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2話 等価交換~取引成立~
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「ねえ秋菜、面白い話があるんだけどやってみたい?」
「ん? なあに? ネズミ講だったらお断りよ」
20時から2時間で、3本のシャンパンを空けた私たちはのんびりタイムに入っていた。
「昔墓地だったのを潰した屋敷が、売りに出てるんだけど買い手がつかず、そのままになってるんだ。工事しようとすると誰かが必ず怪我をするらしくてね。そこに行って部屋中の写真を撮ってきてくれたら500万お店で使ってあげるよ」
加納さんのグラスを拭きながら、私は驚く。
「えっ!? それだけで500万!?」
「うん、どう? いい話でしょ?」
私は普段からそこまで営業を必死にするタイプではない。No1から落ちそうになったことがないからだ。上客が多いため苦労していないのだが、500万となると普段取れていない休みを取る余裕が出来るかもしれない。
やりたいことは色々あった。プライベートでも飲みに行って、友達とも遊びたかった。
だが、加納さんの話を聴くとどう考えても幽霊屋敷……
「ちょっと待って、それってあたしも怪我する危険ない?」
「ははっ、秋菜なら大丈夫だよ。取り壊しに行くわけじゃないしね」
それはそうなのだが……おそらく、幽霊の溜まり場のような場所になっているはずだ。
果たして私は幽霊が視えない振りをして、色々な部屋の写真を無事に撮って帰って来れるのだろうか。
「……」
ついつい考え込んでしまっていると、
「大丈夫だって、肝試しだと思ってさ!」
はっはっは、と加納さんは笑いながら私の背中を豪快に叩く。
幽霊……500万……幽霊……500万……
ちゃりん、と音がした気がした。もはや私の頭の中には諭吉が大量に湧いていたであろう。
「ええい、その話、乗ったー!」
幽霊は無視、絶対無視、清めの塩は一応毎日持ち歩いているし、さっさと出てくればいい。
視えない振りは普段もしていることだし、きっと大丈夫。
「おぉ、助かるよ! 実は恩のある地主さんがね、そこを買いたいらしくてね。秋菜が写真を撮ってきて何も写ってなければ念のためお祓いしてから取り壊して、マンションを建てたいらしいんだ」
「……何でその写真を撮る役に、あたしを選んだの?」
「秋菜は幽霊がいても蹴り飛ばしたりしそうだしな! あとは金があれば動くだろ、お前は」
「ちょっと! 人を金の亡者みたいに言わないで」
「はっはっは! 何はともあれ交渉成立だな。頼むぞ、秋菜」
「分かりましたよー!」
差し出された加納さんの手を、しっかり掴むように、握手を交わした。
「じゃあ、もう一本シャンパンでも飲むかー!」
「飲むー!!」
互いにちびちびと飲んでいた酒をぐいっと一気に飲み、再びシャンパンを入れてもらった。
朝8時に店が終わり、帰りの送り先を加納さんに教わった住所にしてもらい、屋敷の前に立つ。聳え立つのは夢で見た屋敷そのものだった。
あぁ……デジャブか正夢か。屋敷の周りに巻き付いている蔓。曇っているせいもあるが、朝なのにどす黒く感じるこの建物。明らかに、”いる”。それも1人や2人ではない。
大勢の霊が、集まっている。この世への未練の塊みたいな空間。
ここに、これから私は入るのか。決して一筋縄ではいかないと思った。
もうとっくに、送りの車はいない。人通りも少ない。
日本酒、途中のコンビニで買って来ておいて良かった。一升瓶をビニール袋から取り出し、屋敷から少し離れ、だがおそらく敷地内の広場にそれをどん、と置く。
私は胡座をかいてその場に座り、そっと目を閉じ一升瓶に念を込めた。
「よし、あたしがやっても気休め程度だろうけど……」
