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200.1カイル・ハイルーン帰る1 (やっと到着)✔ 2024.2.7修正 文字数 前4,069後4,148増79
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三月十日に無事に見習い期間を終え、カイル・ハイルーンはレイモンの町を後にした。
レイモンの町からマルベリー公爵の街までは、同期たちとこれからの事や辛かった訓練の事を、熱く語り合いながらの最後の行軍になった。
入学前と比べると行軍スピードも速く、息も乱れてはいない。四ヶ所の騎士団で見習い期間を過ごしたが、やはり辛かった訓練を思い出さずにはいられなかった。唯一、最期に過ごしたレイモンの騎士団はアットホームで楽しかった。そんなことを同期たちと話しながら街に到着した。
一度、騎士学校に集まり、あちこちの騎士団に散らばっていた同期たちとの再会を共に喜んだ。他の町にある騎士学校の見習い騎士も一堂に会しており、盛り上がりを見せている。
明日にはそれぞれの就職先に向かって旅立つことになる。王都に向かうエリート組や地元の町に帰る者、この街に残る者など、別々の道に進むため別れることとなった。移動は大変なため、二度と会うことのない者もいるだろう、固い握手を交わし、永久の友情を誓い合う。
カイルは同期たちと別れると、乗合馬車を二度乗り継いでニーディに到着した。カイルが学んだ騎士学校もこの町にある。現在、弟のクロードが官吏学校で学んでいる。
弟のクロードに会うため官吏学校に立ち寄ることにした。しかし、運悪く年度末の試験中とのことで外部の人間との接触はできないと断られてしまった。
今日はこの町の安宿に泊まり、明日朝早くに出発して徒歩で帰るつもりでいた。人口五百人の小さなロプト村に向けて乗合馬車は走っていなかったからだ。
いつも村の男たちが買い物に来た時に泊る定宿『ランプ亭』がある。ここが安くて飯もそこそこ美味しい。宿の扉を開けて中に入ると一階はテーブルと椅子が六組置かれ、カウンターには一人用の椅子が五つ置かれていた。
そのカウンターの端には宿の受付があり、三十代後半に見えるほっそりとした金髪の女性が、暇そうに頬杖をついて座っていた。ランプ亭と言う名前の通り室内はランプの暖かそうな灯りで照らされている。
午後三時過ぎという中途半端な時間のためか、客の姿は見えなかった。油代をケチっているのか、ランプがふたつしか灯されていないため、室内はどんよりと薄暗かった。
昼飯も食べ終わり、宿泊客が来るには少し早い時間だ。カイルはカウンターに置かれたランプに照らされている女性に歩み寄る。
「ひとり泊まりたいんですけど。部屋は空いていますか? 料金も聞きたいんですが!」
受付の女性はけだるげにカイルを見上げながら応えた。
「夕食付きなら六千クロン、素泊まりなら四千クロンよ。朝飯も付けるならおまけで七千クロンにするよ!」
「明日隣の村まで行きたいから朝五時に立ちたい、朝夕付きにしてください」
「朝五時ですって? 早すぎて朝飯の準備は無理だよ! 夕食付六千クロンね。先月、ハイルーン町になったって聞いたけど、坊やはどこの出身?」
「え! 村ではなくてハイルーン町?」
カイルは驚きつつも、銀貨一枚を手渡してお釣りの銅貨を受け取った。女はカイルの鍛え上げられた体に興味を持ったのか、舐めまわすように見ていた。
夕食は何時から食べれるのか尋ねると、五時からなら食べれると言われた。早く食べて早く寝るつもりでいるため、五時で頼んだ。明日は朝早くに出発しなければならないからだ。
カイルは騎士学校の行軍訓練では、土袋を自主的に担いで訓練しており、歩きには自信があった。
それでも、七十キロもあるため、休まず歩いて十四時間も掛かる予定だ。途中に休憩と駆け足で走るとして十二時間が限界だろう。乗合馬車は出ていないはずで、貸切馬車は高くて頼むことなどできはしない。運よく馬車を見つけられれば、乗せてもらうように交渉するつもりでいる。
