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第2話 ハルスの街

第41話 魔族の奴隷

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 翌日。俺とルナはレイゲルの営む奴隷商へと足を運んでいた。店に入るところを周囲の人間に見られていたのだが、やはり噂が広まっているせいか、嫌な視線は感じない。寧ろまた何かするのではという、期待が混じった視線で俺の事を見つめていた。

 店の中に入り、レイゲルの案内で奥の部屋に通される。部屋の中には既に八人の魔族が立って待っていた。

「急な依頼ですまなかったな、レイゲル。どうしても彼等を購入したかったものでな」
「とんでもございません!このレイゲル、殿下の御依頼であればいつ何時でも一番に優先させて頂く所存でございます!」
「そう言って貰えると俺としても助かる。今度、礼にワインでも送らせて貰おう」
「宜しいのですか?では、喜んで頂戴させて頂きます!」

 レイゲルが手揉みをしながら嬉しそうにほほ笑む。挨拶はこのくらいにして、俺は奴の後ろに立っている魔族の奴隷達に目を向けた。

「彼等で全員なのか?」
「はい!私の店で取り扱っているのはここに居る八名の魔族で全てになります!」
「なるほどな。全員『犯罪奴隷』という事で間違いないな?」
「っつ……はい……」

 俺の問いかけに対し、レイゲルは歯切れの悪い返事をする。以前レイゲルは、ゾルマの指示で魔族を犯罪奴隷にして安価で手に入れたと言っていた。その残りが彼等なのだろう。

 レイゲルは自分の行いに悔いつつも、彼等を解放することが出来ずにいた。

 一度『犯罪奴隷』に落ちてしまえば、余程のことが無い限り解放することは出来ない。彼等の罪がゾルマによる冤罪だったとしても、国が冤罪を認めるような真似はしないからだ。

「別にお前を責めるつもりは無い。ゾルマの指示に従っただけなのだからな。ただもう二度と、こんな真似はするな。分かったな?」
「はい!有難うございます、殿下!」

 レイゲルはそう言って涙を流す。罪悪感に押しつぶされそうだったのだろうか。それとも、演技なのかは分からないが、この禿狸が改心してくれることを願うばかりだ。

「では早速彼等を購入させて貰いたいんだが、その前に少し話をさせて貰っても良いか?」
「勿論でございます!どうぞご自由にお話しください!お前達もアルス殿下に聞かれたことは全て話すようにしなさい!」

 レイゲルは奴隷達に命令すると、「私は契約の準備をしてまいりますので!」と言って、部屋から出ていった。多分俺に気を使ったのだろう。こういう気配りが出来る所は、流石商人と言える。

 気兼ねなく話せるようになった俺は、奴隷達の前へと進み、一人一人に目を合わせていく。

 ここに居る八人の魔族の奴隷は、二つの種族に分かれていた。一方は羊のような角に、もこもこした体毛。もう一方は蛇のような鱗の肌に、トカゲのような尻尾を生やしている。

「初めまして。今日から貴方達の主人になる予定のアルス・ドステニアだ。このドステニア王国の王子であり、エドハス領の領主代理を務めている。宜しくな」
「よ、よろしくお願いします!!」

 両種族の代表者と思しき男性が、俺の挨拶に返事をする。どちらも緊張しているのか、何度も瞬きをしていた。

 俺は羊種族の代表者と目を合わせながら、会話を進めていく。

「見たところ君達は二つの家族だと思うんだが、間違いないかな?」
「は、はい!私と左の三人で一家族、右の四人で一家族になります!」

 俺の質問に返事をしながら、家族でギュッと固まる魔族達。大人は平然としているように見えるが、子供たちの表情からは不安が見て取れた。蛇族達の表情は上手く読み取れないが、彼等も同じように不安を抱えていることだろう。
 
 これから仲間になるかもしれない者達に変に不安を抱えさせてはいけないと、俺は少し柔らかな口調にして話を続けることにした。

「なるほど。じゃあ一家族ずつ話を聞かせて貰おうかな。えっと……名前を教えてくれるかい?」
「はい!私はフィリップと申します!妻の名前はジェリー、娘がメリーで息子がモップです!全員シープ族と呼ばれる種族になります!」

 フィリップがそう言いながら子供達の背中をポンと叩く。子供達は慌てて俺に向かって頭を下げた。その姿はまるで人形の様で、なんだかとても癒される。

 だがルナの方を見ると、彼女の眉間にはシワが寄っていた。以前もそうだったが、ルナは魔族に対してあまり良い感情を持っていないように見える。今度それとなく理由を聞いてみるとしよう。

 とりあえず今は彼等の話を聞いて今後の計画を練るのが先だ。
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