異世界に転生したけどトラブル体質なので心配です

小鳥遊 ソラ(著者名:小鳥遊渉)

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259.4魔大陸の玄関口ハーフェン(露店でのできごと)✔

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 一時間程荷ヤーク(馬)車に揺られると魔大陸の玄関口、港町ハーフェンに到着した。人も店も多くて活気があり、多種多様な種族を見ることができる。多分人間は俺以外にいないのではないだろうか。獣人にエルフ、荷ヤーク(馬)車を引っ張っているのはケンタウロスだな。背が小さくてがっしりしているのはドワーフだろうか? あそこの男は全身が毛に覆われているが、狼か犬の系統だろうか? こっちの女の子は猫かライオンとかの系統だろう。獣人は種族が多いらしく、混血も多いからミルトでもよく分からないらしい。

 ミルトの商会に寄って荷ヤーク(馬)車を止める必要があり、向かっているところだ。

〈お腹が空いてきたノ〉〈空いたダォ!〉

〈分かったよ。ちょっとだけ待って〉

「ミルト、ベビたちがお腹を空かせているから食事を先にしたいんだ。自分達で露店を周って食べるつもりだから、買い取ってもらったお金を貰えないかな?」

「分かりました。買い物は後ですね。露店も案内するので少しだけ待っていてください」

「ごめん。助かるよ」

 ミルトは小走りに店の中に消えて行った。待つこと五分程だろうか。大きな袋を重たそうに抱えて店から出てきた。

「アルフレッド。買い取ったお金と人魚の宝も預かっていたのですが、今渡したほうがいいですか? かなりの金額ですし、重いですよ」

「露店で食べようと思うとそれくらいいるの?」

「露店の買い物分だけですか? では、こんなに要りませんね。これだけあれば、中くらいのお店が買えて営業が始められます」

 かなりの大金のようだな。日本円の価値なら二千万円分とかになるのだろうか? 貨幣価値が分からないから、あとで教えてもらおう。

 ミルトが店の中に重そうな包みを置いて来たようで、手には小さな袋を持っていた。

「ベビちゃんとチビちゃんがどれだけ食べるか想像できませんが、これだけあればかなりの量が買える筈です。普通の家族なら、ひと月は余裕で生活できるお金ですよ」

渡された小さな袋の中には、少し緑がかった金属製に見えるコインが五十枚ほどと、銀色っぽいコインが十枚ほど入っている。一枚の大きさは十円玉くらいだな。


「ひと月分の生活費なの? 多いよね」

 ベビとチビが龍の姿の時は、オークを丸々一匹食べてしまうこともあったからな。あれ、一匹売るとかなりの金額になるからな。ここの物価が分からないから、なんとも言えないけど、もしかするとこれだけでは足りないかもしれないぞ。

〈いい匂いがするノ〉〈チビもしてきたダォ! こっちダォ!〉

 チビが俺の手を引いて駆け出そうとした。人化しても力が強いんだよね。ベビの手を慌てて握ると縦に並んで早足にとどめる。この混雑した中を走るなんて迷惑でしかないからね。ミルトと護衛達も慌てて後についてくる。

〈アルママ、あのいい匂いのお肉が食べたいダォ!〉〈ベビも食べたいノ〉

 匂いに釣られたチビが指さす先には、焼き鳥の露店があった。獣人の男はタレに鳥肉を潜らせては、炭火で炙っている。鳥肉の串から滴り落ちるタレが炭の上に落ちてジュッと音を立てた。その度に辺りにはタレの香ばしいいい匂いが振り撒かれる。これはたまらない。マルベリー公爵の街の串焼きを思い出してしまった。ベビとチビの目がランランと輝いている。

 遅れて到着したミルトと護衛達が、唾をゴクントと呑み込んだように見えた。食べたいんだな。買ってあげるよ。一本幾らだろうか? たくさん買えばオマケしてもらえるかな?
 
「おじさん。美味しそうだね。その焼き鳥一本幾ら?」

 頭に鉢巻のように布を巻いた獣人の男に聞いた。目が細い、狐の獣人かな? 獣人の種族は本当に分かり難いな。

「三鉄銭だよ!」

 鉄銭? 緑っぽい奴だろうか? 三枚出してみればわかるな。

「じゃあ、これでお願いします」

「あんちゃん。冷やかしは無しにしてくれよ。それは緑銭だよ。百本も買う気なのかい」

 緑銭、価値は鉄銭の百枚分ね。狐目の男は苦笑いを浮かべている。冷やかしだと思って気分を悪くさせたのかもしれないな。俺とミルト達に二本ずつなら二十四本だろ、百本から引いて二で割ると三十八本になるな。ベビとチビならペロリと食べそうだな。

〈べビ、チビ何本くらい食べる?〉

〈ニ十本くらい食べてから何本食べるか決めるノ〉〈チビもベビと一緒にするダォ〉

 タレの匂いからすると、絶対に追加で購入させられる気がするな。まとめて買ったらおまけしてくれるだろうか? 言うだけ言ってみようかな。 

「百本買ったらオマケしてくれる? 冷やかしじゃないよ!」

「はっ! 百本? あんちゃん、本気で言ってる? 本当に買ってくれるなら十本オマケしてもいいよ」

 よかった、眼は細いままだが機嫌が直ったようだ。

「じゃあこれで百十本ください」

 俺は緑銭三枚を手渡した。すると狐目の男は嬉しそうにして、細い目が更に細くニコリとした。

「あんちゃん。長いことここで焼き鳥を焼いてきたが、一度に緑銭三枚分も買うと言うやつに初めて会った。正直、冷やかしだと思ったが違ったんだな。嬉しいね」

 狐の獣人の男はそうしゃべりながら、鳥肉の串をタレに潜らせては焼くを繰り返している。辺りにはジュウジュウという音と香ばしい匂いが広がっていく。流石にこれだけの本数をどんどんと焼いて行くと匂いが凄い。いつの間にか、俺達の後ろには列ができ始めている。