夕食まで二時間程あるため、ニーディの町を散策し、朝食と途中の食事も購入する必要があった。あとは、お土産の定番のクッキーを買って帰ろうと考えていた。
以前と同じ場所に串焼きの露店を見つけた。今日は猪肉で一本が五百クロンだと言われ、三本買った。明日の朝と地中で食べるつもりでいる。
他にも途中で食べるためにクッキーと少し硬いパンも購入しておいた。購入したクッキーとパンは背中の袋に納め、串焼きは袋に匂いが付きそうなので手に持って歩くことにした。後で手ごろな葉っぱを探して包むつもりだ。
串焼き一本を右手に左手に二本を持ち、かぶりつきながら、交渉できそうな荷馬車の出そうな店を見て回る。串焼きが邪魔になり、後で買えばよかったと少し後悔した。
結局、そんな都合のいい話はなく、十人組も交渉できそうな荷馬車も見つけることはできなかった。
夕食は、じゃがいもと何かの肉をぶつ切りにして煮込んだスープと硬いパンだった。この硬いパンをスープに浸けて柔らかくして食べる。塩とコショウだけの味付けにみえたが、肉はよく煮込まれており、ショウガが入れてあることで肉の臭みも抑えられていた。じゃがいもを多めに入れてくれたようでお腹をいっぱいにすることができた。
明日のためにワインを水筒に入れて貰うよう頼んだが、快く入れて手渡してくれた。礼を言い、早めに二階の部屋で休むことにした。
翌朝まだ暗い五時に宿を出発すると門に向かい歩いた。すると空の荷馬車が出発しようとしているではないか、慌てて声を掛けて交渉した。ラッキーな事に乗せて貰えることになった。御者の男が自分の小遣いにするのだろう、運賃は乗合馬車の半額の銀貨一枚でいいと言ってくれた。
荷馬車が二を積まずに走ることは少ない。普通は何か運んで金に換え、新たに荷を購入するからだ。乗せてもらえるのだからと深く考える事はやめた。
村に向かう道だが穴にハマるようなこともなく進んでいる。途中からは大きな揺れも減りスピードも上がっている。休憩所に着く頃には周りはかなり明るくなっており、降りて確認すると、道はカチカチに固められていた。予想していた時間よりもかなり早く走ったことになる。
昨日買ったクッキーと串焼きを出して食べた。クッキーには砂糖はほとんど入っていないため、お菓子というよりは日持ちのする携帯食料に近い。それでもよく噛んで食べると香ばしく、砂糖が入っていることは感じることができた。
パンはスープにつけて食べなければ、とても食べたいと思えるようなシロモノではない。カイルは硬いパンよりは、このクッキーの方が好きだった。御者の男にもクッキーを一枚手渡した。男も礼を言い美味しそうに食べていた。
男はこれから日帰りで仕入れにいくそうで、そのために朝早くに出発したと言うのだ。確かにこの速さで走れるなら日帰りも可能だろう。
カイルの予想の約半分の時間で到着した。が、カイルの記憶に残るロプト村などどこにもなかった。
「なんだここ!」
「なんだ兄さん、始めてだったのか? 初めてのやつはみんな同じように驚くからな」
御者の男は笑いながら、荷馬車を堅牢な壁と門の前で停車させ、手続きに向かった。カイルは礼を言い別れた。
カイルは塀が気になったため、左側に歩いてみることにした。土魔法だろうか? マルベリーの城壁並みに堅牢な作りに見えた。塀の前には堀も作られ、かなり先まで続いている。右手を見ると塀に『ハイルーン町へようこそ』と土魔法だと思われるもので造られていた。宿の女が言っていた通りに町になっていた。
本当に人口が二千人を超えたらしい。信じられないな。こちらも塀は、いや、もうこれは城壁と言ってもいいだろう。高さは三メートル近くあるのではないだろうか? 堀が二メートルはあるから合わせると五メートルになる。梯子を掛けて越えようとすると上から迎撃されるのだろうな。
矢が降ってくるのか、投石か熱湯の可能性もあるな。カイルの頭の中には、騎士学校の攻城戦の訓練が蘇っていた。
「ここを落とそうとすると死傷数が恐ろしいな、どうやったら落とせるのだろうか?」
カイルの思考は騎士にどっぷりと染まっており、ぼそぼそと呟いた。
