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14. ハレムグランドホテル
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数日後、大糸は部長室に一人籠って、ハレムグランドホテルの受付から届けられた書類に見入っていた。このホテルはセイゴー本社の向かいに位置している一流ホテルであり、セイゴー上層部がよく利用しているため、日頃から大糸はそこのスタッフにはいろんな便宜を図ってきた。大糸の月給程度では金銭的な援助は知れているが、これはと目をかけたスタッフには、接待費の名目で、営業部の予算のかなりの額の横流しも行ってきた。こうした地道な努力の甲斐あって、ホテルの内部情報に関しては、かなり機密性の高い情報であっても、大糸は得ることができる。
書類は、美羽が男鹿常務とホテルに入った日の宿泊者名簿と、当日のホテル内の防犯カメラの写真だった。大糸はまず、名簿に目を通した。しかし、男鹿の名前も美羽の名前もない。偽名で宿泊したのか、あるいは、男鹿くらいのVIPとなると名簿無しで通してくれるのか。大糸は次に、プリントされた写真に目を通しはじめた。免許証より一回り小さいサイズの写真が、A4用紙1枚あたり横3点、縦15点の計45点。それが数百ページにわたってぎっしりと印刷されている。まずは1時間ほどかけてフロントに備えられたカメラの写真を全てチェックしたが、男鹿らしい客は写っていなかった。
「日付を間違えたか?」と大糸は残りのページを捨てようとしたが、「いや、まてよ」と思いとどまった。受付名簿に載っていないならば、フロントを通らずに裏口から入った可能性もある。いや、むしろ、フロントでは社内の人間にばったり会うリスクもあるため、フロントを通らなかった可能性の方が高いだろう。そう思いなおして、ホテルのフロア廊下に設置された写真にも目を通しはじめた。廊下の写真は、廊下の薄暗さのせいもあり、客の顔まではほとんど写っておらず、せいぜい背格好などが分かる程度である。それでも、大糸は熱心に写真1枚1枚に目を通していった。
「残念ながら空振りだったか」と、さすがの大糸も匙を投げかけた頃、一枚の写真に目が止まった。ホテル最上階の、VIP専用ルームが並ぶフロアである。薄暗い廊下の写真であり、お世辞にも鮮明とは言い難い写真だが、そこに写っているのは間違いなく男鹿と美羽であった。大糸は、その前後の写真を並べてみた。エレベータの中から出てくるところから、部屋のドアを開けて中に入るところまで、しっかりと写っている。
大糸は、ホテルの懇意のスタッフの携帯に電話をかけた。
「もしもし。届けてもらった書類を見たよ。いや、ありがとう。助かったよ。ところで、この日の最上階客室フロアの防犯カメラの動画ファイルが欲しいんだが、USBメモリなんかで届けてもらえないだろうか。うん、それは助かるよ。今日は一日社にいるから、届くのはいつでも大丈夫だ。いや、ありがとう。今月は特別ボーナスをはずむよ。」
やがて、大糸のもとに、当日の防犯カメラの動画が届けられた。最近のカメラは、防犯カメラといえども画素数が多い。男鹿と美羽が写っているのはせいぜい数十秒だったが、それでも、引き延ばして再生すると、小さな写真だけでは分からなかったことも多く映っていた。なんといっても最大の収穫は、美羽の左手の薬指にしっかりとはまった社長の指輪まで映っていたことだろう。この動画を確認すると、大糸はようやく満足した。
「さて、この動画をどうやって料理しようか。」
書類は、美羽が男鹿常務とホテルに入った日の宿泊者名簿と、当日のホテル内の防犯カメラの写真だった。大糸はまず、名簿に目を通した。しかし、男鹿の名前も美羽の名前もない。偽名で宿泊したのか、あるいは、男鹿くらいのVIPとなると名簿無しで通してくれるのか。大糸は次に、プリントされた写真に目を通しはじめた。免許証より一回り小さいサイズの写真が、A4用紙1枚あたり横3点、縦15点の計45点。それが数百ページにわたってぎっしりと印刷されている。まずは1時間ほどかけてフロントに備えられたカメラの写真を全てチェックしたが、男鹿らしい客は写っていなかった。
「日付を間違えたか?」と大糸は残りのページを捨てようとしたが、「いや、まてよ」と思いとどまった。受付名簿に載っていないならば、フロントを通らずに裏口から入った可能性もある。いや、むしろ、フロントでは社内の人間にばったり会うリスクもあるため、フロントを通らなかった可能性の方が高いだろう。そう思いなおして、ホテルのフロア廊下に設置された写真にも目を通しはじめた。廊下の写真は、廊下の薄暗さのせいもあり、客の顔まではほとんど写っておらず、せいぜい背格好などが分かる程度である。それでも、大糸は熱心に写真1枚1枚に目を通していった。
「残念ながら空振りだったか」と、さすがの大糸も匙を投げかけた頃、一枚の写真に目が止まった。ホテル最上階の、VIP専用ルームが並ぶフロアである。薄暗い廊下の写真であり、お世辞にも鮮明とは言い難い写真だが、そこに写っているのは間違いなく男鹿と美羽であった。大糸は、その前後の写真を並べてみた。エレベータの中から出てくるところから、部屋のドアを開けて中に入るところまで、しっかりと写っている。
大糸は、ホテルの懇意のスタッフの携帯に電話をかけた。
「もしもし。届けてもらった書類を見たよ。いや、ありがとう。助かったよ。ところで、この日の最上階客室フロアの防犯カメラの動画ファイルが欲しいんだが、USBメモリなんかで届けてもらえないだろうか。うん、それは助かるよ。今日は一日社にいるから、届くのはいつでも大丈夫だ。いや、ありがとう。今月は特別ボーナスをはずむよ。」
やがて、大糸のもとに、当日の防犯カメラの動画が届けられた。最近のカメラは、防犯カメラといえども画素数が多い。男鹿と美羽が写っているのはせいぜい数十秒だったが、それでも、引き延ばして再生すると、小さな写真だけでは分からなかったことも多く映っていた。なんといっても最大の収穫は、美羽の左手の薬指にしっかりとはまった社長の指輪まで映っていたことだろう。この動画を確認すると、大糸はようやく満足した。
「さて、この動画をどうやって料理しようか。」
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