異世界に転生したけどトラブル体質なので心配です

小鳥遊 ソラ(著者名:小鳥遊渉)

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319.2グラン帝国潜入調査2(旧帝都潜入)✔

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 マシューさんと協議して、マシュー商会の鑑札を借りることになった。求められた時だけ提示すればいいそうだ。

 グラン帝国の人はマシュー商会のことは好意的に接してくれるので、よほどのことが無ければ、揉め事に発展することもないだろうと言われた。

 マシューさんが言うにはグラン帝国の中でも俺の貰った領地は、異常といえるほど管理が徹底されており、特に治安がいいそうだ。

「もしかすると帝都よりも治安がいいかもしれません、冗談ではなく本当ですから!」と真剣な表情で言ってたんだよね。

 グラン帝国側にも関所が造られ国境のように出入りの確認が行われており、まるで別の国扱いのようだとも言っていたな。

 他にも、住民もしっかりとした身元確認が行われているのではないかとも言ってたな。

 これを聞かされた時点で、俺の貰った領地に知られずに入国するのはリスクが高いと感じたんだ。きっと監視もされていそうだからね。

 出入りした記録のない者が、領主の俺なら問題にならないだろうけど、偽りの姿で変装して入国するとなると、直ぐに連行されてしまいそうだからね。

 俺の当初の計画ではグラン帝国側から入ろうと思っていたんだけどな。簡単なミッションのはずだったんだけど、いきなりハードルが上がったぞ。

 俺の貰った領地はいったいどうなっているんだろうか? 面積も広いらしいし、未だに拡大中だからな。

 開発には大金が必要になるから、メダリオン王国に支払う賠償金もあり、資金繰りも厳しいはずなんだけどな。

 エンゲルベルト皇帝も、ボルトマン将軍も何をしようとしているのか、全く読めないんだけど!

 朝暗いうちに出発して元の帝都近くの森に着陸し、明るくなる手前まで過ごすことにした。怪しまれないようにテントも持参したが、商人なのに馬車がない時点で職質するレベルだよね。

 以前、使っていたランドセルに、ブルースライムとピンクスライムのポーション、それにエリクシアの小分け容器も入れた。全部五十本ずつあり、チビとベビ、俺を合計すると百五十本を背負っている。

 年齢的にご隠居設定は無理なので、若旦那と丁稚奉公のふたりのポーション売り(薬売り)パーティーという設定にしたよ。

 計画では、まず、旧帝都の街を調査し、新しい帝都を目指す。移動は乗合馬車を利用するつもりでいるんだ。

 グラン帝国の通貨はマシューさんから貰った、言葉も通じるから何の問題もないはずだ。念のため、三人共、腰に剣を差しているんだ。使わないとは思っているんだけどね。

 ほんの数年前に来た時は帝都だったのに、月日が経つのは早いな。……初めてこの街をゆっくりと歩く、以前来た時は流行り病でそれどころではなかったからな。

 帝都を移したからだろう、人が少ない。予想よりも治安が悪いかもしれないぞ! ここに残っている人達だが、ちょっと危険な雰囲気が漂って者がいる。

 漁師は河から離れられないから残っているようだ。その他は閑散としている。街を丸ごと移すとこんなことになるんだな。

 空になった建物が、犯罪者の巣窟になっていそうなんだが、大丈夫なんだろうか? ここって邪神教の施設を造るのに最適じゃないか。

 魔力鑑定眼を発動させて魔石や魔石爆弾の魔力を探した方がいいだろうな。元々、調査する気ではいたんだけど、調査のウエイトが変わってしまったぞ!

 人が住んでいるから市場は立っているだろう。邪神教の使徒も食材は購入する筈だから、そこから調査していこう。

〈チビ、ベビ、油断しないでね! 邪神教の狂信者でなくても、強盗とかいそうだからね!〉

 目で合図すると、ふたりは小さく頷く。

〈分かっているダォ! ボーッと燃やしてやるダォ!〉〈それがいいノ!〉

 チビとベビが楽しそうに念話してくる。チビとベビは街を散策する楽しみを憶えてしまったな。

〈目立つと隠密調査できないから、ボーッて火炎を吐いちゃダメだからね! できるだけ剣で殴って無力化させて! 危ないようなら風の刃は使ってもいいよ!〉

〈剣で叩くダォ!〉〈分かったなノ!〉

 チビとベビは本当にいい子に育ってくれて助かる。チビとベビが腰の剣を右手に握る。ふたりの外見は子供だが、その腕力は恐ろしいほど強力だ! 剣は切るのではなく殴るモノと認識しているようだ。あれで殴られたら無事では済まないからね。