門番は黒い防具を着けており、光沢がプレートアーマーとは違うようだ。もしこれがプレートアーマーならこの軽装備でも十キロは下らないだろう。だが、どう見ても軽そうに着こなしている。カイルは門番の顔を羨ましそうに見る。
「あれ、コバックさん?」
「カイル様お久しぶりです! お帰りになったんですね。アルフレッド様から聞いておりました」
「コバックさんが門番ですか?」
「ええ、アルフレッド様に雇ってもらいました」
コバックはにこにこと笑いながら応対した。
アルフレッドに言われた通り、門を抜けると右に曲がり、橋を渡ると左に曲がる。店が何軒も立ち並んでおり、人も多い。乗せてもらった荷馬車がマシュー商会の店先に止められていた。
「すごい賑わいだな、こんなに子供がいるなんて」
カイルの口から自然と漏れ出た。
アルフレッドから聞いてはいたが高い塀の屋敷があった。カイルはぐるりと塀の周りを歩いて確認して回る。遠くには広大な畑が広がっていた。
裏にも高い塀があり、道の上には橋が架かっていた。
ハイルーン邸の門にやって来た。門番が立っており黒い防具を着ている。
「お揃いなのか? いいな俺にももらえるだろうか? クルトさん? 門番なの?」
門番は双子の兄クルトだった。
「カイル様、お久しぶりです! アルフレッド様に雇ってもらえて、どうぞ中へ」
来るとは照れ臭そうにしながら案内する。庭に入ると信じられないような庭園が広がっていた。いったい幾ら使ったんだこれ。マルベリー公爵の建物にそっくりだった。この建物も高いぞ。
やっと玄関に辿り着いた。ドアを開けて中に入ると、サーシャがベスの上に跨っていた。ベスってこんなに大きかっただろうか?
「カイルお兄様。おかえりなさいなの、サーシャは待っていたの」
「ただいまサーシャ、お兄様って、誰に教えてもらったの?」
「サーシャはアルテミシアお姉ちゃんのようなレディーになるの」
「アルテミシア様の影響か? なるほどな。サーシャ姫の騎士、カイルが帰って来ましたよ」
カイルが片膝を突いて大げさに言うと、サーシャは満面の笑みになり、ベスから飛び降りて、カイルに飛びついた。カイルはサーシャを抱き上げるとグルグルと回り始めた。
屋敷内にはサーシャのキャッキャという笑い声が響き渡る。
レイモンの町からマルベリー公爵の街までは、同期たちとこれからの事や辛かった訓練の事を、熱く語り合いながらの最後の行軍になった。
入学前と比べると行軍スピードも速く、息も乱れてはいない。四ヶ所の騎士団で見習い期間を過ごしたが、やはり辛かった訓練を思い出さずにはいられなかった。唯一、最期に過ごしたレイモンの騎士団はアットホームで楽しかった。そんなことを同期たちと話しながら街に到着した。
一度、騎士学校に集まり、あちこちの騎士団に散らばっていた同期たちとの再会を共に喜んだ。他の町にある騎士学校の見習い騎士も一堂に会しており、盛り上がりを見せている。
明日にはそれぞれの就職先に向かって旅立つことになる。王都に向かうエリート組や地元の町に帰る者、この街に残る者など、別々の道に進むため別れることとなった。移動は大変なため、二度と会うことのない者もいるだろう、固い握手を交わし、永久の友情を誓い合う。
カイルは同期たちと別れると、乗合馬車を二度乗り継いでニーディに到着した。カイルが学んだ騎士学校もこの町にある。現在、弟のクロードが官吏学校で学んでいる。
弟のクロードに会うため官吏学校に立ち寄ることにした。しかし、運悪く年度末の試験中とのことで外部の人間との接触はできないと断られてしまった。
今日はこの町の安宿に泊まり、明日朝早くに出発して徒歩で帰るつもりでいた。人口五百人の小さなロプト村に向けて乗合馬車は走っていなかったからだ。
いつも村の男たちが買い物に来た時に泊る定宿『ランプ亭』がある。ここが安くて飯もそこそこ美味しい。宿の扉を開けて中に入ると一階はテーブルと椅子が六組置かれ、カウンターには一人用の椅子が五つ置かれていた。
そのカウンターの端には宿の受付があり、三十代後半に見えるほっそりとした金髪の女性が、暇そうに頬杖をついて座っていた。ランプ亭と言う名前の通り室内はランプの暖かそうな灯りで照らされている。
