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第2話 ハルスの街
第46話 精肉店『ボルポーロ』
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サイクス領から移住者がやってきて、早くも二週間が経った。ソフィアが作った『合成人魔獣ちゃん清掃Ver』のお陰で、思ったよりも早く第五区画の整備が進んでいる。と言っても瓦礫の撤去が進んだくらいで、まだ人が暮らしていけるような環境になってはいないのだが。
そんな中、一週間前にこの街へやってきたスネイデルが、丘の上にある例の物件に暮らし始めたことで、街中から俺宛てに何件もの苦情が届いていた。
「魔族ばかり優遇するのは何でだ!もしかして領主は、人間の皮を被った魔族なのではないか!?だってさ……中々いい感じじゃぁないか!」
部下達が町民に紛れ込んで聞き出してきた、俺に向けての不平不満。その発言をまとめたリストを見て、俺はニヤリと口角を上げた。まさかここまで上手く事が運べるとは。俺が失脚するのも時間の問題かもしれない。
俺がニヤニヤと笑いながら紙を見ていると、横から心配そうな顔をしたルナが声をかけてきた。
「宜しいのですか?このままでは彼等にも町民達の苦情の矛先が向くかもしれませんよ?」
「それは仕方が無いことだ。それも全て了承したうえで、スネイデル達は俺に買われたんだからな」
俺が購入した魔族の奴隷は、全員が『犯罪奴隷』だ。ゾルマによる冤罪だったとはいえ、一度なってしまったモノを取り消すことは出来ない。その状況から抜け出せるというのだから、多少のリスクを背負うことくらい彼等も覚悟しているだろう。
だがルナは不安なのか、沈んだ表情を浮かべている。彼女は魔族に対して否定的な感情を持っていると思っていたのだが、どうやら少し違うようだ。
「まぁ心配することは無いさ。スネイデル達は俺のお気に入りだって思われている。流石に町民達も、王子のお気に入りに手を出そうとは思わないだろう?」
「それはそうですが……」
ルナを安心させるべく話をするも、まだ心配そうに窓の外を眺めるルナ。俺は仕方なくルナに秘密にしていた、作戦が失敗した時のために練っていた計画を彼女に打ち明けた。
「大丈夫だって。万が一何か起きることがあったら、スネイデル達には別の街へ移住して貰う。その計画も既に練ってはいるからな。これならルナも安心だろ?」
「……はい。そうですね」
ようやくルナも安心したのか、ホッとした様子でほほ笑んだ。本当は余り作戦を口外するつもりは無かったのだが、彼女の不安を取り除けるのなら、それがベストだろう。
一安心したルナが俺にお茶を淹れてくれていると、部屋の扉がノックされた。入室の許可の返事をすると、ルイスが入ってきた。
「アルス様。スネイデルが到着いたしました。出発の用意は済んでいるとのことでしたので、屋敷の前で待機させております」
「おお、来たか!それじゃあ後は頼んだぞ、ルナ!」
俺はそう言ってルナに淹れて貰った紅茶を一気に飲み干す。今日は色々都合があって、ルナにはお留守番を頼んだのだ。伺う相手先と用事の内容を考慮すると、ルナよりもルイスの方が適任……というか間違いが無さそうだから。
それもちゃんと説明しておいたのだが、それでもルナは若干不満げに頬を膨らませて見せる。だがなんとか納得したのか、ルナは不服気に頭を下げた。
「……畏まりました」
そんなルナに「行ってくる」と声をかけ、俺はルイスと共にスネイデルの待つ場所へと向かっていった。
◇
ルナを屋敷に残し、俺はルイスとスネイデルと共に街のとある場所へとやってきた。そこは街の片隅にある精肉店『ボルポーロ』。御昼時ということもあって、人が賑わっているかと思いきや、店の中には客の姿が見当たらなかった。
今日ここへやってきたのは、順調に進んでいる『魔族優遇政策』の第二波とも言うべき重要な作戦のため。その為にも、スネイデルには嫌な感じの魔族を演じて貰わなければならない。
「ここが『ボルポーロ』か!良いかスネイデル、お前は何も話さなくていいからな!俺の隣でニヤニヤ笑っててくれよ!」
「は、はい!承知しました!頑張って笑います!」
そう言って作り笑いを浮かべて見せるスネイデル。一見すると分かりにくいが、両端の口角が若干上がっていた。更にその口から細長い舌をチロチロと見せている。これがスネイデルの『ニヤニヤした笑み』なのだと、昨日教えて貰った。
正直初見さんからすればただ舌をチロチロしてるだけなのだが、俺にはこれ以上どうすることも出来ない。そのままのスネイデルとルイスを引き連れて店の中に入ると、中から元気そうな青年が現れた。
