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第2話 ハルスの街
第43話 第二の悪政
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翌日。奴隷達との契約も無事に終わり、俺は新しい作戦の為に資料を広げていた。部屋にはルナとフィリップ、それとトカゲ族一家のスネイデルが居る。その四人でハルスの街全体が描かれた地図を見つめながら、議論を繰り広げていた。
「それじゃあフィリップ達はこの空き家で暮らしてくれ。スネイデル達は出来ればこの空き家が良いんだな?」
「は、はい。その家であれば、我々も問題なく過ごせるとおもいますが……我儘を言って申し訳ありません!やはり我々はこの隅にある空き家で構いません!」
スネイデルはそう言って頭を下げる。
スネイデルが住みたがっているのは、丘上にある一件の空き家だ。ここは街の中でも日当たりが良い場所になっており、今回サイクス領から来る移住者の居住先の中では、かなり好条件の空き家となっている。
なぜスネイデルがそこに住みたがっているのかと言うと、彼等はトカゲ族の中でも『昼行性』のトカゲだからだそうだ。日中は気温が高い場所で過ごし、夜は寒くなりにくい場所でないと、体の動きが悪くなってしまうというのだ。
スネイデルが申し訳なさそうに頭を下げている中、俺は彼の肩を優しく叩いた。顔を上げるスネイデルに、俺はニヤリと笑みを浮かべて見せる。
「いやむしろ好都合だよ、スネイデル。お前達がこの一等地に暮らすとなれば、他の移住者達が文句を言いだすに決まっている。そうすれば、移住先を決めた俺に批判の矛先が向くのは時間の問題だろう」
「な、なるほど!流石アルス様です!」
俺の言葉にスネイデルは嬉しそうに頬を緩ませる。
俺の作戦は、フィリップとスネイデルの二家族を使い、魔族優遇の政策を施工すること。それを大々的に発表し、今後もハルスの街では魔族を受け入れていくと宣言する。
ただでさえ、サイクス領からやってくる移住者達によって、この街の生活は多少の変化を伴うことになる。そこに被せるように、魔族優遇の政策を実施するのだ。俺への反感はとんでもないことになるだろう。
「だがそうなると、スネイデル一家はここに移住してくるグループよりも、後にこの街に来たってことにした方が良さそうだな。その方がより悪印象を植え付けられるはずだ」
「そうですね。移住者達がこの街に来るのは一週間以上先になりそうですし、その時間があれば服の準備も間に合うでしょう」
ルナの言葉に俺の目線はスネイデルの尻尾へと移る。
今回の作戦を決行するにあたり、二つの家族には『裕福な家庭』という設定を付け加えている。そのため、彼等にはそれなりの服を着こなしてもらう必要がある。
フィリップ達は少しもこもこしている程度だったので、軽く直すくらいで済んだのだが、スネイデル達はそうはいかなかった。ヒョロヒョロと左右に振られる彼の尻尾があるお陰で、こちら側が用意していた服は全て縫い直す羽目になったのだ。
「我々のせいで大変なご迷惑をおかけしてしまい、申し訳ございません」
スネイデルはまたもや頭を下げて謝り始める。ルナは表情を変えることなく、「問題ありません」とだけ口にすると、机の上に置いていた紙を手に取って悩み始めた。
「服の件はこれで良いとして、問題は働き口ですね。魔族を雇ってくれる場所があるかどうか」
「そうだな。オルトに頼んでフィリップだけでも事務職で雇って貰うことは出来ると思うが、どうする?それで良ければ、オルトに伝えておくが」
「本当ですか!?是非とも宜しくお願い致します!」
俺がそう言うと、前職が事務系の仕事だったフィリップは快く頷いて見せる。
一方のスネイデルはというと、少し不安そうに視線を逸らしていた。事前の面談で、スネイデルの前職は精肉店だと聞いている。この街には既に精肉店があるため、競合となる店の出店は避けておきたい。
仕方ないが、ここは前世の俺の知恵をフル活用するしかなさそうだ。
「よし、こうしよう。スネイデルは肉料理の専門店を開いてくれ。精肉店を営んでいたなら、簡単な肉料理くらい作れるだろ?」
「肉料理屋ですか!?そ、そりゃあ簡単な料理くらいは作ったことありますが、人に出せるような料理なんて、私に作れるかどうか……」
俺の提案にスネイデルはより一層不安げに目を泳がせ始めた。だが俺にはこの世界にない料理の知識がある。それを使えば、スナイデルの料理屋は繁盛する事間違いなしだ。勿論魔族の店という事で敬遠される可能性もあるが、それはオルトやレイゲルに指示すれば簡単に解決できる。
「安心しろ。お前が提供する料理のレシピは、俺の頭の中にあるからな。それを再現すれば、必ず上手くいく」
「アルス様の料理ですか!?それなら……頑張ってみます!」
まだ不安そうに見えるが、スネイデルは力強く頷いて見せる。これにて一件落着かに見えたが、ルナが怪訝そうな表情を浮かべて隣にすり寄ってきた。
そして二人に聞こえないよう、俺の耳元で小さく問いかけてくる。
「いつから料理が出来るようになったんです?アルス様が料理をしたところなんて、私は一度も見たことありませんよ?」
