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296.2 ウンディーネの湖2(湖底の秘密)✔
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火の中位精霊が道案内してくれ、長い階段を下っている。ときおり、振り返って俺の様子を確認してくれる。松明よりも火の中位精霊の方が温かくて明るい。
見た目は完全にコンピューターグラフィックスの映画のワンシーンのようだ。痛い人になりたくないので、かわいいとかは言わないよ。だって、火の中位精霊の顔は俺にそっくりに似せているからね。
体感的には二十五メートルから三十メートルの長い階段を下りた。石の重い扉を押し開けると、五メートル四方の部屋があった。天井までの高さは三メートルもないだろう。
石製の培養槽があるではないか、こっちにあるのは材料を粉砕するための薬研だ。これも石で作られている。鉄製なら錆びて朽ち果てていただろうな。
使われなくなって長いようで、カビ臭い。風の精霊にお願いして、部屋の空気を入れ替えてもらう。まだカビ臭いが、さっきよりはましになった。継続的に空気は入れ替えてくれるそうだ。助かる。
澄んだ水が溜まっている所があった。湖と繋がっているみたいだが、これだけ深い場所なのに、よく水没しないな。空気は抜けているから水が入りそうなんだが不思議だな。覗き込んでいると水柱が立ち上がり、水の精霊ウンディーネが姿を現した。
〈そこを探してみて! ほら、そこよ!〉
探せと言われた部屋の隅には、朽ち果てた木材があり、その近くで本を見つけた。本はカビだらけになっており、ボロボロでとても読めるような状態ではなかった。
きっと、朽ち果てた木材は机と椅子だったのではないだろうか? いったい何年経てばここまでボロボロになるんだ!?
ここでエリクシアを製造していたんだろうな。そういえば、長い間待ったと言っていたがそういう意味だったのか?
朽ち果てた木材を選り分けながら探していると、シンプルな腕輪が出てきた。
〈それよそれ! 腕に嵌めて!〉
あまりにも汚いので躊躇していると、突然空中に水がジャージャーと流れ出てきた。
〈ほら、この水で洗いなさい!〉
言われるがままに、汚い腕輪を水の中に突っ込んでゴシゴシと洗う。なんども洗うとそれなりに綺麗になってきた。
錆びていないし、緑色にもなっていないので鉄や銅ではないようだ。ママ龍さんから貰った腕輪が嵌っていたんだった。足首に嵌まるかな? 足先を入れようとしたが無理だった。異世界モノのお約束、サイズの自動調整機能は付いていないようだ。
今嵌めている腕輪よりもサイズが大きいので嵌まるかもしれない。腕輪に左手を通すと、丁度今嵌っている腕輪の奥側に計ったように収まった。
突然、二つの腕輪がキーンと甲高い音を立てて共鳴し、ブルブルと震えている。ふたつ一緒に装着してはいけなかったか!?
腕輪からピリピリと電気が走っている。慌てて外そうとしたが、ピタリと嵌まって取れない。……ふたつの腕輪が繋がっていく! するとキーンという耳障りな音が収まってきた。
ついに腕輪は一つに繋がり、音もしなくなった。電気は今もピリピリと走っているままだ。突然、腕輪の辺りにチカっと痛みが走ると、目まいがして立っていられなくなった。壁際になんとか歩いて行くと、壁に背を預けてその場に座り込んだ。
すると、堰を切ったように情報が頭の中に流れ込んできた。魔法の開発、エリクシアの製造方法、邪神の使徒との戦い、龍や精霊、どんどんと流れ込んでくる。
神である邪神に挑んだ、賢者アールス・ハインドの膨大な記憶だった。
そうか、邪神の使徒を壊滅に近いところまで追い詰めはしたが、最後は邪神と戦って死んでしまったんだな!
