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2. 根岸真由美
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翌朝、課員の多くが営業に出かけた時間を見計らって大糸が営業1課に顔を出すと、篠ノ井が課長席に真由美を呼びつけたところだった。
「根岸君。」篠ノ井が、ややドスの利いた感じのねちっこい声で真由美に声をかける。「昨日の商談の結果を、報告したまえ。」
もちろん、篠ノ井は、前日に小浜から詳細な報告を受けており、うまくまとまらなかったことは百も承知の上である。
「はい。」真由美が、か細い声で返事をする。「すみません、まとまりませんでした。」
「また、かね。これで一体何件目だ?」
「すみません…」うつむいた状態で答える真由美の声は、今にも消え入りそうだ。
「君は一体、これまでわが社で何をやってきたんだ。ちょっと可愛い顔をしているからといって、ちやほやされると思ったら大間違いだぞ。だいたい君は、そもそもまじめに営業しようと思ってなんかいないんじゃないかね。いつでもやめてくれていいんだからな。」
「すみません…もう一度だけ、チャンスを下さい」
「もう一度、もういちどって、これで一体何件目だと思っているのかね。会社としても、君に高い給料をいつまでも払い続けるわけにはいかないんだよ。」
「……」真由美は肩を震わせる。今にも泣きだしそうな様子だ。
「他の社員は皆、しっかり成果をあげているというのに、まったく。」
「まぁまぁ、篠ノ井君。」大糸が横から割って入る。「僕の目から見たら、根岸君もしっかりと真面目にやっているよ。うまく成果があがらないのは、やり方をこれまできちんと教わらなかっただけなんだと思う。これは、根岸君ではなく、むしろ監督する僕らの責任なんじゃないかな。」
これまでうつむいていた真由美が、尊敬の念を込めた顔を大糸に向ける。
「いや、部長。」と篠ノ井。「しかし、例えば彼女と同期で入社した鶴見君などは、既に3件も大型の契約をとっているのですよ。」
鶴見美羽は、真由美と同期で入社した女子社員の一人で、やはり学生時代はクラスに一人くらいしかいないような美人である。ショートボブが似合う幼い顔立ちにEカップのバストが男をそそる。
「鶴見君も、僕がきちんと1対1で指導したから、できるようになったんだよ。根岸君はまだ指導をしたことがなかったからね。彼女が契約をとれないとすれば、それは指導をサボった僕の責任だ。根岸君を責めるなら、僕も一緒に責められるよ。」
「いや、部長がそうおっしゃるのであれば、この件は部長にお預けします。」
「そうか、ありがとう。」大糸は真由美の方を向いた。
「これまで、指導らしい指導もせずに実戦に投入してしまって、すまなかった。誰だって、やり方を知らなければうまくいかないもんだよ。いや、申し訳ない。」
「そんな、部長、私なんかのために…」真由美が、涙を湛えた大きな瞳で大糸を見つめる。
「というわけで、どうだろう。せっかくだし、これから指導しようと思うんだが、時間はとれるかい?」
「はい。よろしくお願いします。」
「じゃあ、篠ノ井君、根岸君をしばらく預かるから。」大糸はそう言うと、真由美に向って「根岸君、ちょっと片付けものをしてから行くから、技術指導室で待っていてくれないか。」と、指導室の鍵を渡しながら声をかけた。
「根岸君。」篠ノ井が、ややドスの利いた感じのねちっこい声で真由美に声をかける。「昨日の商談の結果を、報告したまえ。」
もちろん、篠ノ井は、前日に小浜から詳細な報告を受けており、うまくまとまらなかったことは百も承知の上である。
「はい。」真由美が、か細い声で返事をする。「すみません、まとまりませんでした。」
「また、かね。これで一体何件目だ?」
「すみません…」うつむいた状態で答える真由美の声は、今にも消え入りそうだ。
「君は一体、これまでわが社で何をやってきたんだ。ちょっと可愛い顔をしているからといって、ちやほやされると思ったら大間違いだぞ。だいたい君は、そもそもまじめに営業しようと思ってなんかいないんじゃないかね。いつでもやめてくれていいんだからな。」
「すみません…もう一度だけ、チャンスを下さい」
「もう一度、もういちどって、これで一体何件目だと思っているのかね。会社としても、君に高い給料をいつまでも払い続けるわけにはいかないんだよ。」
「……」真由美は肩を震わせる。今にも泣きだしそうな様子だ。
「他の社員は皆、しっかり成果をあげているというのに、まったく。」
「まぁまぁ、篠ノ井君。」大糸が横から割って入る。「僕の目から見たら、根岸君もしっかりと真面目にやっているよ。うまく成果があがらないのは、やり方をこれまできちんと教わらなかっただけなんだと思う。これは、根岸君ではなく、むしろ監督する僕らの責任なんじゃないかな。」
これまでうつむいていた真由美が、尊敬の念を込めた顔を大糸に向ける。
「いや、部長。」と篠ノ井。「しかし、例えば彼女と同期で入社した鶴見君などは、既に3件も大型の契約をとっているのですよ。」
鶴見美羽は、真由美と同期で入社した女子社員の一人で、やはり学生時代はクラスに一人くらいしかいないような美人である。ショートボブが似合う幼い顔立ちにEカップのバストが男をそそる。
「鶴見君も、僕がきちんと1対1で指導したから、できるようになったんだよ。根岸君はまだ指導をしたことがなかったからね。彼女が契約をとれないとすれば、それは指導をサボった僕の責任だ。根岸君を責めるなら、僕も一緒に責められるよ。」
「いや、部長がそうおっしゃるのであれば、この件は部長にお預けします。」
「そうか、ありがとう。」大糸は真由美の方を向いた。
「これまで、指導らしい指導もせずに実戦に投入してしまって、すまなかった。誰だって、やり方を知らなければうまくいかないもんだよ。いや、申し訳ない。」
「そんな、部長、私なんかのために…」真由美が、涙を湛えた大きな瞳で大糸を見つめる。
「というわけで、どうだろう。せっかくだし、これから指導しようと思うんだが、時間はとれるかい?」
「はい。よろしくお願いします。」
「じゃあ、篠ノ井君、根岸君をしばらく預かるから。」大糸はそう言うと、真由美に向って「根岸君、ちょっと片付けものをしてから行くから、技術指導室で待っていてくれないか。」と、指導室の鍵を渡しながら声をかけた。
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