一升瓶を持ち上げ、私は500万、500万、と呟きながら、自分に言い聞かせながら、屋敷の扉までゆっくりとした足取りで向かうのだった。
「ん? なあに? ネズミ講だったらお断りよ」
20時から2時間で、3本のシャンパンを空けた私たちはのんびりタイムに入っていた。
「昔墓地だったのを潰した屋敷が、売りに出てるんだけど買い手がつかず、そのままになってるんだ。工事しようとすると誰かが必ず怪我をするらしくてね。そこに行って部屋中の写真を撮ってきてくれたら500万お店で使ってあげるよ」
加納さんのグラスを拭きながら、私は驚く。
「えっ!? それだけで500万!?」
「うん、どう? いい話でしょ?」
私は普段からそこまで営業を必死にするタイプではない。No1から落ちそうになったことがないからだ。上客が多いため苦労していないのだが、500万となると普段取れていない休みを取る余裕が出来るかもしれない。
やりたいことは色々あった。プライベートでも飲みに行って、友達とも遊びたかった。
だが、加納さんの話を聴くとどう考えても幽霊屋敷……
「ちょっと待って、それってあたしも怪我する危険ない?」
「ははっ、秋菜なら大丈夫だよ。取り壊しに行くわけじゃないしね」
それはそうなのだが……おそらく、幽霊の溜まり場のような場所になっているはずだ。
果たして私は幽霊が視えない振りをして、色々な部屋の写真を無事に撮って帰って来れるのだろうか。
「……」
ついつい考え込んでしまっていると、
「大丈夫だって、肝試しだと思ってさ!」
はっはっは、と加納さんは笑いながら私の背中を豪快に叩く。
幽霊……500万……幽霊……500万……
ちゃりん、と音がした気がした。もはや私の頭の中には諭吉が大量に湧いていたであろう。
「ええい、その話、乗ったー!」
幽霊は無視、絶対無視、清めの塩は一応毎日持ち歩いているし、さっさと出てくればいい。
視えない振りは普段もしていることだし、きっと大丈夫。
「おぉ、助かるよ! 実は恩のある地主さんがね、そこを買いたいらしくてね。秋菜が写真を撮ってきて何も写ってなければ念のためお祓いしてから取り壊して、マンションを建てたいらしいんだ」
「……何でその写真を撮る役に、あたしを選んだの?」
「秋菜は幽霊がいても蹴り飛ばしたりしそうだしな! あとは金があれば動くだろ、お前は」
「ちょっと! 人を金の亡者みたいに言わないで」
「はっはっは! 何はともあれ交渉成立だな。頼むぞ、秋菜」
「分かりましたよー!」
差し出された加納さんの手を、しっかり掴むように、握手を交わした。
「じゃあ、もう一本シャンパンでも飲むかー!」
「飲むー!!」
互いにちびちびと飲んでいた酒をぐいっと一気に飲み、再びシャンパンを入れてもらった。
朝8時に店が終わり、帰りの送り先を加納さんに教わった住所にしてもらい、屋敷の前に立つ。聳え立つのは夢で見た屋敷そのものだった。
あぁ……デジャブか正夢か。屋敷の周りに巻き付いている蔓。曇っているせいもあるが、朝なのにどす黒く感じるこの建物。明らかに、”いる”。それも1人や2人ではない。
大勢の霊が、集まっている。この世への未練の塊みたいな空間。
ここに、これから私は入るのか。決して一筋縄ではいかないと思った。
もうとっくに、送りの車はいない。人通りも少ない。
日本酒、途中のコンビニで買って来ておいて良かった。一升瓶をビニール袋から取り出し、屋敷から少し離れ、だがおそらく敷地内の広場にそれをどん、と置く。
私は胡座をかいてその場に座り、そっと目を閉じ一升瓶に念を込めた。
「よし、あたしがやっても気休め程度だろうけど……」
一升瓶を持ち上げ、私は500万、500万、と呟きながら、自分に言い聞かせながら、屋敷の扉までゆっくりとした足取りで向かうのだった。
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