 市場は河の近くにあった。人が集まっている。魚を焼いたいい匂いがしてきた。やっぱり魚料理のようだ。

 魚と野菜のスープもあった。三つ頼んでみる。魚をベースに塩コショウとニンニクとショウガが入っているようだ。

 初めて食べる味だが、悪くない。野菜はジャガイモがぶつ切りにして入っていた。玉ねぎも入っていると甘みが加わってよかったんだけどな。なんだか、無性に味噌汁が食べたくなってきた。

 美味しいが聞こえてこないところをみると、チビとベビの口には合わなかったみたいだ。魚の匂いを消すために入れたであろう、ニンニクかショウガが苦手だったようだ。俺は結構好きな味なんだけどな。

 丸ごと魚を串に刺し塩焼きにしたモノを三本購入した。これは美味しかったようで、美味しいと念話が届いた。シンプルな塩味の方が好きなんだろうな。実は俺もこっちの方が美味しかったんだけどね。

 ホットケーキというか、お焼きというか、ただ小麦粉を解いたモノを焼いただけの料理を見つけた。買ってみたら塩味だった。千切って食べるみたいだな。野菜を挟んでマヨネーズを入れれば美味しい気がするが、これだけで食べるのは味気なさ過ぎる。

 さっきの魚のスープに浸けて食べている人が多いようだ。やっぱり俺は、野菜と卵が欲しい、カレーがあれば、ナンの代わりになりそうだ。

〈チビ、ベビ、気が付いている?〉

〈分かってるダォ!〉〈ついて来るノ!〉

 先程から、俺達三人の様子を窺うガラの悪そうな者たちがいる。きっとカモに見えているんだろうな。

 子供まで混ざっているようだ、やっぱり治安が悪いな。

 魔力鑑定眼で確認したが、大きな魔力は見えていない。狂信者ではなさそうだ、きっと強盗とか追い剝ぎの部類だろう。

 さて、どうしようかな? あんた達に用はないんだけどな。……待てよ! 捕まえて話を聞いてみようかな? 邪神教の施設とか知っているかもしれないぞ。

 市場では襲う気はないみたいだな、つかず離れず距離を保っている。更に人が増えている?

〈チビ、べビ、市場から離れるよ! きっと襲って来るから注意してね! 子供は怪我させちゃだめだからね!〉

〈任せるダォ!〉〈任せてなノ!〉

 市場から離れると十人の怪しげな人がついて来た。子供は二人だな。腰には剣がぶら下がっている。街の中だというのに弓を持っている奴までいる。

「おい、俺達に恵んでくれよ!」

 ニヤニヤとしながら先頭を歩く男が声を掛けてきた。

 ベビとチビは右手で剣を上段に構えている。

「おっ、かわいいボクちゃん嬢ちゃんがいっちょまえに剣を構えているぜ! その剣でどうしようってんだ!? オレにくれるのか?」

 ゲラゲラと笑いながら俺達を取り囲むように移動すると、剣を構えニヤニヤとしている。

〈アルママ、チビは気分がよくないダォ!〉〈ベビも嫌なノ!〉

 チビとベビが静かに怒っているな、相手のことが心配になる。

〈子供は怪我させないでよ!〉

〈分かっているダォ!〉

 念話と同時にチビが一瞬でニヤニヤとしていた男の懐に移動していた。

 ドスッと鈍い音が聞こえ、男の体がくの字に折れ曲がった。うめき声が聞こえた気もしたが、次から次にドスドスと鈍い音がすると三人の男が倒れていた。チビが剣の腹で殴りつけたんだ。

 殴りつける音と共に悲鳴が聞こえた。ベビも三人を殴り倒し、ふたりの子供を取り押さえていた。今にも泣きそうな顔になり、ブルブルと震えている。やられる側になるとは思っていなかったんだろうな。

 俺もポケットに忍ばせていた石を投擲し、弓矢を構えたふたりの男を最初にノックアウトしておいたからね。路地には八名の男が転がりうめき声をあげているが、骨が折れていてもおかしくないだろう。

「ねえ、君たちは悪いことをしているって分かっているかい?」

 俺はできるだけ優しく子供に話しかけた。

 ふたりは兄妹で、流行り病で両親を亡くし、食べるために仕方なく悪事に加担していたようだ。

 他にも同じような子供がいるようだが、全部、置き去りにしたのか? 皇帝は何をやっているんだよ、酷いじゃないか。

 さらに話をすると、どうやら兵士から呼びかけはあったみたいだ。捕まると思い、逃げ回っていたようだから意味が分からなかったのかもしれないな。兵士の言葉が信用できなかったんだろうか? 

 お金を渡して解放しても、同じことを繰り返すんだろうな。何人くらいいるんだろうか? 孤児院を造るか? 他国だからな。警備の兵に突き出すと人生終わるだろうからな。

 参ったな。子供を連れて調査なんてできないし、身動きができなくなったぞ!
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