上 下
36 / 71
第2話 ハルスの街

第36話 大勢の共犯者

しおりを挟む
 翌日。朝食の際、俺とルナのどこかぎこちないやり取りを見て、他のメイド達がキャーキャー騒いでいた。何故かルイスからも「おめでとうございます」との言葉を貰うしまつ。全員が何かを勘違いしているみたいだが、ルナが嬉しそうにしていたので、あえて否定することはしなかった。

 そしてその日の午後、俺は屋敷の応接室でシェスカ姉様と対峙していた。俺の後ろにはカイルとアンヌ以外にも、トト村で購入した子供の奴隷達が並んで立っている。

「話があると言われて来てみれば……お前がこんな馬鹿な事をしているとはな」

 奴隷達の姿を見て怒りをあらわにするシェスカ姉様。俺は開き直った態度で、シェスカ姉様に話し始める。

「馬鹿な事だなんて、姉様も分かってませんねぇ。この子達は、自ら望んで俺に買われたんですよ。なぁカイル、そうだよな?」
「はい……」

 俺の問いかけに、カイルは作り笑いを浮かべて返事をした。その後直ぐに、カイルは顔を歪めてみせる。勿論、これは事前に決めておいた段取りだ。演技派のカイルなら上手くやってくれると思っていたが、ここまで上手に表情を変えるとは驚きだった。

 シェスカ姉様はカイルの演技に気付かず、俺を睨みつけながら机を力強く叩いて見せる。

「あれが、望んで買われた奴隷の姿だと言うのか?ふざけるのもいい加減にしろ!あの子達が悲しんでいるのがまだ分からんのか!」
「言いがかりは止めてくださいよ。子供達は皆、この屋敷で楽しく暮らしていますよ?なぁゾーイ。昨日も俺と一緒に皆で楽しく遊んだよなぁ?」

 俺はゾーイをこちらに呼びつけて、頭をなでながらそう問いかける。その問いかけに、彼は満面の笑みを浮かべながら答えてくれた。

「はい!昨日はアルス様と一緒に、いーっぱい遊びました!凄く楽しかったです!」
「ははは!それならまた一緒に遊んでやろう。今度はアンヌも一緒にな!」
「本当ですか!?ありがとうございます!!」

 アンヌもまたゾーイと同じような顔で嬉しそうに笑って見せる。二人の言葉と表情は、カイルとは違い、嘘偽りのないものだった。

 二人にはカイルのように、演技をしろと言った指示はしていない。八歳の子にシェスカ姉様を騙すような演技をするは無理があるだろうし、アンヌは大根役者だ。

 だから俺は、ゾーイが嘘をつかなくても良いように昨日の午後を使って、本当に遊んでやった。鬼ごっこやかくれんぼ、戦いごっこまでしてやった。その結果が、今の返事を生み出したのだ。それを知っているアンヌは、普通に遊べると思って喜んだ。

 二人の無垢な笑顔に、シェスカ姉様は信じられないといった様子で俺を見つめて来た。

「……馬鹿な!こんな子供達と、お前は一体どんな遊びをしたというんだ!」
「ただの遊びですよ。勿論、沢山気持ちよくしてあげましたがね」

 姉様の頭の中で『遊び』という単語がどのように変化を遂げているかは分からない。だが間違いなく、正し意味では理解していないだろう。

 その判断が間違っていないと思わせるべく、俺は下卑た笑みを浮かべて姉様を見つめた。俺の表情を見て姉様は全て悟ったのか、深く息を吐いてゆっくりとその場で立ち上がる。

 あれほどまでに輝いていた姉様の瞳が、暗く沈んだ闇の色へと染まっていった。もうあの頃の姉様に会えることは無い。覚悟を決めていたとはいえ、やはり心に来るものはあった。

