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第2話 ハルスの街
第48話 魔族好きな領主
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スネイデルがポーロの店と提携を結び、肉料理屋の開店準備に勤しんでいる中、俺はもう一人の魔族の様子を見にルナと共に冒険者協会へ訪れていた。
ルナが勝手に俺の私財を協会に渡してくれたお陰で、以前のような酒臭さは無くなり、破損していた壁もほとんど直っていた。その様子を目にし、また冒険者と職員達に感謝されてしまうかもしれないと思った俺だったが、以前のような反応は見られなかった。
そのまま中を進んでいくと、直ぐに人間に混ざって仕事をしているモコモコの生物を発見した。俺はその生物の元へと歩いていき、声をかける。
「元気にやってるかい、フィリップ君!ここでの仕事にはもう慣れたかな?」
「あ、アルス様!はい、お陰様で上手くやれてます!皆さんもとっても良くしてくれてるんですよ!」
フィリップはそう言ってにこやかにほほ笑んで見せる。彼は今、前職の経験を活かして冒険者協会で受付の仕事をしていた。
フィリップをここで働かせているのは、俺の作戦によるもの。サイクス領からやってきた人間の移住者達は仕事に就く暇もないというのに、魔族である彼は俺の贔屓によって家も仕事も手にしている。
それが噂として広まれば俺に対する不信感は更に強まっていくことだろう。
「それは良かった!そういえば、君に与えた家の住み心地はどうかな?」
「とっても快適ですよ!妻も子供達もフカフカのベッドに寝れて、毎晩幸せそうです!」
受付で仲良さ気に会話している俺達を見て、怪訝そうな表情を浮かべる冒険者達。俺達の間に何かあるのではないかと疑っているのかもしれない。
少し前までは、フランツ達の盛大な勘違いのせいで冒険者から『帝国の脅威を未然に防いだ名君』とか噂されていたのだが、それもほとんど耳にしなくなっている。
今回の作戦が上手く進んでいることを肌で感じ、俺は上機嫌でフィリップとの会話を続けた。
「そうかそうか!君達が喜んでくれて私も嬉しいよ!是非今度スネイデル君の開く肉料理屋で一緒に食事でもしよう!」
「いいんですか?ぜひご一緒させてください!」
俺の提案に嬉しそうに返事をするフィリップ。
なんとなく出会った時からそんな気はしていたが、最近になって彼は天然だと確信した。俺は今回の作戦を実行するにあたって、フィリップとスネイデルに友人のように振る舞えと指示を出している。
彼らが犯罪奴隷だとバレないためにも、そうすべきだと考えたからだ。しかしそう命令されていても、普通ならスネイデルのように畏まってしまうもの。
だがフィリップは俺と本当の友人のように振る舞っている。というか、もう彼の中では俺の位置づけが『友人枠』になっている気がするが、それもまた彼の魅力の一部なのかもしれない。
そんなフィリップと会話を膨らませていた時、一つの違和感を覚えた。そこに居る筈である彼女の姿がどこにも見当たらないのだ。
「なぁフィリップ君。君の奥さんの姿が見えないんだが……一緒の職場では無かったかな?もしかして今日はお休みなのかい?」
「あ、ええっと……妻のジェリーはですね。事務仕事が苦手なようでして、今は別の職場に配属されてそこで頑張っています!」
俺の質問に恥ずかしそうに笑いながら答えるフィリップ。どうやらジェリーさんは歌うこと以外の仕事は苦手だったようだ。だがそんな美味しい話を聞いて、黙っている俺ではない。
「それは本当か!?もしや、仕事が苦手なジェリーさんを虐めて、無理やり職場を移動させられたなんてことはないだろうね!?そんなことする奴がいたら、ただじゃ済まさんぞ!」
ワザとらしく声を荒げながら机を叩き、周囲の職員達を睨みつける。俺に睨まれた職員達は、焦った様子で首を横に振って見せた。
勿論、これはただのパフォーマンス。ジェリーさんが虐められたなんて思ってない。ただ、魔族のためならどんなことでもすると印象付けるためにやっているだけだ。
ただその情報を共有しているはずのフィリップが、なぜか焦って俺の発言を否定し始めた。
「そんなことないです!むしろ皆さんはジェリーのことを心配してくれてましたよ!ジェリーの方から、少しでも皆さんの役に立ちたいからと移動の願いを出したんです!だからそんなに怒らないでください!」
フィリップの発言のせいで職員達をこれ以上追及することもできなくなり、俺は半ばあきらめる形で絶好のチャンスを捨てることとなった。
「そうか……それならいいんだ!何かあったらすぐに言いに来てくれ!私は君達の味方だからね!」
「ありがとうございます!ぜひ今度我が家に遊びに来てください!子供達もアルス様に会いたがっていますから!」
「ああ、また今度改めて挨拶させてもらうとするよ!」
