比べると、軽くて丈夫でお手入れも簡単というメリットだらけだ。厚みも三分の一程しかなく、多少手荒に扱っても破れる心配すらない。今まで翼竜の飛膜にはお世話になってきたが、今日でお別れすることになるだろう。

 実際に飛行試験も行ってみたが、違和感や不満は見つからなかった。こんなに素晴らしい布を貰えたことに感謝しかない。

 サーシャは以前から、俺のように空を飛びたいと言っているんだ。だけど、風の魔法には適性がないみたいだし、詠唱しないと魔法を発動させることができない。上達したとしても、サーシャが俺のように風の魔法を多重で発動させることは難しいだろうね。

 そこで思いついたのがハンググライダーだ。これならサーシャの夢を叶えてやれそうだからね。とは言っても、ひとりは危険だから俺も一緒に飛行するつもりでいるよ。正確にはタンデム飛行になるんだけどね。

 コントロールバーにサーシャ用の補助バーを取り付けて、操縦させてやろうと考えているんだ。失速に繋がる操作をしそうになったら、俺が補助すればいいからね。

 キールやフレーム、コントロールバーは魔蟻の脚で組んだ。グライダー部分とハーネスはシルクスパイダーの帆を使った。タイヤも魔蟻の脚で作って大沼ガエルの粘液で覆ったんだ。ワイヤーの代わりにはシルクスパイダーの糸を使った。完璧にハンググライダーを再現できたんだ。

 着陸する場所なら放牧地がいくらでもあるんだけど、テイクオフするための高い斜面がハイルーン領には無い。飛び上がるためには風の魔法を使うか、チビかベビに引っ張ってもらうしかないだろう。

 サーシャと仲がいいチビにお願いするのがいいかもしれないな。飛び上がったらロープを切り離せば飛行できるからね。上昇気流を捕まえることができれば、かなりの高さまで昇れると思うんだよ。

 まずは、ひとりで強度や操縦性のテストを重ねている。微妙に右に曲がっていくな。シルクスパイダーの糸の引っ張り具合を調整してみるかな。魔蟻の脚の重さが均一ではないため、どうしても左右で重さに違いが出ているみたいだな。

 一度着陸して、ロープで吊り下げてバランスの確認を行った。やっぱりな、こっちがほんの少しだけど重いな。土魔法を使ってウエイトを追加しながら、前後左右のバランスを調整した。これでもう一度飛んでみよう。糸が切れないか念入りに確認してから、風魔法を発動させて飛び上がった。

 今度はいいみたいだな。左右の旋回も微調整を重ねたことで思い通りにできるようになった。上昇や下降もかなり安定しており、安心して飛行できるレベルになってきた。

 これくらい安定して飛べるならサーシャと一緒に飛んでもって……危なかった。油断していたところに突風を受け、危うく失速しそうになって焦ったよ。風魔法を使ってなんとか元に戻すことができた。サーシャをひとりで飛ばせるなんて絶対にできないぞ。

 それに、危険な魔物が飛んで来ることもあるからな。サーシャの安全確保のためにパラシュートも製作したほうがいいな。

 二枚の中くらいの帆を使ってパラシュートを作ってみた。ちゃんと開くかどうか試すために、装着してホバリングで飛び上がる。かなり上がってきたな。ちゃんと開かなかったらと思うとメチャクチャ怖い。

 先にパラシュートが開くように紐を引っ張ってから、風魔法を魔法を解除した。体が一気に自由落下を始めた、ゴウゴウと風きり音がする中、どんどんと地面が近づく。

 早く開いてくれ!

 もう限界だ。

 これ以上遅れると地面にぶつかりそうだ。風の魔法を発動させよう。と、思ったらパラシュートが開いて降下速度が止まった。成功ではあるものの、自由落下が怖すぎだ。サーシャに体験させるなんて絶対にできないな。

 次はハンググライダーのシミュレーションを行ってみよう。高度百メートルから五百メートルで風にあおられて失速し、落ちることを想定してみる。何度やってみてもハンググライダーと一緒に墜落してしまったんだ。ハンググライダーとパラシュートの相性は最悪だったよ。

 パニックになると何もできないだろうし、パラシュートを開くための高度も足りないんだ。一番の問題はハンググライダーと体を結ぶロープを切り離すことができないことだな。簡単に外れるようにできなくもないけど、そうすると、飛行中に誤って外れる可能性が高くなってしまうんだ。

 結局、体を入れるハーネスとハンググライダーを二本のロープで結ぶことにした。一本だと解けたり切れたりすると危険だからね。両手で魔蟻の脚製のコントロールバーを掴むと、ハンググライダーを担ぎ上げてゆっくりと走り出した。十個の風魔法を後方に向けて発動させると、フワッとハンググライダーと体が浮き上がり、無事にテイクオフに成功した。

 コントロールバーを操作して少しずつ大きな円を描くように高度を上げていく。もちろん、風魔法を後方に向けて発動させ続けている。ウイングスーツと違い飛行速度は出ないが、ゆっくりと空中散歩が出来そうだ。

 急旋回や急上昇、急降下もできそうにないな。あまり急激な操作を行うと失速して墜落の危険があるんだ。

 テスト飛行中に失速したら、ハンググライダーは諦めてホバリングしようと考えていたんだけど、幸いなことに復旧できないほどの失速は経験せずに済んだよ。おかげで、ハーネスのロープを切断することもなかった。

 色々と想定しながら試験飛行を繰り返していたら、ベビがひとりで舞い上がって来たんだ。チビやレックスの姿が見えないのでひとりで来たんだろうね。

《ベビ、危ないのでママに近づかないでよ。落ちたらママが死んじゃうからね》

《ママが楽しそうに飛んでいるからベビも来たノ》

 え! 別荘からは流石に見えないよね? 俺って無意識に念話していたのか?

 ベビは何かの魔法で空に留まっている。龍固有の魔法なんだろうな、風魔法で無いことだけは分かる。ハンググライダーでベビの周りをゆっくりと飛行する。

 魔力鑑定眼を発動させてみたところ、ベビの魔力がかなり増えていた。ここ最近の魔力の増え方がおかしい、レックスが魔石とか食べさせていそうだな。

 しかし、ママ龍さんは育児放棄が酷過ぎる。教育係のレックスがいてくれて本当に良かったよ。

 ベビにロープで引っ張ってもらう飛行テストも行った。

《ベビありがとう、テスト飛行は完璧だ。テストは終わって着陸するよ》

《分かったなノ》

 コントロールバーを握り直して体重を移動させると、ハンググライダーは大きく旋回しながらゆっくりと降下を始めた。最期は風魔法による逆噴射で、無事に訓練場に着陸することができた。今更だが、放牧地に降りる方がいいな。訓練場は狭いし硬いから危な過ぎた。ベビが俺の近くに降りてきた。塀の外から子供たちの歓声が聞えてきた。集まって見ていたんだな。

 ん! 一瞬誰かの視線を感じた。振り向くと屋敷と繋がる通路の階段の陰からこちらを見つめるふたつのピンク色の眼差しと俺の目がバッチリと合った。ピンクの目の持ち主、可愛いサーシャが獲物を見つけたように嬉しそうに走って飛びついてくる。俺はハンググライダーにロープで結ばれているので簡単に捕獲されてしまったよ。
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