午後三時過ぎという中途半端な時間のためか、客の姿は見えなかった。油代をケチっているのか、ランプがふたつしか灯されていないため、室内はどんよりと薄暗かった。
昼飯も食べ終わり、宿泊客が来るには少し早い時間だ。カイルはカウンターに置かれたランプに照らされている女性に歩み寄る。
「ひとり泊まりたいんですけど。部屋は空いていますか? 料金も聞きたいんですが!」
受付の女性はけだるげにカイルを見上げながら応えた。
「夕食付きなら六千クロン、素泊まりなら四千クロンよ。朝飯も付けるならおまけで七千クロンにするよ!」
「明日隣の村まで行きたいから朝五時に立ちたい、朝夕付きにしてください」
「朝五時ですって? 早すぎて朝飯の準備は無理だよ! 夕食付六千クロンね。先月、ハイルーン町になったって聞いたけど、坊やはどこの出身?」
「え! 村ではなくてハイルーン町?」
カイルは驚きつつも、銀貨一枚を手渡してお釣りの銅貨を受け取った。女はカイルの鍛え上げられた体に興味を持ったのか、舐めまわすように見ていた。
夕食は何時から食べれるのか尋ねると、五時からなら食べれると言われた。早く食べて早く寝るつもりでいるため、五時で頼んだ。明日は朝早くに出発しなければならないからだ。
カイルは騎士学校の行軍訓練では、土袋を自主的に担いで訓練しており、歩きには自信があった。
それでも、七十キロもあるため、休まず歩いて十四時間も掛かる予定だ。途中に休憩と駆け足で走るとして十二時間が限界だろう。乗合馬車は出ていないはずで、貸切馬車は高くて頼むことなどできはしない。運よく馬車を見つけられれば、乗せてもらうように交渉するつもりでいる。
夕食まで二時間程あるため、ニーディの町を散策し、朝食と途中の食事も購入する必要があった。あとは、お土産の定番のクッキーを買って帰ろうと考えていた。
以前と同じ場所に串焼きの露店を見つけた。今日は猪肉で一本が五百クロンだと言われ、三本買った。明日の朝と地中で食べるつもりでいる。
他にも途中で食べるためにクッキーと少し硬いパンも購入しておいた。購入したクッキーとパンは背中の袋に納め、串焼きは袋に匂いが付きそうなので手に持って歩くことにした。後で手ごろな葉っぱを探して包むつもりだ。
串焼き一本を右手に左手に二本を持ち、かぶりつきながら、交渉できそうな荷馬車の出そうな店を見て回る。串焼きが邪魔になり、後で買えばよかったと少し後悔した。
結局、そんな都合のいい話はなく、十人組も交渉できそうな荷馬車も見つけることはできなかった。
夕食は、じゃがいもと何かの肉をぶつ切りにして煮込んだスープと硬いパンだった。この硬いパンをスープに浸けて柔らかくして食べる。塩とコショウだけの味付けにみえたが、肉はよく煮込まれており、ショウガが入れてあることで肉の臭みも抑えられていた。じゃがいもを多めに入れてくれたようでお腹をいっぱいにすることができた。
明日のためにワインを水筒に入れて貰うよう頼んだが、快く入れて手渡してくれた。礼を言い、早めに二階の部屋で休むことにした。
翌朝まだ暗い五時に宿を出発すると門に向かい歩いた。すると空の荷馬車が出発しようとしているではないか、慌てて声を掛けて交渉した。ラッキーな事に乗せて貰えることになった。御者の男が自分の小遣いにするのだろう、運賃は乗合馬車の半額の銀貨一枚でいいと言ってくれた。
荷馬車が二を積まずに走ることは少ない。普通は何か運んで金に換え、新たに荷を購入するからだ。乗せてもらえるのだからと深く考える事はやめた。
村に向かう道だが穴にハマるようなこともなく進んでいる。途中からは大きな揺れも減りスピードも上がっている。休憩所に着く頃には周りはかなり明るくなっており、降りて確認すると、道はカチカチに固められていた。予想していた時間よりもかなり早く走ったことになる。
昨日買ったクッキーと串焼きを出して食べた。クッキーには砂糖はほとんど入っていないため、お菓子というよりは日持ちのする携帯食料に近い。それでもよく噛んで食べると香ばしく、砂糖が入っていることは感じることができた。
