聖豪商事株式会社

8. 科学検査室

　セイゴーには、科学検査室という社長直属の部署がある。ここでは、健康診断で採取した血液をもとに、全社員のDNA配列を解読・管理している。さらには、社内の全ての女子トイレでは、流されるたびに汚水の一部が自動的にサンプリングされ、科学検査室に届くように出来ている。尿に含まれるDNAから、誰が用を足したのかが解析される。また、尿に含まれるホルモンや血から、彼女の月経周期も解析される。妊娠の有無もチェックされることになる。精液が検出されると、誰の精液かもDNA配列を照合することで確認される。このようにして、部長を含めた一般社員による女子社員への中出しは厳重に監視されている。女性が妊娠していた場合、尿には胎児の排泄物も含まれる。胎児のDNAの半分は父親由来であるため、社員のDNAデータベースと照合することで、その胎児の父親が誰なのかも判明する。
　この科学検査室の存在は、社長の他は役員の中でも特に限られたメンバーにしか知られていない。しかし、大糸は、このようなシステムが存在することを、持ち前の嗅覚でなんとなく察知していた。実際、大糸ははじめて部長職に就任した際に、自分の部に所属する女子社員全員の月経周期データが執行部からメールで送られてきた時には仰天した。これは、自分へのサービスではなく、むしろ警告―女子社員に対するお前の行動は全て監視している、という警告―だと思った。だからこそ、憧れの真由美を抱いた時でさえ、生での挿入は断固として避けたのだ。こうした嗅覚を研ぎ澄まさなければ、セイゴーで生き残ることは難しい。
　では、うっかり女子社員に中出ししてしまったらどうなるのか。実際、大糸の前任の営業部長である飯山正三は、部下の女子社員に性指導を行う際に、我慢できずに中出ししてしまったため、その立場を失った。その女子社員、伊東香苗に技術指導室で中出しした日の翌日、取締役会議室に呼ばれた飯山は、二つの命令を告げられた。ただちに中東の紛争国に駐在員として赴任すること、そして出国する前に、社長の養子となって、宗谷の苗字を名乗ること。さらには、白紙の婚姻届けに、新たな苗字でサインをすることも求められた。この婚姻届けの妻の欄には、その後、飯山が中出しをしてしまった香苗の名前が記入されることになった。やや茶色に染めたストレートの髪を肩の高さで切り揃えた香苗の美貌は、社長も一目で気に入った。そして、何度か社長室に呼びつけているうちに、やがて社長の子を妊娠。こうして、香苗は結婚して宗谷香苗を名乗ることになり、社長の妻の一人として、将来の社長候補を養育するという重要な任務を与えられ、セイゴーが持つ豪華タワーマンションの一室で現在も暮らしている。また、持ち前の美貌を生かして、一時期はセイゴーがスポンサーとなっているニュース番組のニュースキャスターも務め、日本中の男を虜にしたが、たまたまその番組を見た社長が、再びムラムラして香苗の部屋を訪れたことから、現在は第二子を妊娠中であり、ニュースキャスター活動は休止している。法律の上では自分の妻となった香苗に対して、飯山がその後一指たりとも触れることが許されないのは、言うまでもない。このようにして、セイゴーでは、役員の一夫多妻制度と、一般社員への懲罰制度とを、同時に運用しているのである。