そういってフィリップに別れを告げ、俺はルナとともにオルトの待つ部屋へと向かって歩き始める。結局、フィリップの天然のせいで俺の望んだ展開にはならなかった。だが俺が魔族贔屓をしていることは十分に伝えられただろう。
ルナが勝手に俺の私財を協会に渡してくれたお陰で、以前のような酒臭さは無くなり、破損していた壁もほとんど直っていた。その様子を目にし、また冒険者と職員達に感謝されてしまうかもしれないと思った俺だったが、以前のような反応は見られなかった。
そのまま中を進んでいくと、直ぐに人間に混ざって仕事をしているモコモコの生物を発見した。俺はその生物の元へと歩いていき、声をかける。
「元気にやってるかい、フィリップ君!ここでの仕事にはもう慣れたかな?」
「あ、アルス様!はい、お陰様で上手くやれてます!皆さんもとっても良くしてくれてるんですよ!」
フィリップはそう言ってにこやかにほほ笑んで見せる。彼は今、前職の経験を活かして冒険者協会で受付の仕事をしていた。
フィリップをここで働かせているのは、俺の作戦によるもの。サイクス領からやってきた人間の移住者達は仕事に就く暇もないというのに、魔族である彼は俺の贔屓によって家も仕事も手にしている。
それが噂として広まれば俺に対する不信感は更に強まっていくことだろう。
「それは良かった!そういえば、君に与えた家の住み心地はどうかな?」
「とっても快適ですよ!妻も子供達もフカフカのベッドに寝れて、毎晩幸せそうです!」
受付で仲良さ気に会話している俺達を見て、怪訝そうな表情を浮かべる冒険者達。俺達の間に何かあるのではないかと疑っているのかもしれない。
少し前までは、フランツ達の盛大な勘違いのせいで冒険者から『帝国の脅威を未然に防いだ名君』とか噂されていたのだが、それもほとんど耳にしなくなっている。
今回の作戦が上手く進んでいることを肌で感じ、俺は上機嫌でフィリップとの会話を続けた。
「そうかそうか!君達が喜んでくれて私も嬉しいよ!是非今度スネイデル君の開く肉料理屋で一緒に食事でもしよう!」
「いいんですか?ぜひご一緒させてください!」
俺の提案に嬉しそうに返事をするフィリップ。
なんとなく出会った時からそんな気はしていたが、最近になって彼は天然だと確信した。俺は今回の作戦を実行するにあたって、フィリップとスネイデルに友人のように振る舞えと指示を出している。
彼らが犯罪奴隷だとバレないためにも、そうすべきだと考えたからだ。しかしそう命令されていても、普通ならスネイデルのように畏まってしまうもの。
だがフィリップは俺と本当の友人のように振る舞っている。というか、もう彼の中では俺の位置づけが『友人枠』になっている気がするが、それもまた彼の魅力の一部なのかもしれない。
そんなフィリップと会話を膨らませていた時、一つの違和感を覚えた。そこに居る筈である彼女の姿がどこにも見当たらないのだ。
「なぁフィリップ君。君の奥さんの姿が見えないんだが……一緒の職場では無かったかな?もしかして今日はお休みなのかい?」
「あ、ええっと……妻のジェリーはですね。事務仕事が苦手なようでして、今は別の職場に配属されてそこで頑張っています!」
俺の質問に恥ずかしそうに笑いながら答えるフィリップ。どうやらジェリーさんは歌うこと以外の仕事は苦手だったようだ。だがそんな美味しい話を聞いて、黙っている俺ではない。
「それは本当か!?もしや、仕事が苦手なジェリーさんを虐めて、無理やり職場を移動させられたなんてことはないだろうね!?そんなことする奴がいたら、ただじゃ済まさんぞ!」
ワザとらしく声を荒げながら机を叩き、周囲の職員達を睨みつける。俺に睨まれた職員達は、焦った様子で首を横に振って見せた。
勿論、これはただのパフォーマンス。ジェリーさんが虐められたなんて思ってない。ただ、魔族のためならどんなことでもすると印象付けるためにやっているだけだ。
ただその情報を共有しているはずのフィリップが、なぜか焦って俺の発言を否定し始めた。
「そんなことないです!むしろ皆さんはジェリーのことを心配してくれてましたよ!ジェリーの方から、少しでも皆さんの役に立ちたいからと移動の願いを出したんです!だからそんなに怒らないでください!」
フィリップの発言のせいで職員達をこれ以上追及することもできなくなり、俺は半ばあきらめる形で絶好のチャンスを捨てることとなった。
「そうか……それならいいんだ!何かあったらすぐに言いに来てくれ!私は君達の味方だからね!」
「ありがとうございます!ぜひ今度我が家に遊びに来てください!子供達もアルス様に会いたがっていますから!」
「ああ、また今度改めて挨拶させてもらうとするよ!」
そういってフィリップに別れを告げ、俺はルナとともにオルトの待つ部屋へと向かって歩き始める。結局、フィリップの天然のせいで俺の望んだ展開にはならなかった。だが俺が魔族贔屓をしていることは十分に伝えられただろう。
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