 だがこれで俺の評価はガタ落ちすること間違いない。シェスカ姉様がこの事実を広げれば、俺が帝国の間者を炙り出したなんて噂も消えてなくなるはずだ。

「少し……待っていろ」

 そう言うと姉様は護衛を引き連れて部屋の外へ出て行ってしまった。緊張の糸が切れたのか、体が急激に重くなる。俺は盛大に息を吐いて、背もたれにもたれかかった。

「ああぁぁ、しんどかった!カイルもありがとうな!お前のお陰で、シェスカ姉様も完全に騙せたぞ!」
「ありがとうございます。でも……本当に宜しかったのですか?」

 カイルは心配そうに俺の顔を見つめる。俺はその問いに答えることなく、静かに微笑んだ。

 カイルには昨日俺の全てを打ち明けた。実は俺には自堕落な生活を送る目的がある事。その目的のために、悪徳領主を目指していること。

 その話をした時、カイルはかなり引いていた。まぁ目的が変だし、自分の所の領主が、悪徳領主を目指していると宣言する奴だったら誰でも引くし、怒るだろう。

 だが領民を傷つけるような行動はしない。一年後にはこの領地にある膿と共に消え去る。そう説得したら、カイルは渋々協力すると言ってくれた。
しおりを挟む
感想 6

あなたにおすすめの小説

特殊部隊の俺が転生すると、目の前で絶世の美人母娘が犯されそうで助けたら、とんでもないヤンデレ貴族だった

なるとし
ファンタジー
 鷹取晴翔(たかとりはると)は陸上自衛隊のとある特殊部隊に所属している。だが、ある日、訓練の途中、不慮の事故に遭い、異世界に転生することとなる。  特殊部隊で使っていた武器や防具などを召喚できる特殊能力を謎の存在から授かり、目を開けたら、絶世の美女とも呼ばれる母娘が男たちによって犯されそうになっていた。  武装状態の鷹取晴翔は、持ち前の優秀な身体能力と武器を使い、その母娘と敷地にいる使用人たちを救う。  だけど、その母と娘二人は、    とおおおおんでもないヤンデレだった…… 第3回次世代ファンタジーカップに出すために一部を修正して投稿したものです。

ドラゴネット興隆記

椎井瑛弥
ファンタジー
ある世界、ある時代、ある国で、一人の若者が領地を取り上げられ、誰も人が住まない僻地に新しい領地を与えられた。その領地をいかに発展させるか。周囲を巻き込みつつ、周囲に巻き込まれつつ、それなりに領地を大きくしていく。 ざまぁっぽく見えて、意外とほのぼのです。『新米エルフとぶらり旅』と世界観は共通していますが、違う時代、違う場所でのお話です。

45歳のおっさん、異世界召喚に巻き込まれる

よっしぃ
ファンタジー
2月26日から29日現在まで4日間、アルファポリスのファンタジー部門1位達成!感謝です! 小説家になろうでも10位獲得しました! そして、カクヨムでもランクイン中です! ●●●●●●●●●●●●●●●●●●●● スキルを強奪する為に異世界召喚を実行した欲望まみれの権力者から逃げるおっさん。 いつものように電車通勤をしていたわけだが、気が付けばまさかの異世界召喚に巻き込まれる。 欲望者から逃げ切って反撃をするか、隠れて地味に暮らすか・・・・ ●●●●●●●●●●●●●●● 小説家になろうで執筆中の作品です。 アルファポリス、、カクヨムでも公開中です。 現在見直し作業中です。 変換ミス、打ちミス等が多い作品です。申し訳ありません。

王家から追放された貴族の次男、レアスキルを授かったので成り上がることにした【クラス“陰キャ”】

時沢秋水
ファンタジー
「恥さらしめ、王家の血筋でありながら、クラスを授からないとは」 俺は断崖絶壁の崖っぷちで国王である祖父から暴言を吐かれていた。 「爺様、たとえ後継者になれずとも私には生きる権利がございます」 「黙れ!お前のような無能が我が血筋から出たと世間に知られれば、儂の名誉に傷がつくのだ」 俺は爺さんにより谷底へと突き落とされてしまうが、奇跡の生還を遂げた。すると、谷底で幸運にも討伐できた魔獣からレアクラスである“陰キャ”を受け継いだ。 俺は【クラス“陰キャ”】の力で冒険者として成り上がることを決意した。 主人公:レオ・グリフォン 14歳 金髪イケメン