勇者や聖女の記憶はないようだが、一緒に戦わなかったのか? それとも記憶の一部なのかもしれないな。流れ込んできた情報が多過ぎてすべてを把握するなんてできてはいない。落ち着いて思い出せば何か分かるかもしれないな。
いつの間にか、後ろに人化したチビやベビが、人の形をした精霊と共に立っていた。
膨大な量の情報が頭の中に流れ込んできた時間は、一瞬のような永遠のような不思議な感覚だった。実際には数時間が経過していたようで、みんな心配そうに見守ってくれていたそうだ。
〈大丈夫? ちゃんと思い出せたかしら!〉
〈アルママ、顔が真っ青ダォ! 大丈夫ダォ!〉〈ママ、痛いの痛いの飛んで行けなノ!〉
水の精霊ウンディーネ、チビとベビが心配そうに覗き込んできた。顔が近いな。
〈ええ、頭痛も目まいも収まっています。全部ではないようですが、賢者アールス・ハインドの記憶は思い出しました!〉
〈それは良かった!〉
俺は自分の頭に両手を掲げると、癒しの魔法を行使した。すると、いつも以上に温かな光が両手から溢れ出し吸収されていく。温かな魔力は体の中をグルグルと循環し始めた。今までと違い、神聖力が駆け巡っているように感じる。
頭痛も目まいも収まったと精霊に答えたが、吐きそうなほど辛かったんだ。だが、自分に行使した癒しの魔法で直ぐに改善していった。更に癒しの魔法の効果が高くなったように感じている。
見た目は完全にコンピューターグラフィックスの映画のワンシーンのようだ。痛い人になりたくないので、かわいいとかは言わないよ。だって、火の中位精霊の顔は俺にそっくりに似せているからね。
体感的には二十五メートルから三十メートルの長い階段を下りた。石の重い扉を押し開けると、五メートル四方の部屋があった。天井までの高さは三メートルもないだろう。
石製の培養槽があるではないか、こっちにあるのは材料を粉砕するための薬研だ。これも石で作られている。鉄製なら錆びて朽ち果てていただろうな。
使われなくなって長いようで、カビ臭い。風の精霊にお願いして、部屋の空気を入れ替えてもらう。まだカビ臭いが、さっきよりはましになった。継続的に空気は入れ替えてくれるそうだ。助かる。
澄んだ水が溜まっている所があった。湖と繋がっているみたいだが、これだけ深い場所なのに、よく水没しないな。空気は抜けているから水が入りそうなんだが不思議だな。覗き込んでいると水柱が立ち上がり、水の精霊ウンディーネが姿を現した。
〈そこを探してみて! ほら、そこよ!〉
探せと言われた部屋の隅には、朽ち果てた木材があり、その近くで本を見つけた。本はカビだらけになっており、ボロボロでとても読めるような状態ではなかった。
きっと、朽ち果てた木材は机と椅子だったのではないだろうか? いったい何年経てばここまでボロボロになるんだ!?
ここでエリクシアを製造していたんだろうな。そういえば、長い間待ったと言っていたがそういう意味だったのか?
朽ち果てた木材を選り分けながら探していると、シンプルな腕輪が出てきた。
〈それよそれ! 腕に嵌めて!〉
あまりにも汚いので躊躇していると、突然空中に水がジャージャーと流れ出てきた。
〈ほら、この水で洗いなさい!〉
言われるがままに、汚い腕輪を水の中に突っ込んでゴシゴシと洗う。なんども洗うとそれなりに綺麗になってきた。
錆びていないし、緑色にもなっていないので鉄や銅ではないようだ。ママ龍さんから貰った腕輪が嵌っていたんだった。足首に嵌まるかな? 足先を入れようとしたが無理だった。異世界モノのお約束、サイズの自動調整機能は付いていないようだ。
今嵌めている腕輪よりもサイズが大きいので嵌まるかもしれない。腕輪に左手を通すと、丁度今嵌っている腕輪の奥側に計ったように収まった。
突然、二つの腕輪がキーンと甲高い音を立てて共鳴し、ブルブルと震えている。ふたつ一緒に装着してはいけなかったか!?
腕輪からピリピリと電気が走っている。慌てて外そうとしたが、ピタリと嵌まって取れない。……ふたつの腕輪が繋がっていく! するとキーンという耳障りな音が収まってきた。
ついに腕輪は一つに繋がり、音もしなくなった。電気は今もピリピリと走っているままだ。突然、腕輪の辺りにチカっと痛みが走ると、目まいがして立っていられなくなった。壁際になんとか歩いて行くと、壁に背を預けてその場に座り込んだ。
すると、堰を切ったように情報が頭の中に流れ込んできた。魔法の開発、エリクシアの製造方法、邪神の使徒との戦い、龍や精霊、どんどんと流れ込んでくる。
神である邪神に挑んだ、賢者アールス・ハインドの膨大な記憶だった。
そうか、邪神の使徒を壊滅に近いところまで追い詰めはしたが、最後は邪神と戦って死んでしまったんだな!
勇者や聖女の記憶はないようだが、一緒に戦わなかったのか? それとも記憶の一部なのかもしれないな。流れ込んできた情報が多過ぎてすべてを把握するなんてできてはいない。落ち着いて思い出せば何か分かるかもしれないな。
いつの間にか、後ろに人化したチビやベビが、人の形をした精霊と共に立っていた。
膨大な量の情報が頭の中に流れ込んできた時間は、一瞬のような永遠のような不思議な感覚だった。実際には数時間が経過していたようで、みんな心配そうに見守ってくれていたそうだ。
〈大丈夫? ちゃんと思い出せたかしら!〉
〈アルママ、顔が真っ青ダォ! 大丈夫ダォ!〉〈ママ、痛いの痛いの飛んで行けなノ!〉
水の精霊ウンディーネ、チビとベビが心配そうに覗き込んできた。顔が近いな。
〈ええ、頭痛も目まいも収まっています。全部ではないようですが、賢者アールス・ハインドの記憶は思い出しました!〉
〈それは良かった!〉
俺は自分の頭に両手を掲げると、癒しの魔法を行使した。すると、いつも以上に温かな光が両手から溢れ出し吸収されていく。温かな魔力は体の中をグルグルと循環し始めた。今までと違い、神聖力が駆け巡っているように感じる。
頭痛も目まいも収まったと精霊に答えたが、吐きそうなほど辛かったんだ。だが、自分に行使した癒しの魔法で直ぐに改善していった。更に癒しの魔法の効果が高くなったように感じている。
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