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第2話 ハルスの街
第32話 ルナは勘違いをする
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「オルト支部長!アルス殿下がお見えになられました!」
「殿下が!?直ぐにお出迎えしろ!私も直ぐに行く!」
「既にこちらにお連れしております!」
「へぁ!?!?」
オルトの変な声が聞こえたかと思うと、一秒も経たずに扉が開かれた。汗だくのオルトは俺の顔を見るや否や、何度も頭を下げて感謝の言葉を述べ始める。
「アルス殿下!この度は協会への支援、誠にありがとうございます!ささ、どうぞお入りください!メレーナ!殿下に最高級の茶葉と洋菓子を用意しなさい!」
「畏まりました!」
オルトに指示されて、受付の女性──メレーナさんが元来た道を戻って行く。自分の待遇に違和感を覚えつつも、更に気になる発言がオルトの口から出たことで、俺の頭は沸騰寸前にまで混乱していた。
早まる鼓動を抑えながら、部屋の中に用意された椅子に座り、深く息を吸う。その間も、オルトはニコニコと笑いながら俺の前に座っている。
俺はどうしてもオルトの発言が気になり、本来の目的を後回しにしてオルトに聞いてみることにした。なんとなく、とんでもない事が起きている気がしてならなかったのだ。
「オルト……協会への支援って何の話だ?俺はあの件の報酬以外では、銅貨一枚たりともお前達に渡した記憶が無いんだが」
俺がそう言うと、オルトはキョトンと目を見開いた後、何故かクスリと笑ってみせた。冗談を言ってるつもりは1㎜も無いのだが、どうやら奴には伝わっていないらしい。俺が再度真剣に伝えようとすると、今度はオルトが驚愕の事実を話し始めた。
「何を仰りますか!二週間ほど前、殿下の使いの方がいらして、『協会の修繕をするように』と、大金が入った袋を置いて行かれましたよ!」
オルトの言葉に部屋の中が一瞬静まり返る。そんな指示飛ばした覚えも無ければ、大金を用意した記憶も無い。
もしかしたら記憶喪失になったのか?と自分を疑い、俺の思考は一瞬停止した。しかしすぐに首を横に振ってその考えを否定する。
「……は?え、いや、まて。俺はそんな使い送った事ないぞ!別の誰かと勘違いしてるんじゃないか!?」
「そんなはずありません!以前、トト村付近の魔獣狩りを依頼なさった時と同じ方がお見えになられましたよ?確か、名前はオレットと仰っておりました!」
あのバカ。まさか村の件の時も、俺の使いだと言っていたとは。あれほどバレないようにと伝えていた筈なのに。
だがまぁそれはまだ良い。百歩譲って俺の使いだという事を公表した件については許そう。だが今回の援助については俺は彼女に指示をしていない。となると、オレットに指示をした別の人間が居ることになる。
そんなことするのはルナしかいない。
俺は後ろに立っているメイドの顔へ目を向ける。彼女と見つめあう中で、その予想が確信めいたものに変わっていった。
「ルナ……全部一から説明してくれるか?」
お前がやったのか?なんて無粋なことは聞かない。だって、ルナしかいないんだから。俺の問いかけに彼女は深く頷くと、淡々とした口調で話し始めた。
「畏まりました。以前アルス様がこちらに訪問した際、『酒臭い。もう少し清潔に出来ないか。なぁルナ?』と指示を頂きましたので、勝手ながら資金援助させて頂きました。オレットが名前を明かしてしまった件に関しては申し訳ございません」
そう言ってルナは頭を下げて見せる。謝って欲しい所で謝らないのはもう気にしない。何度言っても無駄なのだ。問題は、なぜ『指示』だと思ってしまったのかという事。
「ちょっと待て……お前は、俺のその言葉が『指示』だと思ったのか?そんな風に聞き取れるような発言じゃなかっただろう?」
「???いえ。アルス様は素直じゃない方ですので、照れ隠しでのご指示かと思いました」
ルナはその一言で、返事を終わらせる。俺はもうため息をつくことも出来なかった。俺にとってかけがえの無い存在が、俺にとって最大の天敵だったなんて。
俺ががっくりと肩を落とす目の前で、少し誇らしげに胸を空逸らして見せるルナ。彼女の無表情が、少し崩れるその瞬間が、たまらなく愛おしく感じる。
