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第五章 答え合わせ - inside story -
第29話 heart voice
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ただ。時間の調整こそ上手くはいかなかったけれど、陸也の気持ちを魔王討伐へ向ける事に関しては、結構上手くいってはいた。
――その大きな要因だったのが、泉の村での出来事。
元々はお姫様に対して感情移入をさせる予定だったのだけれど、それよりも陸也は泉の村の凄惨な光景に心を痛めてくれていた。
《……ぱぱとままがいないの。ぱぱ、まま、どこいっちゃったの?》
「……よしよし。お兄さんがこれから仇を討ってやるから待ってな」
そうして見たことのないような穏やかな顔を浮かべた後。陸也はすっくと立ち上がると、わたしに向けて宣言してくれた。
「ちょっとはやってやろうかなって気にはなった。『黒幕』を問い詰めるっていう方針はもちろん変わらないが、それと同時にバグ技でも何でも良いから無双しまくって、スカッとした気持ちでゲームをクリアしたくはなったね」
「……そう。まあ、やる気を出してくれる分にはありがたいけどね、主人公をプレイ出来なくて、ただただ案内するしかない身としてはさ」
とりあえず、そうして肩をすくめておく。
……ただ、内心はとても嬉しかった。陸也がそう考えてくれればくれるほど、めぐり巡って陸也が救われる確率が増えるから。
それに。なんだか男の子っぽくて、わたしは陸也のことを、ちょっとかっこいいな、なんて思ってしまってもいた。……きっとこんな考えが出来たからこそ、あの時身を挺して助けてくれたんだろうな、って。
――陸也を死なせたくない。そんな優しい優しい命の恩人を、絶対に。
緩んだ頬を引き締め直し、わたしは陸也の後をゆっくりとついて行く。
*+*+*
けれどそれでも、不安は募ってゆく。
特に夜の帳が落ちたあとは……本当にこれで陸也を助けることが出来るのか、自分はただ死にかけた恩人の意識を、ただ連れ回して遊んでいるだけなんじゃないのか、なんていう気持ちに、本当に押しつぶされそうになる。
一日目の夜は、それでもドキドキの方が勝っていた。
何故なら、異性との初めてのお泊まりだったから。しかもこんなわたしをかっこよく助けてくれた、まるで主人公のような男の子と。
……だからこそ、色々と想像しまったのは、もはや仕方が無いことだったと思う。これまで友達すらまともに作れなかったわたしにとって、色々と刺激が強すぎた。
何とか毛布を被って羞恥心を隠しつつ、わたしは陸也に釘を刺す。
「……あ。くれぐれも、変な気とか起こさないでよ?」
……本当は、変な気を起こして欲しかった。
もちろん陸也の方にそんな気持ちがないことぐらい、なんとなく分かってる。でもこのゲームにはわたし達二人だけしかいないわけだし、シチュエーションとしては完璧すぎでもあった。
だからこう言えば、ちょっとはわたしのことを意識して、一緒に添い寝とか……も、もうちょっと大胆に、き、ききキスとかぐらいは、してくれるかも……。
そんな願望を込めて、勇気を振り絞って。わたしはそんな曲がりくねった誘いを入れてみたのだけれど。
「……正直に言うなら、そんな気力もない」
「……。……そっか。まあ、そうだよね」
現実はそう甘くはなく、にべもない答えを返されてしまっていた。
わたしは毛布を頭から被りつつ、恨み言を心の中で唱える。
(……うううう~、陸也の意気地なし……!)
