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第1章 1972年1月

1972年1月24日月曜日

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彼のアパートへ行った。約束はしていない。今日は帰らないつもりだった。

「みよちゃんのところに泊まってくる」と言って出ていった。みよちゃんはとても便利。

家に何度も来ている上に、彼女の下宿は電話がつながらない。
ケチンボウの大家は電話を持っていないから。


夕方、家を出発。玄関で黒井エナメルの靴を探していたら、母が台所からこちらに来た。
「気をつけなさい」一言そう言った。どきりとした。

 彼のアパートに到着。時計を見ると午後7時をすぎていた。ブザーを鳴らした。
「どちらさま?」というあなたの声を途中でさえぎって、「恋子よ」と言った。

小さな声が返ってきた。ーー帰ってくれーー



「なぜ、なぜなの?」とドンドンと扉を叩いた。

「今、君を入れてしまったら、僕はタガがはずれてしまう」
「それでもいい!」

彼は扉をあけて、私を抱きしめ、熱いキスをした。
キスってこんなに強くて激しいものだったのね。


時代背景
当時、下宿の大家さんが電話を取り次いでいることがとても多かった。
電話を持っていない大家はかなりの変人だ。しかし、恋子の無断外泊には好都合。

でも、母は女の勘で何を恋子がしようとしていたのかを知っていたのかも知れない。

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