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第2話 ハルスの街
第45話 聖母の協力
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移住者達がスラム街で一夜を過ごすことになる今日。食事や毛布の提供をメイド達に任せ、俺は一人とある場所へと向かっていた。
昼間は子供達の騒がしい声が聞こえるこの場所も、今は夜の不気味な静けさが漂っている。長い階段を下りた先にある厳重な扉をノックし合図を送った。
「ソフィア殿……様子を見に来たぞ」
扉の奥からバタバタと駆け寄ってくる足音がした後、扉が開かれる。扉の先から現れたソフィアの顔には、夥しい量の血が付着していた。その様子に血の気が引く俺に対し、彼女は満面の笑みを浮かべて見せる。
「アルス殿下!待ってましたよぉー!例のアレは、完璧に準備できてます!」
そう言いながら俺の手を引っ張って部屋の中へと率いれるソフィア。中は以前と変わらず、グロイ物体が散らばっていたり何かの実験に使う道具のようなモノが置かれている。その間を縫うように進んで行くと、部屋の奥に小さな生物が座っている事に気付いた。
ソフィアはその生物を指さして嬉しそうに語り始めた。
「あれがアルス殿下から依頼されていた、『合成人魔獣ちゃん清掃Ver』です!どうです!?とっても可愛らしいフォルムだと思いませんか!?ベースは小型の魔物なんですけど、『脳』は人間の物を移植したんです!」
ソフィアの話を聞き、俺は思わず夕食に食べた肉を吐き出しそうになる。人間の『脳』をこの魔物に移植しただと?どう生きてきたらそんなヤバい事平然とできるようになるんだ。
というかその脳はどうやって手に入れたんだ?まさか俺以外の提供者がまだ存在するとでも言うのか?
「うっぷ……まさかとは思うが、新しい実験体を捕らえてきたわけじゃないよな?俺はあの件以来、実験体を提供した覚えはないぞ?」
吐き気を必死に堪えながらソフィアに詰め寄る。俺の問いかけに、ソフィアは首を横に振って笑いながら答えた。
「心配しないでください!移植に使った脳は、二年前くらいに貰った処刑される予定だった人間の脳です!ちゃんと保存しておいたのが役に立ちましたよぉ!『心身の再構築』を使って、穏やかな性格にしてありますからぁ!」
そう言って目の前の生物を抱きかかえるソフィア。その生物が、彼女に抱えられて『グエッグエッ』と鳴き声をあげる。その声が人間の悲痛の叫びに聞こえて、俺は唾をゴクリと飲み込んだ。
「……それならいい。それで、肝心の能力の方はどうなってるんだ?コイツ一匹で、あの第五区画を奇麗に出来るとは思えないんだが」
色々な感情を押し殺し、ソフィアに問いかける。重要なのはこの合成魔獣がどうやって誕生したかではない。コイツ一匹で第五区画の清掃を担えるかどうかが問題だ。それが出来ないようなら、別の手段を取らなくてはいけなくなる。
若干の不安が残る中、ソフィアは誇らしげに語り始めた。
「安心してください!コイツのベースは『リトルギュスターヴ』って言って、何でも噛み砕いちゃう魔物なんです!だから瓦礫とか、ゴミとか全部砕いちゃいますよ!」
「それは凄いな。だが砕いた後のゴミはどうするんだ?回収出来なきゃ意味がないだろ?」
俺はそう言ってソフィアの胸に抱えられている生物をジッと見つめた。心なしか彼女の大きな胸に包まれて、嬉しそうな表情を浮かべている魔獣に対しイラつきを覚える。
何でも砕けるのは凄いが、それ以降の処理が必要なら話は別だ。結局もう一つの合成人魔獣を作るか、別の手段が必要になるだろう。
そんな俺の懸念をよそに、ソフィアはしたり顔を浮かべて見せた。
「ふっふっふ!殿下も欲しがりですねぇ!そう言うと思って、この子の胃袋には『リトルポイズンフロッグ』の胃袋を採用しました!これで、噛み砕いたモノをそのまま飲み込んで全部溶かしちゃえます!」
ソフィアはそう言うと抱えていた生物を地面におろし、目の前に拳大の石を用意して見せる。すると合成人魔獣が目の前の石を噛み砕き、破片から何からすべてを飲み込んでしまった。
「なるほどな。これならコイツ一匹で第五区画の清掃は出来そうだ。あとはどうやってゴミかゴミじゃないか判断するかだが、そこら辺はどうなってるんだ?」
「そこは人間の脳を使っているのでばっちりです!ただですねぇ、この脳の持ち主が『ゴミだと判断したモノ』しか食べないので、それ以外の物は食べれないですねぇ」
俺の質問に、ソフィアは少し悔しそうな顔を浮かべて答えて見せた。確かに、人間の脳を使っているのならそういう形の制御になってもおかしくはないだろう。
彼女はまだまだ『合成人魔獣ちゃん清掃Ver』の出来に不満そうだったが、この出来栄えなら問題なく第五区画の清掃を任せることが出来るだろう。後は街の人間に気付かれないように清掃をするだけだ。
