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プロローグ
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半袖ミニスカートで胸元の開いた黒く、飾りのついたドレスに身を包んだ私中宮秋菜は準備を終えて控室から出てきて驚いた。
いつもはそこそこ広い店内を3人で回しているボーイが、5人もいる。こんなことは今までなかった。
しかも、付け回しをするのは基本的に一番長く働いていて、観察力もあるボーイ1人だけだ。
キャバクラというものは、新規のお客様がご来店した場合、そのお客様がどの女の子が好みかを声や雰囲気で判断する必要がある。そしてマッチしていると思う女の子を付けるのだ。
「横田さん、何、このボーイの人数は? 今日誰かのバースデーとかじゃないよね?」
きらびやかな高いヒールをカツカツ鳴らし、一番立場が上のボーイ、横田に話しかける。
「秋菜ちゃん、おはよ。いや、あの事件知ってるでしょ?」
「おはよー。え? どの事件? 水商売なんて常に事件だらけでしょ」
「近くのホストクラブでホストが女に刺される事件があったじゃん」
横田は腕を組んで後ろの壁に寄り掛かる。それを真似したわけではないが、私も同じように腕を組む。
「あーそういやあったねえ」
「便乗してキャバ嬢も刺してやろうなんて男がいたら怖いから、しばらくはうちも店の外から店の中まで強化しとこ うと思って。その方が女の子も安心でしょ」
えっへん、とでも言いたげに横田は人差し指を出す。
そうなのだ、そういえば一週間ほど前にそんな事件があったのだ。女性とホストが同伴しているところを、前から歩いてきた他の女性が包丁で刺したらしい。その男は運が悪かったのか、刺した女の人に付き合おう、なんて上手いこと言って貢がせていたとか、ストーカーだったとか、噂は色々あるが、どれだけ恨みがあったのか……心臓を一突きだったそうだ。
「店入ってきて刺す男なんているー? そっこー捕まるじゃん! まあ、こんだけいりゃセクハラにも対処してくれそうだから良いけど」
「セクハラはいつも対処してるだろー」
「あんた達が見てないとこでもやられてんだよ、キャバ嬢は大変なの。こないだなんて、キャッチがべろべろの酔っ払い引っ張って来やがって皆の下半身触って大変だったんだからね!」
私も負けじと、ただし横田に向けて、人差し指を刺す。
「はいはい、それは秋菜ちゃんが終わった後文句言うから謝ったでしょ。しかも相手が酔っぱらって記憶なさそうなのを利用して、めちゃくちゃ飲んだじゃん。あっ、待機いつもの卓ね」
「売上貢献出来るいい女! フゥー!! 待機場所おっけー」
ノリでフゥー!なんて言いながら、横田の正装の上から乳首だと思われる場所を狙ってボタンのように押してからかう。
そしてハーフアップにばっちりセットされた金髪の長い巻き髪を触りながら、カツカツと音を鳴らし、待機する席へと移動して座る。
「おはようございます、秋菜さん」
既に席に座っていた後輩に挨拶されて、おはよう、と返した。
自分も待機の卓に座って、ぼんやりと、そういや昨日、というか今日になるが……見た夢、鮮明に覚えているな、と思った。
私の家系は皆霊感が強くて、霊媒師や占い師をやっている人間たちが多い。
もちろん、私もその中の1人なのだが、田舎でそんな地味で怪しくて、つまらない仕事なんてごめんだった。
だからキャバ嬢になったけど……結局、どこに行っても視えるものは視える。
私は夢で屋敷にいた。広い広い、使われなくなった屋敷。彼らの溜まり場。
あぁ、近いうちに私はここに行くんだ、と思った。自覚なく、未練を残した彼らが私を呼んでいる。そんな気がした。
いつもはそこそこ広い店内を3人で回しているボーイが、5人もいる。こんなことは今までなかった。
しかも、付け回しをするのは基本的に一番長く働いていて、観察力もあるボーイ1人だけだ。
キャバクラというものは、新規のお客様がご来店した場合、そのお客様がどの女の子が好みかを声や雰囲気で判断する必要がある。そしてマッチしていると思う女の子を付けるのだ。
「横田さん、何、このボーイの人数は? 今日誰かのバースデーとかじゃないよね?」
きらびやかな高いヒールをカツカツ鳴らし、一番立場が上のボーイ、横田に話しかける。
「秋菜ちゃん、おはよ。いや、あの事件知ってるでしょ?」
「おはよー。え? どの事件? 水商売なんて常に事件だらけでしょ」
「近くのホストクラブでホストが女に刺される事件があったじゃん」
横田は腕を組んで後ろの壁に寄り掛かる。それを真似したわけではないが、私も同じように腕を組む。
「あーそういやあったねえ」
「便乗してキャバ嬢も刺してやろうなんて男がいたら怖いから、しばらくはうちも店の外から店の中まで強化しとこ うと思って。その方が女の子も安心でしょ」
えっへん、とでも言いたげに横田は人差し指を出す。
そうなのだ、そういえば一週間ほど前にそんな事件があったのだ。女性とホストが同伴しているところを、前から歩いてきた他の女性が包丁で刺したらしい。その男は運が悪かったのか、刺した女の人に付き合おう、なんて上手いこと言って貢がせていたとか、ストーカーだったとか、噂は色々あるが、どれだけ恨みがあったのか……心臓を一突きだったそうだ。
「店入ってきて刺す男なんているー? そっこー捕まるじゃん! まあ、こんだけいりゃセクハラにも対処してくれそうだから良いけど」
「セクハラはいつも対処してるだろー」
「あんた達が見てないとこでもやられてんだよ、キャバ嬢は大変なの。こないだなんて、キャッチがべろべろの酔っ払い引っ張って来やがって皆の下半身触って大変だったんだからね!」
私も負けじと、ただし横田に向けて、人差し指を刺す。
「はいはい、それは秋菜ちゃんが終わった後文句言うから謝ったでしょ。しかも相手が酔っぱらって記憶なさそうなのを利用して、めちゃくちゃ飲んだじゃん。あっ、待機いつもの卓ね」
「売上貢献出来るいい女! フゥー!! 待機場所おっけー」
ノリでフゥー!なんて言いながら、横田の正装の上から乳首だと思われる場所を狙ってボタンのように押してからかう。
そしてハーフアップにばっちりセットされた金髪の長い巻き髪を触りながら、カツカツと音を鳴らし、待機する席へと移動して座る。
「おはようございます、秋菜さん」
既に席に座っていた後輩に挨拶されて、おはよう、と返した。
自分も待機の卓に座って、ぼんやりと、そういや昨日、というか今日になるが……見た夢、鮮明に覚えているな、と思った。
私の家系は皆霊感が強くて、霊媒師や占い師をやっている人間たちが多い。
もちろん、私もその中の1人なのだが、田舎でそんな地味で怪しくて、つまらない仕事なんてごめんだった。
だからキャバ嬢になったけど……結局、どこに行っても視えるものは視える。
私は夢で屋敷にいた。広い広い、使われなくなった屋敷。彼らの溜まり場。
あぁ、近いうちに私はここに行くんだ、と思った。自覚なく、未練を残した彼らが私を呼んでいる。そんな気がした。
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