パンはスープにつけて食べなければ、とても食べたいと思えるようなシロモノではない。カイルは硬いパンよりは、このクッキーの方が好きだった。御者の男にもクッキーを一枚手渡した。男も礼を言い美味しそうに食べていた。
男はこれから日帰りで仕入れにいくそうで、そのために朝早くに出発したと言うのだ。確かにこの速さで走れるなら日帰りも可能だろう。
カイルの予想の約半分の時間で到着した。が、カイルの記憶に残るロプト村などどこにもなかった。
「なんだここ!」
「なんだ兄さん、始めてだったのか? 初めてのやつはみんな同じように驚くからな」
御者の男は笑いながら、荷馬車を堅牢な壁と門の前で停車させ、手続きに向かった。カイルは礼を言い別れた。
カイルは塀が気になったため、左側に歩いてみることにした。土魔法だろうか? マルベリーの城壁並みに堅牢な作りに見えた。塀の前には堀も作られ、かなり先まで続いている。右手を見ると塀に『ハイルーン町へようこそ』と土魔法だと思われるもので造られていた。宿の女が言っていた通りに町になっていた。
本当に人口が二千人を超えたらしい。信じられないな。こちらも塀は、いや、もうこれは城壁と言ってもいいだろう。高さは三メートル近くあるのではないだろうか? 堀が二メートルはあるから合わせると五メートルになる。梯子を掛けて越えようとすると上から迎撃されるのだろうな。
矢が降ってくるのか、投石か熱湯の可能性もあるな。カイルの頭の中には、騎士学校の攻城戦の訓練が蘇っていた。
「ここを落とそうとすると死傷数が恐ろしいな、どうやったら落とせるのだろうか?」
カイルの思考は騎士にどっぷりと染まっており、ぼそぼそと呟いた。
門番は黒い防具を着けており、光沢がプレートアーマーとは違うようだ。もしこれがプレートアーマーならこの軽装備でも十キロは下らないだろう。だが、どう見ても軽そうに着こなしている。カイルは門番の顔を羨ましそうに見る。
「あれ、コバックさん?」
「カイル様お久しぶりです! お帰りになったんですね。アルフレッド様から聞いておりました」
「コバックさんが門番ですか?」
「ええ、アルフレッド様に雇ってもらいました」
コバックはにこにこと笑いながら応対した。
アルフレッドに言われた通り、門を抜けると右に曲がり、橋を渡ると左に曲がる。店が何軒も立ち並んでおり、人も多い。乗せてもらった荷馬車がマシュー商会の店先に止められていた。
「すごい賑わいだな、こんなに子供がいるなんて」
カイルの口から自然と漏れ出た。
アルフレッドから聞いてはいたが高い塀の屋敷があった。カイルはぐるりと塀の周りを歩いて確認して回る。遠くには広大な畑が広がっていた。
裏にも高い塀があり、道の上には橋が架かっていた。
ハイルーン邸の門にやって来た。門番が立っており黒い防具を着ている。
「お揃いなのか? いいな俺にももらえるだろうか? クルトさん? 門番なの?」
門番は双子の兄クルトだった。
「カイル様、お久しぶりです! アルフレッド様に雇ってもらえて、どうぞ中へ」
来るとは照れ臭そうにしながら案内する。庭に入ると信じられないような庭園が広がっていた。いったい幾ら使ったんだこれ。マルベリー公爵の建物にそっくりだった。この建物も高いぞ。
やっと玄関に辿り着いた。ドアを開けて中に入ると、サーシャがベスの上に跨っていた。ベスってこんなに大きかっただろうか?
「カイルお兄様。おかえりなさいなの、サーシャは待っていたの」
「ただいまサーシャ、お兄様って、誰に教えてもらったの?」
「サーシャはアルテミシアお姉ちゃんのようなレディーになるの」
「アルテミシア様の影響か? なるほどな。サーシャ姫の騎士、カイルが帰って来ましたよ」
カイルが片膝を突いて大げさに言うと、サーシャは満面の笑みになり、ベスから飛び降りて、カイルに飛びついた。カイルはサーシャを抱き上げるとグルグルと回り始めた。
屋敷内にはサーシャのキャッキャという笑い声が響き渡る。
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