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第五章 答え合わせ - inside story -
第30話 desperate struggle behind the mortal combat
しおりを挟むそうして迎えた運命の魔王戦。
――わたしは、完全に焦っていた。
というのも、この時点で手術開始時刻まで大分時間が余ってしまっている状況だったからだ。
それはもちろん、わたしの時間調整不足、つまりは力量不足なのだけれど……言い訳するなら、陸也が予想以上に筋が良く、一つ教えると想定以上にタイムを短縮してしまうのが本当に大きかった。
「あっ、陸也! もう下がって!」
「もうかよ⁉ まだ1発しか殴れてないんだぞ……⁉」
陸也のそんな恨みつらみを聞き流しながら、わたしは何度も脳内で魔王のパターンをそらんじる。
……ちなみに、今のシーンは本当なら4発は殴れるシチュエーションだった。1発だけしか殴らせなかったのは、もちろん時間稼ぎのため。
「なあ、あの衝撃波、やっぱりダイビングロールで避けて接近していかないか? さっきと比べて、全然魔王に攻撃を与えられてないだろ?」
「ダメ。あの衝撃波、見た目以上に攻撃判定が広いし長いの。初見だとタイミング間違って絶対被弾するから」
魔王が無駄に瞬間移動を連発している最中、わたしは陸也に嘘の理由をペラペラと伝えてゆく。……もちろん本当は、見た目よりもヒット判定は狭い。まあ狭いが故にどこまで待たなきゃいけないかという問題があって、思ったよりダイビングロールでの接近は難しいのだけれど。
ちなみにこの魔王の瞬間移動も、ちゃんと弓矢を当てれば、空から落とすことが出来たりする。……恐らく、攻撃が無効化され役立たずになる弓を活用させたくて、開発陣がいれたのだろう。けれど時間を使いたいわたしは、当然そんなことはしない。違うパターンを取るまで、そのまま放置。
「今度は行けるか⁉」
「……ダメ! 今叩きに行くと反撃してくるから!」
「ああもう、そんなのばっかりじゃないか!」
ついに陸也は焦れて、そう声を荒げてしまう。
……本当はもう少しHPの節約をしていきたかったけれど、さすがにこれ以上は厳しいか。無駄に引き延ばしていると、怪しまれる可能性もありえた。
「……この次のフェイント後の大振りを避けたら、弱攻撃を3発だけ当てに行って! 3発だけ!」
「それ以上殴れそうでもか?」
「そう! その後は飛び道具出してくるから、離れてないと避けられないの!」
仕方無くわたしは、そんな指示を飛ばし、陸也の気を逸らす。
現在、5月18日の12時12分23秒。手術開始時刻まで、2分と30秒少々。
魔王第二形態までは、強攻撃3発圏内。
――魔王の第一形態の行動は、大きく分けて5つある。
霧の剣での横薙ぎ、突き刺し、周囲への範囲攻撃、フェイントを入れての袈裟切り、そして遠距離攻撃。基本的にはそれらをパターンで使って来る。
それに加えて瞬間移動などの行動を取ってくるけれど、一連のパターンのうちどれが選ばれるかはランダム。つまりパターンの切れ目になったらそれを正確に見極めつつ、陸也を適切に導かなくてはならなかった。
(最後に袈裟切りをした場合、次に来るパターンは16分の9で突き刺し2連からの流れ、16分の5で範囲攻撃、後はもう一度同じ流れの繰り返し……)
わたしは頭の中で行動パターンをもう一度そらんじていく。
だけど確率はやはり確率にしか過ぎないし、結局どれが選ばれるかは運でもある。
(……ここで行動を繰り返されると、かなりシビアなタイミングで陸也に攻撃をして貰わなきゃいけなくなる……お願い、突き刺し! 突き刺しでお願い……!)
わたしはもはや祈るような面持ちで、魔王の次の行動を見つめていた。
すると、祈りが届いたのか、魔王は今一番来て欲しい行動を選んでくる。
(っ! ……突き刺した!)
「陸也、今! 裏回って2回叩いてすぐ離脱して‼」
うれしさと、この好機を逃したくない焦りがない交ぜとなり、わたしは思わず悲鳴にも似た声でそう指示を飛ばしていた。
……自分でも焦りすぎだとは、もちろん感じている。ただここさえ何とかなれば、後は残り1発。ゆっくりとタイミングを図れる。
――だからこそ、陸也がちゃんと指示通り動いてくれたことに、安堵のため息を漏らしていた。
……のだけれど。
「……ごめん陸也! 最後にダイビングロールで突撃出来る⁉」
わたしはテンパりながら、これまでとは真逆の指示を陸也に飛ばしていた。
オプションウェアで何度も時間を確認していたというのに、今チラリと見たら、魔王に最後の一発を入れるべき時間まで、後13秒しか残っていなかったからだった。
「は? ……いやいや、今範囲攻撃の真っ最中じゃないか。さっきと言っていることズレてないか?」
当然陸也からもそんな抗議が投げかけられる。ただ、もうあれこれ口論している暇なんてなかった。
「後1回叩けば別の動きになるの‼ ……お願い、早くっ‼」
もうそれは、懇願に近かった。
そして陸也は、その声にチラリとこちらの様子を確認した後。
「……ああもう、人使いが荒いな!」
そう言って不満を漏らしつつも、陸也はちゃんとわたしの指示に従ってくれた。
「っ……さすが陸也、ぴったり……‼」
オプションウェアを確認しつつ、思わずそんな声を上げる。
――そこに表示されていた時刻は、魔王に最後の一撃を与えるべきタイムリミット、まさにそのまんまの時間だった。
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