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3話 コイツのせいで~計画台無し~

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 鍵は開いている、と聞いていたので屋敷の扉に手をかけた。普通はどんな物件でも鍵は掛けて置くものではないのかと思ったが……それはまあ良いとしよう。
 ギシシ、と嫌な音を立てながら使われることなく重くなっている扉が開く。
 準備していたスマホのライトで目の前、左右を照らしている間に、またギシギシと音を立てて勝手に扉は閉じられた。予想していたのでびっくりも振り返りも、私はしなかった。
 大方生きてる人間も大歓迎ってことでしょ……賽は投げられたのだ。
 
 改めて目の前を照らすと、ロビーのような場所の先に一体何人横に並んで歩くことを想定されたのか、手摺のついた豪華な階段。豪華と分かったのは、この場所が真っ暗ではなかったからだ。朝だからか、一応陽の光は入ってきている。
 それから広い階段の左右には奥まで部屋が続いていそうだ。
 なるほど……確かに屋敷、ね。元々は使用人などがいたのだろうか。家主だけでは掃除はきっと行き届かなかったであろう。
 そんなどうでもいいことを考えつつ、私はまず右のエリアを探索することにした。
 とりあえずロビーの写真をスマホで撮る。
 一番右手前の取っ手を回し、静かに押し開けるとまたもやギギ、と嫌な音がしたがそんなことはどうでもよくなるくらい異様な光景が広がっていた。
 スマホのライトを照らして視えたのは、ライトのついたヘルメットを装着し、何やら水鉄砲を片手に、
「我の攻撃を食らえ! 貴様、なかなかやるな!」
 などと言って本来人間には視えぬものと対峙している。つまり幽霊、であろう。
 目が点になるが、一瞬ではっと戻ってきて思考を更に巡らせる。この男は……人間、だよね、何やってんだこいつ。ツッコミは心の中で済ませて、見なかったことにしよう。うん、500万、500万……
 どうやらここは元々おしゃれなオープンキッチンのよう。男と幽霊がやりあっているのが調味料だかお酒だかがたくさん置かれたカウンター前。
 その先に、扉があるのを発見し、そろそろと完全無視を決めこんでバレないように左の端の方を歩いていく。その間にも、幽霊の「目が痛いぃー!やめてー!」など明らかに男がいじめている構図が出来上がっていそうな声が響き渡っている。
 男のライトに照らされたら終わりだ、とスマホのライトを消して左側の壁に手をついて身長に進む。
が、男と幽霊の乱闘で乱れたであろう部屋の隅に、あるはずのない固いものに脛をぶつけて「痛っ!!」と盛大な声を上げて見事にこける。
 その時の声に男と幽霊が反応してばっと振り返り、一瞬の沈黙。
 「また違うのが来たか! おのれ!」
男は反射神経が良いのか悪いのか、脛を抱えて悶絶している私に向かって水鉄砲を向けると、避ける余裕のない間に撃ってきた。
「ぎゃっ、何これしょっぱ!! クソ! ぺっぺっ! っつかマジで痛い!」
 顔面に食らった水は口の中に入ったらなんだかしょっぱいわ、脛は痛いわで訳が分からず頭が働かない。
とにかく奥の扉へと、痛い脛を庇いながら走った。
バタン!と扉に入りすぐさま閉める。
 スマホのライトで前を照らしたが、どうやら倉庫のようで行き止まりだった。何となく、本当に何となくだが軽い絶望を感じた。もちろん、すかさず男と幽霊が入ってくる。
「追い詰めたぞ破廉恥霊め! 食らえ!」
 秋菜のライトと男のライトが交差すると同時に、再び水鉄砲が飛んでくるのが分かった。
 咄嗟に左に避ける秋菜。今度は頭を軽くぶつける。
「ったぁ……お前、いきなり何すんだ! あたしは人間だっつーの! そんでそれ、その水鉄砲、アホか!! 何でこんなとこで水遊びしてるわけ!?」
「むむ!? 効いていないのか!? 次は近接で攻撃をっ……がふっ……」
 私の作戦は最初から無駄になった、絶対こいつのせいだ。いい加減、この苛立ち、近づいてきた男に右ストレートで思いっきりぶつけた。
「まあ落ち着けよ、お兄さん」
 少し納まった苛立ちを、ストレートの命中した男の顔面から肩に右手をずらし、ぽんぽん、と宥める様に作り笑顔と共にで置いた。

 男から聞き出せたことは、瀬尾竜介という名前。30歳だという。何故ここへ来たのか、記憶は定かではないが、特に不満も不安も感じずに3日間水鉄砲で幽霊と戯れ……退治?していたという。
 その程度の情報だった。だが別にこちらも仲良くしようぜ、などという事情もないので秋菜は500万貰うために、そこら中の写真を撮ったらさっさと出るのだ、と手短に話をした。
「じゃああたしは行くから」
 と倉庫とオープンキッチンの写真を撮ってその場をさらりと後にしようとする。
「我もお前に着いていくことにした」
「は!?」
 何を言っても勝手に着いてくるな、と竜介の顔を見て悟った。
「……もう勝手にして……。でもあたしの邪魔はしないでよ。静かに行くんだからね!」
 こくこく、と頷く彼に、今の話じゃないわっ、と心で突っ込みつつ何故か行動を共にすることになった。


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