「いらっしゃい!!お客さん、何の肉にする!?今日のお勧めは新鮮なボアの肉だぜ!」
俺達を見て何も思わなかったのか、普段通りの接客をする青年。この街の人間なら俺を見れば誰だか分かると思ったのだが、どうやら違ったらしい。
そんな中、一週間前にこの街へやってきたスネイデルが、丘の上にある例の物件に暮らし始めたことで、街中から俺宛てに何件もの苦情が届いていた。
「魔族ばかり優遇するのは何でだ!もしかして領主は、人間の皮を被った魔族なのではないか!?だってさ……中々いい感じじゃぁないか!」
部下達が町民に紛れ込んで聞き出してきた、俺に向けての不平不満。その発言をまとめたリストを見て、俺はニヤリと口角を上げた。まさかここまで上手く事が運べるとは。俺が失脚するのも時間の問題かもしれない。
俺がニヤニヤと笑いながら紙を見ていると、横から心配そうな顔をしたルナが声をかけてきた。
「宜しいのですか?このままでは彼等にも町民達の苦情の矛先が向くかもしれませんよ?」
「それは仕方が無いことだ。それも全て了承したうえで、スネイデル達は俺に買われたんだからな」
俺が購入した魔族の奴隷は、全員が『犯罪奴隷』だ。ゾルマによる冤罪だったとはいえ、一度なってしまったモノを取り消すことは出来ない。その状況から抜け出せるというのだから、多少のリスクを背負うことくらい彼等も覚悟しているだろう。
だがルナは不安なのか、沈んだ表情を浮かべている。彼女は魔族に対して否定的な感情を持っていると思っていたのだが、どうやら少し違うようだ。
「まぁ心配することは無いさ。スネイデル達は俺のお気に入りだって思われている。流石に町民達も、王子のお気に入りに手を出そうとは思わないだろう?」
「それはそうですが……」
ルナを安心させるべく話をするも、まだ心配そうに窓の外を眺めるルナ。俺は仕方なくルナに秘密にしていた、作戦が失敗した時のために練っていた計画を彼女に打ち明けた。
「大丈夫だって。万が一何か起きることがあったら、スネイデル達には別の街へ移住して貰う。その計画も既に練ってはいるからな。これならルナも安心だろ?」
「……はい。そうですね」
ようやくルナも安心したのか、ホッとした様子でほほ笑んだ。本当は余り作戦を口外するつもりは無かったのだが、彼女の不安を取り除けるのなら、それがベストだろう。
一安心したルナが俺にお茶を淹れてくれていると、部屋の扉がノックされた。入室の許可の返事をすると、ルイスが入ってきた。
「アルス様。スネイデルが到着いたしました。出発の用意は済んでいるとのことでしたので、屋敷の前で待機させております」
「おお、来たか!それじゃあ後は頼んだぞ、ルナ!」
俺はそう言ってルナに淹れて貰った紅茶を一気に飲み干す。今日は色々都合があって、ルナにはお留守番を頼んだのだ。伺う相手先と用事の内容を考慮すると、ルナよりもルイスの方が適任……というか間違いが無さそうだから。
それもちゃんと説明しておいたのだが、それでもルナは若干不満げに頬を膨らませて見せる。だがなんとか納得したのか、ルナは不服気に頭を下げた。
「……畏まりました」
そんなルナに「行ってくる」と声をかけ、俺はルイスと共にスネイデルの待つ場所へと向かっていった。
◇
ルナを屋敷に残し、俺はルイスとスネイデルと共に街のとある場所へとやってきた。そこは街の片隅にある精肉店『ボルポーロ』。御昼時ということもあって、人が賑わっているかと思いきや、店の中には客の姿が見当たらなかった。
今日ここへやってきたのは、順調に進んでいる『魔族優遇政策』の第二波とも言うべき重要な作戦のため。その為にも、スネイデルには嫌な感じの魔族を演じて貰わなければならない。
「ここが『ボルポーロ』か!良いかスネイデル、お前は何も話さなくていいからな!俺の隣でニヤニヤ笑っててくれよ!」
「は、はい!承知しました!頑張って笑います!」
そう言って作り笑いを浮かべて見せるスネイデル。一見すると分かりにくいが、両端の口角が若干上がっていた。更にその口から細長い舌をチロチロと見せている。これがスネイデルの『ニヤニヤした笑み』なのだと、昨日教えて貰った。
正直初見さんからすればただ舌をチロチロしてるだけなのだが、俺にはこれ以上どうすることも出来ない。そのままのスネイデルとルイスを引き連れて店の中に入ると、中から元気そうな青年が現れた。
「いらっしゃい!!お客さん、何の肉にする!?今日のお勧めは新鮮なボアの肉だぜ!」
俺達を見て何も思わなかったのか、普段通りの接客をする青年。この街の人間なら俺を見れば誰だか分かると思ったのだが、どうやら違ったらしい。
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