のほほん異世界暮らし

みなと劉
ファンタジー
異世界に転生するなんて、夢の中の話だと思っていた。 それが、目を覚ましたら見知らぬ森の中、しかも手元にはなぜかしっかりとした地図と、ちょっとした冒険に必要な道具が揃っていたのだ。

元おっさんの俺、公爵家嫡男に転生~普通にしてるだけなのに、次々と問題が降りかかってくる~

おとら@ 書籍発売中
ファンタジー
アルカディア王国の公爵家嫡男であるアレク(十六歳)はある日突然、前触れもなく前世の記憶を蘇らせる。 どうやら、それまでの自分はグータラ生活を送っていて、ろくでもない評判のようだ。 そんな中、アラフォー社畜だった前世の記憶が蘇り混乱しつつも、今の生活に慣れようとするが……。 その行動は以前とは違く見え、色々と勘違いをされる羽目に。 その結果、様々な女性に迫られることになる。 元婚約者にしてツンデレ王女、専属メイドのお調子者エルフ、決闘を仕掛けてくるクーデレ竜人姫、世話をすることなったドジっ子犬耳娘など……。 「ハーレムは嫌だァァァァ! どうしてこうなった!?」 今日も、そんな彼の悲鳴が響き渡る。

悪役貴族の四男に転生した俺は、怠惰で自由な生活がしたいので、自由気ままな冒険者生活(スローライフ)を始めたかった。

SOU 5月17日10作同時連載開始❗❗
ファンタジー
俺は何もしてないのに兄達のせいで悪役貴族扱いされているんだが…… アーノルドは名門貴族クローリー家の四男に転生した。家の掲げる独立独行の家訓のため、剣技に魔術果ては鍛冶師の技術を身に着けた。 そして15歳となった現在。アーノルドは、魔剣士を育成する教育機関に入学するのだが、親戚や上の兄達のせいで悪役扱いをされ、付いた渾名は【悪役公子】。  実家ではやりたくもない【付与魔術】をやらされ、学園に通っていても心の無い言葉を投げかけられる日々に嫌気がさした俺は、自由を求めて冒険者になる事にした。  剣術ではなく刀を打ち刀を使う彼は、憧れの自由と、美味いメシとスローライフを求めて、時に戦い。時にメシを食らい、時に剣を打つ。  アーノルドの第二の人生が幕を開ける。しかし、同級生で仲の悪いメイザース家の娘ミナに学園での態度が演技だと知られてしまい。アーノルドの理想の生活は、ハチャメチャなものになって行く。

巻き込まれ召喚・途中下車~幼女神の加護でチート?

サクラ近衛将監
ファンタジー
商社勤務の社会人一年生リューマが、偶然、勇者候補のヤンキーな連中の近くに居たことから、一緒に巻き込まれて異世界へ強制的に召喚された。万が一そのまま召喚されれば勇者候補ではないために何の力も与えられず悲惨な結末を迎える恐れが多分にあったのだが、その召喚に気づいた被召喚側世界(地球)の神様と召喚側世界(異世界)の神様である幼女神のお陰で助けられて、一旦狭間の世界に留め置かれ、改めて幼女神の加護等を貰ってから、異世界ではあるものの召喚場所とは異なる場所に無事に転移を果たすことができた。リューマは、幼女神の加護と付与された能力のおかげでチートな成長が促され、紆余曲折はありながらも異世界生活を満喫するために生きて行くことになる。 *この作品は「カクヨム」様にも投稿しています。 **週1(土曜日午後9時)の投稿を予定しています。**

処理中です...