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第2話 ハルスの街
第40話 この機会に
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「なんかやる気出てきたなぁ!次の作戦についてでも考えるとするか!」
手元の資料を読み漁り、この機に乗じて何か出来ないかと策を巡らせる。ただ移住問題はかなりデリケートなものだ。適当な策を打てば、修復不能なダメージを追う可能性もある。ここは慎重に考えていかねば。
ルイスから渡された報告書を眺めていると、ふと頭の中にルナの言葉が過った。それは、この街に始めて来た時の事だった。最近魔族の移住者が増加しているという。
「確かレイゲルの所に魔族の奴隷が居たはずだ。彼等を使って、なんか出来ないか考えてみるか」
前回奴隷を使った作戦で失敗しているというのに、俺はまたもや奴隷を使った策を練り始める。だが今回はその失敗を踏まえて考えることが出来るため、そこまで心配する必要はないと思っていた。
「魔族、魔族、魔族が住みやすい街……そうだ!魔族優遇の政策を取れば良いんだ!人間達の血と汗の結晶である税金。その大半を、魔族の待遇改善の為に使うと発表すれば、間違いなく領民の反感を買うことになるぞ!」
すぐに案を思いついた俺は、手元の報告書に目を移し、移住者達の内訳を確認し始める。
移住というのはそう簡単に出来るのものではない。ドステニア国内で移住するといっても、その際には正式な手続きを踏む必要がある。そこで無くてはならないのが、名前や種族等が記された『市民権』と呼ばれる紙だ。それが無ければ、住んでいた領地へ強制送還されてしまう。
この報告書は、境界付近で兵士達がその『市民権』を確認して作り上げたモノ。恐らく全員を確認する前に、ある程度の予想で書かれたとは思うが、そこに『魔族』の文字は無かった。
「よし!サイクス領からの移住者は全員『人間』だな!これなら魔族の大群が押し寄せてくるなんてことにはならないだろう!」
今の状況を引き起こした、『待遇改善』の政策。それを今度は魔族を対象に行うのだから、似たような騒動が起きる可能性を考慮しておかないとマズイ。
噂が広まる速度は、その対象となる人数に比例する。今回は極少人数の魔族を対象にした政策であるため、噂が広まるには時間がかかるだろう。
それに噂が広まったとしても問題はない。魔族を優遇する領地に移住したい人間などいないはずだ。人間の移住抑制のために、この政策は有効打となるだろう。
俺はいつものようにベルを鳴らして彼女を呼ぶ。ルナはすぐにやってきて、俺の前で頭を下げた。
「アルス様、お呼びでしょうか」
「ああ。実はルナにちょっとお願いしたいことがあってな。急で悪いが、レイゲルに連絡を取ってくれるか?明日には店に行くから、魔族の奴隷を用意しといて欲しいんだ」
「承知いたしました。では明日の十時頃に伺うと伝えておきます」
ルナはそう返事をすると僅かに微笑んで部屋を出ていった。あの件以来、ルナは俺の前で良く笑顔を見せるようになった。仲が深まったという事なのだろうが、スキンシップも増えて来たのは少し辛い。
他の貴族達はどうだか知らないが、メイドに対して欲情するなんてこと、俺の中ではあってはならないことだった。彼女達はあくまで仕事で傍にいてくれるだけ。そこに恋慕を抱くなど失礼極まりない。
ルナに特別な感情を抱いているといっても、それはあくまでも『尊敬』と『信頼』からくるものであり、恋愛感情である筈がない。
俺は少し冷静になる為、その場で何度か深呼吸を行ってから再度報告書を眺めだす。
「ふぅ……問題は魔族の奴隷達だな。俺の計画に乗ってくれるかどうか……まぁ上手くいったら奴隷から解放すると契約すれば承諾してくれるだろう」
今回の作戦は、俺だけでなく彼等も憎悪の標的になってしまう。本来は避けたいと道ではあるが、この作戦を決行する代わりとして、彼等の身の安全は俺が必ず保証する。そうすればきっと、魔族の奴隷達も俺の作戦を受け入れてくれることだろう。