やがて隣から静かな寝息が聞こえてきてからも、わたしはしばらくの間、寝るタイミングを失ったままだった。
でも、さすがに二日目の夜ともなれば、そんな浮ついた気持ちではいられるはずもなく。
「……明日はいよいよ、魔王戦じゃない。もしかすると、万が一って事、あるかも知れない……でしょ? だから今、陸也に言っときたいことがあるの」
「――助けてくれて、ありがとう」
マリクの家で別々に寝る前に、脈絡もなくそんな心の声を口にしてしまったのは、ひとえに不安な気持ちの表れだった。
――明日は、5月18日。本来なら、陸也の命日になるはずの日。
主治医の先生は、手術してもしなくても、死んでしまう結末に変わりはないはずだ、と言っていた。医学的エビデンスもない、こんな奇想天外な案に乗る事しかできないのが、医者として忸怩たる思いだ、とも。
……そう、それくらい、今回の試みが成功する確率は、限りなく低かった。
だからこそ。本当なら全てが終わってから、ゆっくりと伝えようと思っていたことではあるのだけれど、ついぽろっとそんなことを言ってしまっていた。
何故なら、今言わなければ、永遠に陸也へ伝えられない可能性があったから。
「……? それ、いつの時の話だ?」
陸也のそんな当然の問いに対し、わたしは無視を決め込む。
……もちろん、それには答えられるわけがなかった。
「……それじゃ、お休み。明日は早いから、さっさと寝てね」
そうして陸也を一人残し、わたしはパタリと扉を閉めると、すぐにその扉へ背をもたれかける。
拳を握りしめる。震える唇を噛みしめる。
……お礼もちゃんと言えず、本当のことだって言えず。それどころか、とぼけたふりして、『黒幕』って誰だろーねーなんてうそぶいて、こうして彼の横でのうのうとしている。わたしは、なんて酷い人間なんだろう。
でも、それでも。全力を尽くさないと。
たとえ彼に恨まれることになったとしても、最後までやり遂げるって決めたから。
……そう。わたしの気持ちは、あの時から変わってない。
血を流し倒れる彼を抱き寄せ、必死に名前を呼び続けたあの時から、一つも変わっていない。命を救ってくれた恩人のために出来ることがあるなら、全てを投げ打ってでもやり通したい。尽くしたい、何よりも彼のために。……その一心で、わたしはここまでやってきた。
おもむろに、わたしは顔を上げた。
……明日を命日にはさせない。絶対に。
決意を新たに、わたしは陸也がいる部屋を後にする――。
――その大きな要因だったのが、泉の村での出来事。
元々はお姫様に対して感情移入をさせる予定だったのだけれど、それよりも陸也は泉の村の凄惨な光景に心を痛めてくれていた。
《……ぱぱとままがいないの。ぱぱ、まま、どこいっちゃったの?》
「……よしよし。お兄さんがこれから仇を討ってやるから待ってな」
そうして見たことのないような穏やかな顔を浮かべた後。陸也はすっくと立ち上がると、わたしに向けて宣言してくれた。
「ちょっとはやってやろうかなって気にはなった。『黒幕』を問い詰めるっていう方針はもちろん変わらないが、それと同時にバグ技でも何でも良いから無双しまくって、スカッとした気持ちでゲームをクリアしたくはなったね」
「……そう。まあ、やる気を出してくれる分にはありがたいけどね、主人公をプレイ出来なくて、ただただ案内するしかない身としてはさ」
とりあえず、そうして肩をすくめておく。
……ただ、内心はとても嬉しかった。陸也がそう考えてくれればくれるほど、めぐり巡って陸也が救われる確率が増えるから。
それに。なんだか男の子っぽくて、わたしは陸也のことを、ちょっとかっこいいな、なんて思ってしまってもいた。……きっとこんな考えが出来たからこそ、あの時身を挺して助けてくれたんだろうな、って。
――陸也を死なせたくない。そんな優しい優しい命の恩人を、絶対に。
緩んだ頬を引き締め直し、わたしは陸也の後をゆっくりとついて行く。
*+*+*
けれどそれでも、不安は募ってゆく。
