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4話 悩み~幽霊だって~
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竜介と行動を共にすることになった私。決して頼もしい仲間……などではなかったが、一応世間話など小声でしながら歩いている。
自分のことを「我」とか私のことを「お前」とかかなり拗らせているような気がするけど……
もう変なものに絡まれるのはごめんなので、オープンキッチンのあった部屋を出て、そろりと奥の部屋へ向かう。
あった扉のドアノブをゆっくり回して開けると、やっぱりキィィ、と不気味な音がする。
そこは外の朝日が漏れて日が差し、なかなか明るい部屋だった。外で育ち放題の木々がちょうど邪魔をしていないのだろうか。
そんなことを考えながら、竜介と顔を見合わせアイコンタクトで入るぞ、と告げ一歩部屋に入った途端……ばっと髪の長い人影が振り返り、「キェェェェェー!」と奇声をあげて襲い掛かってきた。
私も竜介も、びくっと体を震わせたが、竜介に興味がないのか私しか目に入っていないようだ。
「ぬぉぉぉ!?」と私が素っ頓狂な声を出して、全力で右へ避けると、その人影はぴたりと止まり、こちらを凝視した。……人間じゃない。そして女ではない?
振り乱した髪からは、判別のつかない性別。
いや、性別などどうでもいい。何故この屋敷には血の気の多い者ばかりなのか。
完全に見つかってしまったし、変な声をあげてしまったし、向こうはこちらをがっつりと見ているし、無視しようがない。
「あんた……その顔……」
顔がどんどん近づいてきて、身の危険を感じながら竜介の方に後退し、どん、と彼にとぶつかった。そして思わず竜介の後ろにさっと体ごと隠して顔だけ出す。
「何我の後ろに隠れているのだ!」
そんな彼の声は聞こえない。うん、聞こえない。
竜介の腕をがっちり掴んで、何かあったら囮にしてやろうと目論むのは当然のこと。
「なっ……何でしょう?」
恐る恐る、首を傾げて無理やり笑顔を作る。
「アタシは……奇麗な女が嫌いなのよぉぉぉぉー!!」
首を掴まれそうになり、竜介の背中にぴょこりと隠れ、全力で彼を前に出そうとする。
「我は女ではない!」
そして混乱した彼も訳の分からないことを口走り、何故か、威張った。
「アンタは不細工だから、興味ないわ!」
そう目の前の幽霊は吐き捨て、私を追いかけ回して捕まえようと、いや掴もうと走ってくる。最初は竜介の周りをくるくる回っていたのだが、目を回した竜介が一言。
「我で遊ぶな!」
幽霊に向けて撃っているのだろう、先ほどの水鉄砲が、私にもかかり、幽霊と共に
「「うぇっ、しょっぱ! ぺっぺっ」」
と見事にハモってしまった。私は、竜介の元を離れるように部屋の端っこまで走る。
酒が完全に抜けていない私は息が上がってきて、目の前まで迫っていた幽霊に、止まって手を前に出す。ストップ…と息の切れた声を発すると意外にも幽霊は止まってくれた。
「ハァハァ……話し、合いましょ……とりあえず……」
「我の目が回ったではないか、まったく」
ふん!と竜介はその場に胡坐をかいた。そんな余計な茶々が入るが、私たちの耳には聞こえていたのか聞こえなかった。
何とか座って平和に、話し合いをして、自分がオネエであること、おかまバーで働いていて人気が出たが、客に左胸を思いっきり掴まれて潰れてしまったこと、誰にも相談することが出来なかったまま亡くなったのか、様々なことを話し出す。
髪を整えた彼女は、顔はとても女性らしく見えた。胸に入れたものが潰れてしまって、もう女ではないのだ、と思い自殺を決意して友達と共にビルの上から飛んだのだという。
私は相槌を打つくらいしか、このマシンガントークに入っていくことが出来なかった。
ようやく落ち着いたようで、出来た隙に入り込むように話しかける。
「胸を潰されるなんて……どんな客よ! 同じお水の”女”として許せんわ! どんな育てられ方したわけ? 親の顔が見てみたいわ!!」
ぷりぷりと腕と胡坐を組んで怒る私に、彼女はぽけっとした顔をした。そしてしばしの沈黙の後、
「アタシを女として見てくれるの……?」
涙をぽろりと流しながら問いかけてきた。
「えっ? 当たり前でしょ。自分の心が乙女なら乙女よ。あなたは体も立派な女じゃない……わっ!」
当然だと思っていることを口に出したら、その女は私に抱きついてきた。
「アンタ、見かけによらず良い女ね。アタシはさやか……」
抱きつきながら初めて、名前を教えてくれる。そして今度は私と竜介が何をしていたのか教える番になった。私はこの屋敷中の写真を撮らなければならないこと、竜介はただのおまけなことを話した。
「我がおまけだと!? 貴様ッ……ぶっ!」
私とさやかは先ほどの塩水鉄砲のお返しに、竜介が話し出してすぐ、グーでパンチを食らわせてやった。
「アタシもその旅についていくわ!」
「え゛っ……?」
何やら一人きらきらと、どこを見ているやら分からない眼差しで決意表明をする。
思わず変な声が出たが、竜介の時同様、着いてくるなといっても聞かないのだろうな、と頭を抱えて苦笑いした。
こうして3人で屋敷の探索を行うこととなった。
自分のことを「我」とか私のことを「お前」とかかなり拗らせているような気がするけど……
もう変なものに絡まれるのはごめんなので、オープンキッチンのあった部屋を出て、そろりと奥の部屋へ向かう。
あった扉のドアノブをゆっくり回して開けると、やっぱりキィィ、と不気味な音がする。
そこは外の朝日が漏れて日が差し、なかなか明るい部屋だった。外で育ち放題の木々がちょうど邪魔をしていないのだろうか。
そんなことを考えながら、竜介と顔を見合わせアイコンタクトで入るぞ、と告げ一歩部屋に入った途端……ばっと髪の長い人影が振り返り、「キェェェェェー!」と奇声をあげて襲い掛かってきた。
私も竜介も、びくっと体を震わせたが、竜介に興味がないのか私しか目に入っていないようだ。
「ぬぉぉぉ!?」と私が素っ頓狂な声を出して、全力で右へ避けると、その人影はぴたりと止まり、こちらを凝視した。……人間じゃない。そして女ではない?