俺はソフィアから『合成人魔獣ちゃん清掃Ver』を受け取り、屋敷へ帰るのだった。
昼間は子供達の騒がしい声が聞こえるこの場所も、今は夜の不気味な静けさが漂っている。長い階段を下りた先にある厳重な扉をノックし合図を送った。
「ソフィア殿……様子を見に来たぞ」
扉の奥からバタバタと駆け寄ってくる足音がした後、扉が開かれる。扉の先から現れたソフィアの顔には、夥しい量の血が付着していた。その様子に血の気が引く俺に対し、彼女は満面の笑みを浮かべて見せる。
「アルス殿下!待ってましたよぉー!例のアレは、完璧に準備できてます!」
そう言いながら俺の手を引っ張って部屋の中へと率いれるソフィア。中は以前と変わらず、グロイ物体が散らばっていたり何かの実験に使う道具のようなモノが置かれている。その間を縫うように進んで行くと、部屋の奥に小さな生物が座っている事に気付いた。
ソフィアはその生物を指さして嬉しそうに語り始めた。
「あれがアルス殿下から依頼されていた、『合成人魔獣ちゃん清掃Ver』です!どうです!?とっても可愛らしいフォルムだと思いませんか!?ベースは小型の魔物なんですけど、『脳』は人間の物を移植したんです!」
ソフィアの話を聞き、俺は思わず夕食に食べた肉を吐き出しそうになる。人間の『脳』をこの魔物に移植しただと?どう生きてきたらそんなヤバい事平然とできるようになるんだ。
というかその脳はどうやって手に入れたんだ?まさか俺以外の提供者がまだ存在するとでも言うのか?
「うっぷ……まさかとは思うが、新しい実験体を捕らえてきたわけじゃないよな?俺はあの件以来、実験体を提供した覚えはないぞ?」
吐き気を必死に堪えながらソフィアに詰め寄る。俺の問いかけに、ソフィアは首を横に振って笑いながら答えた。
「心配しないでください!移植に使った脳は、二年前くらいに貰った処刑される予定だった人間の脳です!ちゃんと保存しておいたのが役に立ちましたよぉ!『心身の再構築』を使って、穏やかな性格にしてありますからぁ!」
そう言って目の前の生物を抱きかかえるソフィア。その生物が、彼女に抱えられて『グエッグエッ』と鳴き声をあげる。その声が人間の悲痛の叫びに聞こえて、俺は唾をゴクリと飲み込んだ。
「……それならいい。それで、肝心の能力の方はどうなってるんだ?コイツ一匹で、あの第五区画を奇麗に出来るとは思えないんだが」
色々な感情を押し殺し、ソフィアに問いかける。重要なのはこの合成魔獣がどうやって誕生したかではない。コイツ一匹で第五区画の清掃を担えるかどうかが問題だ。それが出来ないようなら、別の手段を取らなくてはいけなくなる。
若干の不安が残る中、ソフィアは誇らしげに語り始めた。
「安心してください!コイツのベースは『リトルギュスターヴ』って言って、何でも噛み砕いちゃう魔物なんです!だから瓦礫とか、ゴミとか全部砕いちゃいますよ!」
「それは凄いな。だが砕いた後のゴミはどうするんだ?回収出来なきゃ意味がないだろ?」
俺はそう言ってソフィアの胸に抱えられている生物をジッと見つめた。心なしか彼女の大きな胸に包まれて、嬉しそうな表情を浮かべている魔獣に対しイラつきを覚える。
何でも砕けるのは凄いが、それ以降の処理が必要なら話は別だ。結局もう一つの合成人魔獣を作るか、別の手段が必要になるだろう。
そんな俺の懸念をよそに、ソフィアはしたり顔を浮かべて見せた。
「ふっふっふ!殿下も欲しがりですねぇ!そう言うと思って、この子の胃袋には『リトルポイズンフロッグ』の胃袋を採用しました!これで、噛み砕いたモノをそのまま飲み込んで全部溶かしちゃえます!」
ソフィアはそう言うと抱えていた生物を地面におろし、目の前に拳大の石を用意して見せる。すると合成人魔獣が目の前の石を噛み砕き、破片から何からすべてを飲み込んでしまった。
「なるほどな。これならコイツ一匹で第五区画の清掃は出来そうだ。あとはどうやってゴミかゴミじゃないか判断するかだが、そこら辺はどうなってるんだ?」
「そこは人間の脳を使っているのでばっちりです!ただですねぇ、この脳の持ち主が『ゴミだと判断したモノ』しか食べないので、それ以外の物は食べれないですねぇ」
俺の質問に、ソフィアは少し悔しそうな顔を浮かべて答えて見せた。確かに、人間の脳を使っているのならそういう形の制御になってもおかしくはないだろう。
彼女はまだまだ『合成人魔獣ちゃん清掃Ver』の出来に不満そうだったが、この出来栄えなら問題なく第五区画の清掃を任せることが出来るだろう。後は街の人間に気付かれないように清掃をするだけだ。
俺はソフィアから『合成人魔獣ちゃん清掃Ver』を受け取り、屋敷へ帰るのだった。
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