「はいよ。まずは十本ね」

 焼き鳥の串を受け取るとベビとチビに二本ずつ渡し、六本はミルトの護衛のエグザイルエルフ達に渡した。いいの? みたいな顔をしていたが受け取ると美味しそうに頬張っている。残りのエルフ達が羨ましそうに見てくる。渡すからそんな顔で見ないでよ。

「はいよ。次の十本ね」

 受け取っていなかったエグザイルエルフとミルトに一本ずつ渡し、俺が一本とチビとベビに二本ずつ渡した。

「美味しい」

 この焼き鳥は当たりだな。タレは甘辛くて美味しい。焼き方も上手で、皮がカリカリで香ばしいが、柔らかくジューシーさも保たれている。砂糖か蜂蜜、ちょっとしょっぱいが、醤油のような調味料が使われている。……そうかこれは魚醤だな。ここは海が近いから魚と塩で魚醤を造っているんだろう。これはおみやげリストの第一号だな。

 男は一度に何本も両手に串を持って器用に焼いている。突然、ボッと大きな火が起こった。油が垂れたみたいだ。指の毛と髭の先に火が着いた。「あちっ」と声を出したが、両手が塞がっていても、慌てる様子がない。何センチか燃えると自然と消えた。生きた毛なので水分もあるからかな? しかし、髭は左右でアンバランスな長さになっている。ちょっとカッコ悪いな。

「大丈夫ですか?」

「あんちゃん、驚かせしまったか? たまにあるんだよ。この肉は脂が乗っているから特に美味しいぞ!」

 照れ笑いを浮かべながら次の串を渡された。焼き網があればもっと簡単に安全に焼けるよな。俺は土魔法で焼くための網を作ることにした。土は地面から薄く集めれば陥没もしないよね。網目は小さいと火の通りが悪くなるし、掃除も大変になりそうだ。そこで網目は五センチ間隔に決めた。土を圧縮してカチカチにする。

 完成した網を狐目の男に差し出す。串を焼いている男の顔はキョトンとしている。

「あんちゃん。なんだこれ? どっから出したんだ? さっきまで、そんなモノ持ってなかったよな?」

「騙されたと思って串を焼くのに使ってみませんか? 最初だけ鳥の油を付ければ焼きつきにくいと思います。よく熱したら、後はその上に鳥の串を置いて焼くだけですよ。ひっくり返すのも忘れないでください」

「ああ。やってみよう」

 次の串が焼き上がると受け取り、護衛とベビ、チビに手渡す。

 男は早速、俺の作った土魔法製の網をセットすると、鳥の油を付けている。

 そろそろ、網がいい温度になったのではないだろうか? 鳥串を並べていく。一度に二十本は焼けるな。長年焼き鳥を作っているだけあって、手際がいい。もう使い方に慣れたようだ。

「あんちゃん。これはいいな。顔も手も熱くないし、一度にたくさん焼くことができる。これはいい」

 細い狐目が更に細くニコニコと微笑んでいる。

結局、俺達が桜状態になったためか、長蛇の列になっている。合計百十本の焼き鳥を受け取り次の美味いモノを探すことにした。

「あんちゃんありがとな。またあとで寄ってくれよ」

 つい、網の事が気になり他で買い食いして見に来てしまった。丁度、狐目の男が店を片付けているところだった。

「あんちゃんのお陰で、焼き鳥は売り切れになったぞ! こんなに早い時間で売り切れたのは初めてだ。世話になった。これを回収に来たんだろ。これはいくら出せば譲ってくれるんだ?」

 男は真剣な表情で俺の目を見てきた。

「あんなに美味しい焼き鳥を食べれたんだから、ただで上げますよ」

「ただというわけにはいかない。緑銭五枚でどうだろうか?」

「では、タレを少し分けてください。それで譲りますよ」

「そんなものでいいのか?」

 男は嬉しそうに目を細めて、片づけていた木箱の中から、三十センチほどの瓶を取り出すと手渡してきた。

「これを持って行ってくれ」

「こんなにタレをもらっては、困りませんか?」

「大丈夫だよ。まだ、沢山あるし作れるからな」

「では、ありがたくもらいますね」

 他の露店でオーク肉や魚のフライも食べたが、焼き鳥が一番おいしかった。

「アルフレッド、そろそろ店に帰りましょう」

「ミルト、ごめん待たせたね」

 瓶は護衛のひとりが持ってくれたので、ベビとチビと手を繋ぎ、商会に向かってミルト達の後ろをゆっくりと歩いている。

〈ママ、美味しい焼き鳥を作ってほしいの〉〈チビが鳥は獲って来るダォ!〉

〈待って! ここで龍になったりしないでよ! みんなを驚かせちゃうからね。ちゃんと後で作ってあげるから〉

〈分かったダォ!〉

 チビが少しシュンとしている。べビも変身しようとしていたみたいで、ミルトの服がはちきれそうになっている。

 俺達のお腹は膨れたが、ベビとチビは食べ足りないようだな。
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