この作戦が上手くいった暁には、未来の自堕落生活に大きく近づくことになるはずだ。
手元の資料を読み漁り、この機に乗じて何か出来ないかと策を巡らせる。ただ移住問題はかなりデリケートなものだ。適当な策を打てば、修復不能なダメージを追う可能性もある。ここは慎重に考えていかねば。
ルイスから渡された報告書を眺めていると、ふと頭の中にルナの言葉が過った。それは、この街に始めて来た時の事だった。最近魔族の移住者が増加しているという。
「確かレイゲルの所に魔族の奴隷が居たはずだ。彼等を使って、なんか出来ないか考えてみるか」
前回奴隷を使った作戦で失敗しているというのに、俺はまたもや奴隷を使った策を練り始める。だが今回はその失敗を踏まえて考えることが出来るため、そこまで心配する必要はないと思っていた。
「魔族、魔族、魔族が住みやすい街……そうだ!魔族優遇の政策を取れば良いんだ!人間達の血と汗の結晶である税金。その大半を、魔族の待遇改善の為に使うと発表すれば、間違いなく領民の反感を買うことになるぞ!」
すぐに案を思いついた俺は、手元の報告書に目を移し、移住者達の内訳を確認し始める。
移住というのはそう簡単に出来るのものではない。ドステニア国内で移住するといっても、その際には正式な手続きを踏む必要がある。そこで無くてはならないのが、名前や種族等が記された『市民権』と呼ばれる紙だ。それが無ければ、住んでいた領地へ強制送還されてしまう。
この報告書は、境界付近で兵士達がその『市民権』を確認して作り上げたモノ。恐らく全員を確認する前に、ある程度の予想で書かれたとは思うが、そこに『魔族』の文字は無かった。
「よし!サイクス領からの移住者は全員『人間』だな!これなら魔族の大群が押し寄せてくるなんてことにはならないだろう!」
今の状況を引き起こした、『待遇改善』の政策。それを今度は魔族を対象に行うのだから、似たような騒動が起きる可能性を考慮しておかないとマズイ。
噂が広まる速度は、その対象となる人数に比例する。今回は極少人数の魔族を対象にした政策であるため、噂が広まるには時間がかかるだろう。
それに噂が広まったとしても問題はない。魔族を優遇する領地に移住したい人間などいないはずだ。人間の移住抑制のために、この政策は有効打となるだろう。
俺はいつものようにベルを鳴らして彼女を呼ぶ。ルナはすぐにやってきて、俺の前で頭を下げた。
「アルス様、お呼びでしょうか」
「ああ。実はルナにちょっとお願いしたいことがあってな。急で悪いが、レイゲルに連絡を取ってくれるか?明日には店に行くから、魔族の奴隷を用意しといて欲しいんだ」
「承知いたしました。では明日の十時頃に伺うと伝えておきます」
ルナはそう返事をすると僅かに微笑んで部屋を出ていった。あの件以来、ルナは俺の前で良く笑顔を見せるようになった。仲が深まったという事なのだろうが、スキンシップも増えて来たのは少し辛い。
他の貴族達はどうだか知らないが、メイドに対して欲情するなんてこと、俺の中ではあってはならないことだった。彼女達はあくまで仕事で傍にいてくれるだけ。そこに恋慕を抱くなど失礼極まりない。
ルナに特別な感情を抱いているといっても、それはあくまでも『尊敬』と『信頼』からくるものであり、恋愛感情である筈がない。
俺は少し冷静になる為、その場で何度か深呼吸を行ってから再度報告書を眺めだす。
「ふぅ……問題は魔族の奴隷達だな。俺の計画に乗ってくれるかどうか……まぁ上手くいったら奴隷から解放すると契約すれば承諾してくれるだろう」
今回の作戦は、俺だけでなく彼等も憎悪の標的になってしまう。本来は避けたいと道ではあるが、この作戦を決行する代わりとして、彼等の身の安全は俺が必ず保証する。そうすればきっと、魔族の奴隷達も俺の作戦を受け入れてくれることだろう。
この作戦が上手くいった暁には、未来の自堕落生活に大きく近づくことになるはずだ。
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