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第2話 ハルスの街
第29話 男達の役目
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アルス・ドステニア誘拐事件から一週間後。
ハルスの街から少し離れた森の中で、黒装束の男が仲間の元へと向かって走っていた。その手には『極秘』と書かれた資料が握られている。
「はぁ、はぁ……追手が来る前に早く合流せねば」
あの日、王子襲撃に失敗した男は、屋敷の地下に投獄されていた。その間、飲まず食わずで尋問を受けさせられた男だったが、何とか隙を見て逃げ出し、目的の資料を回収することに成功したのだ。
「待てぇ!奴を逃がすなぁ!!」
背後から怒号のような叫び声が迫ってくる。一刻も早くこの資料を同胞に渡さなければ。男は不安と焦りを抱えながら、必死に足を動かす。しかしなぜか男には、『この資料は間違いなく渡せる』という確信があった。
その確信が、自身の暗殺者としての実力からくるものなのか、それとも別の何かなのか男には分からない。分かる必要もないと思っていた。
追い迫る兵士達の手から何とか逃げ追うせた男は、同胞との合流場所に到着する。
「おい、ドグマ!俺だ!例のモノを回収してきたぞ!」
男が闇の中叫ぶと、黒装束に身を包んだ男が暗闇の中から現れた。男は自分の名を呼んだ人物がまだ生きていたことに驚き目を見開いた。
「お前、生きていたのか!それに……例のモノを回収してというのは本当か!?」
「ああ、なんとかな。奴等、俺を殺さずに情報を引き出そうとしたのさ。暗部の俺が口を割るはずもないのに……まぁそのお陰で逃げ出せたし、コイツも手に入れることが出来たんだが」
男はそう言って手の中のモノを見せびらかすように男の前でパラパラとめくっていく。
「そうか。ではそれをもって本国に帰還するとしよう。だがその前に、まずはそれが本物の資料かどうか確認する必要がある。見せてみろ」
黒装束の男がそう言って資料を譲り受けようと手を差し伸べる。しかし、資料を奪ってきた男はそれを渡すことなく、自分の服の中に隠してしまった。それを見て黒装束の男は激怒する。
「何のつもりだ!その資料が本国にとってどれだけ貴重なモノなのか、お前は分かっているのか!」
「分かってるさ。だがその前に、どうしてもやらなきゃいけないことがあってな」
「やらなきゃいけない事?なんだそれは。まぁいい、それなら早くそれを片付けて──」
黒装束の男が話し終える前に、右手が腹部を貫通した。一瞬何が起きたのか理解できない黒装束に対し、男はニヤリと笑みを浮かべながら右手を引き抜く。大量の血が地面に流れ出し、黒装束はその場に崩れ落ちた。
「き、さま……なぜ──」
「お前のせいで本国の狙いが王子にバレたからに決まってんだろ?王子を捕縛する前に、『合成人魔獣』の資料を渡せとかペラペラ喋りやがって」
「そ……」
黒装束は何か言い返す間もなく、ゆっくりと地面に倒れこむと、そのまま息を引き取った。男は手に着いた血を振り払い、黒装束が身に着けていた衣類と道具を回収していく。
「まぁそれは建前で、本当はずっとお前を殺したかったのさ。弱い癖に上から命令しやがって。アンタもどうせ資料を奪ったら俺を殺すつもりだったんだろうが、残念だったな」
男は死体に向かって吐き捨てる様にそう口にすると、闇の中へと消えていった。一刻も早く本国に向かい、この資料を渡さなければならない。この資料は、男がアルス王子に重傷を負わせ、奪い取った本物の資料なのだから。
──男が殺した黒装束の死体を見て、兵士は標的を追うのを止める。目標を達成した兵士たちは、王子が待つ屋敷へと戻って行くのだった。
ハルスの街から少し離れた森の中で、黒装束の男が仲間の元へと向かって走っていた。その手には『極秘』と書かれた資料が握られている。
「はぁ、はぁ……追手が来る前に早く合流せねば」
あの日、王子襲撃に失敗した男は、屋敷の地下に投獄されていた。その間、飲まず食わずで尋問を受けさせられた男だったが、何とか隙を見て逃げ出し、目的の資料を回収することに成功したのだ。
「待てぇ!奴を逃がすなぁ!!」
背後から怒号のような叫び声が迫ってくる。一刻も早くこの資料を同胞に渡さなければ。男は不安と焦りを抱えながら、必死に足を動かす。しかしなぜか男には、『この資料は間違いなく渡せる』という確信があった。
その確信が、自身の暗殺者としての実力からくるものなのか、それとも別の何かなのか男には分からない。分かる必要もないと思っていた。
追い迫る兵士達の手から何とか逃げ追うせた男は、同胞との合流場所に到着する。
「おい、ドグマ!俺だ!例のモノを回収してきたぞ!」
男が闇の中叫ぶと、黒装束に身を包んだ男が暗闇の中から現れた。男は自分の名を呼んだ人物がまだ生きていたことに驚き目を見開いた。
「お前、生きていたのか!それに……例のモノを回収してというのは本当か!?」
「ああ、なんとかな。奴等、俺を殺さずに情報を引き出そうとしたのさ。暗部の俺が口を割るはずもないのに……まぁそのお陰で逃げ出せたし、コイツも手に入れることが出来たんだが」
男はそう言って手の中のモノを見せびらかすように男の前でパラパラとめくっていく。
「そうか。ではそれをもって本国に帰還するとしよう。だがその前に、まずはそれが本物の資料かどうか確認する必要がある。見せてみろ」
黒装束の男がそう言って資料を譲り受けようと手を差し伸べる。しかし、資料を奪ってきた男はそれを渡すことなく、自分の服の中に隠してしまった。それを見て黒装束の男は激怒する。
「何のつもりだ!その資料が本国にとってどれだけ貴重なモノなのか、お前は分かっているのか!」
「分かってるさ。だがその前に、どうしてもやらなきゃいけないことがあってな」
「やらなきゃいけない事?なんだそれは。まぁいい、それなら早くそれを片付けて──」
黒装束の男が話し終える前に、右手が腹部を貫通した。一瞬何が起きたのか理解できない黒装束に対し、男はニヤリと笑みを浮かべながら右手を引き抜く。大量の血が地面に流れ出し、黒装束はその場に崩れ落ちた。
「き、さま……なぜ──」
「お前のせいで本国の狙いが王子にバレたからに決まってんだろ?王子を捕縛する前に、『合成人魔獣』の資料を渡せとかペラペラ喋りやがって」
「そ……」
黒装束は何か言い返す間もなく、ゆっくりと地面に倒れこむと、そのまま息を引き取った。男は手に着いた血を振り払い、黒装束が身に着けていた衣類と道具を回収していく。
「まぁそれは建前で、本当はずっとお前を殺したかったのさ。弱い癖に上から命令しやがって。アンタもどうせ資料を奪ったら俺を殺すつもりだったんだろうが、残念だったな」
男は死体に向かって吐き捨てる様にそう口にすると、闇の中へと消えていった。一刻も早く本国に向かい、この資料を渡さなければならない。この資料は、男がアルス王子に重傷を負わせ、奪い取った本物の資料なのだから。
──男が殺した黒装束の死体を見て、兵士は標的を追うのを止める。目標を達成した兵士たちは、王子が待つ屋敷へと戻って行くのだった。
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