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第2話 ハルスの街

第44話 『OHSHSK』発動

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「ど、どういうことだよ!領主様は本気でこんなこと仰ってるのか!?あの噂は嘘だったってのかよ!」
「魔族の方へは居住地の提供、及び職業の斡旋ですって……それじゃあ私達は一体どうなるのよ!」

 街の入り口に貼り出された紙を見て、移住者達が次々に不満の声を上げていく。それ以外にも、元々街に住んでいた住民達ですら、俺が新たに打ち出した政策に対し不満をあらわにしていた。

 その様子を影から見守り、満足そうに笑みを零す。だがこれはまだ悪政の第一歩に過ぎないのだ。

「よーし良い調子じゃないか!そろそろ次の御布令を出しに行こうか、カイル!」
「ほ、ほんとにやるんですか!?こんなの出したら、ただじゃ済みませんよ!?」
「馬鹿だな!だからやるんじゃないか!カイルはそれを置いたら、すぐにどこかへ行っていいから!しっかりやってくれよ!」

 俺に背中を叩かれたカイルは、渋々といった様子で人混みの中へと駆けて行った。そして新しい御布令を掲示板に貼りだし、一目散にこちらへ向かって逃げてくる。

 貼りだされた紙を見て、何のことか分からずに首をかしげる移住者達。だがハルスの街に暮らしていた者達からは、悲鳴に似たような声が上がり始めた。

 その悲鳴を合図に、陰から姿を現して皆の前へと歩き出す。

「移住者達よ、ここまでの長旅ご苦労であった!私はエドハス領の領主を務めている、アルス・ドステニアだ!皆が無事にここまで辿り着けたことを、喜ばしく思う!」

 俺がそう挨拶をすると、皆畏まって頭を下げだした。まさか領主が直々に挨拶をしに来るとは思っていなかったのだろう。今まで文句を言っていたのが耳に入っていないか、不安になって身体を震わせている者達もいる。

 そんな者達を尻目に、俺は一度深く息を吸い込んでから嫌味たらしい顔を浮かべて話し始めた。

「さて早速で悪いのだが、皆に住んでもらう家を用意できていなくてなぁ。皆にはこの街の第五区画で生活をして貰おうと思う!案内はこの街の冒険者達に依頼してあるので、その者たちに従って着いていくといい!」

 民衆にそう宣言すると、あちこちから小さな悲鳴が上がり始めた。俺に聞こえないように話しているつもりなのだろうが、その声は次第に大きくなっていく。

「あの貼紙本当だったのか!?あそこは何年も前から誰も住んでない場所じゃないか!ほとんどの家が倒壊してるって話だぞ!?」
「私、あそこはずっと前からゴミ捨て場だと思って、生ゴミとか何度も捨てに行ってたわ……」

 信じられないと言った様子で口を開いていくハルスの民達。

 俺が移住者たちに生活するよう提示した場所は、スラム街のような場所だ。家の管理など誰もしておらず、ゴミ溜めのように汚れきっている。そんな場所に暮らせと言うのだから、事情を知っている民衆達は驚くのも当然の事だろう。

 その声を聞いて、サイクス領からやってきた移住者達は焦り始める。それから居ても立っても居られずに、顔を上げて俺に嘆願しだした。

「領主様!魔族の方ばかりではなく、我々にもどうかお慈悲を!そ、そんな場所で暮らせと言われても、私達は明日を生きていくのにも精一杯なのです!」
「お願いします、領主様!どうか子供たちだけでも安全な場所で暮らさせては貰えませんでしょうか!お願いです!」

 涙ながらに訴え始める移住者達。その様子を見て、胸の奥がズキズキと傷み始める。本当は俺だって助けてやりたい。だが今後の人生のためにも、俺が彼らを助けるためにはいかないのだ。

「残念だが、この街にはそこ以外に人を受け入れられる場所が無いのでな!サイクス領か等来た者たちは今日中に第五区画へ移動し、そこで生活をするように!これは領主の決定である!」

 必死に悪役っぽいセリフを口にして、移住者達の嘆願を拒否する。移住者達は俺の言葉に肩を落としながら、重い足取りで冒険者達の後へと続いて歩き始めた。

 勿論表面上はこう口にしているが、彼らを助ける計画は組んでいる。オルトに頼んで、いつも通り俺の名前を出さずに冒険者達へ依頼するフリをして、大工業者に依頼を横流しする予定だ。

 更に区画の清掃についてだが、これも別の仲間に協力を仰いでいるので問題はない。つまり、俺の名前を出さずに移住者たちを救う手はずは既に完璧に組まれているという事なのだ。

 これこそO評価H下げてSH救うS最高の計画K。『OHSHSK』とでも名付けようではないか。

 俺が悦に浸っていると、移住者達の背中を見つめていたハルスの民達が、俺を睨みつけて来た。そして次々に罵倒の言葉を呟き始める。

「ひ、ひでぇよ……あの人達だってなけなしの金使って移住してきたんだろ?それなのにこんな仕打ちあんまりだ!」
「そーよそーよ!いくらこの国の王子だからってこんなのやり過ぎだわ!」

 民衆から暴言が矢継ぎ早に飛び出してくる中、俺は震える体を精一杯動かし、悪徳領主の振る舞いを見せつけていく。

「ハハハ!何とでも言うがいい!私はこの国の王子であり、ここエドハス領の領主だ!私の決定が全てなんだよ!」

 俺の言葉により一層民衆からの暴言が強くなる。傍でその様子を見守っていたルナが、ギリギリと音を立てて握り拳を作り始めた。このままここに居てはまずいと、俺は急いで用意していた馬車の元へと歩き始めた。

 その間にも俺の背中に突き刺さっていく暴言の数々。過去一の結果に俺は心の中でほくそ笑んでいた。だがこれで終わらせないのが俺だ。

 とどめの一発を撃ち込むべく、馬車に乗り込む寸前に、民衆たちに向かって煽るような言葉を投げかけてやった。

「色々と文句があるようだが……そもそも、第五区画に人が住めなくなったのは誰のせいだ?私か、それとも前領主であるゾルマか?まさかとは思うが……自分達には関係ないといって放置したお前達には、責任が無いとでも言うのかな!?」

 俺がそう口にすると、民衆たちが一瞬黙り込んだ。その直後より一層激しい言葉を俺に浴びせ始める民衆たち。中にはゴミを投げつけだす者達も居た。

 ここまでくると不敬罪で全員処罰対象なのだが、勿論そんなことするはずもなく。俺は満足げに笑いながら捨て台詞を吐いて馬車に乗り込んだ。

「文句があるなら直接私のとこへ言いに来るがいい!ハッハッハッハ!」

 馬車の扉を閉め、椅子に座り込む。外から声が聞こえてくるが、やる事をやり切った今の俺にはその声は全く聞こえてこなかった。

「はぁ、はぁ、はぁ……あ、足が震えてもう立てない。早く屋敷に帰ってくれ」

 疲労困憊でその場で横になる。そんな俺を見つめるルナに、申し訳なさそうに苦笑いを浮かべるのだった。
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