だが今この瞬間だけは、ほんの少し苛立ちを感じてしまう自分が居た。
「殿下が!?直ぐにお出迎えしろ!私も直ぐに行く!」
「既にこちらにお連れしております!」
「へぁ!?!?」
オルトの変な声が聞こえたかと思うと、一秒も経たずに扉が開かれた。汗だくのオルトは俺の顔を見るや否や、何度も頭を下げて感謝の言葉を述べ始める。
「アルス殿下!この度は協会への支援、誠にありがとうございます!ささ、どうぞお入りください!メレーナ!殿下に最高級の茶葉と洋菓子を用意しなさい!」
「畏まりました!」
オルトに指示されて、受付の女性──メレーナさんが元来た道を戻って行く。自分の待遇に違和感を覚えつつも、更に気になる発言がオルトの口から出たことで、俺の頭は沸騰寸前にまで混乱していた。
早まる鼓動を抑えながら、部屋の中に用意された椅子に座り、深く息を吸う。その間も、オルトはニコニコと笑いながら俺の前に座っている。
俺はどうしてもオルトの発言が気になり、本来の目的を後回しにしてオルトに聞いてみることにした。なんとなく、とんでもない事が起きている気がしてならなかったのだ。
「オルト……協会への支援って何の話だ?俺はあの件の報酬以外では、銅貨一枚たりともお前達に渡した記憶が無いんだが」
俺がそう言うと、オルトはキョトンと目を見開いた後、何故かクスリと笑ってみせた。冗談を言ってるつもりは1㎜も無いのだが、どうやら奴には伝わっていないらしい。俺が再度真剣に伝えようとすると、今度はオルトが驚愕の事実を話し始めた。
「何を仰りますか!二週間ほど前、殿下の使いの方がいらして、『協会の修繕をするように』と、大金が入った袋を置いて行かれましたよ!」
オルトの言葉に部屋の中が一瞬静まり返る。そんな指示飛ばした覚えも無ければ、大金を用意した記憶も無い。
もしかしたら記憶喪失になったのか?と自分を疑い、俺の思考は一瞬停止した。しかしすぐに首を横に振ってその考えを否定する。
「……は?え、いや、まて。俺はそんな使い送った事ないぞ!別の誰かと勘違いしてるんじゃないか!?」
「そんなはずありません!以前、トト村付近の魔獣狩りを依頼なさった時と同じ方がお見えになられましたよ?確か、名前はオレットと仰っておりました!」
あのバカ。まさか村の件の時も、俺の使いだと言っていたとは。あれほどバレないようにと伝えていた筈なのに。
だがまぁそれはまだ良い。百歩譲って俺の使いだという事を公表した件については許そう。だが今回の援助については俺は彼女に指示をしていない。となると、オレットに指示をした別の人間が居ることになる。
そんなことするのはルナしかいない。
俺は後ろに立っているメイドの顔へ目を向ける。彼女と見つめあう中で、その予想が確信めいたものに変わっていった。
「ルナ……全部一から説明してくれるか?」
お前がやったのか?なんて無粋なことは聞かない。だって、ルナしかいないんだから。俺の問いかけに彼女は深く頷くと、淡々とした口調で話し始めた。
「畏まりました。以前アルス様がこちらに訪問した際、『酒臭い。もう少し清潔に出来ないか。なぁルナ?』と指示を頂きましたので、勝手ながら資金援助させて頂きました。オレットが名前を明かしてしまった件に関しては申し訳ございません」
そう言ってルナは頭を下げて見せる。謝って欲しい所で謝らないのはもう気にしない。何度言っても無駄なのだ。問題は、なぜ『指示』だと思ってしまったのかという事。
「ちょっと待て……お前は、俺のその言葉が『指示』だと思ったのか?そんな風に聞き取れるような発言じゃなかっただろう?」
「???いえ。アルス様は素直じゃない方ですので、照れ隠しでのご指示かと思いました」
ルナはその一言で、返事を終わらせる。俺はもうため息をつくことも出来なかった。俺にとってかけがえの無い存在が、俺にとって最大の天敵だったなんて。
俺ががっくりと肩を落とす目の前で、少し誇らしげに胸を空逸らして見せるルナ。彼女の無表情が、少し崩れるその瞬間が、たまらなく愛おしく感じる。
だが今この瞬間だけは、ほんの少し苛立ちを感じてしまう自分が居た。
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