特に夜の帳が落ちたあとは……本当にこれで陸也を助けることが出来るのか、自分はただ死にかけた恩人の意識を、ただ連れ回して遊んでいるだけなんじゃないのか、なんていう気持ちに、本当に押しつぶされそうになる。
一日目の夜は、それでもドキドキの方が勝っていた。
何故なら、異性との初めてのお泊まりだったから。しかもこんなわたしをかっこよく助けてくれた、まるで主人公のような男の子と。
……だからこそ、色々と想像しまったのは、もはや仕方が無いことだったと思う。これまで友達すらまともに作れなかったわたしにとって、色々と刺激が強すぎた。
何とか毛布を被って羞恥心を隠しつつ、わたしは陸也に釘を刺す。
「……あ。くれぐれも、変な気とか起こさないでよ?」
……本当は、変な気を起こして欲しかった。
もちろん陸也の方にそんな気持ちがないことぐらい、なんとなく分かってる。でもこのゲームにはわたし達二人だけしかいないわけだし、シチュエーションとしては完璧すぎでもあった。
だからこう言えば、ちょっとはわたしのことを意識して、一緒に添い寝とか……も、もうちょっと大胆に、き、ききキスとかぐらいは、してくれるかも……。
そんな願望を込めて、勇気を振り絞って。わたしはそんな曲がりくねった誘いを入れてみたのだけれど。
「……正直に言うなら、そんな気力もない」
「……。……そっか。まあ、そうだよね」
現実はそう甘くはなく、にべもない答えを返されてしまっていた。
わたしは毛布を頭から被りつつ、恨み言を心の中で唱える。
(……うううう~、陸也の意気地なし……!)
やがて隣から静かな寝息が聞こえてきてからも、わたしはしばらくの間、寝るタイミングを失ったままだった。
でも、さすがに二日目の夜ともなれば、そんな浮ついた気持ちではいられるはずもなく。
「……明日はいよいよ、魔王戦じゃない。もしかすると、万が一って事、あるかも知れない……でしょ? だから今、陸也に言っときたいことがあるの」
「――助けてくれて、ありがとう」
マリクの家で別々に寝る前に、脈絡もなくそんな心の声を口にしてしまったのは、ひとえに不安な気持ちの表れだった。
――明日は、5月18日。本来なら、陸也の命日になるはずの日。
主治医の先生は、手術してもしなくても、死んでしまう結末に変わりはないはずだ、と言っていた。医学的エビデンスもない、こんな奇想天外な案に乗る事しかできないのが、医者として忸怩たる思いだ、とも。
……そう、それくらい、今回の試みが成功する確率は、限りなく低かった。
だからこそ。本当なら全てが終わってから、ゆっくりと伝えようと思っていたことではあるのだけれど、ついぽろっとそんなことを言ってしまっていた。
何故なら、今言わなければ、永遠に陸也へ伝えられない可能性があったから。
「……? それ、いつの時の話だ?」
陸也のそんな当然の問いに対し、わたしは無視を決め込む。
……もちろん、それには答えられるわけがなかった。
「……それじゃ、お休み。明日は早いから、さっさと寝てね」
そうして陸也を一人残し、わたしはパタリと扉を閉めると、すぐにその扉へ背をもたれかける。
拳を握りしめる。震える唇を噛みしめる。
……お礼もちゃんと言えず、本当のことだって言えず。それどころか、とぼけたふりして、『黒幕』って誰だろーねーなんてうそぶいて、こうして彼の横でのうのうとしている。わたしは、なんて酷い人間なんだろう。
でも、それでも。全力を尽くさないと。
たとえ彼に恨まれることになったとしても、最後までやり遂げるって決めたから。
……そう。わたしの気持ちは、あの時から変わってない。
血を流し倒れる彼を抱き寄せ、必死に名前を呼び続けたあの時から、一つも変わっていない。命を救ってくれた恩人のために出来ることがあるなら、全てを投げ打ってでもやり通したい。尽くしたい、何よりも彼のために。……その一心で、わたしはここまでやってきた。
おもむろに、わたしは顔を上げた。
……明日を命日にはさせない。絶対に。
決意を新たに、わたしは陸也がいる部屋を後にする――。
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