怠惰ぐらし希望の第六王子 悪徳領主を目指してるのに、なぜか名君呼ばわりされています

服田 晃和

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第2話 ハルスの街

第49話 納期遅れ

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 支部長室にやってきた俺とルナは、依頼していた第五区画の工事についてオルトから話を聞いていた。

「オルト。大工業者への依頼発注は既に済んでいるんだよな?」
「はい、勿論です!架空の名義で依頼を発注致しました!資金はで振り込まれたモノで問題ありませんよね?」

 オルトはそういって紙に書かれた文字をチョンと指でつつく。本来なら『第五区画の修繕費』として帳簿に記されている筈が、そこには『移住者の護衛依頼報酬』と書かれている。その隣には目を疑うような金額が記されていた。

 別にここまで手の込んだことをする必要はないのだが、兄様達に『実はちゃんと仕事をしていた』なんて思われないためにも、面倒だが一手間かける必要があったのだ。

 それらを確認し、俺は首を縦に振って見せる。

「ああ、それで問題ない。これくらいあれば、第五区画の整備も出来るだろう?」
「はい!これだけあれば、修繕費を差し引いても、お釣りが出るほどです!」

 そう言って安堵の表情を浮かべるオルト。それを聞いて俺も一瞬安心したが、直ぐに襟を正してオルトに詰め寄った。

「それなら良いのだが……着工が遅れているようだな。予定では五日前には始められるはずではなかったのか?」
「も、申し訳ございません!資材の搬入が遅れているとかで、着工は二日後に開始だそうです……私がもっと早く発注しておけばこんなことには──」

 俺の問いかけに対し、オルトは言葉を詰まらせる。そして大量の油汗をかきながら頭を下げてきた。

 予定ではもう既に第五区画の工事が進んでおり、ある程度の居住地域を確保している筈だった。でなければ移住者達の安全確保が遅れてしまうからだ。しかし、ルイスの調査によれば、大工業者はまだ現場に来ていないという。

 この事実をオルトが把握していなければ説教の一つでも入れようと思ったのだが、どうやら把握はしていたらしい。それを俺に報告しなかったのはいただけないが、それを今言ったところで工事が早まるわけではない。

「まぁ悔やんでも仕方が無いことだ。それに、煽ったところで工事の予定が早まるわけでもないからな。着工開始までの間、引き続き移住者達の護衛を頼んだぞ」
「は、はい!お任せください!」

 俺に怒られずに済んだオルトは、安心した様子で汗を拭き始める。その様子にため息をこぼしながらも、俺はもう一つの目的を果たすためにルナに目配せをする。

 それを合図に、ルナが手に持っていた小袋を机の上に置いてオルトの方へと押しやった。

「お前にこの金を渡しておく。この金で移住者達に食糧を提供してやれ。勿論、提供者は『冒険者の有志一同』だからな?くれぐれも俺の名前を出すんじゃないぞ」
「承知しました!このオルト、命に代えても約束をお守り致します!」

 中に入った大量の金貨を見て、仕事の重大さを感じたのか、真剣なまなざしを浮かべて返事をするオルト。これなら任せて大丈夫だと安心し、俺はようやく一息ついた。

「ふぅ……そうだ、オルト。最近の街の様子はどうだ?移住者達が来てから、何か気になるようなことはあったか?」
「そうですねぇ……一部ではありますが、アルス様の政策に不平不満を言う者が増えた気がします」

 俺の質問に険しい顔で答えるオルト。その返答を聞いて、俺は満足気に鼻を鳴らす。やはり今回の作戦は上手くいっているのだ。過去の失敗から学ぶとはまさにこのこと。今回ばかりは、ルナやオレット達が邪魔出来るレベルじゃない。

 俺が得意気に笑みを浮かべていると、オルトが悲しそうにうつむいて息を吐いた。

「我々はアルス様に何かお考えがあると気づいておりますが、中々気付かないモノも多く……」

 そう口にしてなぜか落ち込み始めるオルト。それに同調するかのように、俺の背後からも大きなため息が聞こえてきた。この二人は俺のことをツンデレか何かと勘違いしているらしい。前回の件で否定しなかった俺も悪いが、迷惑だから本当にやめてほしい。

 俺の言葉をそのまま聞き取ってくれればいいのだが、何故かこの二人は曲解してしまうのだ。それを訂正するのも反応するのも面倒になり、俺は呆れたように息を吐く。

 その瞬間、オルトが何か思いついたような顔を浮かべた。

「はっ!!も、もしかすると……以前この街にいたミゲルのように、帝国からアルス様の評判を下げるべくスパイが送られているのかもしれません!ど、どうしましょう!?」
「はぁ……それならそれで好きなようにさせておけばいい!いいか、オルト!また来る時までに工事の進捗をまとめておくように!掛かった費用についても、正確に書いておくんだぞ!」

 変な妄想を膨らませるオルトに、俺は吐き捨てるようにそう告げて支部長室を後にした。

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