上 下
40 / 65
第2話 ハルスの街

第40話 この機会に

しおりを挟む
「なんかやる気出てきたなぁ!次の作戦についてでも考えるとするか!」

 手元の資料を読み漁り、この機に乗じて何か出来ないかと策を巡らせる。ただ移住問題はかなりデリケートなものだ。適当な策を打てば、修復不能なダメージを追う可能性もある。ここは慎重に考えていかねば。

 ルイスから渡された報告書を眺めていると、ふと頭の中にルナの言葉が過った。それは、この街に始めて来た時の事だった。最近魔族の移住者が増加しているという。

「確かレイゲルの所に魔族の奴隷が居たはずだ。彼等を使って、なんか出来ないか考えてみるか」

 前回奴隷を使った作戦で失敗しているというのに、俺はまたもや奴隷を使った策を練り始める。だが今回はその失敗を踏まえて考えることが出来るため、そこまで心配する必要はないと思っていた。

「魔族、魔族、魔族が住みやすい街……そうだ!魔族優遇の政策を取れば良いんだ!人間達の血と汗の結晶である税金。その大半を、魔族の待遇改善の為に使うと発表すれば、間違いなく領民の反感を買うことになるぞ!」

 すぐに案を思いついた俺は、手元の報告書に目を移し、移住者達の内訳を確認し始める。

 移住というのはそう簡単に出来るのものではない。ドステニア国内で移住するといっても、その際には正式な手続きを踏む必要がある。そこで無くてはならないのが、名前や種族等が記された『市民権』と呼ばれる紙だ。それが無ければ、住んでいた領地へ強制送還されてしまう。

 この報告書は、境界付近で兵士達がその『市民権』を確認して作り上げたモノ。恐らく全員を確認する前に、ある程度の予想で書かれたとは思うが、そこに『魔族』の文字は無かった。

「よし!サイクス領からの移住者は全員『人間』だな!これなら魔族の大群が押し寄せてくるなんてことにはならないだろう!」

 今の状況を引き起こした、『待遇改善』の政策。それを今度は魔族を対象に行うのだから、似たような騒動が起きる可能性を考慮しておかないとマズイ。

 噂が広まる速度は、その対象となる人数に比例する。今回は極少人数の魔族を対象にした政策であるため、噂が広まるには時間がかかるだろう。

 それに噂が広まったとしても問題はない。魔族を優遇する領地に移住したい人間などいないはずだ。人間の移住抑制のために、この政策は有効打となるだろう。

 俺はいつものようにベルを鳴らして彼女を呼ぶ。ルナはすぐにやってきて、俺の前で頭を下げた。

「アルス様、お呼びでしょうか」
「ああ。実はルナにちょっとお願いしたいことがあってな。急で悪いが、レイゲルに連絡を取ってくれるか?明日には店に行くから、魔族の奴隷を用意しといて欲しいんだ」
「承知いたしました。では明日の十時頃に伺うと伝えておきます」

 ルナはそう返事をすると僅かに微笑んで部屋を出ていった。あの件以来、ルナは俺の前で良く笑顔を見せるようになった。仲が深まったという事なのだろうが、スキンシップも増えて来たのは少し辛い。

 他の貴族達はどうだか知らないが、メイドに対して欲情するなんてこと、俺の中ではあってはならないことだった。彼女達はあくまで仕事で傍にいてくれるだけ。そこに恋慕を抱くなど失礼極まりない。

 ルナに特別な感情を抱いているといっても、それはあくまでも『尊敬』と『信頼』からくるものであり、恋愛感情である筈がない。

 俺は少し冷静になる為、その場で何度か深呼吸を行ってから再度報告書を眺めだす。

「ふぅ……問題は魔族の奴隷達だな。俺の計画に乗ってくれるかどうか……まぁ上手くいったら奴隷から解放すると契約すれば承諾してくれるだろう」

 今回の作戦は、俺だけでなく彼等も憎悪の標的になってしまう。本来は避けたいと道ではあるが、この作戦を決行する代わりとして、彼等の身の安全は俺が必ず保証する。そうすればきっと、魔族の奴隷達も俺の作戦を受け入れてくれることだろう。

 この作戦が上手くいった暁には、未来の自堕落生活に大きく近づくことになるはずだ。

しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

特殊部隊の俺が転生すると、目の前で絶世の美人母娘が犯されそうで助けたら、とんでもないヤンデレ貴族だった

なるとし
ファンタジー
 鷹取晴翔(たかとりはると)は陸上自衛隊のとある特殊部隊に所属している。だが、ある日、訓練の途中、不慮の事故に遭い、異世界に転生することとなる。  特殊部隊で使っていた武器や防具などを召喚できる特殊能力を謎の存在から授かり、目を開けたら、絶世の美女とも呼ばれる母娘が男たちによって犯されそうになっていた。  武装状態の鷹取晴翔は、持ち前の優秀な身体能力と武器を使い、その母娘と敷地にいる使用人たちを救う。  だけど、その母と娘二人は、    とおおおおんでもないヤンデレだった…… 第3回次世代ファンタジーカップに出すために一部を修正して投稿したものです。

オタクおばさん転生する

ゆるりこ
ファンタジー
マンガとゲームと小説を、ゆるーく愛するおばさんがいぬの散歩中に異世界召喚に巻き込まれて転生した。 天使(見習い)さんにいろいろいただいて犬と共に森の中でのんびり暮そうと思っていたけど、いただいたものが思ったより強大な力だったためいろいろ予定が狂ってしまい、勇者さん達を回収しつつ奔走するお話になりそうです。 投稿ものんびりです。(なろうでも投稿しています)

はずれスキル『模倣』で廃村スローライフ!

