上 下
1 / 9

プロローグ

しおりを挟む
 半袖ミニスカートで胸元の開いた黒く、飾りのついたドレスに身を包んだ私中宮秋菜は準備を終えて控室から出てきて驚いた。
 いつもはそこそこ広い店内を3人で回しているボーイが、5人もいる。こんなことは今までなかった。
 しかも、付け回しをするのは基本的に一番長く働いていて、観察力もあるボーイ1人だけだ。
 キャバクラというものは、新規のお客様がご来店した場合、そのお客様がどの女の子が好みかを声や雰囲気で判断する必要がある。そしてマッチしていると思う女の子を付けるのだ。
「横田さん、何、このボーイの人数は? 今日誰かのバースデーとかじゃないよね?」 
 きらびやかな高いヒールをカツカツ鳴らし、一番立場が上のボーイ、横田に話しかける。 
「秋菜ちゃん、おはよ。いや、あの事件知ってるでしょ?」 
「おはよー。え? どの事件? 水商売なんて常に事件だらけでしょ」 
「近くのホストクラブでホストが女に刺される事件があったじゃん」 
  横田は腕を組んで後ろの壁に寄り掛かる。それを真似したわけではないが、私も同じように腕を組む。 
「あーそういやあったねえ」 
「便乗してキャバ嬢も刺してやろうなんて男がいたら怖いから、しばらくはうちも店の外から店の中まで強化しとこ うと思って。その方が女の子も安心でしょ」 
 えっへん、とでも言いたげに横田は人差し指を出す。
 そうなのだ、そういえば一週間ほど前にそんな事件があったのだ。女性とホストが同伴しているところを、前から歩いてきた他の女性が包丁で刺したらしい。その男は運が悪かったのか、刺した女の人に付き合おう、なんて上手いこと言って貢がせていたとか、ストーカーだったとか、噂は色々あるが、どれだけ恨みがあったのか……心臓を一突きだったそうだ。 
「店入ってきて刺す男なんているー? そっこー捕まるじゃん! まあ、こんだけいりゃセクハラにも対処してくれそうだから良いけど」 
「セクハラはいつも対処してるだろー」 
「あんた達が見てないとこでもやられてんだよ、キャバ嬢は大変なの。こないだなんて、キャッチがべろべろの酔っ払い引っ張って来やがって皆の下半身触って大変だったんだからね!」 
 私も負けじと、ただし横田に向けて、人差し指を刺す。 
「はいはい、それは秋菜ちゃんが終わった後文句言うから謝ったでしょ。しかも相手が酔っぱらって記憶なさそうなのを利用して、めちゃくちゃ飲んだじゃん。あっ、待機いつもの卓ね」 
「売上貢献出来るいい女! フゥー!! 待機場所おっけー」 
 ノリでフゥー!なんて言いながら、横田の正装の上から乳首だと思われる場所を狙ってボタンのように押してからかう。
 そしてハーフアップにばっちりセットされた金髪の長い巻き髪を触りながら、カツカツと音を鳴らし、待機する席へと移動して座る。 
「おはようございます、秋菜さん」 
 既に席に座っていた後輩に挨拶されて、おはよう、と返した。 
 自分も待機の卓に座って、ぼんやりと、そういや昨日、というか今日になるが……見た夢、鮮明に覚えているな、と思った。 
 私の家系は皆霊感が強くて、霊媒師や占い師をやっている人間たちが多い。
 もちろん、私もその中の1人なのだが、田舎でそんな地味で怪しくて、つまらない仕事なんてごめんだった。
 だからキャバ嬢になったけど……結局、どこに行っても視えるものは視える。
 私は夢で屋敷にいた。広い広い、使われなくなった屋敷。彼らの溜まり場。
 あぁ、近いうちに私はここに行くんだ、と思った。自覚なく、未練を残した彼らが私を呼んでいる。そんな気がした。
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

青い祈り

速水静香
キャラ文芸
 私は、真っ白な部屋で目覚めた。  自分が誰なのか、なぜここにいるのか、まるで何も思い出せない。  ただ、鏡に映る青い髪の少女――。  それが私だということだけは確かな事実だった。

夜の蝶と甘えたニート

神楽 萌愛-かぐら もあ-
恋愛
初めまして。 初投稿作品となります! 5000文字ちょっとのさくっと読める短編恋愛小説です。 実話にフィクション混ぜつつ、書かせていただきました。 これには実は「虫かご」というお題がありまして、意識して読んでいただけたらと 思います。 感想など頂けたらとってもとっても喜びます! お手柔らかに、よろしくお願いします。

BL団地妻-恥じらい新妻、絶頂淫具の罠-

おととななな
BL
タイトル通りです。 楽しんでいただけたら幸いです。

MIDNIGHT

邦幸恵紀
キャラ文芸
【現代ファンタジー/外面のいい会社員×ツンデレ一見美少年/友人以上恋人未満】 「真夜中にはあまり出歩かないほうがいい」。 三月のある深夜、会社員・鬼頭和臣は、黒ずくめの美少年・霧河雅美にそう忠告される。 未成年に説教される筋合いはないと鬼頭は反発するが、その出会いが、その後の彼の人生を大きく変えてしまうのだった。 ◆「第6回キャラ文芸大賞」で奨励賞をいただきました。ありがとうございました。

教え子に手を出した塾講師の話

神谷 愛
恋愛
バイトしている塾に通い始めた女生徒の担任になった私は授業をし、その中で一線を越えてしまう話

サンタクロースが寝ている間にやってくる、本当の理由

フルーツパフェ
大衆娯楽
 クリスマスイブの聖夜、子供達が寝静まった頃。  トナカイに牽かせたそりと共に、サンタクロースは町中の子供達の家を訪れる。  いかなる家庭の子供も平等に、そしてプレゼントを無償で渡すこの老人はしかしなぜ、子供達が寝静まった頃に現れるのだろうか。  考えてみれば、サンタクロースが何者かを説明できる大人はどれだけいるだろう。  赤い服に白髭、トナカイのそり――知っていることと言えば、せいぜいその程度の外見的特徴だろう。  言い換えればそれに当てはまる存在は全て、サンタクロースということになる。  たとえ、その心の奥底に邪心を孕んでいたとしても。

百合ランジェリーカフェにようこそ!

楠富 つかさ
青春
 主人公、下条藍はバイトを探すちょっと胸が大きい普通の女子大生。ある日、同じサークルの先輩からバイト先を紹介してもらうのだが、そこは男子禁制のカフェ併設ランジェリーショップで!?  ちょっとハレンチなお仕事カフェライフ、始まります!! ※この物語はフィクションであり実在の人物・団体・法律とは一切関係ありません。 表紙画像はAIイラストです。下着が生成できないのでビキニで代用しています。

病気になって芸能界から消えたアイドル。退院し、復学先の高校には昔の仕事仲間が居たけれど、彼女は俺だと気付かない

月島日向
ライト文芸
俺、日生遼、本名、竹中祐は2年前に病に倒れた。 人気絶頂だった『Cherry’s』のリーダーをやめた。 2年間の闘病生活に一区切りし、久しぶりに高校に通うことになった。けど、誰も俺の事を元アイドルだとは思わない。薬で細くなった手足。そんな細身の体にアンバランスなムーンフェイス(薬の副作用で顔だけが大きくなる事) 。 誰も俺に気付いてはくれない。そう。 2年間、連絡をくれ続け、俺が無視してきた彼女さえも。 もう、全部どうでもよく感じた。

処理中です...