「あ、ああ、それはだな、あれだ。神のお告げってやつだ!今度ルナにも作ってやるから、味見して確認してくれ」
「……それなら良いんですけど」
俺の言葉にルナは不満げに頬を膨らませる。そんな彼女から逃げるように、俺はフィリップ達に声をかけて場を濁したのだった。
「それじゃあフィリップ達はこの空き家で暮らしてくれ。スネイデル達は出来ればこの空き家が良いんだな?」
「は、はい。その家であれば、我々も問題なく過ごせるとおもいますが……我儘を言って申し訳ありません!やはり我々はこの隅にある空き家で構いません!」
スネイデルはそう言って頭を下げる。
スネイデルが住みたがっているのは、丘上にある一件の空き家だ。ここは街の中でも日当たりが良い場所になっており、今回サイクス領から来る移住者の居住先の中では、かなり好条件の空き家となっている。
なぜスネイデルがそこに住みたがっているのかと言うと、彼等はトカゲ族の中でも『昼行性』のトカゲだからだそうだ。日中は気温が高い場所で過ごし、夜は寒くなりにくい場所でないと、体の動きが悪くなってしまうというのだ。
スネイデルが申し訳なさそうに頭を下げている中、俺は彼の肩を優しく叩いた。顔を上げるスネイデルに、俺はニヤリと笑みを浮かべて見せる。
「いやむしろ好都合だよ、スネイデル。お前達がこの一等地に暮らすとなれば、他の移住者達が文句を言いだすに決まっている。そうすれば、移住先を決めた俺に批判の矛先が向くのは時間の問題だろう」
「な、なるほど!流石アルス様です!」
俺の言葉にスネイデルは嬉しそうに頬を緩ませる。
俺の作戦は、フィリップとスネイデルの二家族を使い、魔族優遇の政策を施工すること。それを大々的に発表し、今後もハルスの街では魔族を受け入れていくと宣言する。
ただでさえ、サイクス領からやってくる移住者達によって、この街の生活は多少の変化を伴うことになる。そこに被せるように、魔族優遇の政策を実施するのだ。俺への反感はとんでもないことになるだろう。
「だがそうなると、スネイデル一家はここに移住してくるグループよりも、後にこの街に来たってことにした方が良さそうだな。その方がより悪印象を植え付けられるはずだ」
「そうですね。移住者達がこの街に来るのは一週間以上先になりそうですし、その時間があれば服の準備も間に合うでしょう」
ルナの言葉に俺の目線はスネイデルの尻尾へと移る。
今回の作戦を決行するにあたり、二つの家族には『裕福な家庭』という設定を付け加えている。そのため、彼等にはそれなりの服を着こなしてもらう必要がある。
フィリップ達は少しもこもこしている程度だったので、軽く直すくらいで済んだのだが、スネイデル達はそうはいかなかった。ヒョロヒョロと左右に振られる彼の尻尾があるお陰で、こちら側が用意していた服は全て縫い直す羽目になったのだ。
「我々のせいで大変なご迷惑をおかけしてしまい、申し訳ございません」
スネイデルはまたもや頭を下げて謝り始める。ルナは表情を変えることなく、「問題ありません」とだけ口にすると、机の上に置いていた紙を手に取って悩み始めた。
「服の件はこれで良いとして、問題は働き口ですね。魔族を雇ってくれる場所があるかどうか」
「そうだな。オルトに頼んでフィリップだけでも事務職で雇って貰うことは出来ると思うが、どうする?それで良ければ、オルトに伝えておくが」
「本当ですか!?是非とも宜しくお願い致します!」
俺がそう言うと、前職が事務系の仕事だったフィリップは快く頷いて見せる。
一方のスネイデルはというと、少し不安そうに視線を逸らしていた。事前の面談で、スネイデルの前職は精肉店だと聞いている。この街には既に精肉店があるため、競合となる店の出店は避けておきたい。
仕方ないが、ここは前世の俺の知恵をフル活用するしかなさそうだ。
「よし、こうしよう。スネイデルは肉料理の専門店を開いてくれ。精肉店を営んでいたなら、簡単な肉料理くらい作れるだろ?」
「肉料理屋ですか!?そ、そりゃあ簡単な料理くらいは作ったことありますが、人に出せるような料理なんて、私に作れるかどうか……」
俺の提案にスネイデルはより一層不安げに目を泳がせ始めた。だが俺にはこの世界にない料理の知識がある。それを使えば、スナイデルの料理屋は繁盛する事間違いなしだ。勿論魔族の店という事で敬遠される可能性もあるが、それはオルトやレイゲルに指示すれば簡単に解決できる。
「安心しろ。お前が提供する料理のレシピは、俺の頭の中にあるからな。それを再現すれば、必ず上手くいく」
「アルス様の料理ですか!?それなら……頑張ってみます!」
まだ不安そうに見えるが、スネイデルは力強く頷いて見せる。これにて一件落着かに見えたが、ルナが怪訝そうな表情を浮かべて隣にすり寄ってきた。
そして二人に聞こえないよう、俺の耳元で小さく問いかけてくる。
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「あ、ああ、それはだな、あれだ。神のお告げってやつだ!今度ルナにも作ってやるから、味見して確認してくれ」
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