さとう
ファンタジー
異世界にクラス丸ごと召喚され、一人一つずつスキルを与えられたけど……俺、有馬慧(ありまけい)のスキルは『模倣』でした。おかげで、クラスのカースト上位連中が持つ『勇者』や『聖女』や『賢者』をコピーしまくったが……自分たちが活躍できないとの理由でカースト上位連中にハメられ、なんと追放されてしまう。 しかも、追放先はとっくの昔に滅んだ廃村……しかもしかも、せっかくコピーしたスキルは初期化されてしまった。 とりあえず、廃村でしばらく暮らすことを決意したのだが、俺に前に『女神の遣い』とかいう猫が現れこう言った。 『女神様、あんたに頼みたいことあるんだって』 これは……異世界召喚の真実を知った俺、有馬慧が送る廃村スローライフ。そして、魔王討伐とかやってるクラスメイトたちがいかに小さいことで騒いでいるのかを知る物語。

平民として生まれた男、努力でスキルと魔法が使える様になる。〜イージーな世界に生まれ変わった。

モンド
ファンタジー
1人の男が異世界に転生した。 日本に住んでいた頃の記憶を持ったまま、男は前世でサラリーマンとして長年働いてきた経験から。 今度生まれ変われるなら、自由に旅をしながら生きてみたいと思い描いていたのだ。 そんな彼が、15歳の成人の儀式の際に過去の記憶を思い出して旅立つことにした。 特に使命や野心のない男は、好きなように生きることにした。

僕のギフトは規格外!?〜大好きなもふもふたちと異世界で品質開拓を始めます〜

犬社護
ファンタジー
5歳の誕生日、アキトは不思議な夢を見た。舞台は日本、自分は小学生6年生の子供、様々なシーンが走馬灯のように進んでいき、突然の交通事故で終幕となり、そこでの経験と知識の一部を引き継いだまま目を覚ます。それが前世の記憶で、自分が異世界へと転生していることに気付かないまま日常生活を送るある日、父親の職場見学のため、街中にある遺跡へと出かけ、そこで出会った貴族の幼女と話し合っている時に誘拐されてしまい、大ピンチ! 目隠しされ不安の中でどうしようかと思案していると、小さなもふもふ精霊-白虎が救いの手を差し伸べて、アキトの秘めたる力が解放される。 この小さき白虎との出会いにより、アキトの運命が思わぬ方向へと動き出す。 これは、アキトと訳ありモフモフたちの起こす品質開拓物語。

『特別』を願った僕の転生先は放置された第7皇子!?

mio
ファンタジー
 特別になることを望む『平凡』な大学生・弥登陽斗はある日突然亡くなる。  神様に『特別』になりたい願いを叶えてやると言われ、生まれ変わった先は異世界の第7皇子!? しかも母親はなんだかさびれた離宮に追いやられているし、騎士団に入っている兄はなかなか会うことができない。それでも穏やかな日々。 そんな生活も母の死を境に変わっていく。なぜか絡んでくる異母兄弟をあしらいつつ、兄の元で剣に魔法に、いろいろと学んでいくことに。兄と兄の部下との新たな日常に、以前とはまた違った幸せを感じていた。 日常を壊し、強制的に終わらせたとある不幸が起こるまでは。    神様、一つ言わせてください。僕が言っていた特別はこういうことではないと思うんですけど!?  他サイトでも投稿しております。

魔力値1の私が大賢者(仮)を目指すまで

ひーにゃん
ファンタジー
 誰もが魔力をもち魔法が使える世界で、アンナリーナはその力を持たず皆に厭われていた。  運命の【ギフト授与式】がやってきて、これでまともな暮らしが出来るかと思ったのだが……  与えられたギフトは【ギフト】というよくわからないもの。  だが、そのとき思い出した前世の記憶で【ギフト】の使い方を閃いて。  これは少し歪んだ考え方の持ち主、アンナリーナの一風変わった仲間たちとの日常のお話。  冒険を始めるに至って、第1章はアンナリーナのこれからを書くのに外せません。  よろしくお願いします。  この作品は小説家になろう様にも掲載しています。

夢幻の錬金術師 ~【異空間収納】【錬金術】【鑑定】【スキル剥奪&付与】を兼ね備えたチートスキル【錬金工房】で最強の錬金術師として成り上がる~

青山 有
ファンタジー
女神の助手として異世界に召喚された厨二病少年・神薙拓光。 彼が手にしたユニークスキルは【錬金工房】。 ただでさえ、魔法があり魔物がはびこる危険な世界。そこを生産職の助手と巡るのかと、女神も頭を抱えたのだが……。 彼の持つ【錬金工房】は、レアスキルである【異空間収納】【錬金術】【鑑定】の上位互換機能を合わせ持ってるだけでなく、スキルの【剥奪】【付与】まで行えるという、女神の想像を遥かに超えたチートスキルだった。 これは一人の少年が異世界で伝説の錬金術師として成り上がっていく物語。 ※カクヨムにも投稿しています

処理中です...