振り乱した髪からは、判別のつかない性別。
いや、性別などどうでもいい。何故この屋敷には血の気の多い者ばかりなのか。
完全に見つかってしまったし、変な声をあげてしまったし、向こうはこちらをがっつりと見ているし、無視しようがない。
「あんた……その顔……」
顔がどんどん近づいてきて、身の危険を感じながら竜介の方に後退し、どん、と彼にとぶつかった。そして思わず竜介の後ろにさっと体ごと隠して顔だけ出す。
「何我の後ろに隠れているのだ!」
そんな彼の声は聞こえない。うん、聞こえない。
竜介の腕をがっちり掴んで、何かあったら囮にしてやろうと目論むのは当然のこと。
「なっ……何でしょう?」
恐る恐る、首を傾げて無理やり笑顔を作る。
「アタシは……奇麗な女が嫌いなのよぉぉぉぉー!!」
首を掴まれそうになり、竜介の背中にぴょこりと隠れ、全力で彼を前に出そうとする。
「我は女ではない!」
そして混乱した彼も訳の分からないことを口走り、何故か、威張った。
「アンタは不細工だから、興味ないわ!」
そう目の前の幽霊は吐き捨て、私を追いかけ回して捕まえようと、いや掴もうと走ってくる。最初は竜介の周りをくるくる回っていたのだが、目を回した竜介が一言。
「我で遊ぶな!」
幽霊に向けて撃っているのだろう、先ほどの水鉄砲が、私にもかかり、幽霊と共に
「「うぇっ、しょっぱ! ぺっぺっ」」
と見事にハモってしまった。私は、竜介の元を離れるように部屋の端っこまで走る。
酒が完全に抜けていない私は息が上がってきて、目の前まで迫っていた幽霊に、止まって手を前に出す。ストップ…と息の切れた声を発すると意外にも幽霊は止まってくれた。
「ハァハァ……話し、合いましょ……とりあえず……」
「我の目が回ったではないか、まったく」
ふん!と竜介はその場に胡坐をかいた。そんな余計な茶々が入るが、私たちの耳には聞こえていたのか聞こえなかった。
何とか座って平和に、話し合いをして、自分がオネエであること、おかまバーで働いていて人気が出たが、客に左胸を思いっきり掴まれて潰れてしまったこと、誰にも相談することが出来なかったまま亡くなったのか、様々なことを話し出す。
髪を整えた彼女は、顔はとても女性らしく見えた。胸に入れたものが潰れてしまって、もう女ではないのだ、と思い自殺を決意して友達と共にビルの上から飛んだのだという。
私は相槌を打つくらいしか、このマシンガントークに入っていくことが出来なかった。
ようやく落ち着いたようで、出来た隙に入り込むように話しかける。
「胸を潰されるなんて……どんな客よ! 同じお水の”女”として許せんわ! どんな育てられ方したわけ? 親の顔が見てみたいわ!!」
ぷりぷりと腕と胡坐を組んで怒る私に、彼女はぽけっとした顔をした。そしてしばしの沈黙の後、
「アタシを女として見てくれるの……?」
涙をぽろりと流しながら問いかけてきた。
「えっ? 当たり前でしょ。自分の心が乙女なら乙女よ。あなたは体も立派な女じゃない……わっ!」
当然だと思っていることを口に出したら、その女は私に抱きついてきた。
「アンタ、見かけによらず良い女ね。アタシはさやか……」
抱きつきながら初めて、名前を教えてくれる。そして今度は私と竜介が何をしていたのか教える番になった。私はこの屋敷中の写真を撮らなければならないこと、竜介はただのおまけなことを話した。
「我がおまけだと!? 貴様ッ……ぶっ!」
私とさやかは先ほどの塩水鉄砲のお返しに、竜介が話し出してすぐ、グーでパンチを食らわせてやった。
「アタシもその旅についていくわ!」
「え゛っ……?」
何やら一人きらきらと、どこを見ているやら分からない眼差しで決意表明をする。
思わず変な声が出たが、竜介の時同様、着いてくるなといっても聞かないのだろうな、と頭を抱えて苦笑いした。
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